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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部二年生
353/458

第三百五十二幕 ダイバース新人代表戦・最終日・波乱の第一試合

 シュティルさんとエメちゃんの試合が終わり、これで二日目の全日程も終了となった。

 勝負はエメちゃんが負けちゃったけど、大健闘だったよね。そんな試合後のちょっとしたやり取り。


「負けてしまいました……」

「シュティルさんが一枚上手だったね」

「けどまあ、初の代表戦で此処まで来れたんだ。かなり知名度が上がったと思うぜ!」

「そ、それはそれでちょっと……」


 結果的には負けてしまったけど、優勝経験もあるシュティルさんは世界的に知れ渡っている。むしろそんな彼女相手にあそこまで戦えた初参加の選手ってだけで注目度はかなり上がるよね。


《それでは、大会二日目の──》


 そして二日目は終了。明日はいよいよ最終戦。泣いても笑ってもこれが最後。だったら笑って終わりたいよね。

 次の戦いへと続くのだった。



*****



 ──“ダイバース新人代表戦・最終日”。


「「「どわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」」」

「「「ウオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォッッッッッ!!!!!」」」

『『『グギャアアアアアアァァァァァァァァァァァァァッッッッッ!!!!!』』』

『『『キュオオオオオオオォォォォォォンンンンンンンッッッッッ!!!!!』』』


《さあ!! 終幕が始まりました!!! “多様の(ダイバース・)戦術による(タクティクス・)対抗戦(ゲーム)”……新人代表戦、最終日!!!! 全ての結末が今、この時をもってしてェ──》


 最終日だけあり、より一層の気合いが入った言葉が告げられる。

 ダイバース新人代表戦、最終日。昨日の疲れは癒え、コンディションもバッチリ。試合数も最も少なく、どこで誰が勝ち抜けてもおかしい事なんかないこの時。

 勝ち上がった私達は闘志を秘めつつも、妙に落ち着く感覚があった。


「いよいよ最終日だな。割と知り合いが残ってるし、一回戦から激しい戦いになりそうだ」

「うん。試合数も一気に減るから序盤から熱戦が繰り広げられそうだね」


 私達も一段と気合いが入る。残っている友達はボルカちゃん、レモンさん、シュティルさん。そして多分まだそこまで親しい仲にはなっていないけどラトマさん。

 私を含めて五人の知り合いが最終日まで残っている今、次に行われる準々決勝の試合から当たる可能性は高い。

 と言うか既にトーナメントは出されており、私達は次の対戦相手に視線を向けた。


「このままの流れなら、アタシと当たりそうなのは……アンタだな。シュティル」

「ああ、その様だ。幸い初戦では当たらなそうだからまだ少しは楽に過ごせそうだがな」

「最終日に楽に過ごせるとかはないだろ」


 ボルカちゃんとシュティルさんは近いうちに当たる様子。私は今回も誰とも当たらない。勝ち進めばいずれ誰かとは当たるんだけど、現状ではまだって感じだね。

 問題は最終日の初戦。この二人の試合はどっちが勝つか。


「私の相手は主か。ラトマ殿」

「うん、その様だ。初戦から優勝候補の一角が相手とは……気が滅入る」

「此処に居る時点で主も既に優勝候補……立場は対等だ」


 ──レモンさんとラトマさん。

 ここもまた注目の一戦。あらゆる魔導や異能を無効化するラトマさんに、そう言った異能の類いを一切使わず、生まれ持った身体能力だけで戦うレモンさん。

 それだけ聞くならレモンさんが有利だけど、ラトマさんには一挙一動で島を消し去るパワーとユピテルさんの雷速攻撃を何度受けても大きなダメージになっていない耐久力がある。無効化の体質ですら単なるオマケでしかない彼の強さ。そこにレモンさんはどう立ち向かうか。


《第一試合!! “英傑セイブルス学院”ラトマ選手vs“神妖百鬼天照学園”レモン選手!! スタァァァトォォォッッ!!!》


 そして、波乱の第一試合が始まった。



*****



 ──“雪原ステージ”。


「……フム」


 転移先は雪の敷き積もる広原。世界は白く染まっており、今もなおしとしとと雪が降り頻る。

 雪原のみならず遠方には雪山もあり、樹氷からなる森も連なっていた。

 誰しもが雪で連想するような白く冷たい世界。遮蔽や障害物も、無い事はないがほとんど皆無な場所だった。

 基盤は氷の魔導。しかと寒さも再現されているが、心頭滅却すれば火もまた涼し。その逆もしかり。冬場には寒中水泳などもたしなんだが為、寒さには多少慣れている。行動する分には問題無かろう。


