第三百四十八幕 強者達の集い
──“後日・新人代表戦会場前”。
団体の部が終わった後日。個人の部開催の為、私達は再び会場に来ていた。
何度か説明したように会場には備え付けの宿泊施設もあるんだけど、私達は学院から転移の魔道具で来ている。だから来るのは一日振りくらいになった。
「いよいよ来たな~。ダイバースの個人戦。単独での最強は此処で決まるぜ」
「そうだね。ユピテルさんとシュティルさんも気合い入っていたし、例年より手強い相手になりそうだよ」
“魔専アステリア女学院”からの参加は私とボルカちゃんだけ。なので選手専用の通路は私達しか居ない。あくまで私達の学校からはってだけなんだけどね~。
「ふっ、また此処で会ったな。代表決定戦での借りは此処で返す」
「レモンさん」
当然、他の参加者は居る。知り合いならまずはレモンさんに会った。
愛用している木刀を携えての歩み。背筋は伸びており、歩き方一つですら強者のオーラが漂っている。
「借りがあるのは主だけではないぞ。優勝するのは我だ」
「ユピテルさん」
続いてやって来たユピテルさん。“ゼウサロス学院”からの参戦も彼女だけであり、迸る力はまるで霆みたいな雰囲気だった。
「こ、ここが新人代表戦の……不安です……」
「エメちゃん!」
そして威圧感が凄まじい二人とは違い、ちょったオドオドした様子のエメちゃん。
この初々しい感じ。昔の私を見ているみたい。
なんだかんだで私達は代表戦の常連だし、結構慣れたんだなぁと改めて思った。立場で言えば挑まれる側なんだよね。
「いつにも増してピリついているな。まあ、私も人に言える立場じゃないが」
「シュティルさん」
そしてシュティルさんが来、いつものメンバーが揃った。
ここに居る全員が優勝候補。団体戦との違いは、エメちゃんのように個人一人が強大でもチームが勝てなかった例があるという事。つまり単純な実力で言えば個人戦の方が一人一人が強いの。
団体戦の時のようにその場で仲間達が励ましてくれる事はないから、より気を引き締めていかなきゃね。
私達は舞台へとやって来た。
──“ダイバース新人代表戦・本会場”。
「「「どわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」」」
「「「ウオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォッッッッッ!!!!!」」」
『『『グギャアアアアアアァァァァァァァァァァァァァッッッッッ!!!!!』』』
『『『キュオオオオオオオォォォォォォンンンンンンンッッッッッ!!!!!』』』
来るや否や、既に会場は大盛り上がり。一日分の休みだけでもう待てないと言った様子だった。
やっぱりダイバースの人気はスゴいね。何度来てもそう思う。
ここからは司会者さんの話に入る。
《始まりましたァ━━ッ!! “多様の戦術による対抗戦”!! 新人代表戦!! 今日執り行うは個人の部となります!! 昨日の団体戦は大盛り上がりを見せ──》
恒例の挨拶。しばらくは並んだ状態で待機だね。
既に会場の熱気は凄まじい。今は静粛に話を聞いているけど、内に秘めた闘志は包み隠せない様子。それを近くで感じているのは私達だけであり、お客さん達は今か今かとワクワクしている雰囲気だった。
そして開会式も終わり、早速個人戦のトーナメント表が映し出される。
新人代表戦・個人の部が本格的に始まった。
*****
──“一回戦”。
一回戦のスタート。
単純な戦闘でも戦略の幅は広い。相手は個人戦を突破してきた各国の代表選手だからね。知も力も特筆した人達が敵となる。それはとても難儀な事。
とまあ戦闘に関係無い事は一先ず置いておいて、今は戦いに集中しないとね。
やる事はいつも通り。
(……こっちかな)
魔力の気配を辿り、そちらへと赴く。
まだ魔力とかみたいな力の気配しか分からないけど、何れはボルカちゃんみたいに生物の気配も追えるようになったら良いよね。
今はこの読みだけで頑張るしかない。気配は見つけたので後は近場で隙や不意を狙う。
代表戦クラスだと相手もこちらの気配を読んでいる可能性があるので、その辺はちゃんと考慮しておく。機が熟したら一気に攻め立てる……!
