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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部二年生
337/458

第三百三十六幕 聖なる夜の奇跡

 ──“魔物の国・中心部”。


「ここが無法地帯の……」

「ああ。私も来るのは初めてだが、雰囲気からして違うな。魔力とはまた別のものだ」

『でしょー? 常に争いが起こっているから漏れ出ているんだー』

『フフ、外層や都市部とは段違いだろう。育ってきた環境はこちらの方が過酷なのさ』

「えーと貴女達は……ウサギさんと鳥さん?」

『よろしくー! 私はラヴィ!』

『私はパーピーのパピィ。貴女に拘束された時、痛かったぞ』

「ご、ごめんなさい……」

『オイオイ……そこは普通、そちらが先に攻めてきたからとか言い返す場面でしょう。戦闘中とは別人みたいだ』


 無法地帯の中心部にやって来た私達は、不穏な気配を感じていた。

 それは一時的な物ではなく、常に辺りに漂っているようなそんな気配。胸がザワつくような、胸騒ぎが止まらない。

 ウサギのラヴィさんやパーピーのパピィさんとは少し親しくなった。案外悪い人達じゃないのかもしれないね。人型、同性と言う繋がりがあるから向こうから積極的に話し掛けてくれるの。


『しかし、本当に信用出来るのか? 先程まで敵対していた相手だぞ。戦闘中の雰囲気にも違和感があった』

『疑うのはお前の悪い癖だ。ワガー。警戒心が強いな。そもそもパピィが言うように仕掛けたのは俺達だろ。これで闇討ちされても自業自得でしかない』

『ウェルフ。自業自得と言うのには同意するが、お前は信用し過ぎだ。誰にでも尻尾を振りやがって』

人狼ウェアウルフは他者を騙してなんぼだからな。嘘をよく吐く分、他人の感情にも敏感なのさ』


 人狼ウェアウルフのウェルフさんに、ワータイガーのワガーさん。

 さっきのやり取りからウェルフさんは信用してくれているみたいだけど、ワガーさんはそうでもない様子。それも当然だよね。一度は全滅させた相手だもん。


『オラは信用するぞぉ~。ボコボコにはされたけど、意識失ったら止めてくれたしなぁ~』

『僕も信用するよ。悪い人じゃなそうだもんね』

『チチチ。そんな事言ってると寝首を掻かれるよぉ~』

『寝首を噛むのはお前だろう。コソコソとして』


 巨人族のジャイさんや羊さんは信用してくれているみたい。

 ネズミさんや蛇さん、他の魔物さん達はまだよく分からない人が多いかな。


「しかしまあ、流石に人数が少なかったかもな。大人数で行っても仕方無いが、私とティーナの二人だけではこの者達の気が変わって襲われたら撃退するのに疲れるぞ」

「そんな事しないと思うよ~。それに、魔物さん達の拠点に大人数で向かったら警戒させちゃうと思うもん。病気とかで弱ってるらしいし、負担は掛けさせたくないよ」

「それはそうだが、やはり君は優し過ぎるな」


『一度負けてるんだから襲ったりしないよ~』

『と言うか、疲れるとはな。私達に勝つ前提か』

『実際私達って負けてるでしょ~?』

『そうだがだ。ラヴィは相変わらず気楽だな』


 向かっているのは私とシュティルさんだけ。なので多少は不安もある様子だった。

 でも私はドランさん達を信用している。確かに敵対はしたし、パーティーを台無しにされた時は怒ったけど、その分の罰は与えているもんね。喧嘩両成敗って事……なんか違うかな?

