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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部二年生
345/458

第三百四十四幕 年始商店主催ダイバース大会

『物を壊してしまった。直す為の物をこのステージから選んで持ってこよう』


 問題が出るや否や、私達は駆け出した。

 今度はちゃんとこのステージにある物と指定されている。必要な物は修正の魔道具か何か。


「修正ってなら、粘着性のある物か穴埋めをする為の物か?」

「壊れた物にもよるね。物によっては磨いたりするだけで良さそうだし」

「崩壊加減も関係してそうだな。取り敢えずパーツになりそうな物とかテープとか、手当たり次第持ってきて確かめよう」

「その中に正解があればOKだもんね!」


 雑なようで、割と理に適っているやり方。無難な物から予想だにしないそんな物まで。持てるだけ持ってくればどれかは当たる筈。

 一門目の時みたいに、“そうは書かれていない”という事を加味するなら“一つだけ”という指定も無いからね。

 そして今回はウラノちゃん達の動きも気配で辿る。動いていない事が分かっていたら無駄足を踏まなくて良かったもんね。


「ちゃんと向こうも動き出しているね」

「ああ。そうみたいだな。そんじゃ、アタシは街の左側を探してみる」

「じゃあ私はその逆だね!」


 ウラノちゃん達も動き出している今、二手に分かれて物の捜索を開始。向こうは三人居る分、私達は早いうちに見つけて持ってこなきゃね。

 ティナを先行させて半分だけ感覚共有。二つの視点を同時に見るのは疲れるけど、数の差はそうやって埋めないといけない。

 そして一通り探してある程度の物を見つけ、私達は指定ポイントへ戻った。


「……! リゼちゃん。速いね!」

「ええ、風の使い手ですから!」


 その道中、リゼちゃんとバッタリ合流。風によるスピードアップで植物の進行と並列して進む。

 ここは妨害工作に出るべきかな。向こうも同じ考えみたい。


「“樹拳”!」

「“風拳”!」


 樹木の拳と風の拳が正面衝突を起こし、主に風の威力で爆風が起こる。

 風と樹。自然で言えば樹が倒れる程の暴風が吹く事もあるし、逆に風を妨げる対策にもなる。

 勝負は互いの魔力出力次第。そしてそれには自信がある!


「それ!」

「くっ……!」


 リゼちゃんを吹き飛ばし、指定位置へ。私は持ってきた物を直ぐ様置いた。

 オブジェクトは判定を示す。


『認証しました。“チームアステリア”に1ポイント入ります』

「あ、こう言う感じなんだね」

「はぁ……はぁ……そうですよ……」


 どうやら上手くいったみたい。

 色々持ってきたからそのうちの何が認証されたのかは分からないけど、取り敢えず1ポイントを取って相手に並ぶ。


「やったなティーナ!」

「うん! ボルカちゃん! 同点だよ!」


 次にボルカちゃんが戻りハイタッチ。他のみんなも帰ってくるまで待機し、集まったところで次のお題が出された。


『お腹の空いたペットが居ます。何かご飯をあげましょう』

「動物……」

「ご飯……」


 次のお題は食事。ステージ指定は無し。なので魔法などで出しても良い物。

 ウラノちゃんは既に食事に関する本をパラパラと開いており、私も植物から何かを生み出してみる。

 今回の着眼点は“ペット”。つまり人間以外の“動物”。それは草食か肉食か雑食か。魔法で生み出す早い者勝ちなら私達がちょっと不利かな。だって植物魔法が出せる物と言えば木の実くらいだから……!

 速度で言えば私達の方が早いけど、“ご飯”が何を示すのか……!


「“赤い果実”!」

「“フード”」


 先に置いたのは私達。オブジェクトが認識し、判定を下す。


『認識されませんでした。違います』

「……!」


 失敗した!

 次いでウラノちゃんの物が認識される。


『認識しました。“チーム魔専”に1ポイント入ります』

「……っ。肉食だったって事……!」


 木の実は却下され、“フード”……よく分からないけど、何かしらの食べ物が認証された。

 ペットは肉食動物だったみたい。と、そう思ったところにウラノちゃんが訂正する。


「違うわ。今回は草食か肉食かは二の次。“ペット”という事が肝よ」

「そうだったの?」

「ええ。あくまで人に飼われている動物の事。今回のご所望は“ペットフード”だったという事」

「ペットフード……でもそれって結局私達じゃウラノちゃん達より早く出せないよ……」

「そんな事無いわよ。貴女の植物魔法の範囲の広さと魔法展開までの早さなら、原材料さえあれば擬似的なペットフードを私より早く作れるもの。今は三問目。単純に考え過ぎたわね」

「うぅ……言われてみれば……。わざわざペットって言ってるんだもんね」

「まあ、私が最初に“動物”って貴女の意識を誘導したのだけれどね」

「あ! そう言えば! ウラノちゃーん!」

「フフ……」


 早い者勝ちになる以上、私達のやれる範疇の問題が出てくるのは間違いない。そうでなくてはもはや詐欺になっちゃうから。

 すぐに関連付けるのは大事だけど、その内容もちゃんと考えなくちゃいけないね。……あと、彼女の言葉に耳を傾け過ぎない。

 でもこれでウラノちゃん達には王手が掛かる。私達はもう負けられない……!


