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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部一年生
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第三十三幕 寝不足

「……あ。朝だ」


 あれから数時間後、私は自室で朝の日差しに照らされる。

 終わらせた課題は既にバックの中に仕舞っており、ママとティナを横に置いて自室の洗面所の鏡で顔を確認してみる。


「ちょっとむくんじゃってるかな……?」


 昨日夜食を食べ過ぎちゃったし、そんな気がする。

 一日どころか数時間でそんなに変わるのかな? 他の人達から見て変に思われないよね……。少し不安。


「行ってきまーす」


 ママとティナを連れ、誰も居なくなる自室を後にする。外に出ると人影があった。


「オッス親友! おはよー!」

「ボ、ボルカちゃん!? こんなに早くなんて珍しいね……あ、おはよう」


 そこに居たのはなんと遅刻の常習犯ボルカちゃん。……って、意外と遅刻は0なんだっけ。ギリギリだけど。

 そんなボルカちゃんが居るなんてスゴくビックリしたよ。


「オイオイ、驚き過ぎだろ~。アタシだってたまにはこんな日もあるぜ?」

「自分でたまにって言っちゃってるし……」

「ハハハ。まあまあ、気にしない気にしない。朝飯行こうぜ!」

「うん」


 ボルカちゃんに手を引かれ、私達は食堂に赴く。

 一緒に朝ごはん食べるのは何気に初めてかもしれない。いつもパン数切れだもんね。

 その道中、渡り廊下でルーチェちゃん、ウラノちゃんと出会った。


「ウソ……ボルカさんがこんなに早く……!? も、ももも、もしかして私、遅刻寸前ですの!?」

「そんな筈……! 私も昨日は早く寝たから時間に狂いなんて……!」


「お前ら……失礼だなー」


 ボルカちゃんの早起きに対しての反応は以上の通り。

 初等部から知るであろう二人の反応がこれだもんね……。やっぱりかなり珍しい事なんだ。

 けど今日はラッキーだね。みんなと一緒に朝食を食べられるなんて!

 成り行きそのまま食堂へ行き、雑談混じりに食事を終える。その日の授業は一時間目から歴史。つまり担任の先生の科目だけど……。


「……この様に、今から五〇〇〇年以上昔の紀元前。あまりの愚行に女神の怒りを買った人々は粛清されたとある。だがなかばお伽噺とぎばなし染みてるし、宗教っぽさもあるから眉唾で本当に必修なのか疑問だ。なんなら人類滅亡して、じゃあ誰が伝えたんだって謎にも当たるぞ。一応此処は“学院”だから宗教系……まあかつての英雄信仰的な感じでその分野もやるが、此処だけじゃなく全国区でおこなっているのが不思議な話だな。洗脳教育みたいな異質な感じでもないし、正史として扱われている……って……ボルカはともかく、ティーナ。ルーチェ。お前達まで今日は朝から眠そうなのはなぜだ?」


「ちょっと昨日張り切り過ぎちゃいましてよ……」

「大丈夫です……意識は失いません……」

「ZZZ……ZZ……ZZZZ~」


「全然そうは見えないが……ボルカに至っては寝言で返事をするな。変なところでも器用だなお前は」


 やっぱり少しは寝てた方が良かったのかもしれない。気絶と睡眠は違うもんね……。朝からこんなに眠いなんて……。

 フニャフニャの字で写しながら、なんとか堪えて授業の内容を頭に入れる。今日は復習の量増やさなきゃかな……。


「……まあ、二人はちゃんと起きてはいるな。苦労するのはお前達だぞ」

「「はーい……」」「ZZZ~……」

「本当に大丈夫か? 取り敢えず続きだ。疑問ってのはあくまで私の意見。そう書いてあるからそうなのだろう。それから数百年は平和な時代が続いて──」


 平和な時代。歴史の勉強をすると戦争に次ぐ戦争で奪い合いの繰り返し。他の種族も分け隔てなく過ごせる今の時代になったのは英雄達だけじゃなく、名前も知らない色んな人のご先祖様のお陰なんだね。

