第三百三十四幕 魔物の王(仮称)
「リーダーが直々に出向いたなら返って好都合だ。奴を仕留めればパーティーを再開出来るのだからな」
「うん。折角のパーティーをメチャクチャにして、友達を傷付けたあの魔物さんのチームは許せない……!」
「それでもなお敬称で呼ぶのだな。ティーナの育ちと性格の良さが窺えられる」
「そうかな? 余程嫌な雰囲気じゃないとなんか失礼な気がして……それに、ミノタウロスとか本の鳥達とか、ウラノちゃんが召喚した存在には普通に呼んでるし」
「慣れた存在に対してはそうなるのだろう。そこが育ちの良さよ。……さて、仕掛けるぞ」
「オーケー!」
姿を見せた相手のボスを前に、私達は行動に移る。
さっきの口振りからして勘違いとかは絶対にあり得ないもんね。向こうは最初から攻め入るつもり。なら迎撃するまで!
『来るか。まあ仕掛けたのは我らだがな。受けて立つ!』
「「………!」」
鱗を纏った大きな体を揺らし、口元にエネルギーのような物が集っているのを感じた。
まあ、龍やドラゴンと言った種族のやる事は大抵決まっているよね。
『カァ━━!』
「“防火樹林”!」
口から熱線を放出し、私達に仕掛ける。
炎は空気を焦がしながら直進し、性質を理解していたから事前に準備していた植物で防いだ。
燃えにくい植物を魔力で更に強化し、相手の炎から完全に守り切った。
「龍の鱗は頑丈だからな。攻撃方法も工夫しなくてはならない」
「“樹族の道”!」
『ほう?』
周りに植物を広げ、その上をシュティルさんが駆け抜ける。
彼女は空を飛ぶ事も出来るけど、ある程度助走があった方が勢いも付けられるんだって。
龍さんはそんなシュティルさんに狙いを定め、今一度口にエネルギーを込めた。
『広範囲の火炎にて、この拠点諸とも消し飛ばしてやろう!』
「貴様にやれるのか?」
『やれぬ理由が何処にある』
「ティーナの存在さ」
「“突上樹林”!」
『……!』
顎下に植物を突き上げ、強い衝撃を与えて阻止。込められたエネルギーは口内で暴発し、そのまま爆発して龍さんの顔を包み込んだ。
威力は十分。単純な物理攻撃のダメージは少ないと思うけど、行き場の失ったエネルギーによる衝撃波は凄まじい。
それによって大きく怯みを見せた龍さんの体にシュティルさんは乗り込み、念力によって周りの大気を集めた。
「硬く強靭な鱗だが、隙間の向こう側は柔らかな皮膚であろう」
『……ッ!』
集めた大気の塊を体に押し当て、衝撃波を内側に与える。
大気や水分は念力によって勢いを底上げされ、さながら散弾が如く貫いて突き抜けた。
『ぬぅ……小癪な……!』
「“夜薙樹”!」
『……!?』
まだ攻撃は初動も初動。龍さんは怯む程度で戦闘続行は可能であり、態勢を立て直す。でもその前に無数の植物を叩き込み、動く前に地へと叩き落とした。
着弾地点には龍さんサイズのクレーターが造り出され、動くよりも前に打ち続ける。
巨人さんはこれでダウンしたけど、体がより頑丈な龍さんはまだまだ余裕があるよね。
『あらゆる事柄に対して障りだ!』
「……!」
予想通り樹木の乱打を受けても尚起き上がり、天空へと急上昇する事で木々から逃れる。
そこから空中で塒を巻き、暴風を呼び寄せて風の刃と雷にて粉砕された。
あらゆる自然現象を操る龍さん。多少はダメージを与えたけど倒れるには至らない。
放たれた風雷はそのまま攻撃へと繋がり、私とシュティルさんを飲み込む。しかしそれらも植物と念力で防ぎ、向こうと同じく防御をそのまま攻撃へと繋げた。
『面倒な……!』
「同じ意見です!」
「ああ、同意だ」
埒が明かなくなり、龍さんは自らが突撃してくる。
体には暴風を纏っており、まるで小さな台風が迫ってる様。このままだとツリーや他の装飾品が壊されちゃう。
それより、拠点その物も存続の危機。
「させません! “巨躯樹拳”!」
『……!』
「そうだな。この会場をこれ以上荒らさないで貰いたい」
樹木を纏めた巨大な拳で迎え撃ち、龍さんの動きを塞き止める。
更に魔力を込めて押し出し、そこへシュティルさんが駆け抜け相手の眼前に掌を翳した。
「風は建物の外で吹くものだ」
『……ッ!』
植物によって相手を囲んでいた風は弱まり、余風をシュティルさんが念力で操作。片手に小さな竜巻を作り出し、その巨体を吹き飛ばした。
私は魔力の糸を伸ばしてママを建物の外へと向かわせ、そこから蔦を放ち拘束する。
すぐに千切られちゃうと思うけど、建物の外へと引っ張り出す事は出来た。
『くっ、貴様ら……!』
「出ていってください!」
「一昨日来やがれ、というやつだ」
外から引っ張りつつ、無数の植物の拳をその体に叩き込む。
シュティルさんは天候を操って嗾け、龍さんの体は完全に外へと追い出す事が出来た。
『だからどうした! 我はこの程度の攻撃、ダメージにもならぬぞ!』
相手は空中で停止し、エネルギーで周囲を包む。外から建物を狙うつもりみたい。
これじゃ外も中も変わらないけど、室内よりは相手の狙い目も分かりやすい。攻撃に合わせて防げば良いだけ!