「切り替えてくか。勝とうぜ。ティーナ!」

「うん……!」


 チームメイトのボルカちゃんも励ましてくれる。

 あと1ポイントで負けちゃう次は今までで一番重要な問題。ちゃんと観察しなきゃ……!


『お風呂の時間です。しかしお湯をいれなくてはなりません。このステージからお湯となる物を見つけて持ってこよう』


「お風呂……」

「お湯……!」


 お湯を持ってくる。でもあくまで“お湯となる物”だから“お湯その物”じゃなくても良いのかもね。

 それを踏まえて私達は行動に移る。ステージ指定もされているからまずは水を見つけなくちゃ。もう後がないから急がなきゃね!


「勝たせて貰うわ。物語ストーリー──“風雷神”」

「ボルカちゃんは先に行ってて! 私達が足止めする!」

「OK! 任せとけ!」


 ウラノちゃんの本魔法。及び他の二人。みんなは私達が足止めしておく。その間にボルカちゃんが持ってきてくれれば勝てる!


「“フォレストアーミー”!」

「植物の軍隊……!」

「厄介ね」

「そうですね」


 植物からなる植物を持った植物の軍隊。ここは数で押すのが得策。無論、私自身も仕掛けるよ。

 ステージ指定がある以上、三人の動きを止めておけば私達の勝率はグッと高まる。特にボルカちゃんの速度なら5分もあれば十分! 五分なのに十分って変だね。


「一気に足止め!」

「これは……突破するのが難しそうね」

「その様ですね」

「私の植物魔法もこのレベルやれたらなぁ」


 植物からなる銃を構え、ダダダダダ! と撃ち込む。

 風雷神が雷と風で散らし、また別の風が吹き飛ばす。少々小さくとも洗練された植物が貫き、兵隊達を減らしていく。

 だけどすぐに態勢を立て直し、着実に時間稼ぎを遂行。その上を真っ赤な軌跡が突き抜けた。


「ボルカさん……!」

「行かせません!」

「おっと、流石に飛ばし過ぎたか」


 ボルカちゃん。

 しかし風神とリゼちゃんがその行く手を阻み、二つの暴風が吹き荒れる。けれどボルカちゃんは余裕の笑みを消さず、魔力を込めて更に加速した。


「んじゃ、そのまま突き抜けるだけよ!」

「……っ。速……!」


 メリア先輩よりも速くなったんだもんね。力をより込めれば二つの風を抜け出すくらいは可能。

 そのまま指定オブジェクトに置き、仕上げに炎を放出した。


「お湯の元は単純な水。後はアタシの炎で完成だ!」

『認証しました。“チームアステリア”に1ポイント入ります』

「やりぃ!」

「やった!」


 お湯となる水を持ち出し、炎で完成。それによって認証され、私達にポイントが入る。

 これで再び同点。残るは互いに1ポイント。最後の問題が出された。


『就寝の時間です。しかし良さそうな枕がありません。このステージから見つけ出し、持ってこよう』

「枕無くても床や地面でも寝れるけどな~」

「私は無理かなぁ」

「そう言う話じゃないんだけど」


 最後の問題は枕を持ってくる。しかしステージから“見つけ出して”とは変な言い回し。まるで隠されているみたいな感じ。

 まあ実際に隠されていてダミーの中から見つけるような感じかな。“良さそうな枕を見つける”。それが今回の目的。多分今回は引っ掛けとかも無いかも。

 私達は直ぐ様行動に移った。


「枕か。雑貨屋でも調べるか?」

「多分最後だからこそ商店の所有する物になりそうだもんね」

「ああ。手当たり次第探しつつ、一から作る方向でも考えよう」


 街ステージなのでお店もあり、そこから寝具店に入って枕探し。

 良質な枕。こればかりは勘でいくしかないかな。でも意外と触ったら分かったりするかも。


「これが枕……あれ? なんか硬い。私のお家の物や寮の物、ルーチェちゃん家の種類と全然違うや」

「アタシん家では割とこんな感じだぞ。ボロボロになるまで使って、本当にダメになったら買い替えだ」

「そうなんだ」

「ハハ、此処は生まれついてのお嬢様であるティーナが鍵だな。普段から慣れ親しんでいる物を選べばそれが良さそうな枕だ」

「わ、分かった……!」


 本当にそうかは分からないけど、明確な答えが出ていないからそうするしかない。

 枕を次々と探しては戻し、探しては戻しを繰り返し、複数のお店を回った辺りで一つの事柄に気付いた。


「ここにある高級枕もちょっと違うけど……もしかして、置いてあるのはお店の奥かも……!」

「そうか。そもそも表に出さず、厳重に保管している……って、たかが枕でそうするか?」

