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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部二年生
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第三百四十五幕 冬の長期休暇・最終日

 ──“数日後”。


「そらよっと!」

「そーれ!」


 長期休暇も終幕に差し掛かった頃合い、私達は寮生活へと戻り、部活動に精進していた。

 もうすぐ休みは明け、そこから二ヶ月で新人代表戦が始まる。練習と言えども手は抜かず、真摯に向き合っていた。

 自分達の成長は実感出来る。でも私達がそうであるようにシュティルさん達や他の国の面々。戦う事になるライバル達も強くなっているだろうからもっと頑張らなくちゃね。


「にしても、もう長期休暇が終わりかぁ~。早過ぎるぜ」

「実際に期間は短いもんねぇ~」

「だなぁ。学校自体はまあそんなに嫌いじゃないけど、授業が嫌だぜ。と言うか一時間丸々じっとしているのが辛抱堪らん」

「ボルカちゃんはアクティブだもんね」


 もうすぐ始まる学校……というよりは授業に対して憂鬱そうなボルカちゃん。

 彼女の性格的に落ち着く事が落ち着かないんだね。それに加えて時間に縛られる事とかかな。自由が好きだからね~。

 そんな感じで雑談を交えつついつも通りのメニューをこなした。

 そこにボルカちゃんが再び話し掛けてくる。


「最終日だし、この後どっか行こうぜ。しばらくは遊び行く時間なんて無くなるしさ」

「良いね。他のみんなも誘っちゃう?」

「もち! 最終日は派手にパーッと行こうぜ」


 部活が終わり、午後からはどこかに行こうと言う方向で話が纏まる。

 割と毎日みんなで遊んでいる気がするけど、お休み最後の日は今まで以上に楽しもう! ……と、意気込んでいたんだけど。


「ごめんなさい。私はこれから用事があるのよ」

「私もお家の事で用がありますの」


「すみません……ちょっと用事がありまして……」

「すみませーん。ウチも今日はちと用事があって」

「私もちょっとした用事がありますわ」

「すみません。今日は家業の事で用事が」


「今日は新しい香料を配合するという用事があるんですよぉ~」

「今日は実家の方で用事があるの。ごめんね」


 見事なまでにみんなに用事があり、断られてしまった。

 学校も始まるし家柄が家柄なので用事のある人達が多いのは承知の上だったけど、これ程までなんてね……。


「全員にフラれちまったぜ~」

「アハハ、そうだね」

「んじゃ、暇してるアタシとティーナで出掛けるか。っても既に寮に戻ってるから門限までには帰らないといけないけどな」

「うん、そうしよっか」


 みんなには用事があったけど、私とボルカちゃんはフリー。なので二人で年明けムードも収まってきた街中で遊びに行く事とした。


「いや~。すっかり雪景色だぜ」

「ホントだね~」


 少し前にそれなりの雪が降り、街中はすっかり白銀の世界となっている。けど道とか、人が通る場所は既に除雪されていて端っこに雪が寄っているよ。歩きやすいね。

 でも溶けた雪が再び凍ったりして道は凍結中。気を付けなきゃ怪我に繋がっちゃうから慎重に進まないと危険だよ。


「どこ行こっか?」

「今日は休みの最終日だから明日に備えて部活動も午前中で終わらせたし……まずは飯だな!」

「オッケー!」


 何はともあれお昼ご飯。

 そのまま遊びに行くので街にあるレストランとかに入る事にした。もう既に学院は出ているもんね。

 そんなこんなで行き着けのお店……ではなく、たまには新天地の開拓もしてみる。穴場のお店とかが無いか探し、裏路地みたいな所に一つ発見。


「こ、ここに入るの……? なんか薄気味悪いよ……」

「こう言う所にあるのが案外美味かったりするんだぜ。ま、酒飲みバーとかだと年齢制限があるからそう言う意味で入れないけどな」


 ちょっと怖い場所だけど、確かにお店の方から人の気配は感じる。

 その人がどんな存在なのかは分からないから不安は不安として、いざとなったらすぐに逃げられる準備はしておこう。


「へい! やってますかー!」

「ボ、ボルカちゃん!?」


 そして彼女の行動は迅速だった。

 扉の前に立つや否や即座に開け、店員さんとのコミュニケーションを図る。

 出迎えたのは──


「いらっしゃいませ! わあ! お客さんなんて珍しいですねー!」

「……え?」

「ハツラツした店員さんッスね!」


 イメージでは寡黙な気難しい店主さんやご老人だったけど、ド派手なゴスロリの格好をしたツインテールのお姉さんが出てくるなんて思わなかった。

 周りに居る……と言うより奥の方でお話や掃除している人達も全員が女性。もしかしてここってちょっとビターな大人のお店的な……。出迎えてくれたお姉さんを含めて全員の服がボロボロだったり露出が多いもんね……。

