第三百三十七幕 パーティーの終幕
「これで良し……一通りは診て回ったかな?」
「そうだな。不謹慎だが、全員が同じような病状で良かった。お陰で皆に適切な処置を施せた」
「後は経過を見守っていく感じだね」
そろそろ日が昇る頃合い、私達は徹夜で“十二神獣”の魔物さん達の治療を施し終えた。
種族の違いや個体差を踏まえると完治するまで安心は出来ないけど、劣悪だった環境は整い、ここに来た当初よりは遥かに落ち着いた雰囲気になった。それは何よりだね。
『ティーナ殿にシュティル殿。なんと礼を申せば良いか。誠に忝ない』
「なんか急に古風な話し方になっているな」
「お礼なんてそんな。何度も言いますけど、これは私達じゃなく女神様からの贈り物ですよ。聖なる夜だからこそ起こった奇跡です!」
治療を開始してからドランさんも手伝いを行い、その上で一人一人、一匹一匹を終える度にお礼をしてくれた。
なのでもうお腹いっぱい。沢山の喜ぶ顔を見れたから私は満足だよ。
考えてみれば魔物の国のお医者さんは少ないもんね。能力は他の種族より高くても、シュティルさんが言うようにあまり勉強などはしない国民性。将来、人間でありながら魔物の国や世界を診て回るお医者さんになるのも良いかもね。なろうと思ってなれる程簡単な職業じゃないけど。
「それでは私達は帰ります。ラセツさん達を待たせていますし、もう夜明けですけどギリギリパーティーに間に合うかもしれないので」
「ああ、一仕事終えたからな。ゆっくりと食事でもしながら休憩したいところだ」
「見送りもしなくて大丈夫ですよ。他のみんなはまだ安静にしておかなきゃならない段階なので」
私達は関与していないって事にしたので、他の魔物さん達がわざわざ動くよりも前にここを出て“ホーンシップ”の拠点へと戻る予定。
そこでドランさんが口を開く。
『ならばせめてもの礼だ。我の背に乗ると良い。拠点までひとっ飛びだ』
「そんな、悪いですよ。ドランさんこそ昨日の傷とか残っていますし」
『あれから数時間は経過したんだ。既に傷は癒えている。攻め入った挙げ句の果てに助けられた手前、何かしらの礼をしなくては示しが付かぬ。……礼をさせず、生き恥を晒しながら一生を過ごす事が罰と言うなら受け入れるが』
「そ、そんなつもりはありませんよ!」
「龍と言う種族はこうだからな。高貴で高いプライドを有しているが、一度救われればその者に尽くす。そう言う性分なのさ」
「うーん……そ、それじゃあ仕方無いね……」
恩義を返せない事がドランさんにとってはとても大きなことみたい。
戦闘の時に食らわせたダメージ以上の罰を与えるつもりはないし、ドランさんの心意気じゃ本当に一生の償いとして私達を乗せなかった事を背負ってしまいそうだし……色々と思うところがあるので私は承諾した。
私達はドランさんの背に乗り込み、“十二神獣”の拠点から発って“ホーンシップ”へと戻るのだった。
*****
『……どうやら戻ってきたようだな』
『その様ですね。しかし、なぜ相手のリーダーと?』
『フッ、見事に懐柔したのだろう。ティーナ殿らしい』
ドランさんに乗ってから一時間も経たずに私達はラセツさん達の元に戻ってきた。
外で待っていたラセツさんの周りには食事などの痕跡があり、他の魔物さん達の姿から全員が寒空の下で一晩中待っていてくれたんだと理解する。
そこへ降り立ち、ついでに付いてきたラヴィさん達も到着した。
「ただいまー! 待っててくれたんだね!」
「なんだ。夜行性の者も多いが、昼に活動する者も起きていたのか」
『ああ。この者達も心配していたのだ』
『ラセツさんこそ!』
『俺達だけじゃねーですよ!』
『寧ろアンタが一番心配してたじゃないですかー!』
和やかな雰囲気で出迎えてくれるみんな。周りの様子から心配していたとは思うけど、それ以上に信用してくれていたからピリピリしていないね。
そこでドランさんは改めて頭を下げた。
『昨日の事、改めて謝罪申し上げる。すまなかった。食料提供、及び仲間達の治療感謝する』
『そうか。しかしまあ、ティーナ殿らによって心情は変化した様子。治療については我らは全く知らぬ事。当人達で解決したのなれば何も申すまい』
謝罪。悪い事をしたらごめんなさいするのは大事だもんね。ラセツさんもその意を汲み、昨日の事は水に流してくれるみたい。
しかし話はそれだけで終わらず、ドランさんは更に言葉を続けた。
『そこでだ。何かしらの詫びを思案したが、我らには蓄えも謝礼もない。故に我ら“十二神獣”一同。“ホーンシップ”、“神魔物エマテュポヌス”及びティーナ・ロスト・ルミナスの傘下に下ろう!』
「ん?」
『む?』
「さん……ってえええぇぇぇぇ!?」
そんな事聞いてないよ!?
