第三百二十七幕 冬休みの一日
──“翌日”。
「今日は冬物を作ろっかな~」
長期休暇となり、私は早速趣味に取り掛かる。
体験留学で趣味をする時間が無く、冬物の装飾品とかを作れなかったからやる事は沢山あるよ~。
朝食は終えたのでお昼までゆっくり取り掛かる事が出来るね。
「うーん、まずはお洋服とかかな~。セーターとかコートとか……」
冬っぽい衣装となればそれらが代表的。暖かそうな格好はフワフワしてるよね~。
一先ずは毛糸素材から手掛けていく。
「あくまでお人形サイズだから普通の編み物とは勝手が違うよねぇ。お人形の衣服全般に言えるけど」
この趣味を見つけてからいくつもの作品を手掛けたので、ある程度は感覚で掴める。後は指の動くままに縫い合わせ、大中小、様々なサイズの衣服を作り上げた。
後はこの季節っぽい家具とかを造りたいかな~。キラキラ輝くイルミネーションとか……は流石に難しいか。光らせなきゃだもんね。買い物に行こうかな?
考えていると、部屋の前から声が掛かった。
「ティーナお嬢様。昼食の時間で御座います」
「あ、はーい! 今行くよー!」
気付いた時にはお昼の時間。まだ服しか作ってないけど、集中しているとあっという間に過ぎちゃうね。
一先ず材料の置き場所はそのまま、一旦お昼ごはんを食べに行く。お家で食べるのも久々だねぇ。昨日は夕御飯を食べたけど。
そんな他愛ない事を考えて昼食。終え、色々と材料を探す為に買い物をする事にした。
「昨日に引き続きごめんねー。ちょっと足りなくて」
「いえいえ、貴女様が笑顔を浮かべてくれるのなら冥利に尽きます」
『ヒヒヒーン!』
「ほら、この子もそう仰有ってる」
「ありがとー」
買い物は従者さんと一緒に。お馬さんも張り切っていた。
冬の寒さの中、木漏れ日の差し込む林道を抜け、小川のせせらぐ小道を抜け、徐々に人が増え始めて一気に街中へと進む。
当ては雑貨店から馴染みの雑貨屋さん。同じような場所でも置いてある物の種類は変わるもんね。
お店に着き、買い物をする。多種多様の物が置いてあり、どれも良さそうに見えちゃうけど、ちゃんと加工しやすい物とか今必要な物を買うよ。
「えーと、基本的な木材に装飾品。毛糸や布も少なくなっちゃってたね。気持ち多めに買っておいて……これくらいかな!」
何を造りたいかも一通り纏めて来たからそれに合いそうな材料を探せば良し。ついでに減ってきた布や毛糸も補充して、全部を見て回る頃には日が傾き始めていた。
この季節は夕方になるのも早いよね~。
お家に帰り、夕御飯まではまだ時間もある。ついでにいくつかのドールハウスも部屋へと持ち込んだ。
「今度はお家を飾ろっかな~」
時間が掛かる家具類はあとで。折角なので屋根に白いフワフワを乗せたり樹に装飾したり、この季節っぽく纏めてみる。
「うーん……なんか……変」
ただ乗せるだけかと思ったら意外とバランス調整が大変。多少の差は逆にリアルっぽく見えるけど、不自然に多かったり少なかったりするとたちまち作り物感が出てしまう。
樹の装飾も小さいので難しく、取り付けた物が取れちゃったりもしばしば。中々これだ! って物が作れないね~。
でも、だからこそより良い物を作ろうって気になれる。案外私って職人気質なのかもね!
「ん? ここをこうすれば……!」
そしてその打開策は、意識せずふとした瞬間に出てくる。
正面や上だけじゃなく、お人形さんなどの別視点から見れば違和感の正体に気付けるのだ。
思い付いたのでティナと視覚を共有し、そこに住む人の目線になって考えてみる。この場所に積もりが足りなかったみたい。
そこを繊細に微調整した結果、納得の出来るお家が作れた。
「後は……いっその事街とか森とか作りたいよね~。ジオラマ的な、箱庭的な。私のお部屋は広いから、もっと過ごしやすくしよっと」
材料は色々あり、私のお部屋も広め。なのでその一角をお人形さん達の街にしてみる事にした。都市開発の一大プロジェクトだね!
一つの作業が終わると次はああしたくなったりこうしたくなったり、どんどんアイデアが湧いてくる。止め時が分からなくなっちゃうや。
すっかり作業に没頭し、部屋へのノックで現実へと引き戻された。
「ティーナお嬢様。夕飯の準備が出来ております」
「あ、はーい! 今行くー!」
このまま集中し続けると明日の朝になっても終わらなそうだもんね。完成するまでやっちゃう危険性がある。なので今日は作業その物を終了。残りの課題を夕飯後にやり、それ以外のお勉強もしておこうかな。
それと、今日は買い物に行ったけど基本的にずっと部屋に居たから明日辺りは運動や魔法の練習もしておこうっと。明後日くらいには部活もあるし、鈍っちゃいけないもんね。
ある程度の予定を脳内で補完し、食事に向かう。今日も充実した一日だったよ~。
*****
──“外れの湖畔”。
「“樹木生成”!」
次の日、私は朝から魔法の練習をしていた。
練習と言っても内容は簡単な物。ちょっとした植物類を色々と生やしているだけ。
この湖畔はルミナス家の敷地なので人は来ず、ゆっくりと練習する事が出来るのだ。
『……』
「あ、動物さんだ」
だけど森に近いのもあり、野生の動物さん達は湖畔の水を飲みによく来る。
私を怖がっていないのか、数十センチの距離まで近付いても逃げない。植物魔法をよく使うから自然の一部って思われてるのかな? 根源となる魔力の質が植物って訳だから体を流れる魔力がそれに近い物となり、植物と同化している可能性もある。
一つの魔導を極めた人はエレメントその物になる事も出来るもんね。炎や水になって流動させたり、エメちゃんやユピテルさんのように、自分の属性となって様々な効果を及ぼせるの。
もし植物魔法を極めたらどうなるんだろう。あくまでママの魔法だから私の体に影響は無いかもしれないけどねぇ。
『……ふふ、ティーナ。随分と魔法の扱いが上手くなったわね』
「うん、ママ。でも最近は二人とあまり話せてないね」
『それだけ充実してるって事だよ! 良い事だよね!』
久し振りにママやティナと話してみる。でもなんだろう。最近話していなかったのもあり、声の感じが違うような……出し方を忘れちゃった? ……って、出し方もなにも二人が話しているんだから二人の声だよね。私の声の訳がない。
そんなどうでもいい事は気にせず、特訓を続ける。
(……そう言えば、この森の奥ってどうなっているんだろう? 昔から馴染みのある場所だけど、ちょっと怖くて行った事が無かったんだよね……)
植物を消し去り、感覚を確かめているとふとした事が脳裏を過った。
この湖畔までならボルカちゃん達とも来た事があるけど、それ以上奥には行った事がない。そもそもでどこまでがルミナス家の敷地なのかと言う疑問もあるけど、単純に気になる。
……行っちゃおうか?