 ボーッとしているとお姉さんが小首を傾げる。


「あれ? そっちの子はなんか呆気に取られてるね。どったの?」

「あ、いえ……こう言う場所にお店を構えるのがまさか貴女のような女性とは思わなくて……」

「あーね。ここ、ホラーを題材にしたコンセプトカフェなんだ。雰囲気を作るには場所からってね! それで安いし裏路地の空き家を借りて店員全員で住んでるんだけど、一向に客足が伸びなくて参っちゃうって感じ。私達ってビジュアルも悪くないのに変だよね~」

「そうですね……」


 確かに全員が美人さんである。格好は奇抜だけど、みんなそれぞれ人気が出そうな感じ。

 でも場所が場所だもんね。お客さんが来ないのは分かっちゃう。

 すると奥に居た包帯をグルグル巻きにしたボブヘアの店員さんが私達の方へやって来た。


「あれー? その子達、“魔専アステリア女学院”のティーナ・ロスト・ルミナスちゃんにボルカ・フレムちゃんじゃない? ダイバース中学最強の」


「あ、聞いた事ある。超有名人じゃん! うっそー! そんな子達が来てくれたの!?」


 どうやらこの人達も私達の事を知っているみたい。ダイバースの知名度って高いんだなぁと改めて理解する。

 ボルカちゃんがその言葉に返した。


「そッスよ~。取り敢えず寒いんで入って良いッスか?」

「あ、ごめんごめん。そうだよね。寒かったね。だから他のみんなはずっと後ろに居たんだ……うぅ、確かに寒いや」

「寒そうな格好なのに今更気付いたんですか……」

「この子鈍いのよ。こんなに寒いのに気付かないなんてね」


 何はともあれお店の中に招かれる。特に年齢制限とかは無い場所みたいだね。

 改めて店内の景観を見てみる。ホラーを題材にした場所だけあってクモの巣や割れたガラス。欠けたレンガにボロボロのテーブルなど、結構しっかり造られている。


「ちゃんとホラーチックな場所になってますね」

「でしょー? 全部私達で手作りしたんだけど、残念ながら客足は少なくて閑古鳥が巣を作っちゃってるの」

「鳥さんが居るんですか?」

「慣用句だよ、慣用句。閑古鳥が鳴くって言うでしょ? つまりそれ!」

「あ、そう言う事ですか。巣を作るはあまり聞かない表現だったので」

「うーん、もうちょい上手い言い回しを考えなくちゃかな~」

「十分上手でしたよ!」

「お、嬉しい事言ってくれるね~」


 賑やかな店員さんだね。なんだかメリア先輩とかサラちゃんに雰囲気が似てるかも。

 手作りにしてもクオリティが高くてこんなに楽しいムードなんだけど、場所が場所だからあんまりお客さんが来ないんだね。

 何はともあれ、メニューを持ってきて貰った。


「これがこのお店のメニュー表! ついでに写真撮って良い!? 貴女達のネームドがお店の宣伝になるかもしれないから!」

「それくらいならお安いご用ですよ!」

「高く付きますよ~?」

「うっ、やはりお嬢様学校出身はギャラの方も……」

「そ、そんな物取りませんよ!?」

「ちぇ~っ」


 そんな感じでお店の店員さん全員も集まり、私達は小型魔道具で写真を撮ってアップした。文章も書けるらしく、内容は『ティーナちゃんとボルカちゃんがお店にやって来ました! みんなも“ナイトメアカフェ”に来ちゃって~!』とそんな感じ。実は色々と工夫もされているけど、文字だけじゃ伝わらないね。

