第三百四十二幕 ストリートダイバース
「お、居た居た~。丁度全員揃ってんな~」
「そろそろお昼時と思いましてね」
「全員集合だね!」
見つけるや否や、他のみんなも考える事は同じらしく既にある程度は集まっていた。
だけど見た感じ今来たばかりで、私達の後にもやって来て全員が揃う。このまま屋台でお昼ご飯を食べるのも良いけど、折角だからと新年らしい物をシルヴィア家が所持している絨毯内で食べる事にした。
魔法の絨毯の中には空間操作の魔道具で拡張された空間が付属された物があり、そこはちょっとしたお部屋になっている。外界とは切り離されてるので外から見られる事も無く、まるでお家の中のように快適に過ごせるの。
それも値段によって様々で、シルヴィア家が所持している絨毯は高級品。上質なホテルの一室並みの空間が複数あるね。
「それではお召し上がれ! シルヴィア家直属である料理人の皆様が腕に寄りを掛けて作り出した食べ物ですわ!」
「色鮮やかで美味しそう~」
「見慣れた物から見慣れない物まで。昨日と言いバリエーション豊富だな」
ルーチェちゃん家の使用人さん達が作った美味しそうな料理の数々。定番のお肉料理に具材を包んだ蒸し料理から丸や四角くて伸びる不思議な白い食べ物まで様々。
どれも美味しく頂く事が出来、楽しい一時を過ごす事が出来た。でもこの白い食べ物は一歩間違えるととても危険だとか。怖い……。
「午後からはどうする? まだ祭りは続くけど」
「他のお店にも行きたいよね~」
「年明けのムードを楽しめるのは今だけですものね」
「私は別に何処でも」
昼食を終え、午後はどこに行こうか話し合う。
このままお祭りを続行するも良し。別の場所でお買い物するも良し。選択肢が沢山あるからこそ悩みどころって感じかな。
そこへレヴィア先輩が提案した。
「それなら少し体を動かさない? 丁度近くでこんな物をやってるみたいよ」
「“ストリートダイバース・参加者募集!”……って、路上ダイバースですか!」
先輩が見せたのは“ストリートダイバース”の案内。
この世界ではダイバースが主流。特にこう言った特別な時期にはお店が主催の商品を賭けたダイバースが行われる事があるの。
どうやらレヴィア先輩はお祭りの途中でこのチラシを見つけたみたい。私達の興味は一気にそこへ引き込まれる。
「確かに部活動じゃ同じメンバーとしかダイバースしてないし、良いかもッスね」
「そうですわね。参加人数は一つのチームに付き1~3人(匹)。私達の人数は十一人ですし、一つのチーム人数は二人になってしまいますけど結構キリ良く組めますわ!」
「賞品内容は……へえ。私好みの本もある。悪くないわね」
私達四人とディーネちゃん達四人。そして先輩達三人のこのメンバー。三人チームが三つ、二人チームが一つでメンバー分けをする事も出来る。
優勝賞品は主催者であるお店の商品を何でも好きな物一つ。自由に選べるこれならちょっと要らないかなって自体にも陥らないね。
その方向で話は纏まり、私達は参加する事にした。
「年齢制限は特に無し。初等部から大人まで幅広いわね」
「この中で勝ち残るのは大変そう……」
「私達も全国区ですけれど、あくまでも中等部や高等部ではですものね」
「時期が時期で休みの人は多いし、プロのダイバースプレイヤーが参加する事もあるらしいぜ」
参加制限は無く、幅広く沢山の人達が可能。初等部の子達とかあまりに実力差がある場合はハンデも設けられるらしいけど、それを踏まえても大変だね。
けど相手にとって不足無し。色んな観点から見れて参考になるかも!
そして私達は商店の開催するダイバースへと参加した。
*****
《えー、皆さん。始まりました。えー、我らが主催する“ストリートダイバース”。えー、主催者は私──》
人の集まりはそれなりであり、結構盛況。だけど司会者兼主催者さんがちょっと静かめかな。でもプロの実況者じゃないならこれが普通だよね。
参加受付に登録し、私達はチームを組む。
そのメンバーは私とボルカちゃん。
ウラノちゃんとリゼちゃんにレヴィア先輩。
ルーチェちゃんとディーネちゃん、ベルちゃん。
そしてメリア先輩とリタル先輩にサラちゃん。
実力的にもバランス良く分けられたんじゃないかな? 勿論、私達に負ける気はないよ!