「調子は悪くない。もし危険な魔物さんとかが襲ってきても対処は出来る……そもそも悪い気配は感じない……うん、行けるかも……!」
軽く体を解し、魔力で身体強化。どれ程の距離があるか分からないけど、念には念を入れておく。
ママとティナも連れ、私は初めて森の中へと入ってみた。もし迷っても大きな植物を生やせば場所の確認は出来るもんね。
木漏れ日の差し込む道の草木を掻き分け、お花を踏まないように気を付けつつ森の奥へ。冬服なので枝で肌が傷付く事もない。顔もちゃんと温かくしているから無問題!
(なんだろう……人が踏み込む場所じゃないのに整備された道みたい……大分雑草は伸びてるけど、そこが道って事が分かる範疇に留まってる)
森を行き、疑問に思ったのが私の歩いている場所。
使用人さん達もここには来ないし、人が行く場所でもないのに妙に整っている感じがした。獣道ともまた違う、本当に人の手が加わったような歩道。
なので思ったよりも苦労はせず、短時間で森の奥へと到達出来た。
そこに広がっていた光景は──
「……なんか不思議な感じ……」
ボソッと意識せず呟く。
そこにあるのは拓けた場所。ここだけ木々が無く、短い雑草やお花さん達が居るくらい。でも何故か中心部にはボロボロのテーブルや椅子、石造りの人工的な建物があった。
森の奥にあった場所。そこに佇む建物は日の光を受けて隙間から照らし出す。その様は幻想的な面持ちであり、妙な安らぎも感じられる。
好奇心は止められず、そこへ行ってみる事にした。
「廃墟……かな?」
石造りの建物。壁はボロボロで、屋根のような物もある……けどやっぱりボロボロ。
近くで見ると思ったよりは大きいような、小さいような。どっちとも取れない絶妙な大きさ。
「お邪魔しまーす……」
ちょっと怖いけど、恐る恐る入ってみる。一応植物で上部は覆っており、落下物があっても対処出来るようにしておいた。
内装は何もなく、ガワだけの建物って感じ。張りぼてとも違うけど……例えが難しいね。
「………」
ママとティナを横に置き、剥き出しの地面から樹の椅子を生やして腰掛ける。
少し怖い気もするけど、なんだか落ち着く場所。思ったより寒くも無く、差し込む日光が暖かい。
「何かあったのかな?」
周りを見渡しても崩れそうな壁や天井くらいしか無く、落ち着くけどちょっと寂れた印象が見受けられる。
数分間ボーッとした後にする事もないので立ち上がり、一旦建物から離れる。まだ周りもよく見ていないもんね。
外出ついでに建物の近くに置いてあるボロボロのテーブルと椅子に軽く触れ、そこからゆっくり歩き出す。
それ以外の物は無さそうな雰囲気かな。よく分からない建物があったから、誰かが椅子とテーブルを置いて秘密基地っぽくしたのかも。
「……ん?」
少し進むと、数十メートル先に小高い丘を見つけた。
そこに行き、低い頂上に登ると板のような物が置かれている。
「なんだろう。文字っぽいのが書かれてるけど、掠れて読めないや」
書かれている文字。そこまで古い物じゃ無さそうだけど、数十年は風雨に晒され続けたと思うので文字は掠れていた。
近くを探ると小さな何かの破片みたいなのが出て来、ちょっと分かりそうになった。
「つまりこれって……本当に誰かの秘密基地だったのかな。たまに落ちてるありがちなガラス片とも違うし、ここで何かをして遊んでいた形跡が見られるかも」
丘の周りには大きな樹もチラホラ。数十年程度ならここにあった物も完全に消え去る事は無さそう。
結局の所よくは分からなかったけど、誰かの思い出が眠る場所なんだって事は分かった。
だったらその思い出は掘り返さず、ゆっくりと眠らせておく。それが一番だよね。
「すっかりのんびりしちゃった。そろそろお昼かな~」
また機会があったら来てみようかな。今度はボルカちゃん達とも一緒にね。
思い出はそっとしておくけど、この場所はスゴく気に入ったもん。
冬休みの一日。それはお裁縫をしたり、特訓したり、冒険したり。まだ箱庭も完成していないし買った本も読んでいないし、やる事は沢山あるね。
私の冬休み。それが本格的に始まるのだった。




