第三百三十幕 当日の過ごし方
「んで、どうする? 女神の記念パーティーは先日やったけど、当日の方は?」
「そうだねぇ。どうしよっか?」
“魔専アステリア女学院”のパーティーから二、三日後。長期休暇の部活動中に私とボルカちゃんは女神様への……なんだろう? 記念日と言うか感謝祭と言うか、とにかく当日の集まりをどうするか話していた。
魔力で体は動かし練習もしつつ行う話し合い。意外と捗る。
「みんなが集まれるならやっぱり私のお家かルーチェちゃんのお家って事になるよね」
「だな~。少人数だし寮とか部室で集まるのもありだけど」
「打ち上げの時のようにお店を貸し切るのも良さそうですわ!」
「そもそもやらないって手もあるけど」
「「「それは拒否(ですわ)!」」」
集まるとしたら精々部活動のメンバーくらい。なので場所の候補はそれなりにある。
その上でどこにするか。前にやったからやらないって選択肢は無いよ!
「取り敢えずみんな集まってっし、部活が終わったら考えてみるか~」
「それが良さそうだね。体を動かしながら話すのも悪くないけど、ゆっくりお茶でもしながら過ごすのがいいかも」
「ですわね!」
「終わった後はプライベートを過ごしたいのだけれど……はあ、仕方無いわね」
一先ず部活に専念し、その後で行動してみる事にした。
いつもの練習をし終え、部室の鍵を先輩から預かって私達は集まった。
「先輩達とディーネ達は各々で過ごすからと断られちゃったな。アタシ達も自分達で過ごす事になりそうだ」
「みんな用事あるんだねぇ。想定人数から減っちゃったけど、かえって場所も見つけやすいかもね」
「この人数ならある程度の場所に入れますものね。それを何処にするか」
「簡易的な喫茶店とかで良いんじゃないの?」
「ま、実際それもありだな」
先輩達と後輩達は自分達で当日を過ごすらしいので私達で話し合う。
ウラノちゃんの言うようにその辺のカフェとかでも問題無いので簡単に決まりそうだね。話はそんなに難航しないかも。
「「………?」」
「「………?」」
……と、その時、私達の通信用携帯魔道具が同時に鳴った。
話し合いの途中だけど、全員が一斉だったのでみんなはそれに出る。
私の方から聞こえてきたのはシュティルさんの声。
《ああ、ティーナ。今時間あるか?》
「うーんと、たった今出来たかな?」
《どういう事だ? まあいい。実はな、ティーナも知っていると思うが、そろそろ英雄よりも前の時代にとある女神が世を平穏にした日だろ? それについて話があるんだ》
「その日について? うん、別に構わないけど」
その内容は、女神様の日について。
私の返答を聞いたシュティルさんは言葉を続ける。
《実はその日、魔物の国でパーティーを開こうと思ってな。この数日でラセツの城が大分形になってきたのも踏まえ、私達“紅月学園”と無法地帯の傘下達を交えてな。それにつき、主軸を担うティーナもどうかと思ったんだが……魔物が女神を祝うのも変だが、悪魔騒動があったからな。宗教なんぞ興味ないから、どちらかと言えば親睦会も兼ねての提案だ》
「そうだったんだ」
話の内容は、シュティルさん達も女神様の日にパーティーを開くと言うもの。
バフォメット騒動があったので、悪魔と対になる女神様のお祝い事をしようって魂胆みたい。
だけど魔物さん達には信仰と言う概念が殆どない。なのでそれは名目上であり、大部分はみんなの絆を深めようって事なんだね。
それはとても素敵な事だけど……。
「実はその日、ボルカちゃん達ともパーティーの約束があって……」
《なにっ、そうであったか……ならば参加は難しそうだな……》
「でもボルカちゃん達に聞いてみれば一緒にやれるかもしれないよ」
《しかし、君達の予定の邪魔立てをする訳にもいかないだろう》
「そんな事無いって! じゃあ通話はそのまま、ここで聞いてみようか?」
《うむ、そうしてくれるのはありがたいが、果たしてどの様な返答が来るか》
「大丈夫だと思うけどね~」
シュティルさんからの誘いを無下にするのも悪いので、ボルカちゃん達に聞くだけ聞いてみる事にした。
そう思い立ったタイミングで丁度ボルカちゃん達の話も終わったらしく、訊ねてみる。
「「「「ねえ(なあ)みんな。今度のパーティーだけど…………え?」」」」
みんなと発言が被った。
見てみたらみんなも通話は切ってないし、もしかしてこれって……。
「「「「そっち(そちら)も留学先からのお誘いが? ……あ、やっぱり……」」」」
全く同じ事情だった。
四人全員がこれって、こんな事あるんだ……。スゴく天文学的な確率の出来事じゃないかな。
他の三人も同じ事を思ったのか、通信の魔道具を見せて話に入る。
「……成る程。ボルカちゃんは魔族の国から……」
「ティーナは魔物の国から……」
「私達はお互いの留学先の別チームから」
「こんな偶然があるんですのね!」
私達にも向こうの人達にも聞こえるような状態となり、部室のティーテーブルを囲んで話を続ける。ついでに紅茶を一口。
それにしても本当に同じタイミングでお誘いが来たんだね……。
「なんとかして全員の納得いく結果にしたいな。アタシを誘った面々はダク先輩とかリテとか、一部はティーナ達とも知った顔だけど、他のメンバーが全く知らないからな」