その後、参加選手の紹介に入り、次々と参加者達が発表された。
《えー、お次はチーム“アステリア”。ティーナ・ロスト・ルミナス選手。ボルカ・フレム選──》
「ティーナ・ロスト・ルミナス!?」
「ボルカ・フレムだって!?」
「確かにさっきそれっぽい人を見たような……」
「マジかよ!?」
「本物!?」
名前を呼ばれた瞬間に辺りは一気にザワつき出す。
さっきのフェスティバルでは人通りが多く、大人に比べたら背も低い私達は気付かれなかったけど、こう言った場だと元々がダイバースの大会というのもあって目立っちゃうね。
因みにチーム名は、 “チームアステリア”が私達。
“チーム魔専”がウラノちゃん、リゼちゃん、レヴィア先輩。
“チーム女学院”がメリア先輩、リタル先輩、サラちゃん。
“チームお嬢様”でルーチェちゃん、ディーネちゃん、ベルちゃん。
単純に“魔専アステリア女学院”を三分割し、後は特徴的な二人が居るチームを“お嬢様”と称した感じ。私達が英雄の名前である“アステリア”を貰っちゃって良いのかは疑問だけどねぇ。
「そしてチーム“魔専”が──」
「また“魔専アステリア女学院”からだ!」
「中等部大会の世界最強……!」
「偶々来て良かった~!」
その後、続くように他のみんなの紹介もあったけどその度に周りはザワついていた。
チームは登録順に発表されるから私達は必然的に横並びとなるのでお客さん達の盛り上がりは最高潮へと達している。こう言うのを見ると私達って有名なんだって実感出来るね。
良い意味での有名だから悪い気はしないけど、ちょっと緊張しちゃう。
《えー、それでは一回戦を、えー、開始したいと思います》
主催者兼司会者さんは少し気が抜けているけど、参加メンバーは全員本気。これは私達もうかうかしていられないね。
各種一回戦が始まった。
──“商店特設ステージ”。
「此処が基本となるステージか」
「広さは半径百メートルくらいかな? 小さめのステージだね」
お店の所有するステージなのもあり、やや小さめ。
準決勝とか決勝戦の舞台はダイバース用のステージを借りているみたいだけど、基本的にはここと似たような場所が四つ並んでいるみたいだね。お互いの試合の様子を別ステージから見る事が出来る。
何はともあれ、一回戦が開始した。
「わぁ……スゴい……。本物のティーナ・ロスト・ルミナスさんとボルカ・フレムさんだ……」
「ほぼ勝てないの確定したけど、良い体験出来るかもね!」
「頑張るぞ~!」
一回戦の相手は友達三人組みたいな人達。私達も今日はそんな感じだけどねぇ~。
最初から勝つ事を諦めているみたいだけど、やる気はある様子。試合内容は“陣出しゲーム”。ルールは名前通りで、似たような物なら何度かした事がある。
相手をこのステージの外に出せば勝ちだけど、魔力の感覚からしてあまり本気を出したらいけない人達なので力は抑えておく。
「んじゃ、やるか」
「うん」
「来るよ!」
「来る来る!」
「触って良いんだよね!」
なんかやる気満々の意味は違う様子だけど、取り敢えずこちらから仕掛けた。
「“丸太進行”!」
「あらよっと!」
「きゃー!」
「わ━━!」
「うわー!」
そして、勝利を収めた。
ちょっとした大きさの丸太をぶつけたり、ボルカちゃんは炎で加速して外に連れ出したり。余裕のある試合だったね。
「ボルカさんに触られちゃった♪」
「あれがティーナさんの太い丸太♡」
「参加して良かった~!」
「な、なんか勝った気がしないね……」
「だなー。ま、楽しそうだから良いか」
ただのファンサービスみたいになっちゃったけど、勝ちは勝ち。このまま私達は勝ち上がり、ウラノちゃん達も順調に勝ち進んだ。
「やっぱり此処まで来たねー! ティーナちゃん達ー!」
「負けませんよぉ~!」
「ウチらが勝つっしょ!」
「“チーム女学院”のみんなが相手だね!」
「やってやるぜ!」
準決勝から舞台は特設ステージから本格ステージへと移転。私達の相手はメリア先輩達。これは強敵だね~。
他の準決勝も私達“魔専アステリア女学院”ダイバース部のみんなだけど、お客さんも敗れた参加者達も楽しそうに見ていた。
「ついに“魔専アステリア女学院”同士の対決かぁ~!」
「今回はプロプレイヤーの参加が無かったからちょっと退屈したけど、この対決が見れるならプロと遜色無い!」
「どっちもがんばれ~!」
プロは流石に言い過ぎだけど、そう思われるくらいの戦いはしたいね。
私達の対決が始まる。ルールは“的当てゲーム”。
──“的当てゲーム”。
「これが指定ボールか。ちゃんと宣伝が入ってるな」
「そうだねぇ」
このルールも知ってる物。
体に的を貼り、相手の的に当てれば点数を得られる。そのポイントが多い方の勝ち。通常との違いと言えばこの商店の宣伝が書かれているくらい。でもお客さん達からはよく見えないよね。まあいいけど。
的の当てる場所によって入るポイントは違う。そしてボールも無制限じゃないのでちゃんと考えて当てなくちゃね。
試合スタートの合図がされた。
「先手必勝!」
「相変わらず速いですね!」
始まると同時にメリア先輩が箒で加速。一気に私の的へ狙いを定める。
なので咄嗟に植物を生やして覆い、その植物は炎で燃やされた。
「炎と風の連携……!」
「流石だな!」
植物が無くなった所にはボルカちゃんが透かさずサポートに乗り出す。
炎と炎をぶつけて消し去り、私は植物でメリア先輩との距離を空けた。
「やるね!」
「まだまだっしょ!」
「“強化香”~」
「更にバフを掛けやがった!」
「バランスの良いパーティだね!」
空けた瞬間にメリア先輩の風が吹き抜け、それに乗ってサラちゃんの炎が。
リタル先輩の香料によって三人は強化され、初級魔導ですら中級から上級の力に昇格していた。
でも、だからと言って負ける訳にはいかないよ!
「“縮小樹海生成”!」
「ありゃ、視界が遮られちゃった」
「これじゃ狙いが定まんない!」
「やりますねぇ~」
小さな樹海を作り、視界を消し去る事で追撃を避ける。
私とボルカちゃんはそれぞれ生き物の気配と魔力の気配を追う事が出来るので、この状況でも正確に相手の位置を把握している。とは言え、あの三人がそう簡単に隙を晒す訳もないから牽制を交えて的確な隙を突かなきゃね。
ただボールを当てるだけじゃなく、如何にして高得点を取るかがポイント。
「やるぞティーナ!」
「うん! ボルカちゃん!」
互いに言葉を交わし、私達は行動へと移る。
“ニューイヤーフェスティバル”の最中、商店で開かれたダイバース大会の準決勝が進行するのだった。




