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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部二年生
325/458

第三百二十四幕 魔物の国の体験留学・終幕

 ──“二週間後”。


「これを運んでくれ。ティーナ」

「うん。シュティルさん!」


 フォレストゴーレム達が資材となる物を運ぶ。シュティルさんも簡単に運べるけど、両手で持つ量には限界があるので一度に沢山運べるゴーレム達を優先しているんだ。

 魔物の国に体験留学に来てから、早くも二週間が経過しようとしていた。

 無法地帯の作業も順調に進んでおり、既に半数以上の森は再生した。

 ラセツさんの拠点もその姿を戻し、既に何匹かの魔物さん達が棲める空間となっている。もう大丈夫そうかな。

 ……そう、今日で魔物の国の体験留学は最終日。今日は午前中に再興を行って午後から最後の授業に入るけど、思えばあっという間に進んできたよね~。


「それにしても、今日でティーナとはお別れか。寂しくなるな」

「アハハ……体験留学だからねぇ~……。私も寂しいけど、ダイバースの新人戦とか、それ以外にもその気になれば遊びに来れるからまた会えるよ!」

「それはそうなんだがな。しかし私には“神魔物エマテュポヌス”の事もある。そう簡単には来れないんだ」

「そっかぁ~……」


 早速それについてシュティルさんから切り出された。

 会う方法はあるんだけど、彼女のチームの忙しさからしてそれも中々難しいみたい。


「しかしまあ、君の元に会いに行く機会はなんとかして作ってみよう。ラセツのチーム“ホーンシップ”と連携を組む事も出来るようになったからな。バフォメットのアレがなくとも“ゴブローク”のように攻め来るチームは多いが、前よりは暇な機会が生まれそうだ」


「そうなんだ。それは良い事だね! なんなら……」


 ラセツさん達“ホーンシップ”との連携により、シュティルさんの留守中にチームが襲撃されても大分楽になったみたいだからね。

 それとは別に、頼もしい? 味方は居る。私はチラッとそちらを見た。


『戦争になったら我らが手となり足となり、兵力となりましょう』

『“闇永血輝紅月学園”。魔物の国でも随一の我らが力、無法者達にも知らしめましょう!』

『『『オオオォォォ━━ッ!!!』』』


「……戦力が増えてるし……」

「留学生とは珍しいからな。来る者を迎え撃っていたら一大勢力となっていた。“闇永血輝紅月学園”をたった二週間で制圧するとは。流石はティーナだ」

「迎え撃った事も制圧したつもりも無いんだけど……」


 私から攻めた訳ではなく、基本的に最初の実技の時みたいに正攻法……と言うか授業の一貫で戦っただけなんだけど、勝つたびに下に付く魔物さん達が多くなっちゃって……。

 結果的に楽しくやっているけど、私向きじゃないよね。絶対。

 そして更に、


『学生風情が生意気な。ここは我らが領地。我らのみで十分よ』

『ティーナさんとシュティルさんにお仕えするのもな』


『何をゥ?』

『無法者がァ!』


「ケンカはやめてぇ~!」

「ちょっとしたじゃれあいだ。気にするな」

「でも……」


 ラセツさんの管轄外の魔物さん達も私の下に付いちゃってる。

 無法地帯ってだけで絡まれる事は多く、こんな感じになっちゃったの。

 それはこの数週間の出来事。


──

───


【“闇永血輝紅月学園”のガキ共が。一丁前に作業してるんじゃねェ!】

【ここは見捨てられた地! 温室でぬくぬく育った貴様らはこの地から出て行け!】


【えっ? 私達はただ悪魔との戦いで崩れた土地の復興を……】

【フッ、面白い。では、そんな温室育ちの私達に破れては面目が潰れっぱなしになってしまうよな?】

【ちょっとシュティルさん……!?】


 復興作業中、少し奥の方に入ったら私とシュティルさんはそこを縄張りとしていた魔物さん達に囲まれてしまった。

 人間でもそんな人が居るように、縄張り意識の強い魔物さんは多い。だから踏み入られると許せないんだ。

 シュティルさんの挑発に魔物さん達は返す。


【では今日の晩餐を貴様らにしてやろう!】

【死ねい!】


【わわわ……!】

【フッ、来い!】


 返すと言うか、乗ってきた。

 四肢をもちいて複数体の魔物さん達が駆け寄り、見事な連携で取り囲む。

 私に敵意は無いのにぃ~!


