第三百三十一幕 聖なる夜の魔物の国
──“ホーンシップ・拠点”。
「わあ。本当に大部分が完成しているね。私が去ってから一週間くらいしか経ってないのにスゴい早さ」
「傘下の連中も総動員だからな。力自慢は多いし、魔導に長けている者も多い。魔物達の頭は少々弱いが、全体的に能力が高いからな。その者達が本気になればそれも容易いのさ」
都市部から無法地帯へと入り、ラセツさん達“ホーンシップ”の拠点に来た。
通話で聞いたように殆ど完成しており、残るは上部だけで土台は出来上がっているね。シュティルさん曰く、魔物さん達の能力の高さが成せる技との事。確かに全体的な平均能力がトップクラスだもんね~。
そんな魔物さん達が総力を上げて取り掛かったらこうなる。当然かもね!
門番さん達を抜け、私達は拠点内へと入った。
『おお、来たか。ティーナ殿』
「やっほー! ラセツさん!」
入るや否や大きな資材を持ち運び、自ら率先して作業を行うラセツさんが居た。
ラセツさんも拠点の主なのに進んで行うもんね。凶暴な筈の魔物のみんなから慕われているのも頷けるよ。
「私も手伝いますよ!」
『いや、今日の君は客人。我らはパーティーに招待したんだからな。わざわざ客人の手を……』
「ある程度は指定場所まで運び終えましたよ!」
『煩わせる訳には……そうか。助かった。すまないな』
「いえいえ~」
話に耳を傾けつつ、資材は必要な場所に運んだ。
余計なお世話だったかな? だけど手伝えるならそうした方が良いもんね。その方が過ごせる時間も増えるし!
そんな感じで他も手伝おうと思った時、シュティルさんが話した。
「資材運びも良いが、ティーナにはやって貰いたい事があるんだ。それは今回パーティーを開くに当たって最重要事項となりうる」
「さ、最重要事項……!?」
ゴクリ……と唾を飲み込む。
拠点となるお城の建て直しよりも重要と言われるもの。そんな責任重大の事を頼まれるなんて……!
気を引き締め、シュティルさんの言葉に耳を傾ける。
「最重要事項それは……」
「それは……」
「それは……!」
「それは……!?」
「──城の飾り付けだ!」
「お城のかざ……え? 飾り付け!?」
言葉を溜めた割にはとても普通の事。
私は思わず大きな声で聞き返してしまい、シュティルさんは神妙な顔立ちで頷いて返す。
「ああ。我ら魔物の国、元より信仰など無く、今回のような異例が無ければこの様な催しをしないからな。そもそもで装飾などに縁が無く、人間の国などである美しい代物はどうしているのか存ぜぬのだ。見様見真似で行った飾り付けはお世辞にも美しいとは言えず、地獄の晩餐会と言われた方がしっくり来るレベルの杜撰な出来でな。今回は折角ティーナが来てくれたならと、君にアドバイスを貰いたいんだ。あわよくばお手伝い願いたい」
「そ、そうなんだ。お手伝いは別にいいけど、私も平均とあまり変わらない気がするけど……」
「いや、それでも私達よりは遥かに良くなるのは間違いない。どうか頼む」
「うん、いいよ」
理由はそんな感じ。
大袈裟な気しかしないけど、断る理由は無いね。飾り付けは好きだし、趣味でもそんな感じの事をしているから慣れてるもん。
それに、パーティーを盛り上げるのが装飾と言うのは一理あるからね!
「それで、どこの装飾を行うの?」
「会場となるのがラセツの拠点内だから、完成している場所を満遍無くと言った感覚だ」
「オッケー。了解!」
主体となるメインホールを含め、拠点全体を装飾するのが目的。
早速そこへ案内され、目の前には完成し立てでなんの飾り付けもされていない壁が広がっていた。
「此処を好きに装飾してくれ。やれる範囲で、微力ながら私達も手伝いをする」
「分かった! えーとそれじゃあ……」
一面の白い壁。何もないからこそ、装飾は自由だけど逆に難しかったりもする。
取り敢えず基盤が必要かな。大きなイメージで言うと樅ノ木とかオーナメントとかイルミネーション。
「樅ノ木……じゃなくてもいいけど、大きな樹とか無いかな? メインホールの中心にその樹を置けばそこから飾り付けが出来るけど……」
「大きな樹か。確かにそれは良さそうだ。分かった。手配しよう」
材料の支給はシュティルさんに聞けば大抵はなんとかしてくれる。
それまでの間だけど、見た目だけでも再現しようとしていた形跡で装飾品は色々あるから作業に取り掛かる事は出来るね。
「それじゃあ早速開始ー! みんなも手伝ってね!」
『『『はい!』』』
装飾の飾り付けはみんなでやるとより楽しい。なので他の魔物さん達と一緒に行い、ラセツさんの拠点を整えていく。
見た目が可愛いからテキトーに飾ってもある程度は映える見た目になるもんね。地獄の晩餐会なんてとんでもない。でも一応重要な箇所を私のセンスで飾り付ける。
『ここはどんな感じだ?』
『これでいーだろ』
『私、才能あるかも!』
『我ながら素晴らしい出来映えだ!』
各々の思うままに取り付けていく。見る見るうちに彩られ、それっぽい様相になってきた。
やっぱり気儘に行うだけでも綺麗になるよねぇ。乱雑だからこそ不規則にキラキラ輝いて見える。
だけど中心はまだ足りない。でも既に彼女が手配してくれた。
「これで良いか? ティーナの力で成長を促進させれば丁度良い大きさになる筈だ」
「オーケー! “樹木促進”!」
シュティルさんの持ってきた中くらいの樅ノ木。それに魔力を込め、より大きな物として拠点の中央に構えた。
全体の装飾は整ってきたから、後はこの樹を飾り付けて完成だね!