 歴史の授業は終わり、その後もなんとか堪えた私は午前中の鬼門を乗り越えた。



*****



「ふぁ~……。今日は全然集中出来てない……植物魔法も小さな種を芽吹かせるしか出来なかったよ……」


「まあ、昨日あんなに魔力を使ったらな~。当然っちゃ当然だ」


「返す言葉もありませーん」


 モムモムとサンドイッチを頬張り、若干の眠気を残して昼食を摂る。

 場所は校舎の中庭。人通りは多いけど、いつもの山に行く気力が無いから。


「いつもは優等生のティーナさんだけど、今日は本当にボロボロだね」

「ボルカさんの言うように昨日の今日ですものね。お疲れ様ですわ」


 今日はルーチェちゃんとウラノちゃんも一緒。と言うか私達が誘った。

 四人でベンチに座って購買部のサンドイッチや使用人さんが作った弁当など多種多様。量で言えばルーチェちゃんが一番多いよね。

 そして彼女達を誘ったのは一緒にご飯を食べたかったのもあるけど、それだけじゃない。

 四人集まったし私は本題へ切り出す。


「今度の休日ボルカちゃんと一緒に買い物行くんだけどさ、二人も一緒にどうかな?」

「私達も?」

「うん」


 それは、今度みんなで一緒に買い物に行こうという事。

 私とボルカちゃんは約束していたけど、思えば二人には心配かけちゃったし、単純に二人ともっと仲良くなりたいから。

 ボルカちゃんは乗り出すように話す。


「お、いいじゃん! 二人とも外出あまりしないタイプだからな! この機会にちょっとした冒険をしよう!」


「冒険……良い響きですわ。行きましょう!」

「私は別に……まだ読んでる本あるし……」

「よし、じゃあ決まりだな! 次の休日はみんなで出掛けよう!」

「「おー!」」

「ちょ、私は……」


 トントン拍子で話が進み、私達は四人でお出掛けする事になった!

 楽しみだなぁ! 外に出る事自体滅多に無くて、前の外食が初めてだったもんね。しかも今回の言い方的に、少し遠出するかもしれないからよりワクワクする!


「私賛成してないんだけど……」

「いいじゃねえか! ずっと引きこもってると悪い邪気的な物が溜まって精神崩壊するぞ!」

「そんな記録はない。ピンピンしてる私の存在が何よりの証拠。私は趣味の読書が……」

「でも昨日……厳密に言えば今日だけど、新刊読み終わったんだよね? それなら行けるんじゃないかな!」

「……っ。言わなきゃ良かった……」


 断る余地が無くなり、渋々受け入れるウラノちゃん。

 どうしても行きたくないって訳じゃなくて、本当にただ面倒臭いだけみたい。

 何にせよ、行ってくれるみたいだね!


「良かったー。快く受け入れてくれて!」

「やり方が汚いよ……はあ……しょうがないなぁ……」


 そして私達は昼食を終え、午後の授業へ。五時間目は体を動かす授業だから眠くなる心配は無いかな?

 その調子で六、七時間目の授業も終わり、私達四人はダイバースの部活動へ。

 開始前のストレッチをしながら少しお話する。


「そう言えば、新入生って私達だけなんだね。強豪っぽいし、もっと入部希望者が居てもおかしくなさそうだけど」


「場所が場所なのと、強豪だからこそかな。センスや実力が保証されている人じゃないと入れないから。先輩が直々にスカウトに来たでしょ? それは選ばれた証よ」


「そんなシビアだったの……!?」


 ウラノちゃん曰く、実力が無ければ入れないとの事。和やかな雰囲気でそんなに殺伐としていたなんて……!

 そこへ苦笑を浮かべたルミエル先輩がやって来る。


「それはあくまで噂ね。実際は誰でもウェルカムなんだけど、どういう訳か滅多に来なくて……時々私がやらない? って勧誘してるだけなんだけれど」


「あ、そうなんですか。……それこそウラノちゃんが最初に言った立地の問題じゃないでしょうか……」


「あら、そうかしら? けどたまには来たりするのよ? その後の部活動体験でやっぱり辞めますって子は多いけれどね」


「……確かにあの特訓はキツいですもんね……ほとんど運動してなかった私は尚更……」


 ルミエル先輩的にはそんな排他的な思考を持っていないみたいだけど、考えてみれば練習がそのまま本番で、あのバイタリティの塊であるボルカちゃんですら弱音を吐きたくなるような特訓だから逃げ出しちゃうみたい。