 そしてここのカフェは“ナイトメアカフェ”って名前だったんだ。

 それだけ終え、メニュー表から注文を頼む。


「“血みどろ吸血オムライス”を下さい!」

「アタシは“ゾンビハンバーグ”で!」

「はいよー!」

「手慣れてるね。こう言う場所は初めてじゃないのかな?」

「学院祭とか、似たような事を色々しているんで!」

「私もそう言うので慣れました」

「成る程ね~」

「フフ、戸惑う姿も見たかったかな」


 と、不敵に笑うのは魔女の格好をした長髪の女性。雰囲気はイェラ先輩に近いかも。

 取り敢えず女性店員達は慣れた様子で料理を仕上げていく。料理も上手みたい。本当に場所の一点だけで客足が少ないって感じみたい。

 料理を待つ間、店員さん達は話し掛けてくれる。


「最近の中等部ってどんな感じなのー? 私達はもう大学を卒業してから三年は経ってるからね~」

「改めて、ギリギリだけどよく三年も生活出来たな。私達」

「他のバイトも入れてるし切り詰めてるからね。お客さんも……まあ来ないけどお店の売上は一月で銀貨一枚と銅貨数十枚分くらいは稼げるからまあまあかな」

「苦労しているんですね」

「楽しいけどね! 切羽詰まってるのにみんな出ていったりしないんだもん!」

「まあ腐れ縁というやつだな」

「生きていけるだけマシかな」

「そうなんですね」

「やりたい事をやれてるなら良い方なのかもしれませんね~」

「まあね~」

「あれ? 最近の中等部の話は?」


 方向性は逸れちゃったけど、店員さん達も楽しんではいるみたいだから良いのかな?

 お客さんが完全に0じゃないなら暮らせるけど、いつまで続くか分からない。さっき撮った物で伸びると良いね。


「はい。“血みどろ吸血オムライス”と“ゾンビハンバーグ”。召し上がれ!」

「わあ、本当に血みどろ……全部ケチャップみたいだけど酸っぱくないかな?」

「ふふん、実は薄く塗った物を広げているだけだから節約も出来て見た目が派手になっているんだ」

「へえ~」

「そいじゃこの色味が悪いハンバーグはどうなんスか?」

「生地に不気味に見えるような材料を練り込んでいるんだ。ちゃんと食い合わせは良い物だから美味しいよ」

「へえ~」

「最後に……呪いを貴女に!」

「美味しい呪いで虜になっちゃうよ」

「「「そーれ!」」」

「な、何を……?」

「こう言う場所では思いを込めたりするんだぜ。ティーナ」

「そうなんだ……」


 真っ赤っ赤なオムライスに色の悪いハンバーグ。見た目は本当にメニュー通り。

 食べる前に店員さん達の思い……愛情? が込められたそれらにスプーンを差し込み、ボルカちゃんはナイフとフォークを切り込んで私達は口に運んだ。


「お、美味しい!」

「美味いッスね!」

「でしょでしょー!?」

「腕には自信があるんだ」


 それはとても美味しい物だった。

 卵とトマトが上手く噛み合い、美(味)しいハーモニーを生み出している。

 ボルカちゃんの反応を見る限りハンバーグも美味しいらしく、次々と手が進む。

 あっという間に食べ終わっちゃった。


「とても美味しかったです! これは料金と……チップも付けておきます!」

「お、ありがとー!」

「アタシはティーナより持ち合わせが少ないんでチップは無理ッスけど、とても美味かったので何か出来る事があれば」

「無理しなくて良いけど……それならサインとか頂戴!」

「お安いご用ッス!」


 最後に私達はサインをし、“ナイトメアカフェ”を後にする。


「それでは、またお越しください!」

「じゃあね」

「バイバーイ!」


 店員さん達は全員で見送りしてくれた。

 薄着だから寒い筈なんだけど、そんな中でここまでしてくれるなんて本当に良い人達だったね。


──

───


「有名人で良い人達だったね~」

「ああ。お嬢様なのにその事を全く鼻に掛けていなかった」

「前評判通りの謙虚さだったよ」

「また来てくれないかな~。普通に可愛かったし!」

「それはそうですけど、この稼ぎで私達の一週間分くらいですよ」

「うーん、まだまだ有名店への道のりは遠い……」


 二人が帰り、お店の中で店員達は今後をどの様にして盛り上げていくのかを話していた。

 するとそこにベルの音が響く。


「誰だろう?」


 一人の店員が出るとそこには二人の女性が。


「ここって、ティーナさん達が来たお店ですか!?」

「ボルカ様が立ち寄ったと見ました!」


「え!?」


 その二人は有名人二人が目的。しかし直接会う事ではなく、“寄った”という事実が大事なのだ。

 女性店員は思わず口角が上がりそうになってしまうが、そちら方面ではなく店員としてのスマイルへと訂正した。


「いらっしゃいませ! ちょっとホラーな“ナイトメアカフェ”へ! ティーナさんとボルカさんのサインも飾っておりますよ!」

「ホントですかー!?」

「スゴいですねー!」


 早速効果が現れ、お店にお客さんがやって来た。

 これから数年後“ナイトメアカフェ”は大繁盛したとか。

 しかしそれは後の話。長期休暇最終日、二人のお出掛けは続く。


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