「よし、全員で掛かれ! 城サイズの樹を総動員で飾り付けろォ!」
『『『ウオオオォォォォッ!!!』』』
……ちょっと大きくし過ぎたかな?
だけどみんな乗り気であり、オーナメントやイルミネーションを持って飛んだり登ったりで樹を囲む。
他にも色々な装飾品。ボールにリボン、キャンディケーンやベル、モールにガーランド。
巨大樹に合わせて大きな物があり、見事にツリーも彩られていく。
「しかし、これが主役の樹木か……成る程。確かに目立つ」
『荘厳な物だな』
「でもまだだよ! 最後に一つ、頂点のスターが大事なの!」
最後に飾るは私の五倍はありそうな大きなスター。
それを植物魔法で運び、シュティルさんも一緒に支えて天辺に飾り付けた。
「最後に電気をお願い!」
『『『よし来た!』』』
一通りの飾り付けを終え、最後に電気の体質や魔導を使える魔物さん達に頼む。
みんなは発電し、導線に電気が迸った。
「これで完成!」
既に日は暮れており、月や星達がこんばんはしている時間帯。完成途中で真っ暗な拠点に光が注ぎ込まれ、視界が一気に開けてパァーッと目映く輝いた。
この大きさの樹。それが発する煌めきは拠点全体を照らし、闇夜に包まれた無法地帯の森に光を与える。
これで完成!
「パーティーの装飾ぅ……完了ー!!」
『『『ウオオオォォォォッ!!!』』』
声を出し、魔物さん達も大盛り上がり。こう言う文化は無かったみたいだけど、みんなで作ったツリーは嬉しいよね!
一夜の奇跡。今後定着するかは分からないけど、きっと魔物の国にも広めてくれるかな!
「美しい装飾だ。ティーナ。ありがとう。お陰で良い女神の日を過ごせそうだ」
「えへへ、そんなお礼を言われる程じゃないよ~。趣味のお裁縫がこんな所でも役に立てて良かった~!」
お礼を言うシュティルさんだけど、これはみんなで作り上げた物。私がしたのはアドバイスくらいだからみんなの成果だよ!
ツリーの点灯と同時に色々な食べ物が運ばれてきた。
『パーティーのノウハウは無いが、皆で集まり美味い物を食う事には間違いないだろう。さあ皆の者! 我からの差し入れだ! 存分に食そうぞ!』
『『『ウオオオォォォォッ!!!』』』
『気が利くぜラセツさん!』
『腹減ったーッ!』
ラセツさんが密かに食べ物の準備もしていたんだね。魔物の国の無法地帯は文字通り弱肉強食。食うや食わずのやり取りが日夜繰り広げられている。
でもこの日だけは、みんなで一緒に過ごすのが一番だよね!
管轄外からも魔物さん達がやって来てツリーを眺めたり食事をしたり。とても楽しい時間が流れていく。
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『ラセツ一派め……外側の弱者共が勢力を拡大している……』
『“神魔物エマテュポヌス”の奴らとも手を組んだらしいな……』
『人間の国から来たティーナ・ロスト・ルミナスも“紅月学園”を筆頭に魔物の国を手中に治めようとしているようだ……!』
『させるか! 我らが魔物の国を支配する……!』
『エルマ・ローゼは厄介。奴がおらず、戦力が集まっている今こそが好機……!』
『このまま好き勝手させてたまるか……!』
楽しさのあまり、聖夜の下で蠢いている野望の存在に気付く事はなかった。
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