そしてそのタイミングは──
「今……!」
『……!』
相手の正面全てを植物で埋め尽くし、一気に波で流し込む。
不意を突かれた広範囲の植物。背を向けて走って逃げても横に逸れても跳躍しても全てを無下にする事が出来る広さと速さ。それは地中にも埋まっており、全方位に逃げ場が無い。
相手がやれる事は一つに絞られた。
『はあ!』
正面突破。
ここまで勝ち残っている実力者。山にも匹敵する範囲の植物を貫く事くらいは出来る。出来なかったらそれも良し。
そこは予想通りだね。貫けば植物の壁に穴が空き、格好の的と化す。
「“樹拳”!」
『……!?』
出てきた瞬間にそこ目掛けて一点集中させた樹木の拳を打ち込み、相手の体を吹き飛ばした。
飛ばされた相手は植物の波の中に沈んで飲み込まれる。硬い植物に連続して押し潰されるんだから一堪りも無いよね。
そしてその行進は私の魔力が尽きるまで続く。意外と初めてかもね。この魔法でトドメまで持っていくのは。
「“樹海行進”!」
樹木に潰され続け、流石の相手も意識を失ったのか転移。私は会場へと戻っていた。
『勝者! “魔専アステリア女学院”ティーナ・ロスト・ルミナスゥゥゥ━━━━ッ!!!』
「「「どわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」」」
「「「ウオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォッッッッッ!!!!!」」」
『『『グギャアアアアアアァァァァァァァァァァァァァッッッッッ!!!!!』』』
『『『キュオオオオオオオォォォォォォンンンンンンンッッッッッ!!!!!』』』
無事に一回戦は突破。多分正面から挑んでいたらもっと大変な戦いになっていた筈。機会を窺って不意を突いた甲斐があったね。
他の試合も見てみると、まだ友達同士で当たっていないみんなは着々と一回戦を勝ち抜いていく。流石の強さ。
エメちゃんも勝ち上がっており、やっぱり彼女だけなら世界クラスあるんだなぁと改めて思った。
《さあ! お次は二回戦! 一回戦を勝ち抜いた猛者達による祭典を──》
そして全試合が終わり、二回戦へ以降。トーナメントを見る限りしばらくは同じ国同士の人と当たらないね。
魔物の国出身であるシュティルさんともぶつかるのは当分先。勿論みんなが確実に上位まで勝ち上がれる訳じゃないけど、その実力なら不測の事態が無い限りは順調に行けるような気がする。
それから予想通り初日は全員が無事に勝ち上がった。
──“二日目”。
初日の試合は無事突破。早速二日目が始まり、次の試合もその次の試合も突破していった。
「それにしても、やっぱりみんなとっても強いなぁ。一試合一試合がハイレベルだよ」
「そうだなぁ。ステージにある物体のサイズは本物と全く同じなのに山河とか簡単に破壊されちまう実力者揃いだ」
「普通は頑丈なんだけどねぇ。生身でそれを遂行する人達が中等部くらいで数百人から数百匹居るなんてとんでもないね」
「改めてよく滅んでないな。この世界」
「英雄達が守った世界だからね」
「その意思を大半の人や動物が受け継いでいるんだから大したものだ」
早めに試合が終わった私とボルカちゃんは試合を見ながら雑談をしていた。
全体的なレベルの高さに感心しつつ、世界についてのお話。でもなんかどんどん脱線してる気がする。
何はともあれ、みんな強いのは一回戦からずっとそう。
「お、彼処の試合見てみろよ。破壊規模が一際大きいぜ」
「何でも破壊すれば良いって訳じゃないけどねぇ~」
ボルカちゃんが指し示すモニターに映し出された一つの試合。
今までは同時に行われている試合数が多かったので知り合いの戦いしか見ていなかったけど、こんなに激しい試合があったんだね。今は既にみんなの試合が終わってるから、強そうな人の戦いを見届ける事も出来る。
