第三百二十八幕 パーティー案内
──“後日”。
「ボルカちゃんって、実家から部活動に来ているの?」
「ああ。そだよ。いつもの授業よりは遅くて済むし、朝は転移の魔道具もそんなに混まないから登校時間はいつもとあんま変わらないや」
「そうなんだ~」
長期休暇の最中にも部活動はある。私達は全員揃い、体力作りや魔力操作など基礎中の基礎である練習をしていた。
今は魔力強化しながらの登山マラソン。体力も魔力操作も行えるお得な練習法。私とボルカちゃんは慣れているので雑談混じりに出来ている。
傍からは真面目にやっていないように見えるけど、魔力操作は無意識下で行うのが当たり前。咄嗟の防御が間に合わないとダイバースじゃ勝てないもんね。この雑談は無意識の行動で魔力を纏っているので実は理に適っていた。
「ティーナは比較的近い場所だけど、時間はどんなもんだ? 流石に寮よりは遅いだろ」
「まあね~。だけどその辺はボルカちゃんと同じく、活動開始時間が通常よりゆっくりだから結果的にはいつも通り起きれば間に合うよ」
「そっか。そんじゃあまり変わらないんだな」
「そうだねぇ」
開始時間を含めると、普段とあまり変わらない事が分かった。
寮ならもう少しだけのんびり過ごせるかもしれないけど、そんなちょっとした時間の暇潰しの方が意外と見つからない。馬車に揺られながら街や自然の景色を見ている方が楽しいもんね。
そんな雑談をしつつ魔力登山を終えて本格的な活動に移る。登山はあくまで準備運動や慣らしの一種だからウォーミングアップに過ぎないの。
「“ファイア”!」
「“樹木進行”!」
「“光球”!」
「“本の鳥”」
「“火炎弾”!」
「“水散弾”!」
「“土単刃”!」
「“風千丸”!」
ある程度の調整をした後、みんなで魔法を撃ち合って練度を高める。
実力が近い人同士での撃ち合いなのでより効果的な練習。魔法や魔術は使えば使う程パワーアップするからね!
その理屈を述べるなら魔導を使う事で減った分の魔力を補うように総量が増え、使い込むからこそより精密な魔力操作が身に付く。結果、どんどんパワーアップする。
だからと言って無理は禁物。魔力が減り過ぎると数日間動けなくなったりもしちゃうからね。程好く減らし、程好く高める。それが一番の近道。
そんな感じでいつもの練習をし、ミニダイバースで試合なども交えて長期休暇期間の部活動を終えた。
「貴女達はこの後自分の家に戻るのかしら?」
「だなー。帰りに晩御飯のおかず買ってくるように頼まれてるし」
「そんな感じなんだ~。私もお家に帰るけど、お買い物とかはしないからなぁ~」
「私もですわ。しかし、成る程。自分の注文のみならず、献立を考えると言うのもまた良いかもしれませんわね」
「どこがだ~? 夕飯考えんのも割とメンドイぞ。栄養バランスとか好みとか、ちゃんと把握しないと残されたりするからな」
「大変だね」
ボルカちゃんが料理上手な理由が少し分かった気がする。
実家に帰省している時は自分で考えて作っているから自然と上手になったんだね。
私もたまには自分で料理してみようかな……って思うけど食べちゃいけないところの処理とか切ったり大変かも。
やっぱりボルカちゃんはスゴい。私は改めてそう思った。
「そう言や、今年はビブリー以外の全員が実家に居るけど、この時期のパーティーはどうするー?」
「あ、そっか。その時期だもんね~」
「そ。流石にパーティーを逃す手は無いぜ!」
「アハハ。一理あるね!」
この時期に行われるパーティー。イルミネーションや装飾、プレゼントなど。色々と楽しい事がある。
英雄よりも前、全ての始祖となる数千年前の女神様が世界を平和にした日。それのお祝いで今の時代でも執り行っている事柄。去年はみんなで集まれたけど、今年はどうだろうね。
「別に実家からでもアタシは問題無く行けるぜ? 待ち合わせ場所さえあればな。転移の魔道具も込み合う時間帯だけど、行こうと思えば自力でも行けるしな」
「流石ですわね。私と皆様と集まって楽しく過ごすのは賛成ですわ。去年はティーナさんの家でお泊まりと同時に行いましたものねぇ」
「うん、そうだね~。ルミエル先輩達や他の先輩達。学校のみんなとも一緒にダイバースしたんだっけ。楽しかったな~」
「改めて豪勢なメンツね。今年はその規模の物をするつもりはないけど、何人かのパーティーは出来そう。私は参加してもしなくてもどちらでもいいんだけどね」
去年は先輩達やレモンさん達。“魔専アステリア女学院”から他校まで幅広く集めてワイワイしてた。
今年はどれくらい集めるかは考えていないけど、ウラノちゃんの言うように流石に去年くらいの規模にはならないかな?
