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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部一年生
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第三十五幕 歴史資料館

 ──風を切り、魔法の絨毯が波打つように進み行く。

 揺れや風圧は無く、寝転がれるスペースもあってかなり楽な状態だった。


「これが魔法の絨毯……! なんか思ったより揺れないね」

「そう言う法則があるのよ。まだ中等部では詳しくはやらない事だけどね」

「へえ~」


 絨毯から見える外の景色は馬車とも違い、とても早く流れていく。

 森に、川に、街に。風を切って進む様は翼が生えて飛んでいるかのよう。

 これから行く知らない場所、知らない空気に心が躍りだす。


「それで、何処に降りるかは決めてるのかしら? ボルカさん」

「いや全然。テキトーな駅にテキトーに止まるさ」

「そのテキトーは本来の意味ではなく、いい加減な方のテキトーだね」

「アっタリ~。それもまた旅の醍醐味だ!」

「さっきから旅って言ってるけど、そんな大きな事じゃないでしょうに……。行っても人間の国の範疇に留まる訳でしょ?」

「まあな~。他国に赴くのはほうきが解禁されてからだ。ま、交流会的な感じでそのうち魔族や幻獣、魔物の学校とも共同授業が行われると思うけどな~」


 目的地は特に決めていない様子で、それについてウラノちゃんが指摘する。

 行き当たりばったりで風の吹くまま気の向くまま。それがボルカちゃんの在り方。

 その上で色々と上手くいくんだからスゴいよね。機転の利かせ方とかアドリブが上手みたい。

 でも何の苦労も努力もしてない訳じゃなく、努力や苦労をそう感じ取らない性格だから物事の流れが彼女に向かっているみたい。

 私もボルカちゃんみたいに出来たらなぁ。


「取り敢えず、次の街に着いたら降りようぜ。近隣じゃ一番の発展している都市だ」

「一番の都市……!」

「ああ。かつては王国だったんだけど、今は共和国。ま、王様とかの一個人の権力者が支配していない国だな!」

「王様の居ない国……!」

「っても、今の時代王国の方が少ないしな。英雄の時代までは支配者が居て、一国の王とかが当たり前だったんだと」

「かなりさかのぼるね~」

「ある意味平和な証かもな!」


 絵物語に出てくる王国や帝国。それはこの数千年で一気に衰退した。というより、一人の権力者が治めるのが時代に合わなくなった。

 今は様々な国同士が割と簡単に往復出来たり連絡も付けられる。そう言う魔道具や科学が発達したから。なので悪事を働けばすぐに見つかっちゃうし、種族も増えたから管理するのが大変。ならいっその事みんなでやろう! って事になったんだよね。

 その場所が見えてきてボルカちゃんは言葉をつづった。


「そこは“シャラン・ウェーテル共和国”。かつては火の系統の王女様が居た国だ!」

「火……ボルカちゃんと一緒だね」

「うん。だからなんかシンパシーを感じるんだ!」

「それでテンションが上がってたんだー」

「そう言う事!」


 “シャラン・ウェーテル共和国”。

 まだ距離はあるけど、かつては王様達が住んでいたであろうお城が視界に映る。

 街を囲む古い壁はまだ魔物が明確な敵だった時代の名残り。あれで侵入を拒んでたんだね。

 そこの国が所有する駅に着き、私達は降車する。

 駅から出て街を眺めた。


「ここが“シャラン・ウェーテル共和国”! スゴく盛り上がってるね!」

「さっきも言ったようにこの辺りじゃ一番の都会だからな。数千年前からそうだったらしいぜ~」

「ずっとなんだ~」


 街の景観は、全体的にレンガ造りが主体となった昔ながらの物。

 大きな通りの両脇には出店が建ち並び、店先に様々な商品が置かれている。ここが駅近くというのもあって賑わいは普通の街よりもある感じ。

 道路には馬車が行き交い、人々が歩道を歩いたり、中には別種族も居る。傘を差してるのはヴァンパイアかな?