《だよね~。みんなと一緒にワイワイ出来たら楽しいんだけど、幻獣の国も魔物の国も魔族とは合わないと言うかなんと言うか》
魔物の国側はボルカちゃんと誘ったリテさん。
“暗黒学園”のメンバーでもダイバースに出ている一部なら知っているけど、他の面々は確かにねぇ。
それについてはシュティルさんも同意する。
《ああ。リテの言う通りだな。知り合い云々はあまり関係無く、穏やかな幻獣達と血気盛んな魔物に魔族は性格が合わない。それよりは近しい物がある魔物と魔族も……単純に血気盛ん過ぎて会ったら衝突は避けられないだろう》
《分かる~。私もシュティルちゃんやブラドさんにキドナちゃんとかダイバースの参加者は知ってるけど、他のメンバーは知らないし私の方の子達も多分力比べとかしちゃうよねぇ~》
理由は以上の通り。
魔族さん達、魔物さん達と幻獣さん達は単純に気が合わず、魔族さん達と魔物さん達は性格は似ていても争いが起き兼ねないから。
勿論その種族で仲良しの人も居るけど、みんなで一緒に仲良くパーティー! ってするにはもうちょっと時間が必要だよね。
「私の知り合いのエルフ達も魔族と魔物には少し苦手意識があるみたい。嫌いって程じゃないけど、絡まれる事が多くてそう言うイメージになるとか」
「私のお友達もそうですわ。偏見とかではなく、実体験からそう思えてしまうと」
《そんなの一部のマナーが悪い人達だけなのに~! 確かに喧嘩っ早いところはあるけど~!》
《ああ、心外だ。……と言いたいが、魔物に至っては否定出来んな。寧ろ私のような面倒事は起こしたくないタイプの方が珍しいくらいだ》
ウラノちゃんとルーチェちゃんのお友達はあまり気が進まないみたい。リテさんとシュティルさんがそれについて反応するけど、大きくは否定していない。思い当たる節があるんだね。
そんな感じで話は纏まらず、最終的にはこう言う結論となった。
「そんじゃ、今年はアタシ達四人は集まらないで各々の留学先だった場所に向かうか~」
「残念だけど、仕方無いよね。今年は学院でパーティーがあったからみんなと一緒に過ごせたし、たまには違うメンバーで遊ぼっか」
「そうですわね……残念ですわ。……しかし、来年こそは……!」
「私はどちらでも良いんだけど。……まあ、少しはね」
それぞれの場所で開かれるパーティー会場へ行き、今年は四人が揃わないという事。
苦情の決断。でも無理強いはいけないね。ルーチェちゃんが言うように、来年こそはみんなと……他の国関係無く真の意味でみんなと過ごせたら良いな。
「互いのプレゼントは後日に渡すか。良い女神の日を過ごせるといいな」
「そうだね。たまには集まらない年も入れてバランス良くしていこっか」
「ですわね」
「そうね。と言っても私達はティーナさんと出会ってまだ一年ちょいだけれど」
「「「確かに~」」」
これで私達は解散となった。
その日は部活動も休みだから、私達は気兼ねなくパーティーを行えるね。
みんな違うのは残念だとしても、また一風変わったワクワクもある。他の国で過ごすなんて初めてだもんね。
それから数日後。女神様の日、当日となるのだった。
*****
──“魔物の国”。
「到着~! 流石にこの時期は混むね~!」
「そうだな。魔物の国も都市部は観光客が増える。たまに無法地帯にも行きたがる者達も居るが……まあ、結果は想像に任せる」
女神様の日・当日。私は数週間振りに魔物の国へとやって来ていた。……あれ? もしかしたら留学を終えてから一週間くらいしか経っていないかもしれない……。
我ながら早い再訪だね。数年は来れないような別れ方したのに……ま、いっか! 友達に会えるのは嬉しいもんね!
今回もシュティルさんがお出迎えに来てくれており、他にも大勢居た。
『『『お務め、ご苦労様です。ティーナの姉御!!』』』
「どこにも務めてないよ~!? と言うかその呼び方なに~!?」
なんか変な感じ。慕ってくれてはいたけど、こんな風じゃなかったよね絶対。割と記憶には新しいよ!
それについてはシュティルさんが苦笑を浮かべながら説明する。
「君が帰ってから数日、色々と噂が立ってな。その殆どは事実なんだが、それが大きく広がり益々慕われたと言う訳だ」
「噂が大きくなってこんなに……」
「魔物は嘘を吐く者も多いが、実は意外と純粋な奴らでな。単純に君の偉業に感銘を受けたのさ」
「そんな事に……」
詳しく聞けば、実際にやった事ではあるけどそれが大きく伝わってしまったとの事。
無法地帯の森を再生させたり、バフォメット相手に立ち回ったり、ダイバースではシュティルさんに勝利したり、私も人間の国に帰ってここには居なかったからその事柄が誇張されちゃったんだね。
「まあ、尊敬などの意だ。留学に来た時よりは過ごしやすくなっているだろう。改めて歓迎するよ。ティーナ」
「うん、シュティルさん! 今日一日よろしく~!」
「ああ、よろしく」
何はともあれ、誇張によって悪い方向に向かっている訳ではない。なので取り敢えずは受け入れる事にした。
一週間と数日振りの魔物の国。私はそこで女神様の記念日パーティーをするのだった。




