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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部一年生
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第三十二幕 暴走後

 ──目が覚めたら自室の天井が見えた。

 確か私は……ボルカちゃんと親友になって魔力の使い過ぎで倒れちゃったんだっけ。

 雑多には覚えているけど、前後の記憶が若干曖昧(あいまい)。でも別にそこは思い出さなくて良いような気がする。根拠はないんだけどね。

 チラリと今の時間を確認してみる。


「深夜の二時……かぁ……」


 時刻は夜更けも夜更けの時間帯。もうみんな寝てる頃合いだよね。

 ベッドから起き上がり、ふと横に視線を向けた。


「……ぁ……」


 私の横にはママとティナが。

 そして包装されたサンドイッチ。ボルカちゃんか先輩達か、誰かが看病してくれたのかな。

 日付が変わってからは休日以外一緒の部屋に居る事は禁止されてるし、ギリギリまで見ててくれた人が居るんだね。


「ママ……ティナ……」


 小声で呟く。

 多分二人も寝てるよね。起こすのは悪いから私一人で起き上がってサンドイッチを手に取る。

 お腹は空いてるけど……夜中にサンドイッチって太っちゃうかな……。

 でも今日はかなり体力使ったし、ちょっとくらい良いよね……。と、自分に言い訳しながらサンドイッチを頬張る。

 うん、やっぱりこの学院のサンドイッチは美味しいね♪


「ご馳走さまでした」


 サンドイッチを食べ終え、一先ず立ち上がって伸びをしてみる。

 そう言えばちゃんとパジャマに着替えてる。それも誰かがやってくれたんだね。

 夜中でも学院外へ出なければ外出は自由。夕方くらいに終わったとして、九時間くらいは寝ちゃってたかな。だからちょっと体を動かす。

 明日……ううん。今日も学校だけど、いっその事このまま起きちゃってても良いかも。課題もまだ終わらせてないからお散歩と課題で丁度朝食の時間になるくらいだもんね。


「ママは……今はまだいいかな」


 寝てたら悪いし、散歩に行くのは私一人で。

 あ、でもティナは私だから起きてるし、私だけは連れて行こっかな。一人歩きも物足りないもんね。あと普通に夜は怖い。

 なのでティナを手に取り、暗い渡り廊下を行く。


「やっぱり夜は冷え込むね~」


 春先だけど日の当たらない夜は冷える。呼吸をすると暗がりでも分かる程の白い息が零れ、静寂の中に消え落ちた。


「流石にみんな寝ているよね」

『多分ね~』


 静まり返った渡り廊下。みんな上品だからそんなに賑やかって程でもないけど、なんだかいつもより静かな気配。

 窓から差し込む月明かりにも何処か心細さもあるけど、ティナが居てくれるから平気……かな。

 だけどなぜか、いつもみたいに安心出来る雰囲気でもない。ママが居ないから?

 ううん。ティナが居るだけでも今までは平気だった。なのに……昼間のダイバースからまるで二人がお人形さんのように思えてきた。

 見た目はそうだけど……変なの。

 私は一体──


「──あら、起きたんだ」

「……!? うひゃあ……!? ……っぷ。大声は禁物だよね……けど……出た~……!!?」


 考え事をしていると、ぼやぁっと暗がりの中から白い肌に黒髪。光る大きな目の女の子が現れた。

 お、お化け!? 幽霊!? 妖怪!? 今日は色んなアンデッドモンスターを見たから!?

