第三十四幕 初めての休日
──“当日”。
入学から約一週間の学院生活を終え、いよいよ今日は待ちに待ったお休みになった!
私はいつもより早く起き、洗面所で顔を洗い歯を磨き、髪を整える。今日はポニーテールの気分。お気に入りの白いワンピースを着て準備完了。……って、これから朝ごはんだからお気に入りの服はまだ着なくていいかも。それとも朝ごはんから外出先で食べるのかな?
そんな事を考えていると自室の外からノック音が。
「ティーナ! 起きてるかー!」
「あ、ボルカちゃんだ。はーい!」
その主はボルカちゃん。
休みの日はスゴく早起きなんだね。取り敢えず返事だけをし、流し見のように髪型と顔の最終チェック。
ママとティナを持って出迎える。
「おはよう! ボルカちゃん!」
「おっはー! ティーナ!」
「丁度私も準備が終わったところだよ! けど、朝ごはんはどうするの?」
「ビブリーやルーチェ次第かな。まだ約束の時間前だけど、迎えに行くか?」
「そうだね。そうしよっか!」
ボルカちゃんも着飾っており、黒を主体とした服装。赤い髪や目に合っていて、彼女本来の色彩を引き立てている。その様はいつもより綺麗に見えた。
元々短めの髪だけどヘアピンで前髪が止めてあり、本人の性格上全体的に動きやすい服装だった。
既に余所行きの服を着てるし、私も白いワンピースのままで良いよね。外は暖かいけど少し冷える事を見越して上着も持っていく。勿論お出掛け用の荷物も持ったよ!
そのままルーチェちゃんとウラノちゃんの部屋に向かう。
──“ウラノ・ビブロスの部屋”。
「来たんだ。もう少し本を読もうって思っていたのに」
──“ルーチェ・ゴルド・シルヴィアの部屋”。
「あら、来ましたの? 少しお早いですけれど、私は準備万端ですわ!」
その結果、二人とも早いうちに準備を終えていたみたい。
ウラノちゃんの服装は白の下地に灰色を主体としたロングスカートの春用ワンピース。そしてベレー帽を被っていた。
ルーチェちゃんは赤と黒の高貴な印象を見受けられる服装。
二人も全体的に綺麗に纏まっており、ウラノちゃんがこんなに洒落込んでくれるなんて意外だね。
「……なに? 私の服装ってそんなに変?」
「あ、いや……可愛いなって」
「そう。ありがと。意外って顔に書いてあるけど?」
「え!? 私の顔って文字が浮かぶの!?」
「言葉の綾。貴女って本当に天然ね」
「えー……」
定期的に思考を読まれてしまう私は本当に顔に書いてあるんじゃないかって思ってしまう。
ウラノちゃんの言葉って信憑性が高いんだもん。
そんなやり取りを終え、私達は寮の外に出た。
「それで、朝ごはんはどうする? 学食なのか外なのかね~」
「せっかくのお出掛けだかんな~。やっぱ朝から外っしょ!」
「OK!」
「まあ別にいいけど」
「楽しみですわ~。意外かもしれませんが、私も外には滅多に行かないんですもの!」
「「「いや別に意外じゃない(よ(ぜ))」」」
「はう……!?」
思えばボルカちゃん以外みんなインドア派。外で食べる機会なんてそうそうないよね~。
なのでその辺は彼女に任せてみる。
「ま、朝食だしレストランとかじゃなくて良いだろ。良いカフェ知ってんだ。そこにしよう」
「カフェ……! 本で読んだ事があるよ!」
「貴女……カフェに行った事ないんだ……」
「うん! 本当に外には出なかったからね~」
「私でもカフェは行った事ありますわよ……」
みんなから驚かれるけど、考えてみれば全てが初体験。
今日は良い思い出が作れそうな予感がするよ!
ここの責任者に許可を取り、私達は学院外へ。並木道を行き、川の流れる橋を渡って街の方に来た。
そのままボルカちゃんの案内でカフェに着き、メニューに目を通して注文。待つ間に今日の予定について話し合う。
「それで、今日はどこに行くの?」
「決めてなかったの。……けど確かにティーナさんは場所も分からないわね。私の知るオススメのスポットなんて図書館くらいだよ?」
「休日まで図書館で勉強はキチぃな。買い物って話しはしてたから、どっかの店行こうぜ。店」
「お店ですか。私行き着けのお店はありますけれど、学生のお財布事情では少しお高いですわね。私は買えますけれど」
図書館にショッピング。出てきたアイデアはみんなの得意分や個性に溢れた物。
私はどれも素敵に思えるけれど、なんとなく周りが納得出来てない様子は見受けられた。
そこに声が掛かる。
「此方になります。ごゆっくりお召し上がりください」
「お、サンキュー」
「ボルカちゃんもゆっくりね♪」
ウェイトレスさんが注文の品を持って来、最後にラフな感じで話して去った。
ボルカちゃんはすっかり常連って感じなんだね。顔見知りみたい。
運ばれてきたのはコーヒーとサンドイッチ。砂糖とミルクは多め。ボルカちゃんはパスタ系で、ルーチェちゃんも私と同じくサンドイッチ系列。そしてウラノちゃんはパンにスープと言った物で、量も一番少なめ。
とは言え、みんながみんな朝だからそんなに多い物は頼まなかった。
美味しいサンドイッチを頬張り、ボルカちゃん達も食事を摂る。その間にも話し合いは続いていた。
「ま、ティーナは初めての外出だ。それなら近場でも名所巡りとかはしたいかもな」
「名所巡り?」