【やめて~!】

【【【ガハッ……!】】】

【……それとごめんなさい】


【流石だ。ティーナ。此処に来てから何度流石と言った事やら】

【グハッ……!】【ゲホッ……!】【この……!】


 でも何もしないとやられちゃうので植物で拘束。シュティルさんも的確に意識を奪っていく。

 それによって場は収束した……けど、


【その強さ。恐るべし!】

【我らを是非傘下に!!】

【晩餐なら我が血肉を! 】


【そうか。ではお言葉に甘えて】

【遠慮しておきます!】


 傘下に志願する人? 達が多かった。

 と言うか血肉って……確かにヴァンパイアのシュティルさんにとってはご馳走だけど流石に目の前でそれは嫌だ。と言うか魔物さんと人間の味わいは違うんじゃ……。

 私は両方とも遠慮したけど、結局復興作業の時には付いてきてくれる。手伝ってくれるから悪くないけど、改めて魔物の国の常識が私の知る物と大分違くて驚くよ……。


───

──


 そんなこんなで魔物の国ではお友達……あくまでもお友達が増えた。決して傘下とかじゃない!

 あれから数日。魔物の国体験留学最終日。賑やかになり、何だかんだでとても楽しい時間を過ごせた。

 “そんなこんな”とか“何だかんだ”とか、色々あり過ぎて我ながら曖昧な表現になっちゃってるや。


「すっかり此処でのボスだな。ティーナ。無法地帯の外層付近はほぼ掌握した。たった二週間と少しでこのレベルとは。民を率いる王の資質があるぞ」


「王様かぁ……。悪くないけど、私はみんなと楽しく過ごせたらそれで良いかなぁ~。お陰で無法地帯も歩きやすくなったし、都市部と外界の距離もスゴく縮まった気がするよ」


「フッ、確かにそうだな。こんな事になろうとは思わなんだ。君がずっと居てくれたら中心部の魔物まで友としてしまいそうだ」


「ふふ、なれたら良いね~」


 ボスとか王様とかは私の柄じゃないけど、みんなが仲良く出来る環境が少しでも広がったなら良い事だよね。

 だけどその範囲はまだまだ小さい。外側付近だけだもんねぇ。それにしても中心部かぁ。


「そう言えば中心部って一番スゴいところなんだよね~。どれくらいの魔物さん達が居るんだろう?」

「そうだな。エルマやルミエル・セイブ・アステリアよりは弱いくらいの実力者揃いだ」

「世界の天井と比べても分からないよ……。それと強さより環境とか生活スタイルの方が気になるかなぁ~」

「まあ、此処に居る者達の十倍は強いだろう。生活スタイルは噂によれば都市部より良いともされているし、かなり切羽詰まっているとも言われている。要するに不明だな」

「そうなんだね」


 全体の平均的な強さは通常の十倍。生活は良いとも言われているし、悪いとも言われている。強さ以外は何も知られていない未開の地って感じなのかな。

 他の魔物さん達も無法地帯の中心部について話していた。


『中心部か。お前ら学生は知らねェと思うが、彼処はマジでヤバイぜ』

『いや、俺達も話くらいは知っている。流石にそこにゃ喧嘩は売らねェ。ティーナさん達が指示を出せば乗り込むがな』


『俺も足を踏み入れた事があるが、一歩踏み込んだだけで得も言えぬ圧力と殺意を感じた。数センチも進まぬまま帰ってしまったよ』

『そうか。同じ無法地帯でもそれ程に違うんだな』


『世界を終わらせる力を有する者がいくつか居るらしい』

『そのレベルか。ダイバースの代表戦相当で大陸破壊規模。数倍以上の力だ』


 なんか私の名前が出て来ちゃったりもしてたけど、それはそれとしてとても凄まじい場所なんだね。基本的に勇敢……無謀とも言える魔物さん達も近付けないなんて。

 もちろん私は勝負なんか吹っ掛けない。基本的に平和主義者だから!

