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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部二年生
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第三百二十五幕 留学先の思い出話

 ──寒空が見下ろすこの季節。吐く息は白くなり、指先が冷たく、照れていないのに赤くなる。

 特に朝方はツラく、寮から校内に向かうだけで体の震えが止まらないや。


「あ、おはよー。ボルカちゃん」

「オーッス。ティーナ。久し振り~」

「久し振り~。今朝は冷え込むね~。一足先に来ちゃったよ」

「確かに冬らしくなってきたよな~。ま、アタシは熱で体を覆えるから寒くないけどな!」

「そう言えばボルカちゃんの体から熱気を感じるや。近くに居るだけで暖か~い」


 私はあまりの寒さに先に食堂にやって来た。その後にボルカちゃんが来たけど、体に彼女の魔力を纏っているので暖かった。食堂には熱の魔道具があるけど、それでもほんのり寒いもんねぇ。

 昨日まで体験留学だったから一緒に食堂に行くのも久し振りだねぇ~。

 そうだ。それについて聞いてみよっと!


「ボルカちゃんはどうだった? 魔族の国~。ダクさんやリテさんの居る“暗黒学園”に行ったんだよねぇ」

「ああ、そうだな。でも、どうだったかと言われたらどうだろうなぁ。まずは初日に学園長に挨拶して~」

「うんうん」

「学校案内ついでに教室に行って~」

「うんうん」

「挑んできた面々を片っ端からシメて初日でクラスを制圧したな」

「うん……?」

「んで、アタシのチームにはダク先輩やリテ先輩が加わって全学年対抗の戦争に発展した後、“暗黒学園”を完全制圧。そこから近くにある、昔からの抗争相手へカチコミ入れて全面戦争。レイル街一帯を一日目で手中に──」

「ちょ、ちょっと待って!? この数週間でそんな騒動に……」

「そうだなー。けど、ちゃんと勉強もしたよ。留学の一端で戦争が起こっただけだ。それからレイル街を拠点に縄張りを広げてった数週間だったぜ」

「とんでもない事態に陥っちゃってるよ……私の所も似たような感じだったけど……」


 魔族の国も、魔物の国程じゃないけど治安があまり良くない。それは知られている事実。まさかボルカちゃんの所でも似たような出来事に巻き込まれていたなんて……。

 そんなボルカちゃんは訊ねるように、楽しそうな面持ちで話す。


「お、それじゃ魔物の国での出来事も聞かせてくれよ! なんかあったんだろ?」

「うん。色々とね~」


 私だけ聞きっぱなしと言うのもフェアじゃないからね。思い出話はしようと思っていたし、丁度良いから話そっか。

 そこへルーチェちゃんとウラノちゃんもやって来た。


「何やら物騒な思い出話に花を咲かせているようですわね。ふふん、是非とも私にもお聞かせくださいませ!」

「それを言う為に聞き耳立ててたの? 堂々と話し掛ければ良いのに」

「しーっ! ですわ! こう言うのはしれっと参加してこそですの!」

「数週間振りだからちょっと緊張しちゃって話し掛け難かっただけでしょう」

「そ、そそそ、そんなんじゃありません事ですわよ!?」


 ルーチェちゃんも一緒にお話したいんだね。何で恥ずかしがるんだろう? 少し会えなかったけど、友達なのは変わらないのに。

 でもここは彼女達も誘うところだよね。


「ルーチェちゃんとウラノちゃんも話に入りなよ! 思い出はみんなで共有した方が良いもんね!」

「ふっ、ふふん。そこまで仰有るのならお聞きしない事も無くってよ!」

「ルーチェさんは聞かなくとも別にいいみたいよ。ほら、少しモジモジしている。忙しかったから離れたいみたいね」

「そっか~……。じゃあ残念ながらルーチェちゃんは……」

「是非ともお聞きくださいませ! 久し振りに話すのをとても楽しみにしていたんですの!」

「そうなんだ! 良かった~!」

「最初から素直になれば良いのに」


 本当に忙しいと思っちゃった。でもこれでみんなとお話出来るんだね。

 私達四人は朝食を囲み、集まってお話しする態勢となった。

 流れ的には私からだったね。色々あったから長くなっちゃうかも。要約しながら話そっか。


「魔物の国ではシュティルさんが案内してくれたんだ~。彼女の元で留学先の“闇永血輝紅月学園”に行って……そこの学長、シュティルさんの家族にしてヴァンパイア族で英雄の時代から世界を見ているエルマ・ローゼさんに会ったの!」


「エルマ・ローゼ……エルマ・ローゼか! 確か有名人だったよな!」

「そうね。貴重な英雄の時代の生き証人として学者や学会に追われているわ。本人は寡黙であまり口も出さない人だから難航しているらしいけれどね」

「そう言えばシュティルさんの姓も“ローゼ”でしたわね……しかも同じヴァンパイア族。血縁関係を疑うのが普通でしたわ!」


 どうやらエルマさんは有名人だったみたい。私は元々ルミエル先輩も知らなかったし、初等部から有名人だったボルカちゃんの事も知らなかった。

 改めて世間知らずだったね~。でもエルマさんが寡黙?