「向こうか。また随分遠くへと運ばれたな」


 人の気配を読み解き、対戦相手となるラトマ殿を把握。雪山一つを挟んだ向こう側に来ており、数里程度の距離はあった。

 いささか面倒な道筋だが、大して苦労はせぬだろう。体力には自信がある。

 しかし誠の雪原に限りなく近くしたこの場所。人によっては遭難者となってしまいそうだ。

 斯様かような事を考えつつ踏み込み、私はその気配を感じた場所へと赴く。物の数分でそこへ到達した。流石に雪に足が取られて多少は遅れてしまったか。


「ラトマ殿。お覚悟召されよ」

「奇襲せずわざわざ名乗るなんて、武人気質だな」


 木刀を振り下ろし、向こうは腕でガード。足元の雪が割れ、雪塵と共に陥没した。

 初撃は防がれたか。まあ想定内。代表戦に来てからは一撃で仕留める事など無くなったからな。此処から戦略を積み上げていくだけよ。

 着地して踏み込み、刺突を繰り出す。腹部に直撃し、その体は吹き飛んだ。


「やるね……!」

「効いてる雰囲気は無いがな」


 飛ぶ後を追い、横から薙ぐように打ち付ける。それによって雪が舞い上がり、複数の樹氷を砕きながら突き抜け遠方の氷山に激突して山を崩した。

 雪だけではなく氷もあったか。氷山も雪山に隠れて見えなかったな。

 これくらいでは意識にまで届いていなかろう。即座にその後を追い、今一度木刀を突き出した。


「そらっ!」

「フム、カウンターでも狙ったか」

「あの勢いでかわすのね……!」


 ラトマ殿の近くに来るや否や拳が突き出され、紙一重でそれを避ける。

 風圧で背後の雪は消し飛び雪山も倒壊したが、私には当たっていない。風圧で体が舞い上がりそうになるのがちと大変だがな。

 回避と同時に裏拳が如く木刀を打ち、頬を叩く。次は吹き飛ばしておらぬ。追い掛けたりと無駄な時間を過ごすだけだからな。


「はっ!」

「……っ」


 そこから連続して木刀を振るい、ラトマ殿の体を打つ。いや、今は敵。人称はラトマ単体で良いか。

 横薙ぎ、振り下ろし、切り返して刺突。連撃を叩き込み、顎下を打ち上げそのまま振り下ろし、跳躍と同時に落下刺突。背部に突き立て雪原の数メートル下まで一気に沈めた。

 雪の地面は柔らかく、叩き付けによるダメージが少ないのはちと物足りないか。更に奥の氷山方面にでも移動しようか。


「身体能力単体で来る相手は大変だ。しかも一撃一撃に力を込めているから、破壊範囲に比べて威力が高い」

「一点に集中した攻撃こそ真理。余分な破壊はせず、派手さには欠けるがこの方が着実にダメージが蓄積するだろう」

「まあな。体がズキズキする」


 連続した攻撃を叩き込んだが、それでも体に多少の違和感が生じる程度か。一切の手は抜いていない。その上でこれくらい。肉体の強度も一線を画すな。

 魔導や妖術などを主体とする者は全ての攻撃が無効化された挙げ句にこの強靭な肉体と相対せねばならない。大変だな。


「お陰で体も温まってきた。次は俺から仕掛ける……!」

「先攻後攻は関係無かろう。好きなタイミングで仕掛け続けるのみよ」

「一理ある……!」


 拳が放たれ、木刀でなぞるように逸らす。背後に衝撃は走り、ステージの一角を根刮ねこそぎ粉砕させた。

 刀剣の扱い次第ではこの様に力を受け流す事も可能。当たらなければ例え星を砕く力であっても意味なんぞ無いのだからな。


「今までが剛の剣術としたら今のは柔の剣術か。一流のサムライは得物一つであらゆる事を可能にするって聞くけど、まさにそれだ」

「そう、単なる技術でしかない。特別な力も何も使っておらぬよ。有名どころなれば“イェラ・ミール”は私よりも遥かに剣術が上だ」

「ああ、よーく知ってる。イェラ・ミール。かつての英雄の子孫にして、純粋な人間の枠組みなら最強の存在」

「そうだな。流石に認知していたか。世界最強がルミエル・セイブ・アステリアなら“純人間”のくくりで最強は紛れもない彼女だ」


 私の……と言うより、何のハーフでもない人間の最高到達点はイェラ・ミール。

 無論、ルミエル・セイブ・アステリアが血筋だけで世界最強な訳は無いのだが、イェラ・ミール殿は私の目標でもあり、越えるべき対象でもある。

 一昨年以降、手合わせ願う機会がそうそう無いのも頷けるが、いずれ来るかもしれないその日の為、私は日々鍛練を怠らない。

 

「私はイェラ殿を超える……!」

「俺にも、越えるべき相手は居る」


 同じ穴の狢……とでも言っておこうか。何らかの分野で頂点を目指す者には必ず越えるべき存在が居る。どうやらラトマもその様だ。

 だからと言って負けるつもりは毛頭無い。そんな彼と相対する事が出来るのは良い機会だな。

 ダイバース新人代表戦、個人の部最終日、第一試合。今一度力を込めた。


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