 それはよく分かる。先輩達のケアが完璧だから疲れとかは翌日まで響かないけど、その時点でかなりキツいもんね。


「うーん、もう少し楽にするべきかしら。人数不足で廃部になったら元も子も無いものね」

「別にしなくても良いだろう。ルミ。元よりそう言う者達は向いていないと言うだけだ」

「そう言うところが厳し過ぎるのよ。イェラは。この調子じゃ卒業した後に良い殿方が寄って来ないわよ」

「構わないさ。私に釣り合わぬ軟弱な男は切り捨てる」

「それは犯罪よ」

「物理的な話ではない。まあ挑まれたら受けて立つが」


 厳しいのはイェラ先輩の意向が大きいみたい。

 けどルミエル先輩は先輩で、なんでもこなせちゃうからそんなに厳しい感覚はないのかも。

 私達も辞めないけどね~。

 準備運動が終わり、今日の特訓を開始する。


「もう少し搦め手とかを覚えたいよねぇ……えい!」

「相変わらずね。それが“えい!”で出せる出力かしら……!」


 今回は二人一組の模擬戦みたいなもの。

 私はウラノちゃんと戦い、ボルカちゃんはルーチェちゃんと。昨日のチームメイト同士だね。確かに名目上の敵って感じでは戦ってなかった。

 逃げ回るウラノちゃんを植物が追い回し、全方位を囲んだ。

 彼女は騎士とか剣士、魔導師を魔導書グリモワールから呼び出して戦うけど、準備が必要な分私の方が有利に運ぶね。


「……別の本魔法を試そうかしら」

「……?」


 呟き、彼女は本を開く。即座に魔力を込め、口を開いた。


ブック……指定マーク場所ポイント登録チェック──投下ドロップ!」

「え!? 本……その物……!?」


 短い単語を告げた瞬間、上から巨大な本が降って来、私の居た場所を押し潰す。

 植物の壁でなんとか防いだけど、まさか大きな本が物理的に降ってくるなんて思わなかったよ……。


「そんなのあり~?」

「本で殴ったら痛いでしょう? 貴女が植物で物理的に攻め立てるのと同じよ。紙だって元は植物だもの。そして──物語ストーリー──“オーガ”!」

「……! 巨大な本で時間稼ぎ……!」

「そう言う事。この魔法は準備時間中にも攻撃出来るから重宝出来そう」


 角の生えた魔物を呼び出し、それが金棒を振り下ろす。

 だけど私も準備を怠っていた訳じゃない!


「“リーフシールド”&“ウッドハンマー”!」

「……! 自分の全身を守った上で、的確に私を……? 何処かに人形を先行させてるのね……!」


 気付かれちゃった。

 ティナでウラノちゃんの場所は見ている。そして自分は頑丈な植物の中に潜み、木の槌で──


「──あれ?」

「……! ……? …………」


 当てる気は無かったけど、振りかぶった時点で槌は消え去り、私を覆っていた草の盾も崩壊した。

 これってやられ──


「解除。昨日の魔力切れを引きずっているんだね」

「あ……無事だ……」

「流石に練習で無防備な子をリンチにはしないよ」


 ウラノちゃんは魔物を消し去ってくれた。

 まだ前みたいな出力はやれないみたい。昨日そんなに魔力を使っちゃったんだ。


「アハハー……。昨日の事なのにまだ引きずってるなんて私なんかダメダメだね~」

「……そうね。ダメダメね。(……あれ程の力を使った次の日にこれだけ出来る時点でかなりのものだけど。普通なら一週間は寝込みっぱなしよ)」

「手厳しいな~」

(けど本人は気付いていない……気付かせるべきか否か……スゴく無茶をしそうな子だもんね)


 黙り込んじゃった。勝負に決着が付かなかったから不完全燃焼って感じなのかも。

 もっと頑張らなくちゃ! 魔力切れを起こしてもすぐに動けるレベルにならなきゃまた苦労掛けちゃうもんね!


「じゃあちょっと休憩したらまた開始しよ! イェラ先輩も今日はそんなに厳しくないからさ!」

「そうね。(厳しくないのは当然よ。だって私と同じ考え。ティーナさんは動ける方が不思議に思えるレベルに既に達しているもの)」

「けど、今度の休日は本当に楽しみだなぁ~」

(本人は何も知らない……今はそれで良いのかな。ルミエル先輩達も言及はしていないし)


 今日のウラノちゃんはよく話さなくなるなぁ。何かを考えているのかな?

 けど、もうすぐ休日。その日はみんなでお出掛けだ~っ!

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