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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部二年生
319/458

第三百十八幕 境界線

──

───


 ──“数分前”。


【う……む……此処は……】

【あ、お気付かれになりましたか! ラセツ様!】

【良かった!】


 ティーナ達によって吹き飛ばされたラセツは、自分の城から大分離れた場所で目覚めた。

 起き上がってみればズキッ! と体が痛み、ラセツは自分の体を抑える。


【この傷……我は何をしていたのか……】

【我々も倒れており、今しがた目覚めたところで詳しくは……】

【何だか頭がボーッとします……】


 ラセツを含め、何人かの仲間達は頭に霞み掛かったような感覚に陥っていた。

 よく分からぬ事態。しかし自分達の傷から何かがあったのは明らかである。そして、記憶が無い訳ではない。


【何かに取り憑かれていたような……自分が自分じゃなかったような感覚だ】

【我らも同意見です。まるでまやかしから覚めたかの如く、いびつな感覚】


 憑依であれ幻覚であれ、もしそうだった場合、何者かが解き放ってくれた事を意味する。

 その者達の名もラセツは覚えていた。


【ティーナ・ロスト・ルミナス。シュティル・ローゼ。ダイバースにて聞き覚えのある名。彼女達が我を救ってくれたようだ】

【斯様で】


 それと同時に、出来れば覚えていたくない事もあった。


【我は何という事を。他の魔物達をまるで奴隷のように扱い、数々の非礼を行っていたとは……】

【私も、まるで他の者達を差別するかのような発言をしてしまっていました】

【この無法地帯。行き場の無い者達に棲み処を与える為に城を築いたと言うのに……真逆ではないか……!】


 ラセツ達“ホーンシップ”の目的は、角の有無に関係無く、行き場の無い者達への棲み処の提供にある。

 知っての通りこの無法地帯では毎日のように争いが繰り広げられ、多くの者達が死している。

 それを嘆いたラセツは出来る限りの範疇で減らそうと考えていた。

 その為に力を付ければ他の魔物達を寄せ付けず、無法地帯のオアシスとも言える安全地帯を与える事が出来るのだ。

 それを操られていたとは言え、真逆の在り方をしてしまった今、ラセツにはやる事があった。


【そんな外道から我らを救ってくれたティーナ・ロスト・ルミナス。及び“神魔物エマテュポヌス”への恩返し。そして、非道の扱いをしてしまった者達への償いを行いたいと思う】


【ええ、我らの意思も同じで御座います。ラセツ様】

【【【はっ!】】】


【分かった。では行こう。城へ。崩れたなら皆で力を合わせてまた建て直せば良い。全ての元凶を討つぞ!】


【【【オオオォォォォーッ!】】】


 再び安息の地を与える為、元凶に報いる為、ラセツら“ホーンシップ”の者達は動き出した。


【“ホーンゴート”。忌々しい悪の名を語るのはもう終わりだ! 魔物達の方舟となりうる“ホーンシップ”を再び掲げる!】

【【【はい!】】】


 威勢を上げ、士気を高める。これが本来のラセツ。王の器。

 ラセツら“ホーンシップ”の者達はティーナ達の手助けを行う為、城の方へと向かうのだった。



───

──


 ──“現在”。


「ラセツさん……!」

『鏡を割れ!』

「……! はい!」


 ラセツさんの一撃により、バフォメットには隙が出来た。

 ダメージの有無は分からないけど、一瞬でも抑える事が出来れば明確な物となる。

 即断即決。今一度力を込め直した樹木をそのまま放ち、鏡へと向かわせる。

 当然魔力による妨害はあるけど、他のみんなが居てくれる。


「複数人なら、消せない事はない」

「そうだな」

『はあ!』


【小癪な真似を……!】


 妨害を妨害し、樹木は鏡へ一直線。

 勢いよく衝突して轟音を立て、一気にヒビが大きくなった。

 後一撃でも入れば、鏡は完全に割れる!


【させるかァァァ━━ッ!】

『此方のセリフだ……!』


 バフォメット自身が飛び出し、ラセツさんが大剣で防御。シュティルさんとブラドさんが左右から挟み込んだ。


「見届けてやれよ。何の鏡かは分からないがな」

【貴様ァ……!】


 念力による拘束。ダメージの有無関係無く、隙が出来たからこそ動きを封じる事が叶った。

 もう一度魔力を込め直し、今度はより鋭く、破壊力を高めた鋭利な物へと変化させる。これで鏡は終わり!