 空にもほうきや絨毯で飛んでいる方々がおり、人口の多さから近隣で一番発展している街という事が改めてよく分かった。


「こんなに人が多いの……初めて……なんかクラクラしてきたよ……」

「ハハハ……大丈夫かー?」

「人が多いから都会は嫌い……」

「学院付近も大概だと思いますわよ?」


 前述通り道行く人々は人間だけじゃなく、獣人やエルフに魔族など様々。見るからに魔物って感じの……人? 達も居るね。

 種族関係無く行き交っていて活気に溢れていた。

 すると、視線に一つの物が映り込む。


「あれって……」

「ん? ああ、この国出身の偉人の銅像だな。ウチの学院にも英雄の銅像があるだろ?」

「偉人……スゴいね」


 凛々しい顔立ちの銅像。

 ネームプレートは経年劣化で読みにくくなっているけど、それ以外は整備されていた。

 ポニーテールにも近い変わった髪型に真っ直ぐな眼。腰には二本の剣を携えている。一体いつ頃造られたんだろう。駅前に大々的に置かれてるって事は、この国の人達にとって本当に大切な物なんだね。


「さ、行こうぜ。“シャラン・ウェーテル共和国”の探索だ!」

「うん!」

「レッツゴーですわ!」

「朝から元気ね。貴女達」


 その銅像を少し眺め、街の方へ。

 どこから行くんだろう。他の三人は私より詳しい筈だから、良い所知ってるよね。

 私達はこの街を歩み出した。


「一先ず店でも探すか~。約束がそれだしな!」

「うん。それじゃあ手頃な──」

「ちょっと待って」


 行こうとした時、ウラノちゃんが私達を制止する。

 なんやかんや丸め込まれる彼女にしては珍しい事だね。

 彼女は持ってきた本をパラパラと開いて見せた。


「どうせ行く場所が決まってないのなら、この国の此処に行かない?」


「……資料館……?」

「兼、博物館だな。こんな所に行くのか?」


「……こんな? こんなって何? この国は深い歴史のある場所で、博物館にある資料が豊富なの。それは古来から受け継げられた物ばかりで、この国……いえ、世界中の歴史が詰まっているのよ。この博物館は観光地になっているのに何故か人も多くないけど、そこにある物は全てが考古学的に凄まじい価値があり、珍品名品etc.と多種多様の参考資料が置いてあって──」