 取り敢えず、向こうにとっては私のワガママでさっきまでの敵対関係者を拠点に案内しなきゃだから、そっちの方が大変だよね。


『見えてきたぞ。あれが我らのチーム“十二神獣”の拠点だ』

「あそこが……」

「成る程。確かに拠点のサイズからして中堅並みの力は有しているようだな」


 ドランさん達のチーム“十二神獣”。その拠点は大きな物で、お城……どころか一つの街みたいな場所だった。

 だけど話に聞いていた通り、寒さと病気によって活気は無くなっており、どこか陰鬱とした雰囲気が漂っていた。

 境界線を越えて領地内に入り、何匹かの魔物さん達が出迎えてくれる。


『ドランさん……』

『ウェルフさん……』

『ワガーさん……』

『『『お帰りなさい……』』』


『ああ。諸事情あって労働者は無理だったが、食料は大量に持ってきた。お前達も無理して出迎えず、これを食し体力を戻してゆっくり寝ていろ』


 魔物さん達が弱っているのは明白。それでも無理して出迎える程の信頼があるようだった。

 ラセツさんに食料は分けて貰ったけど、早急に何とかしてあげなくちゃね。そうしなきゃこの魔物さん達はきっと……。


「ドランさん。早速ですが、動けない程の方達が居る病棟などはありますか?」

『ああ、あるが……彼処の者達は残念ながら末期。感染する病であり、医療知識のある者も居ない我らでは如何する事も出来ぬ』

「案内してください!」

『話を聞いていたのか? 感染うつる可能性もある。敵対関係ではあったが、そう見殺しになど』

「大丈夫です。ただ様子を見てみるだけなので。ちゃんと感染対策の植物も持っていきます」


 私の知識量では高が知れている……けど、何かやれる事はある筈。空気感染ならそれ用の植物を準備しているので彼らが行くよりは安全だから。


「私も同行するから問題無い。ヴァンパイア族は病なんぞで苦しまぬからな」

『……そうか。どうなっても知らぬぞ』


 シュティルさんも来てくれるみたい。

 彼女のヴァンパイアエキス。量を調整すれば自然回復力を高める事が出来るので今回には打ってつけだった。

 ドランさんや一部の魔物さん達も付いて来、私達は患者が大勢居る病棟にやって来る。自分の口鼻には植物の管を巻き、空気の循環を執り行う。ドランさん達は使わないみたい。

 病棟に入るや否や、目の前には大勢の倒れ伏せる魔物さん達の姿が。


『おお……ドランさん……』

態々(わざわざ)来てくれたのですか……』

『しかし此処は危険……さあ、お帰りください』

『最期にアナタの顔を見れて良かったです……』


「……っ」

『……これが此処の現状だ。植物魔法で何が出来る……!』


 こんな状態になってまでドランさんを労る魔物さん達。

 その素振りに何故か既視感があり、今考えるべき事ではないと記憶の底に追いやった。

 こんな方々がまだまだ沢山居るこの病棟。私にやれる事は一つ。


「植物は様々な薬草に通じます。なのでこの魔物さん達の状態から適した薬草を作り出します……!」

『そんな事が出来るのか? お主は人間でも若い方と聞いたぞ』

「行き着けのお店で……色々と薬草の話を聞いています。そして私も何かに使えないかと本を読み漁り、医学部並みとはいきませんが、それなりの知識は身に付けました」


 常連の雑貨屋さんに様々な薬学の本。

 ウラノちゃんからもそう言った物を借り、みんなの役に立ちたいから薬草の勉強をした。

 それを今、有効活用する時。


「……ドラン。ティーナもそう言っているんだ。見届けてくれないか? そしてもう一つ、まずは一番危うい者は誰だ?」

『……奥の閉鎖空間に居る』


 シュティルさんがドランさんに訊ね、私達はそちらへと向かった。

 自分がこんな状態なのに魔物さん達はドランさんや私達への気遣いを忘れず接してくれる。良い人達なんだね。


『ゲホッ……ゴホッ……あ、ああ……ドランさん。此処に来てはいけません。感染ってしまいます……』

『気にするな。我の肉体は強靭だ。この程度ではやられぬよ』


 最奥にも複数匹。自分で動く事も儘ならないのか、辺りには汚物類も広がっていた。そして何よりこの季節なのでとても寒い。

 寒所を好む生態やマーキングの類いじゃないなら、まずはこの環境を整えなきゃならないよね。


「“清掃樹林”&“熱帯雨林”」


 植物を地面へと敷き、魔物さん達は避けて汚物を拭き取る。それはそのまま植物に吸収させ、成長を促進させる。

 植物にとっては肥料になるからね。魔力操作でその速度を早めれば瞬く間に綺麗になる。

 そして炎魔法からなる熱を込めた植物を生やし、明らかにマイナス以下の温度であるこの空間を暖める。咳き込んでいたし、暖かくすれば呼吸気管が広がって少しは楽になるから。