「“樹木突槍”!」

【“火炎”!】


 突き抜ける植物の槍に対して炎を放ち、何とか阻止を試みるバフォメット。

 確かにいずれは焼き消えちゃうけど、貫通力と速度を高めた今の樹は燃え尽きる前に到達する。


「行っけえええ!!」

【このおおおッ!!】


 大鏡の中心へと突き刺さり、既に入っていたヒビが広がる。

 鋭利な樹木は鏡を貫通して燃え尽き、消え去ると同時に支えが無くなった鏡が自然崩壊を喫した。


「これで……!」

「どうなる……?」


 最後の鏡も砕け散った。それによってバフォメットがどう変化するのか、顛末を見届ける。

 放心状態の今こそ、渾身の一撃を叩き込む時。その隙は誰もが見逃さなかった。


「──“巨木森林拳”!」

「「はっ!」」

『はあ!』


【……ッ!】


 森その物の拳を叩き込み、圧縮された天候と巨大な剣が放たれる。

 それらは的確にバフォメットの体を捉え、大鏡の残骸と共に吹き飛んだ。


【ガハッ……!】

「効いた……!」

「やはり……!」

「そうか……!」


 確実な怯みを見せ、お城の外へと飛んでいく。

 四人が合わせた最大級の攻撃。確かなダメージとなり、飛ばされるバフォメットは空中にて停止した。

 まだ決定打になっていないみたい。初めてのダメージだから当たり前だけどね。


【貴様……ら……よくも……よくも私の鏡を一つ残らず割ってくれたな!!】

『「「「…………!」」」』


 ブワッ! と凄まじい魔力の圧が全体を覆い、お城を大きく揺らす。

 このレベルの力を秘めていたんだ。これがバフォメット……!


【あの鏡はァ……! 私の……地獄と現世を繋ぐ出入口……! もう二度と、この世界には行けなくなってしまったではないかァ!! どう落とし前付けてくれる!? 下等生物共がァ!!】


「出入口……。あれ? 地獄に“帰れない”じゃなくてこの世界に“行けない”なんだ」


 ちょっと変な言い回し。

 この世界と地獄を繋ぐ門の役割を担うのなら、“この世界から帰れなくなった”と言うべきだから。

 なのに相手は“この世界に行けない”と話した。地獄に帰る事は出来るんだ。

 バフォメットは言葉を続ける。


【破壊された時、私の体と魂は地獄へ強制送還されてしまう……! そして二度と、現世には行けぬ……! 我が野望がついえてしまったァ!!】


「あ、そう言う事なんだね」


 出入口が壊された時、強制的に地獄へ帰されるとの事。それなら言い回しにも納得。世界征服という無謀な目的だけど、それを達成する事が出来なくなったなら取り乱すのも分かる。

 倒し切る事は出来なかったけど、これでバフォメットを私達の世界から追い出す事が叶ったんだね!


【許さん……許さんぞ……。……だが、戻るまでは時間があり……出入口が破壊された時の保険として、現世でもフルパワーで戦えるよう契約を掛けた……僅かな時間により、せめて貴様ら全員を皆殺しにしてやる!!】


「契約……!」


「成る程な。仮の話でほぼあり得ぬが、順調に世界征服が進んだとして鏡の所在がバレ、今回みたく破壊されては撤退せざるを得ない。だから鏡が破壊された時のみ本気を出せるようにしたのか。ある程度征服が進んでいるのを前提とし、一気にケリを付ける為に」


「……? そんな事になんの意味があるんだろう……。鏡が割られたら終わりだけど、この世界でも常に本気を出せるようにした方が効率的な気がするのに……」


「まあ差し詰め、元々地獄の住民は現世で全力を出す事が出来ぬようになっているのだろう。逆もまた然り。追い詰められた時だけでも本気を出せるようにしておけば、少なくとも野望は叶ったかもな。……もう一度言うが、世界征服成功などほぼあり得ぬ事は大前提として」


 鏡が割れた事で、バフォメットをこの世界から追い出す事は叶う。しかしその時の為に仕掛けていた契約が発動し、本来の力を振るう事となった。

 だけど攻撃は通じる。本気のバフォメットがどのレベルの強さかは分からないけど、一定期間(こら)えれば……!