 そんな感じの雑談を交えて復興作業。午前中が終わり、私達は学校の方へと戻った。



 ──“闇永血輝紅月学園”。


「後は午後の授業だけだね~」

「そうだな。それが終わればもうサヨナラだ。長いようで短い二週間だった」

「私も名残惜しいけど、ボルカちゃん達や他のみんなとも会いたいからね~。色々あったけど、やっぱり初日が一番ボリュームあった気がするよ」

「そうだな。確かにいきなりバフォメット騒動に巻き込まれ、星が崩壊する直前まで来たんだ。あれ程の体験はそうそう無かろう」

「だよね~」


 初日にシュティルさんがお出迎えしてくれて学校の案内もしてくれた。その後すぐにバフォメット騒動で、ブラドさんやラセツさん、エルマさんと一緒に戦ったんだよね。

 それから毎食のたびに激しいご飯の争奪戦があって、ここで出来たお友達と一緒に食べた。

 お風呂も楽しかったし、寮部屋でもシュティルさんは最後まで付き合ってくれた。

 楽しかったなぁ~……だからちょっと、寂しいかな……。

 校内を行き、私達は教室に入った。


『今だ!』

『『『ウオオオォォォォッ!!!』』』


「え!? 何々!?」


 ──その瞬間、クラッカーのような物と魔導が弾け、私は固まる。

 魔物さんが言葉を続けた。


『『『サプラーイズ!』』』

『サヨナラ! ティーナさーん!』

『楽しかったぜー!』

『また来てねー!』

『今度も一緒にな!』


「み……みんな……」


 サプライズの、お別れ会。

 いつも一緒に帰っていたみんなだったけど、今日はシュティルさんだけだった。

 それは、このサプライズをしてくれる為に早く向かっていたんだ……。

 驚きと喜びで情緒がおかしくなり、自然と涙が溢れる。色々あった数週間。その最後がこれって……嬉し過ぎるよぉ……!


「みんなぁ~!」

「フフ、何を泣いている。ティーナ。君の存在は偉大。これはされて然るべき事だろう」

「そんなこと言っても……うえーん!」


 まさかのサプライズに泣いてしまい、周りをみんなが囲んでくれる。と言うかワチャワチャしてる。

 色んな食べ物も並んでおり、教室全体がパーティー会場となっていた。


「でも、まだ授業は残っているしこんな事して……」

「何を言っている。教師の目なんか何処にも無いではないか」

『~♪ ~♪』

「み、見てない……これってOKなの……?」

「ああ。エルマ学長直々の許可も降りている。今日の残り僅かな時間、皆で楽しむぞ!」

『『『オオオォォォッ!!!』』』


 先生が見ておらず、気付いていない……フリをしているのでOK理論。よく分からないけど、これも魔物の国の常識なのかもね! 絶対にそんな事は無いとしても、どうでもよくなるくらい嬉しい!

 最後の最後まで魔物の国のみんなと楽しみ、時間一杯まで満喫した。

 それを終え、帰り用の転移の魔道具にはみんなが集まってくれている。


「それじゃあティーナ。またいつか」

「うん! またね! シュティルさん!」


 手を大きく振り、シュティルさん達やみんなに返す。

 私に出来る事はこれくらいだけど、伝わってくれたかな?

 数週間に渡っておこなった私の、学びを得る為の魔物の国体験留学。それは紆余曲折あり、様々な騒動に巻き込まれつつとても素晴らしい思い出になった。


 この経験、体験を胸に私は人間の国に戻る。留学を経て成長した気がするよ。またいつか来る。国のお友達も沢山出来たもん!

 これにて私達の“魔物の国・体験留学”は、無事に閉幕となるのだった。


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