 深夜なので叫ばず、声を押し■してワタワタと退避体勢に入る。


「……人を化け物みたいに扱わないでくれる? 昼間の貴女の方が余程だったけど」

「……! この声……ウラノちゃん……」

「けど、どうやら本調子には戻ったみたいだね」


 影の正体はウラノちゃんだった。

 黒髪と白い肌は彼女の特徴。光る大きな瞳はメガネかぁ……。

 あー、怖かった……。

 ホッとした私はウラノちゃんとちょっとお話をする。何となく心細かったからね。


「こんな夜中に何してたの? 明日は学校だけど……」

「それ、貴女が言う? まあ、気絶から起きたばかりっぽいから勝手は違うけど。質問に返すなら読書かな」

「こんな遅くまで……?」

「たまにあるのよね。つい夢中になってると時間が過ぎている事が。これでも今日は早い方。平日でも朝になってる事があるし、休日だと二日過ぎてる事も……」

「二日……!? 流石にそれは読み過ぎなんじゃ……寮の本読み尽くしちゃうよ」

「学院と寮の本はもうとっくに三周くらい読んでるわ。今読んでたのは新刊」

「三周……一体何冊読んだの……?」

「学院と寮全部合わせて十万冊くらいだから数はその程度よ。回数なら三十万回くらいかな」

「初等部からの六、七年間で……?」

「そうね。毎日読んでるって考えると少ない方よ」

「それは絶対無いよ……」


 スゴいとしか言えない存在。ウラノちゃん。しかも今読んでたのが新刊って事は、学院と寮にある物だけじゃないって事……。

 スゴい。ホントに。

 実際に可能なのかな? いや、遂行している子は目の前に居るんだけど、とても信じられない。

 ちょっとしたお話のつもりがスゴい事実を目の当たりにしちゃったよ。


「それと、平日なのに夜遅くまで起きている事に驚いてるけど、割と居るよ。そう言う子達。よく知るルミエル先輩も結構遅くまで活動してるもの」


「そうなんだ……けどルミエル先輩は確かに分かるかも。多分委員会の事とか生徒会の事とかだよね」


「他にも色々ね。行ってみたら? 多分今はダイバースの部室に居ると思うよ。私は今日は早く寝るつもりだから同行しないけど」


「早く……夜中の二時過ぎてるんだけど……」


「早いじゃない。いつもは四時に寝て七時に起きてるもの」

「三時間……」

「十分よ」

「そうなんだー……」


 私の時間とは大きくズレてる……これでいて授業中も居眠りしないでダイバースして出された課題やって四時まで読書……。

 私にはこんな過酷な生活絶対に無理。

 けどそんなウラノちゃんが今日は二時に寝るって言うなら邪魔しない方が良いよね。


「……えーと……それじゃあ私達は夜の散歩に出るよ」

「……私“達”……ね。そ。気を付けて。暴漢とかは居ないと思うけど、暗くて足元が見えにくいから」

「うん。気を付けるよ。ありがと。ウラノちゃん」

「別にお礼を言われる程の事でもないよ」


 ここでウラノちゃんとは別れる。

 また私達の二人お散歩……けどティナは私だから実質一人かな。

 でも大丈夫。ウラノちゃんみたいにまだ起きている人が居るって分かったから。

 自分以外の誰かが居るってなんだかホッとするよね。

 そんなこんなで私達はダイバースの部室に向かった。



*****



「……改めて来ると……夜の森ってかなり不気味な雰囲気……」


 そうだった……。部室のある場所は森の奥。昼間は薄暗さもアクセントになって幻想的な雰囲気をかもし出しているけど、先が見えない夜はスゴく怖い……。

 視界は月明かりのみが頼りで、木々のあおさもよく分からない。樹の隙間がまるで大口を開けた魔物が如く私を待ち構えているよう。

 気のせいなのは分かっているけど、見てるだけで吸い込まれそうな威圧感があった。これから彼処に入って行くんだね……。


「そ、そう言えばルミエル先輩は仕事中だし、邪魔になったら悪いよね……」

『そうだねぇ。じゃあ軽く見て回ったら帰ろっか!』

「うんうん! そうしよっか!」


「あら、誰かしら?」

「うひゃん!?」


 声が掛かり、私は腰が抜けて倒れるように転んでしまう。

 なんだか既視感……ほんの少し前にウラノちゃんを前にして驚いた時と同じシチュエーション。て事は……。


「ルミエル先輩……」

「あら、ティーナさん。ごきげんよう。こんな遅くに来たって事は……今さっき起きたのかしら?」

「あ、はい。……その……」

「……ん?」


 言葉に詰まり、言い淀む。ルミエル先輩は小首を傾げていた。

 言わなきゃ……迷惑掛けちゃったんだもんね……。


「その……昼間はすみませんでした! ご迷惑を掛けてしまったみたいで……」


「なーんだ。そんな事。気にしないで。私が貴女を勧誘したんだもの。責任を持って後輩の面倒を見るのが役目よ!」


「先輩……」


 私の謝罪に対し、あっけらかんと笑って返してくれた。

 なんて器の大きい人……だけどそれだけじゃない。私は大きな悪い事をしちゃったんだろうけど……。


「けれど私……全体的な記憶が曖昧で……失礼な事を言ってしまった自覚とか、ボルカちゃんには謝った記憶があるんですけど……なんだか一連の流れが抜け落ちているような感覚があって……」