私達四人とダイバースの先輩達。ディーネちゃん達くらいの小規模パーティーになるかも。
そこで、ウラノちゃんが思い出したように話した。
「そうだわ。今朝寮にプリントが届いたんだけど、“魔専アステリア女学院”でそれについてのパーティーをやるって話があるみたい」
「そうなの!?」
「ですの!?」
「へえ、今年はそんなんやるのか!」
「ええ。ほら、これよ」
そう言い、ウラノちゃんは“魔導書”から学校のプリントを取り出した。
因みにこの本に物を仕舞う力は本魔法の応用で覚えたんだって。物語が取り出せるんだから実在の物も出し入れできるんじゃないかって考えたのが事の発端。ページ数の分だけ仕舞えるから本を一度に大量購入したり持ち運ぶウラノちゃんは一番重宝しているとか。
そんな彼女からボルカちゃんがプリントを受け取り、私達は目を通す。
「ホントだ。“魔専アステリア女学院・パーティーのご案内”……だって」
「日程は……あら? 当日より少し前ですわね」
「だなー。ま、その日に予定入っている人も多いだろうし、直近にやるって感じなんだろうな」
日程を見てみると記念日とされる日付の少し前に行われるみたい。ボルカちゃんの言う通り当日に予定入れてる子も多いだろうからね~。
斯く言う私達もその日はパーティーする予定だし、その辺を配慮してあるみたい。
「どうかしら。参加する?」
「うん! 学院全体でパーティーなんて素敵!」
「楽しそうだなー。アタシも勿論参加だ!」
「私もですわ!」
そんな行事があるのなら、参加しない理由は無い。という事で私達は全員が参加することにした。
勿論ウラノちゃんも私達に引っ張られて参加する事となった。ディーネちゃん達や先輩達も参加するみたいだね。ふふ、楽しみ~。
*****
──“パーティー当日”。
それから少し経て、私達は“魔専アステリア女学院”へとやって来ていた。
時刻はまだ夕方。本番は夜だけど、この時点で参加者は結構来ている。みんなも楽しみにしているんだね~。
学院全体はイルミネーションによって彩られており、この時間帯でも明るくチカチカ光っている装い。校庭には樅ノ木があり、そこにも沢山の装飾品が着けられている。星も見え始めた時間帯なのも相まり、空と陸の両方が星の海になったみたい。一際大きな樹には一際大きな星の飾りがあって学院を見下ろしているね。
他にも動物達を模倣した置物とか様々。とても素敵な場所!
そんな綺麗に飾られた学院内を進み、パーティー会場へと訪れる。ここで行われるんだねぇ。
「オッス。ティーナ。早いな」
「あ、ボルカちゃーん!」
会場を見ていると、ボルカちゃんが話し掛けてくれた。
彼女の装いもこのパーティー仕様となっており、普段着ともドレスとも違う。周りのみんなも各々のパーティー衣装を着ているね。
勿論私もおめかししており、ちゃんとこの場所に合わせているよ!
「にしても、派手な飾り付けだなぁ。嫌いじゃないけど、学院全体がイルミネーションまみれだ。隅から隅まで彩られていたぞ」
「そんなになんだ~。私はまだ門からパーティー会場への道のりでしか見ていないや」
「スゲェぞ~。部室近辺の森とか、よく行く学院の山まで装飾だらけだ。箒に乗れる先輩達も協力して学院全体を飾ったんだろうなぁ~」
「ふふ、気合い入ってるね~。先輩達もとても楽しみにしてたんだ。それなら学院内のどこに行っても寂しく感じないね!」
本当に学院全体を綺麗にしたみたい。
空から見たら“魔専アステリア女学院”の敷地だけスゴく輝いて見えるかもね~。
ボルカちゃんは提案するように話す。
「まだ時間あるし、学院内を見て回ってみるか?」
「賛成! 学校のみんなが頑張って飾り付けたんだもんね! 全部……は難しくても見て回らなきゃ失礼だよ!」
「ハハ、そうだな。アタシも魔術で空飛んで全体像を見ただけだし、ちゃんと見て回るとすっか!」
「うん!」
折角の飾り付け。それを見て回ると言うアイデアには即答で返事をした。
一部を見ただけでとても素晴らしいってことが分かったんだもんね。見て欲しい場所は沢山ある筈だし、開始まで時間もあるから今一度校内を見て回るのは大アリだよ!
今日は特別な日だから夜でも学校を開けてるんだよね。ちゃんと警備の人や先生方が見回っているから私達生徒も安心安全の親切設計!
「んじゃ行くか。夜のイルミネーション校内探検!」
「レッツゴー!」
ちょっと長いけど、そうとしか言えないもんね。
まだルーチェちゃんやウラノちゃん、先輩方やディーネちゃん達は見ていないからみんなが来るまでの間に見て回るのは丁度良いかな!
私とボルカちゃんは、このパーティーに向けて装飾された“魔専アステリア女学院”内の探検に出るのだった。
見慣れた学校の別の姿ってなんかワクワクするよねぇ~。