「わ、分かった! アタシが悪かった! 行く。行くよ!」

「すごい……ボルカちゃんをしている……」

「此方も気圧けおされそうですわ……」


 怒涛のように告げられるウラノちゃんの圧に押され、ボルカちゃんは少し後退りをする。 

 こんなウラノちゃんも動揺するボルカちゃんも初めて見る。スゴくこだわりがあるんだね……。

 強い所望を経て私達はこの街の資料館へと向かった。



*****



 ──“シャラン・ウェーテル国立歴史資料館”。


「ここがその場所かぁ……」

「数千年の歴史が此処にあるのよ……!」


 やって来たのは国立資料館。ウラノちゃんはいつになくテンションが上がっている。

 内装は予想通り、展示ケースに様々な資料や物が置かれている感じ。

 それ以外の無駄な物は省き、機能性を重視した造り。

 休憩スペースもあるけど、基本的に食べ歩きや撮影とかは禁止になってる。

 シンプルな造りなのにどこか荘厳そうごんな雰囲気が漂っており、この場に居るだけでパワーが貰えそう。


「巻物に石板に古文書系列。この辺は退屈だな~」

「本来はこう言う資料が大事なのよ。作者がどんな思いで書いたか、そんな空想に思いを馳せるの」

「案外次の文章どうしよっかな~。これでいっか! 的な軽いノリかもしんねぇぞ~」

「ロマンが無いわね。……けどま、気乗りしない所に私が無理矢理誘ったとも見て取れるから、貴女が興味持ちそうな場所に案内するよ」

「館内に詳しいんだな~」

「何度かは来ているからね。当たり前」


 文学少女であるウラノちゃん的には此処こそ目玉なんだろうけど、退屈そうなボルカちゃんを考慮して別の場所へと案内してくれた。

 階段を登り、下に比べて明るい雰囲気の場所へと辿り着く。


「此処ならどう? 武器資料館」

「おー! 此処はちょっとワクワクすんぜ!」


 そこはかつて戦場で使われていた実物の武器が展示された場所。

 下に比べて男性のお客さんが多いね。ボルカちゃんはここの方が肌に合うみたい。


「へえ。変わった形の剣が置かれてるんだな」

「剣は剣でも“刀”って言われる片刃刀ね。イェラ先輩が使ってる木刀もこれがモチーフ。切れ味と柔軟性が特徴的で……この国の隣国では作られてるって言うわ」

「そうなのか。……あれ? 確かこの近くって……」

日の下(ヒノモト)ね。イェラ先輩がよくお茶とお菓子を買いに行っている国」

「だよな。だから先輩はあんな感じなのか~」


 どうやらこの辺はイェラ先輩がよく来るとの事。

 国家間の移動がこんなに楽なんて便利な時代だよねぇ。かつての英雄達は一年以上掛けて世界を見て回ったらしいけど、今じゃもう設置された転移の魔道具とか便利な乗り物があるもんね。

 そんな“刀”を中心的に、昔の銃や剣に杖などを見て回る。今も使われている杖だけど、昔のはなんか無機質な感じだった。

 少し進み、ボルカちゃんは遠目の人だかりが出来ている所に視線を向けた。


「なんかあそこだけ異様に人が多いな。全体的にお客さんは少ないのに」

「お客さんが少ないは余計。彼処に置いてあるのは刀だけど、ちょっと特徴的な物なの」

「へえ~」


 気になるのでそちらに行ってみる。

 人は多いけど、なんとか中等部一年の私達四人は入れるくらいのスペースがあり、近くで見る事が出来た。


「二本あるね。大っきいのと小っちゃいの」

「英雄より前の時代の……何て言えば良いんだろう。銅像の人が使ってた刀だね。数千年前の代物だよ」

「数千年!? 全然劣化してない……」

「保存法方次第じゃ長持ちするのも特徴ね。綺麗な黒漆塗の直刃……」

「く、くろうる……? すぐは……何それ……」


 顔を紅潮させ、恍惚の表情で刀を見るウラノちゃん。こんな顔見た事無い……というかするんだ……。

 何かしらの専門用語だとして、確かに綺麗なのはそうだね。


「けど、確かに武器資料館は良いな。文章より見て楽しめるぜ!」

「それは貴女が読む気が無いだけ」

「他に面白そうな場所はあるか? アタシに合う所で!」

「そうね……化石コーナーとか? 古来に実在した幻獣や魔物の化石とかあるよ。ドラゴンの骨も展示されてるし」

「お、良さそうだな! それ系は好きだぜ! ドラゴンもまだ絶滅してないらしいけど、元々数が少ないから観測者が居ないって言うしな!」


 次に行くのは化石コーナー。

 大昔に実在した生き物達の化石があるのかぁ。

 数千年前より他種族同士の交流は増えたけど、生態系自体は大きく変わってないらしいからね。

 今とあまり見た目に違い無いと思うけど、それでもワクワクするかも!

 それから私達は化石コーナーにてドラゴンの骨や八岐大蛇ヤマタノオロチの肉片、バハムートの欠片など、眉唾な物もチラホラあったそれらを見て満喫した。

 資料館兼博物館を後にし、ウラノちゃんの言うロマンがなんとなく分かった気がする。

 次は何処に行くんだろうね!

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