シュティルさんとラセツさんは特に反応していないけど、私だけ個人名義で単体なの変じゃない!?
そうじゃなくて、傘下って一体どういう事!?
「なぜ急に傘下なんて話に!?」
「まあ、向こうは敗れたのだからな。その上で大勢の部下達が偶然奇跡が起きて助かった。組織その物を明け渡すくらいでなくては返せぬ恩と判断したのだろう」
『彼奴も言っていたが、本当に病に伏した者達を救い出したのか。流石だな』
「冷静!?」
シュティルさんやラセツさんからしたらそんなに珍しい行動でもないらしく、特に否定する素振りなどは無かった。
確かにドランさんの拠点に居た魔物さん達はみんな優しそうだったけど、えーと、ダメ。混乱し過ぎて感想すら出てこない!
『彼奴の拠点には自分達に向けられた悪意とかは無かったのだろう?』
「ああ。そして拠点の大きさは一つの街並み。私達が世話などをせずともドランと十一の幹部達が居れば組織としても纏まるだろう」
『そうか。我らにデメリットは何もないな』
二人は今後の方針的な物を話しちゃってる……対応が早いよ……。
魔物の国では強弱で序列が決まるみたいだし、この国の日常なんだろうけど私は慣れない……。
「とにかく、私は別に傘下とか戦力とかは求めてませんから! あ、お友達なら良いですよ!」
『そうか。戦力は要らぬか。しかし、何れはこの恩義に報いなければ龍の恥。必要とあらば呼んでくれ。友としてくれるのなれば、“十二神獣”の総出で向かおう』
「そこまで畏まらなくても……友達はオーケーだけど、心意気は気持ちだけ受け取っておきます」
一先ず私についての話は終わり……と言うより対処の仕方も分からないから半ば無理矢理終了させた。
後はシュティルさんとラセツさんの方で纏めてくれると思うので私は関与しないでおく。これ以上大変な事になったら……えーと、大変だからね。
「では戦力の分配は後程話すとしよう。まだ暫くは無法地帯にて大きな抗争の気配も無いから保留で良さそうだがな。街の方もあるだろうし、特に困っていないから中心部の拠点程度に思っておこう」
『そうだな。とは言え我らはあくまで無法地帯でも行き場の無くした者達の棲み処としている。メイン活動は外層付近。中心部は“ホーンシップ”の方針から外れているので特に関与はせずに置こう』
『心得た。いつでも“十二神獣”を訊ねてくれ。歓迎しよう』
“神魔物エマテュポヌス”と“ホーンシップ”。“十二神獣”。お互いの拠点はそんなに離れていないので良い協力関係になりそうだね。
そんな感じで話は纏まりを見せ、今回の件は無事に解決するのだった。
『ではティーナ殿。シュティル殿。既に日は昇り始めているが、パーティーを再開しよう。“十二神獣”の者達はどうする?』
『我は部下達の事があるら戻るとしよう。しかし然して人数も必要無い。自由の身とするが、お前達はどうする?』
『じゃあ私は参加する~!』
『私はラヴィが粗相をしでかさないか見守り役を努めておく』
『そんな事しないよ~!』
そしてパーティーはまだ続く。ギリギリ夜明け前なのもあり、残り時間を目一杯楽しんじゃおうって魂胆。
“十二神獣”の人達はドランさんと何匹かが帰り、ラヴィさんやパピィさんを含めて数人が残る事となる。
ボルカちゃん達とは過ごさなかった今年のパーティー。魔物の国の騒動にまたもや巻き込まれたりしちゃったけど、それを経て新しいお友達も出来た。
楽しいパーティーは日が昇るまで、私達が帰るまで続くのだった。