【終わりだ】

「「「…………」」」

『……』


 ──瞬間、世界が(・・・)消し飛んだ(・・・・・)


 一瞬にして白く染まり、視界には何も映らなくなる。

 私はどうなったのか。シュティルさん達はどうなったのか。それも分からないまま、意識が消え去った。


──

───


「……?」


 気付いた時、私は見知らぬ場所に居た。

 霧が掛かったように白く、少し寒い。

 風は気持ちよく、辺りにはいい香りが広がる。次第に霧が晴れ、私の居る場所がどこか理解する。


「お花畑……? ……あれ?」


 独り言を呟き、疑問に思う。

 なんかくぐもっているような、声が二重になっているような。そんな感覚。

 一体なんだろう。変な感じ。


「……?」


 すると……ポロン♪ ポロロン……♪ とハープのような心地好い音が響いた。

 心が安らぐ。なんだか懐かしさも感じる静かな美しい音色。誘われるようにそちらへ歩み寄ると、座ってハープを弾く……女性のような姿が。

 綺麗な長い金髪。白い肌、しなやかな指が弦を奏でる。年齢は……何歳だろう。私より年上だと思うけど、十代か二十代かな?

 私の気配に気付いたのか、ハープの音が止まった。微かに見える碧の瞳が私を見据え、慌てたように言葉を紡いだ。


「貴女……もしかして……」

「え……? 私を知っているんですか? それにその声……どこかで……あれ……? なん……で……?」


 その声を聞いていると、自分でも分からないのに何故か涙が溢れ出る。

 そちらに向かいたい。今すぐ会いたい。そんな気持ちが体に表れ、一人でに足が進む。女性は声を張った。


「ダメ……! 来ちゃダメ……来ないで!!」

「……!?」


 ビクッ……と体が震え、歩みが止まる。ふと後ろを見ると、光のような物が現れていた。


「貴女はまだ早いわ。絶対に来ちゃダメ。待っているから、来ないで」

「……ぇ……」


 優しく諭すような声。こんなに明るく綺麗な場所なのに、その人の顔だけハッキリと見えない。目の色まで分かるのになぜか。

 背後の光は強まり、焔のように燃え上がった。


「──そうですよ。彼処あそこはまだ、貴女の行く場所じゃありません」

「……え? あ、貴女は……前に日の下(ヒノモト)で会った巫女様……?」

「はい♪」


 炎の中から声が届き、そちらを見るといつかにヒノモトのお祭りで会った巫女様が居た。

 黒い髪に赤い目。優しそうな顔立ち。近くに居るだけで温もりがあり、まるで太陽のような人。例えるなら……太陽の女神様。


「私の行く場所じゃないって……一体……」

いずれ分かります。さあ、帰りましょう。貴女のお友達が待っていますよ」

「友達……そうだ。シュティルさん達……!」


「他にもお友達が出来たのね……良かった……」


 巫女様の手を取り、温かい炎の中に入っていく。

 遠目で見てた女性の瞳は安堵したようにも、どこか寂しそうにも思えた。


「これから元の場所に戻りますが、おそらくバフォメットには勝てない。私もあまり関われないので昔の知り合いに手助けを頼んでおきましたよ♪」

「昔の知り合い……」

「貴女も既に会ってます。さあ、お目覚めなさい」


 その言葉と共に、私は明るく綺麗な霧の中のお花畑から移転した。


───

──


「……!」

「気付いたか。ティーナ」

「シュティルさん……ッ……痛い……」

「無理はするな生死を彷徨さまよっていたが、治療はした。植物に包まれたお陰で全員、無事ではないが生きている」

「そうなんだ……」


 ぼんやりとした視界が痛みで晴れ、シュティルさんの顔が映り込む。

 私、危ない状況だったんだ。他のみんなもよく大丈夫だったね。と言うか植物に包まれてるって、そんな行動しなかった気がするけど。


「……いつの間に魔法を……」

「咄嗟の判断……思考より先に体が動いたのだろう」

「そっか……それでここは……」

「……見ての通り、“ホーンシップ”の──拠点跡地だ」

「……っ」


 見渡すとそこは、何一つ残っていない更地が広がっていた。

 異様な魔力の気配のみを感じ取る事が出来、中心にはそんな魔力に包まれたバフォメットの姿が。