「ああ。色々あんだぜ。ほら」
「ホントだ……」
ボルカちゃんが見せたのは通信や情報共有を行える、様々な機能付きの小型の魔道具。
その画面に写されたページには近隣の観光スポットが色々書かれていた。
「こんなに沢山……今日中に全部は行けないよね」
「そりゃあな。世界は地図で見るより広いからな~。アタシ達は箒にもまだ乗れないし、場所は限られるな~」
「あ、仕舞っちゃうんだ」
「まあな~。見せたのは世界が広いって事を伝えたかったからだ。って、それくらいは知ってっか。後はまあ行き当たりばったりでも全然構わねえぜ~」
「それは問題なんじゃ……」
「言ったろ? 冒険ってな!」
コロコロと笑うボルカちゃん。
相変わらず雑なところがあるね~。前向きなのは良いところだけど。
けど移動手段は限られるし、私達が行ける所って……。
「やっぱり無難にショッピングとかなのかな。私は良いけど」
「アタシも構わないけど、一応遠出する術はあるぜ~。今時の魔法はな!」
「そうなんだ」
移動手段は色々あるとの事。
なので遠出するのも問題は無いみたい。私の知らない世界も色々あるねぇ。
本は本でも物語の方が好きだし、乗り物とかはあまり読んでなかった。
「あら、では遠出するのかしら?」
「あまり遅くなるのは嫌だよ」
「大丈夫だって! 都心部には転移の魔道具も設置されてるし、すぐ戻って来れるさ!」
「じゃあ名所にも転移で行けば良いんじゃない?」
「分かってねーなぁ。ビブリーは。自分の目で見て進むのが旅の醍醐味だろー? 色々体験させたいんだ! アタシは!」
「面倒なだけだよ。……はぁ……仕方無いなぁ……」
転移の魔道具も重要な街には設置されてるみたい。本当に世間知らずだなぁ、私って。
だけどボルカちゃん的には帰りはともかく行きは自分の足で行きたいみたい。私もそれは賛成かな~。外の世界何も知らないし!
ウラノちゃんも渋々ながら受け入れる……って、なんやかんや言って承諾はしてくれるよね。ウラノちゃん。淡々としてるようで人が良いんだよね。
私達は朝食を摂り終え、早速移動を開始した。
「ま、自分の足って言っても基本的には乗り物移動だけどなぁ。流石に速度はどうしようもないし。高等部になったら箒で旅にも行きたいな~!」
「それも楽しそう!」
「だろ~?」
今は仕方無いから乗り物移動。だけどいつかは自分のほうきでお出掛けかぁ。
ふふ、なんか楽しみ。あと三年もあるけど、きっと大丈夫だよね。
私は三人に連れられ、乗り物のある駅に付いた。
「“連結型自動魔法の絨毯”。予め行き先やルートが決まっているけど、複数人の魔法抽出で移動速度を上げてるから普通の箒移動より速いんだぜ? 魔力の壁が張ってあるから風雨や雪、移動による風圧とかも問題無いんだ!」
「そうなんだ~」
「けどま、とんでもない魔力の持ち主とか居たら追い抜かされるけどな~。ティーナが完璧に魔力操作を出来るようになったらその箒に乗せて貰った方が早く着くかもな!」
「ふふ、じゃあその時はみんなを乗せてあげるよ!」
「あら、楽しみですわ!」
「……まあ、期待しとくよ」
目の前にある乗り物は複数の絨毯が繋がっており、大人数が乗れる仕様。
遠出する時とかはこれに乗って移動するのが主流なんだって。何故なら転移の魔道具にも距離制限はあるから、一気に行くならこっちの方が良い! ……って言ってた。
あと細かい場所に止まれないのも転移の魔道具の欠点みたいだね。コストとか消費魔力とか、色々掛かるみたい。
魔法の絨毯で移動するの楽しみ~!
「通貨は魔力か金銭か選べるぜ。魔力は絨毯のエネルギーに変換されて移動がちょっと速くなるんだ。子供は魔力量が少ないから安くて、大人は多いからちょっと高い。アタシ達は中等部の一年だからもう大人用魔力だけど、学生だから割引されるんだ」
「分かった! どうやるの? あとこの子達は……」
「やり方は手を翳して魔力を抽出。って感じだ。その人形は……じゃなくて、人形のフリをすれば大丈夫だろ」
「うん」
元々人形のフリをしているママとティナ……なのかな。なんかモヤる。
本当に前の試合から変な感じ。本当は二人の分も払わなくちゃならない筈なのに、私自身がそれは必要無いって思っちゃってる。
細かい事は考えなくていいかな。金銭もそれなりに持ち合わせているけど、魔力で払う事にした。
「え……と……こ、こうかな」
「……!?」
次の瞬間、ブワッと魔力が広がった。
ボルカちゃん達や駅員さんは驚きの表情を浮かべ、駅員さん同士で会話をする。
その後私達を見た。
「えーと……君達は四人のグループ?」
「はい。そうッス」
「今の魔力で全員分払われたから……他の子達は通って良いよ」
「マジすか!? 流石ティーナ! やったぜ!」
「え? え?」
「ティーナのお陰で色々得したんだ!」
「そ、そうなんだ!」
よく分からないけど、得したなら良いかな。私にも特に違和感は無いし。
魔法の絨毯に乗り込み、魔力の膜で覆われる。それは透けて外の景色が見えるようになった。
「では、良い旅を」
駅員さんが見送り、いよいよ街の外へ。
学院だけじゃなくて街の外に行く事になるなんて……ふふ、ホントに楽しみ!
私達の休日。それが遂に始まった!