『くたばれェ!』
熱線が放たれ、一直線に建物へ。既に全体を植物で覆って防御しているけど、さっきより攻撃力が上がっている。
向こうも本気を出してきたって事なのかな。でも負ける訳にはいかない!
『僭越ながら、我もこの立ち合いに復帰する!』
『……!?』
「……! ラセツさん!」
熱線と植物の押し合いに発展する最中、ラセツさんが大剣を用いて龍さんの体を切り裂き、妨害する。
更に力を込め、頬に刃を打ち当てて相手の巨体を吹き飛ばした。
スゴい力。これがオーガのラセツさん……!
熱線は上の方へと飛んで行き上空の雲を蒸発させ、風雨が止む。本当に嵐を呼んでいたんだ。
「ありがとう! お陰で拠点を守れましたラセツさん!」
『それは本来我が言うべきセリフだが、まだ戦いも終わっていない。何と頑丈な皮膚か。切ったつもりだったが、巨大な得物で殴ったような感覚だ』
「やっぱりスゴい硬いんですね……」
大剣にて切り付けたラセツさんだけど、切断とはまた違った手応えを感じている様子。
鱗のみならず皮膚も強靭。切り裂くのは難しいみたい。
『しかし、シュティルに治療を施されてから我の大剣を取りに戻った。これで本領は発揮出来よう』
「そう言えば武器は持ってなかったですもんね」
『ああ。パーティーに武器は要らぬからな。無粋な真似をする連中だ』
「全くです!」
ラセツさんがやられてしまったのは、相手の連携が凄まじかったのもそうだけど、本来は大剣を用いて戦う筈なのにパーティーという場所に武器を持ち込んでいる筈が無く、不意を突かれた事が大部分みたい。
本当に失礼な人達だね!
『鬼が加わったくらいでなんだ? その程度で我が敗れる訳が無かろう。我は無法の地の王となる龍種ぞ!』
「安い王だな。そもそも今の時代にその趣向は合わなかろう。いつの世を生きている。時代遅れの化石が。最近は世界征服だとか魔物の王だとか、出来もしない大それた目標を持つ者が多いな。そう言う時期なのか?」
確かにこの世界を征服しようとしていたバフォメットとか無法地帯を支配しようとしている龍さんとか、立て続けに厄介な人達が出てきているね。
時期も近いし、偶々重なっただけなんだろうけどシュティルさんとラセツさんは本当に苦労しているや。
『大それた夢で結構。それを成してこその王だ!』
「その志は立派だが、民や部下も連れぬ王が何処に居る」
『何れも貴様らが引き離したのだろう!』
「いや? 私が言っているのは……──部下に寝返られた貴様の器の小ささについてだ」
『『『…………』』』
『なんだと……!?』
龍さんと話すシュティルさんが連れるのは、さっき攻めてきた魔物さんの仲間達。
相手は驚愕したような面持ちとなり、ハッとして言葉を続けた。
『そうか。ヴァンパイア族の催眠術。貴様はまだ未熟が故、意識の無い時にしか深層心理に入れぬようだが、それを用いて倒れている者達を操ったか……!』
「ああ。大勢の幹部格を連れてきた事が仇となったな」
『構わぬ。元より力によって従えた者達。互いにそれは承知している。操られているとしても敵となったなら打ち倒すのみ』
「その心意気も嫌いじゃない。伊達にリーダーを努めていないという訳だな」
私達の戦力は私とシュティルさんにラセツさん。残ったゴーレムやビースト達。そして操った龍さんの仲間達。
元々数は有利だったけど、更に形勢が優位に立った感じ。でも広範囲技を得意としている龍さん相手に数の差はあまり意味を成さないかな。
何はともあれ、私達のパーティーを取り戻す戦いは終局に差し掛かろうとしていた。……多分!




