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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部二年生
341/458

第三百四十幕 新たな年の幕開け

 ルーチェちゃんのお家を見て回り、数時間が経過した頃合い。私達は取り敢えず自由行動という事で各々(おのおの)で過ごしていた。

 ウラノちゃんは図書室。ディーネちゃん達はまだ見回り切れていない場所の探索。先輩達も自分達の思う行動をしている。

 私、ボルカちゃん、ルーチェちゃんの三人はリビングのソファーに座って談笑していた。


「ルーチェちゃん家も広いねぇ。歩くだけで疲れちゃった」

「魔力強化でもしていないと一日経っても見切れないだろうな」

「そうですわね。広いのは解放感があって良いのですけど、たまに帰ると一つ一つの行動にも長距離移動をしなくてらならないので若干不便に感じる事もありますわ。急に催した時などは特に……。各階層に御手洗いはあるのですけれどね」


 自分のお家に居るより寮生活の方が長い現在。たまの帰省で不便が生じるとの事。

 私が寮に入ったのは去年だからまだ自宅に不便は無いけど、大抵の物が近場にあると色々変わってくるのかもねぇ。

 そんなあるあるを聞き、ボルカちゃんも話す。


「アタシの家は寮より狭いしそんな風に感じた事はないなぁ。広い屋敷や城って憧れるけど、実はそんなに良くないのか?」

「どうでしょう。あくまでも私が不便に感じる時がたまにあるだけで、感性は人それぞれですものね。私自身は私のお家が好きですし、移動が苦にならない人も当然居る訳で、私個人からは皆様の総意として言えませんわ」

「そうだねぇ。ボルカちゃんは動くのが好きだし、むしろ広いお家の方が良いかも」

「それはそうだな。どちらかと言えばフリーダムに過ごしたいし、割と自由を求めるタイプだ。自分も相手も縛りたくない感じで、じっとしている方が落ち着かなくて常に動いてたいな」