 環境を整えた辺りでシュティルさんが他の魔物さん達にそっと触れる。


「多少チクッとするが、辛抱してくれ。アナタ達の為だ」

『その牙……まさかヴァンパイア族のような高貴な方が……!? ダメです、貴女のようなお人が我らに触れるなど……』

「気にするな。病で苦しむ者に種族の壁はない」


 鋭利な爪を小さく突き刺し、そこからエキスを注入。ヴァンパイアにならない範疇の量であり、それは回復力のみを促進させる。


『な、なんだか体調が少し良くなったような……』

「とは言え治った訳ではない。安静にして治れば良し。後は投薬だな」

「うん。ちょっと調べるから質問に答えて」

『はい……』


 シュティルさんのお陰で問答する事は出来るようになった。そこから症状などを質問で当てる。

 一般的な病気の特徴は頭に叩き込んだけど、相手は魔物さん。私達人間とは勝手が違う。今の時代は医学書に人間、魔族、幻獣、魔物の大半は載っているけど、全部を完璧にこなすのはまだ難しいもんね。

 だから私の知らないような病気だったら成す術が……ううん。ダメな方向には考えず、どんな病気か分かればやり方はある。


「じゃあまずは──」


 それから質問を終え、魔物さんの病気を特定した。感染症と言うのは聞いていたので、一匹さえ分かれば後はトントン拍子で進む。

 その病気の内容は──


「これって……」

『……やはり助からないものでしょうか。覚悟は決めています』

「……ただの風邪ですね。魔物さんも普通に掛かる病気です……」


 風邪。

 変異したとか、特質とか、そんなんじゃない本当に普通の風邪。全ての情報が一致していた。

 だけどこの環境ではただの風邪ですら脅威になるのは分かる。そして私達は、それ用の薬草を生み出せる。

 永続的な物は作れないけど、即効性の薬草なら効果が出るから問題無いよ。だけど永続的な植物も生み出せるようにするに越した事はないよね。……いや、今こそそれをやるべきかも。


「少し苦いので風味を少し変えました。この薬草を飲み、この暖かい空間で安静にすれば二、三日で完治しますよ」

『わ、私は助かるのですか……?』

「はい。まだ確証は出てないので絶対安静に。他の魔物さん達も治してみせます」

『あ、ありがとう御座います……! この数日、苦しくて……苦しくて……しかし、貴女のお陰で希望が持てました……!』

「えへへ、どういたしまして」


 私でも何とかなるような病気で良かった。これなら本当に大丈夫!

 だけど感謝されるって良いね。他の人でも魔物さんでも、誰かが喜ぶ顔って見ていて気持ちいい。私達の植物魔法は人間だけじゃなくて、他の種族にも効くんだ……!

 ドランさんは驚愕した面持ちで私達の方を見た。


『治るのか……他の者達も……“十二神獣”の皆が……!』

「確実……ではありませんが、可能性は高いと思います。私達の植物魔法にシュティルさんの回復力促進。これが合わされば風邪くらいは……!」

『本当に……本当に治るのだな……』

「……はい!」


 自信無さげだと向こうも不安にさせちゃう。なので今度はしっかりと返事をした。

 ドランさんはこうべを垂れ、地面にヒビを入れる程の状態で話す。


『ありがとう。本当に……! 拠点へ攻め入り、あまつさえ信用しなかった我が恥だ……! “十二神獣”は救われる……!』

「いいんですよ。来る前に言ったじゃないですか。これは聖なる夜の奇跡。私、ティーナ・ロスト・ルミナスは一切の関与をしていないと」

「フッ、シュティル・ローゼもな」


 これは誰の成果じゃない。女神様の日に起きた、一夜の奇跡。こんな日くらいはみんなが幸せにならないといけないもんね。


「では他の魔物さん達の元に。別の病気の可能性もあるのでちゃんと調べないといけませんから」

『ああ、頼む……!』


 その後私達は“十二神獣”の拠点にて病気の魔物さん達を治療していく。

 それにより、淀んだ空気だった拠点が少しは和らいだ。植物を増やしたから空気も緩和されたね。

 ドランさん達の拠点は、次第に整っていくのだった。


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