「………!」


 そう、一番の問題点はそんな事をしておいて私は一部を忘れてしまったという事。

 暴れ回った記憶や失礼な言動の実感。最後にはボルカちゃんに救われたのは覚えているけど……よく分からない箇所がどうしても出てくる。

 まるで視界と音だけは聞いていたのに意識が無かったかのような、そんな形容のしようがない状態。

 ルミエル先輩も黙っちゃったし……スゴく怒ってるよね……。


「……成る程ね。それによって精神を安定させる為に体内の魔力が脳の記憶中枢に働き掛けたのかしら……一種の防衛本能ね」

「……? 先輩……?」

「え、ああ。うん。気にしないで頂戴。大切な事ならいずれ思い出す筈だから!」


 近くに居るのに聞こえないような小声で話、その後に笑って誤魔化された。

 なんか変なの。だけどそれについて怒ってはいないみたい。それは良かった……でいいのかな?


「取り敢えず、少し冷え込むわね。部室で暖かい紅茶でも飲みましょうか」

「あ、はい。いただきます」


 先輩に誘われて暗い森の中へ。

 今此処に居るのはお仕事を終わらせたからなんだろうけど、何だか悪い気もする。

 でも寒いのは本当だから気を遣いながらも頂く事にした。

 森を抜けて真っ暗な部屋の明かりを点けて暖炉に炎魔術で火を入れ、手際よく紅茶を淹れる。その一連の流れですら目を奪われる程に優雅。

 今更だけど、あの綺麗な黒髪や瞳って魔族由来なのかな。あ、でもその理論だとウラノちゃんも魔族になっちゃうから違うか。

 フフ、ウラノちゃんが魔族なら、それはそれで面白いかも。


「はい。出来たわよ……何を笑っているのかしら?」

「なんでもありません。魔族先輩」

「何かを考えていたみたいね。さしずめ、お友達の誰かが魔族だったら……みたいな事かしら?」

「え! スゴいです先輩! 私の考えを言い当てるなんて……!」

「その様子を見れば分かるわ。ホントに素直な子ね」


 微笑み、私の頭を撫でてくれた。

 やっぱりなんだか私の扱いが小動物とかそっち方面……撫でるのが上手だから悪い気はしないけど、なんか複雑。

 そんな事を話ながらお茶を含み、お菓子も摘まむ……あれ、けど夜中のお菓子は色々と……。


「大丈夫よ。今回のクッキーは低脂肪低カロリー。諸々を今の時間帯に合わせて作ったから。翌日に響く事はないわ」


「もはやテレパシーですよ先輩……」


 また考えている事を言い当てられてしまった。

 でも大丈夫なら良かった~。遠慮無く美味しいお菓子を食べられるね。

 すると、部室の扉が開く。


「ティーナ! 起きたんだな!?」

「わ……! ボ、ボルカちゃん……!?」


 やって来たのはボルカちゃんだった。

 パジャマ姿のままであり、キレイな赤髪はボサボサ。ナイトキャップを被っており、息を切らしていた。

 ナイトキャップ……可愛い。

 この様子、慌てて来てくれたんだね。


「いや~。寝ようとしていたらビブリーから言伝てが入ってな。駆け付けて来たって訳だ」

「アハハ……わざわざそこまでしなくても良いのに……」

「やっぱ気になって眠れなくてな~。いつもは寝てる時間だけど、中々寝付けなかったんだ」

「ありがと。心配してくれて」

「いーって事──ZZZ」

「寝ちゃった!?」


 カクンと力無くその場で項垂れるボルカちゃん。

 立ちながら寝てたから慌てて駆け寄り彼女を支える。


「フフ、良いコンビじゃない。これから更に良い……チームになれると良いわね」


「ボルカちゃーん! ここでは寝ないで~。風邪引いちゃう~」

「心配すんな~……アタシは……まだ食えるぜ~……」

「何を!?」


 鼻提灯を膨らませながら寝言を話すボルカちゃんを揺すり、取り敢えず起きて貰うように努力する。

 その後結局起きず、彼女を部屋に運んだ私は一人でお風呂に入り、波乱の一日に幕を降ろしたのだった……あ、課題やんなきゃ。


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