「アハハ、ボルカちゃんらしいや」

「貴女は何かしらのお魚ですの?」


 家が広いか狭いか。それによって便利か不便か。その価値観は人それぞれ。それはともあれ、ボルカちゃんは自由気ままに過ごしたいみたい。

 そんな風に回りの事や自分の事など談笑を続け、夕御飯、お風呂と続いて日を跨ぐ時間が近付いてきた。


「そろそろですわね……!」

「ドキドキしてきた……!」

「特別視しているけれどいつも通りの夜じゃない」

「そう言うのは気分や雰囲気の問題なんだぜ。ビブリー!」


「先輩方と過ごすのも良いね~」

「だよねー! やっぱしみんなでワイワイ楽しむのは定石っしょー!」

「ルーチェ先輩の家で待ち構えるのも良いですわね! オーッホッホッホ!」

「早くも深夜テンションになっているのか?」


「カウントダウンとかしちゃいますか~!?」

「あぁ~。良いですねぇ~」

「たまには良いかもしれないね」


 みんなで同じ部屋に集まり、その時を待つ。心が躍り、浮き足立つ感覚があった。

 時間や星全体だけならウラノちゃんの言うようにいつもの夜と何も変わらないんだけど、街の雰囲気。みんなの様子。諸々の要因が相まって特別なムードに変わっていた。


「お、後1分だぜ」


 時計を見、日付の変わる時間に注目する。

 ここの時計は正確で、間違いなくあと1分。ううん、あと30秒。


「20秒……!」

「15秒ですわ……!」

「10秒に迫るわね」


 時計の針が進む度にほんのちょっぴり緊張する。

 針の進歩に伴って胸の高鳴りが増す感覚があった。


「10秒……!」

「9……!」

「8」

「7!」

「6ー!」

「5ぉ~」「4」

「「「3!」」」

「「「2!」」」

「「「1!」」」


 最後にみんなでカウントダウンをし、大部屋の時計が頂点へと到達し、私達は用意していたクラッカーを鳴らした。


「「「ハッピーニューイヤー!」」」


 新たな年の幕開け。みんなでジャンプなどをし、その合図と同時に使用人さん達が色々と運んできた。


「ルーチェちゃん。これは?」

「勿論、お祝いと言ったらお食事ですわ! 夕飯の量も減らしていましたものね!」

「深夜にこの量……」

「へへ、望むところだぜ!」


 お祝いの食事。歯なども磨いたけど、それから三、四時間は経っているし良い頃合い……なのかな? また磨かなきゃねぇ。

 ウラノちゃんの言う通り深夜にこの量はちょっと思うところもあるけど、今日の分は部活動で減らせば良いか。

 豪華なメニューでも栄養バランスなどは考えてあり、夜中に食べても差し支え無い物がほとんど。その辺はしっかりと配慮されているね。


「この細長い沢山の物は?」

「それらは“ソバ”や“ウドン”と呼ばれる品物ですわ! なんでもレモンさん達の国では年越しに細く長い物を食べるのが習慣だとか!」

「そうなんだぁ。なんでだろう?」


 私の疑問についてはウラノちゃんから説明が入った。


「“日の下(ヒノモト)”で年末に食べる“年越しそば”と呼ばれる物だけれど、長くて切れにくいそれには“細く長く”という意味が込められているわ」

「細く長く?」

「ええ。細々と、物事を長く続く様の意よ。要するに継続ね。対する“うどん”には“太く短く”という意味が込められているの」

「ソバとは真逆だなー。どういう意味だ?」

「短くて切れやすいうどんだからこそ、短くも充実して過ごすという意味ね。相反する二つの意味。自分の過ごしたい生き方を選ぶのが良いわよ」


 との事。食べる物によって意味合いが変わるなんて面白いね。私はどう過ごしていくか。出来れば太く長くが良いよねぇ。

 それ以外にも様々な物があり、お肉料理や豆料理。蒸し料理、中に紙の入ったパイ。十二粒のブドウから炭酸の飲み物など様々。

 訊ねるとウラノちゃんは説明してくれた。


「これも様々な……と言うより主に幸運の意味を込められた物ね。パイの中にあるこの紙は御神籤おみくじ。“日の下(ヒノモト)”とは種類が違うけど、運勢を占うと言う点では一緒ね。そして他の物は──」


「ほ、本当に物知りだね。ウラノちゃん」

「流石だぜビブリー。んじゃ、全部食べなきゃならないな。太く長く充実した幸運に包まれた新年を迎えるぞー!」

「おおー!」


 全部を乗せた贅沢欲張りセット。確かにそれが一番の理想だね。

 運にも恵まれた充実した人生。みんながそうなったら素敵な事。私達だけじゃなく、今この瞬間を過ごしている世界中の人全員がね!


「よーし、んじゃ食うかぁ~。丁度腹も減ってきた頃合いだからな!」

「言葉遣い。一応貴女もお嬢様学校の生徒なんだから下品よ」

「言葉遣いか……それでは召し上がりますわよ! グッドタイミングで胃から内容物が無くなった頃合いなので!」

「なんか違うわ。それなら今まで通りの方が……マシ……かしら」

「言い淀むなよ~。敢えて変な風にして此方の方が良いって思わせる手法だったんだからさ!」

「気付いていたけど、正直どっこいどっこいよ」

「マジか……!」


 相変わらずのボルカちゃんとウラノちゃん。ちょっとしたコントを見ている気分になるね。

 取り敢えず、これらを頂くのは賛成。幸せになりたいのもあるけど、そう言った縁起物に込められた先人の想い。作ってくれた人の気持ち。自分自身の幸せより、受け継いでいきたい、大事にしておきたい、感謝したいから楽しく食べるのが礼儀。

 早速それらに手を付ける。


「あ、美味しい! ……美味しいね!」

「ふふん、私の使用人様方が腕に寄りを掛けて作りましたものね! 美味しくない訳がありませんわ!」

「うん! とても良い味わい! すっごく美味しいよ! 使用人の皆さん!」


「「「そのお言葉、痛み入ります」」」


 彩りもあり、味のバランスを考えた絶妙な味付け。塩味や酸味、甘味に苦味。そして旨味。料理によって味わいは違うけど、人が美味しいと感じられる抜群のバランス配合。料理人さん達の腕の良さが窺えられるね。

 夜中なのに食べる手が止まらず、テーブルからは次々と料理が消えていく。

 これでいて栄養もしっかり考えられた物なんだもんね。消化に良い物も多く、隅々まで手心が加えられていた。


「お、耳を済ませば新年を告げる合図が響き渡ってるぜ」

「ホントだ。賑やかなのによく気付いたね。ボルカちゃん」

「耳は良いからな。マルチタスクも得意だし、別の事をしながら別の感覚に触れる事も出来るんだ。人形魔法で感覚共有を行って二つの視点を見ているティーナも、やろうと思えば話ながら出来ると思うぜ?」

「そっかー。それじゃあやってみようかな」


 音色が響き渡り、去年が終わって今年になった実感が湧く。

 今年は私達の、中等部の終幕。もう翌年の事を思うけど、来年からは高等部。最後の中等部も悔いなく過ごしたいねぇ。

 私達の年越し。それはルーチェちゃんのお家で執り行われ、今日と言う日。及び去年と言う年が過ぎ去って行く。

 ふふ、昼間はなんか変な事を考えちゃった気がするけど、みんなと居るとそんな事は忘れちゃうね。


 新しい年が幕を開けるのだった。


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