そのモニターには男の子が映っていた。魔族の代表選手だっけ。
「あれ、あの人……どこかで見覚えが……」
「ん? 確かにそうだな。それだけじゃなく、雰囲気自体誰かを彷彿とさせるような」
その人の試合。拳一発で対戦相手を沈め、その余波のみでステージの山河が崩壊していた。
とても強いのに今まで見た事が無いなんて。いや、見覚えはあるんだけど、それはダイバースとは別の場所な気がする。
そこにユピテルさんがやって来た。
「あの選手、今回の試合も順調に勝ち上がったが、次の相手は我だな」
「……! ユピテルさんの対戦相手……!」
「へえ。そりゃ手強い相手になるかもな。お互いに」
「そうだな。難儀な物となりそうだ」
あの少年はユピテルさんの次の対戦相手。一挙一動で山河破壊規模。かなり大変な試合になるかも。とは言えユピテルさんもそれくらいは出来る。どっちが勝つかは分からないや。
全ての試合が終わり、次の戦いに移行する。私達は第一試合なので終わらせ、ユピテルさんと少年の戦いを見届ける事にした。
《さあ! 次に行われますは“ゼウサロス学院”のユピテル選手vs──“英傑セイブルス学院”のラトマ選手だァァァ━━ッ!》
「「「どわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」」」
「「「ウオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォッッッッッ!!!!!」」」
『『『グギャアアアアアアァァァァァァァァァァァァァッッッッッ!!!!!』』』
『『『キュオオオオオオオォォォォォォンンンンンンンッッッッッ!!!!!』』』
「……! ラトマさん……!」
「あっ! 年明けに会った奴か!」
その少年は“ニューイヤーフェスティバル”に行った時に出会ったラトマさんだった。一回だけだから記憶には薄かったけど、だから見覚えがあったんだ。
と言うかそのチーム……学校名。
「“セイブルス”って名前にも聞き覚えが……」
「あー、そうだ! “セイブルス”は数千年前の英雄の名字で、アタシ達の“魔専アステリア女学院”の姉妹校だよ!」
「そうだったの!? 聞き覚えはあったけど耳馴染みは無いような……」
「紹介パンフレットに“姉妹校にはセイブルス学院があります”って小さく書かれてる程度だからな。それでも薄っすらと覚えていたのはスゲェぜティーナ」
どうやらラトマさんの通う学校は魔族の国にある“魔専アステリア女学院”の姉妹校だったみたい。
確かに英雄は魔族だったらしいから本校が魔族の国にあるのも変じゃないね。“セイブルス”もルミエル先輩の姓にあった“セイブ”に近しい物を感じるし、そう言う繋がりなんだ。
「でもそんな学校なのに今までダイバースで見た事はないような……」
「今回の参加者も個人戦のラトマだけだし、ダイバースに限って言えば単純に全体的な実力が足りないんだろうな」
ダイバースでは聞いた事の無い名前だけど、それなら納得。ラトマさんの孤軍奮闘だから個人戦にて彼しか進出できなかったんだ。
そのラトマさんも最近スポーツを始めたって言ってたし、そのスポーツがダイバースだとしたら去年の新人戦や本大会に出ていなかった理由も納得。
「これは予想だにしてない好試合の予感だぜ」
「そうだね。親しさからユピテルさんを中心的に応援するつもりだけど、私達の試合は終わったからゆっくり観戦しよっか!」
ユピテルさんvsラトマさん。二人の実力は把握してるし、とても良い勝負になりそうな予感。……まあ、ラトマさんは悪そうな人達を躓かせて倒したくらいだけど、さっきの試合を見てると強いのは間違いないよね。
ダイバース代表新人個人戦。ユピテルさんとラトマさんの試合が始まろうとしていた。