【生きていたか。フッ、単なる呼吸にも等しき魔力でこの様……脆い、全生物は脆いな】


 呼吸みたいなもの。多分それは事実。余波だけで無法地帯の半数以上が消し飛んだんだ。

 これがバフォメット本来の力。おそらく防御力の方も魔力相応になっている筈。攻守に隙が無い……。


【さて、手始めに……攻撃するとしよう】

「「「…………っ」」」

『『『…………っ』』』


 来る……! 魔力の余波じゃなく、攻撃しようと思って放たれる魔術が。

 余波だけでこの威力。多分撃たれたらここに居るみんなが全滅しちゃう……。ガードしようにもダメージが思った以上に凄まじく、その態勢に移れない。いや、それだけじゃない。単純に魔力の圧力が凄まじく、私達の誰一人として動けない状況に陥っているんだ……!

 垂れ流されている魔力だけでこの有り様。そんな中で折角助けてくれたのに……結局私に勝ち目は──




「──やれやれ。こんな事になっていたとは。そこそこの魔力の気配はあったが、それによって生じた壁に阻まれて少々遅れてしまった」




「「「…………!?」」」

『『『…………!?』』』


 誰一人として動けない程の重圧。そんな中、優雅に歩み行く一人の姿が。

 赤い目が闇夜に光、月明かりに黄金の髪が反射する。

 私はその姿に、こんな状況にも関わらず見惚れてしまっていた。


「天照の奴め。数百年振りに再会したと思えばこの様な事を押し付けてからに。現世を生きる者の務めとは思うが……まさか留学初日でこんな事になろうとはな」


「エルマさん……!?」


 あの巫女様の知り合いって……エルマさんだったんだ。あれ? と言うか聞き馴染みのある名前が……レモンさん達の学校名って確か……って、それどころじゃない!

 この状況、一人で私達を庇うように立つなんて……! いくらエルマさんでも……そもそも実力を目の当たりにした訳でもないもんね……。


「下がっていろ……と、流石に動けないか。まあ、こんな状況で動ける者など限られている。ルミエルにイェラ。魔族の彼奴あやつ。その他にもひーふーみー……まあ極僅かだ。見事にアイツらの血族揃いだな」

「なんの話を……」

「そう考えると……フム、シュティルよ。まったく、お主は情けないな~。一応私の血を引いているというにこの有り様か」

「うるさい……。お前も若い頃はこんなもんだろ。むしろ同じくらいの年齢なら私の方が上だ」

「さてどうだろうな。若かりし頃の私……そうだな。数百歳くらいの時で英雄の更に数千年前、勇者と呼ばれた者と──」

「エルマさん! 危ない!」


【消え失せろ!】


 やって来て早々、バフォメットはエルマさん目掛けて魔力を撃ち込んだ。

 攻撃を目的として放った魔術。余波だけで広範囲を消滅させる程の力だったのに、それを受けたら……!


「──その時に初めての敗北を味わったな。自称ライバルのリッチが絡んだりしてきていたが、そいつは……」


【…………!?】

「エルマさん……」

「やれやれ……私達の苦労はなんだったのか……」


 放たれた攻撃はエルマさんの念力によって一纏めとなり、縮むように圧縮されて消え去った。

 語りの片手間でこんな事……。スゴいとしか言えない。


「おっと、そうだったな。バフォメットだったか。さっさと地獄に帰れ。私でなくとも今の貴様を倒せる者は思い当たる限りですらチラホラ居るぞ」


【舐めるな……どの道コイツらの所為で戻らざるを得ないのだ……死せずとも心身共に深い傷を負わせ、悪魔の力を思い知らせてやる……!】


「やれやれ。バアルら七大罪の魔王達はもう少し物分かりが良いのだがな。アイツから話を聞いたくらいだが、それだけで差が分かる」


【魔王連中を知っているのか……だが、どうでもいい! 私はただこの世界を支配するのみ!】


「心底下らぬな。世界征服の大変さも知らぬマヌケが」


 呆れたように言うエルマさん。この態度だけで分かる余裕。

 vsバフォメット。頼もしい味方が現れ、戦いは終局へと向かうのだった。


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