「作りたてとか、色々と噛み合えば多分。材料も高品質の物を使うだろうし、まだ出されていないだけかも」

「成る程。確かにそう言う在り方はあるな。この街ステージの時間設定は分からないけど、わざわざ“見つけ出して”って事は普通には無いって訳だもんな」

「うん!」


 そうと決まればお店ではなく工場とか工房に向かう。場所は探しているうちにもティナを飛ばして全体像を把握したから問題無い。

 そこに到着するや否や、ウラノちゃん達とバッタリ出会でくわした。

 良かった。まだ向こうも見つけてなかったみたい……!


「ティーナ!」

「うん!」


「レヴィア先輩」

「任せといて」


 互いに目配せで合図をし、その中へと突入。道中で先輩とも相対する。


「発想は同じみたいね」

「そうですね。レヴィア先輩!」

「一応“チーム魔専”のお嬢様代表として負けないよ!」

「私も負けません!」


 どうやら枕を手触りで探る担当はレヴィア先輩みたい。ウラノちゃんは一般家庭に近い所の出であり、リゼちゃんは騎士の家系なんだって。

 “日の下(ヒノモト)”方面の貴族だったレヴィア先輩が適任との事。

 互いに周りは壊さぬよう植物を打ち合ってせめぎ合い、枕を作っている場所に到達。兵士を出して時間を稼ぎつつ、私とティナの目を共有させて倍速で捜査する。


「相変わらず器用な事するね。でも、負けないよ!」

「私もです!」


 施設内を植物で覆い尽くし、枕の捜索。そして私は手触りの良い、慣れ親しんだ物を見つけた。


「これ!」

「私も近い物を見つけたよ!」


 先輩と発見のタイミングはほぼ同時。即座に私達は飛び出し、植物で加速して指定オブジェクトへと向かう。


「ボルカちゃん!」

「オッケー! “フレイムアクセル”!」


「負けない!」

「“加速風”!」

物語ストーリー──“風の子”」


 炎と風で両チームが加速。物の数秒で到達し、ほとんど同じタイミングでその場所に枕を置いた。

 選定を開始し、判定が出る。


『認識しました。“チーム──』

「「…………」」

「「「…………」」」


 ゴクリと事の顛末を見送る。

 オブジェクトが選定した果てに待ち受ける結果は──


『──アステリア”に1ポイント入ります。よって、勝者はチームアステリアとなりました』


「やったー!」

「勝ったぜー!」


「くっ……」

「僅差だったみたいね」


 私達の勝利! リゼちゃんは歯を噛み締め、ウラノちゃんは肩を落とす。

 そこへレヴィア先輩が話した。


「いや、この勝負は元々決まっていたよ。私が見つけたのはあくまで“近い”だけ。ちょっぴり違和感があった。でもタイミングが同時だったから妥協してしまった訳」


「そ、そうだったんですか。……確かにほんのりと芯があるような……」


 先輩の持ってきた枕に触ってみると確かに微かな違和感はあった。

 そんなに気にする程の物じゃないけど、私が選んだ枕の方が質が良かったので此方のポイントになったみたい。

 気付いた時には会場に戻っており、主催者兼司会者さんが話す。


《えー、これで勝利チームはチーム“アステリア”となりました。えー、今後ともに魔導商店をよろしくお願いします。えー、勝利チームには好きな商品を選ぶ権利を──》


「「「わあああぁぁぁぁっ!」」」


 会場も盛り上がりを見せているね。

 何はともあれ、好きな物を選んで私達は会場を後にする。ファンの人達からサインとかを求められたので簡単に書き、“ニューイヤーフェスティバル”も終わりに近付いた。


「いや~。楽しかったな~。程好く苦戦したし、これを弾みに新人代表戦でも好成績を収めたいぜ!」

「きっとやれるよ。ボルカちゃん!」

「そうですわね。私達は敗れてしまいましたけど、応援してますわ!」

「ダブルミーニングね。まあ団体戦の方は出るから問題無いけれど」


 もう二ヶ月くらいに迫ったダイバースの新人代表戦。今回のゲームは良い足掛けになるかな?

 お休みで練習もあまりしてなかったし、丁度良い鍛練になったね。

 年が明けてすぐの今日、思わぬ形でダイバースをしたけど、成長も感じられたし調子良いね。

 大会まで後少し。長期休暇もそろそろ終わり。本腰を入れて取り組まなきゃね。

 今年は幸先の良いスタートを切るのだった。


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