「エルマさんは結構口達者な人で、一緒に行動していた時も絶え間無く話題を出してくれてたんだけど……寡黙で有名だったんだ」

「ええ。もしも口を開くなら、英雄の時代の発言一つ一つには金貨百枚の価値があると言われているわ」

「マジでか!? 数言話すだけで人生を数十回以上遊んで暮らせるようになるぞそれ!」

「そんなになんだぁ~。流石に“魔専アステリア女学院”でも金貨百枚相当のお小遣い貰ってる人は少ないもんね~」

「ですわね。私の一月のお小遣いと比べると大体……」

「ボルカさんのが普通の反応なんだけど、貴女達にとっては割と簡単に手に入る額だものね。これだからお嬢様は……」

「うーむ、ティーナから話を聞いてそれに基づいた論文を……」

「貴女もそこまでがめつくないでしょう。ボルカさん」


 お話しするのが嫌いって雰囲気は無かったけど、世間一般の認識がそれなら追われ過ぎて嫌になっちゃったのかな。

 英雄の時代の記録はあり、世界中のみんながその事は実際にあったと認識しているけど、あくまでも大部分のみで詳細は不自然なくらいに無いんだよね~。

 世界中で唯一知るエルマさんが口を閉ざしているから学者さん達は血眼になってるんだ。


「だけどその様子、エルマさんから多少の話を聞いたのね。私としても単純に気になるわ」

「そうかな? でもそこまでの内容じゃなかったけど……良かったら後で教えよっか? 今は思い出話の最中だから手短にしてるけど」

「そうね。是非聞きたいわ。英雄関連の書物は沢山読んでいるけど、表現や文法が違うだけで大体同じ内容だから別の観点から知りたいの」

「うん! いいよー!」

「それと、不本意に話さない方が良いわ。この学院では問題無いと思うけど、外では特にね。それを狙っている人は多いもの」

「そっかー。それもそうだね」


 歴史についてはウラノちゃんも興味津々。読書好きなのも相まって未知への好奇心が強いんだと思う。

 なのでそれはまたの機会に教えるとして、話を戻す。


「えーとそれで、そうそう。エルマさんに挨拶した後でシュティルさんに学校の案内をして貰って、何事も無く初日は終了するかと思ったんだけど……ちょっとね」


「その言い方……ははーん? 魔物の国も一筋縄でいかないって訳か。ティーナもよくある留学とは違う体験になったんだろ!」


「ご名答~。シュティルさんのチームが襲撃を受けてね。私も何かお手伝い出来ないかって参戦して、最終的に朝までバフォメットと戦ってこの星が終わりそうになっちゃったんだ~」


「ちょっと待て! 話が飛躍し過ぎだろ!? なんだよそれ……超面白そうな事態に巻き込まれてんな~!」


「流石はボルカちゃん! 何事も楽しむ精神を忘れないね!」


 初日のバフォメット騒動。ボルカちゃんは楽しそうにしているけど、ルーチェちゃんとウラノちゃんは怪訝そうな表情をしていた。


「そんな事態に巻き込まれていたんですの……星の終焉とは……」


「朝まで……確かに初日の夜中、大きな地震があった気がするわね……。本を読んでいたから気にしなかったけどそんな事に。バフォメットとは悪魔でしょう?」


「うん。お話とかでもよく見る悪魔かな。私達全員が動けなくなった所にエルマさんがやって来てくれて、バフォメットを倒す直前まで弱めて星の崩壊も止めてくれたの」


「スゲェな。エルマ・ローゼ。ルミエル先輩とどっちが強いんだろ」


「どうだろうねぇ。知っている感じではあったけどさ。それが一日目の出来事だったよ」

「波乱の一日ね」


 これで初日の概要は話終えたかな。

 あとは二日目以降、授業の事とかそれによって親しくなった魔物さん達の事とかを話せば良いよね。


「──そんな感じで、多くの魔物さん達とも親しくなったんだ~」

「ハハ、やっぱ魔物の国も魔族の国と同じように気の休まらない場所って訳か。制圧しちまえばなんて事は無いんだけどな」

「制圧したつもりは無いんだよ~」


 そしてある程度を終える。

 本当に色々あった体験留学だったねぇ。続いてルーチェちゃん達の話も聞いてみる。


「それで、幻獣の国はどうだったの~?」

「それはそれはとても美しい場所でしたわ! 青々とした植物。綺麗な小川。自然を利用した街並み! 色々な幻獣さんと仲良くなりましたわよ!」

「エルフの学校に行ったんだけど、本が多くて良かったわね。まだ知らない話が多く、見聞を広げる事が出来たわ」


 幻獣の国もとても良い場所だったみたい。更にはスゴく綺麗な場所なんだね~。

 私とボルカちゃんは二人の話に耳を傾ける。エルフさん達との交流や他の幻獣さんとの生活。楽しそうな話が沢山聞けたよ!

 数分間お話し続け、気付いた時には朝食の時間も終わりに迫っていた。


「おっと、早く食わなきゃな。授業の体力が無くなるぜ!」

「たまに食べてないけどねぇ~」

「食べてもお腹をよく鳴らしてるわよね」

「食欲旺盛ですわ~」

「良い事だろ~?」


 まだまだ話足りないけど、授業も大事。なので食べ終え、余裕を持って教室へと向かう。


「そろそろ休みに入るな~」

「そう言えばそうだねぇ。もうすぐ長いお休みだ~!」

「新しい年にもなるわね」

「今年はどう終えましょうか」


 教室へ向かう途中の廊下で話す内容は、もうすぐ入る長いお休み。

 体験留学があったから実感も少ないけど、今年ももう終わる。みんなが最後まで良い年を過ごせたら素敵だよね!

 名残惜しい今年。待ち遠しい新しい世界に思いをせ、私達は残りの日数を過ごすのだった。

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