表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部二年生
318/458

第三百十七幕 悪魔との対決

【焼失せよ!】


 片手に魔力が込められ、そこから轟炎が放出された。

 実力は確かな物で、一直線に放たれた炎は森や近くの魔物さん達を焼き尽くす。

 簡単な攻撃でこの威力。なんて凄まじいの……と言うか冷静になって気付いたけど、この人何も着ていない……頭はヤギさんだけど体が人間の女性だからなんか目のやり場に困る……。


「“樹槌”!」

【上か】


 上空から植物を落とし、その体を押し潰す。しかし炎によって樹は焼き消され、もう片手で魔力の塊が放たれた。


「“樹木壁”……!」


 それは一点に集中した魔力からなる樹の防壁にてガード。壁は消えたけど、守る事は出来た。

 攻撃の隙を突き、シュティルさんとブラドさんが攻め立てる。


「はっ!」

「はあ!」


 前後から挟み込み、二つの大気が中心に居るバフォメットの元で破裂し、大きな爆発を起こす。

 風と衝撃波で辺りの物は吹き飛び、バフォメットは両手を薙いだ。


【効かぬと言っておろうが!】

「聞いてない」

「俺もだ」

【一々煽りを挟むでない!】


 両手からは魔力の鞭のような物が現れ、遠方まで円を描くように払われる。私は咄嗟にしゃがんで避けたけど、影響が及んでいなかった場所まで更地になっていた。


「自然を破壊するな。此処に棲む魔物達が困るだろう」

【どの道支配するのだ。そんな事はどうでもいい】


 至近距離で受けたシュティルさんとブラドさんに避ける余裕は無かったみたいだけど、両断された体はすぐに再生した。

 どんな回復魔法も凌駕するヴァンパイアの再生力。やっぱりスゴいや。


【消滅させてやる】

「先程から似たような文言ばかり聞く。語彙力は無いのか」

【無駄な言い回しをするより相手に伝われば良い。賢い振りなんざする方が阿呆よ】

「一理あるな。では、阿呆は阿呆らしく正面突破するか」

【再生力に甘えて乱雑な攻撃をする。だからヴァンパイアはやり易い】

「どの攻撃が致命的かは分かるのでな。今のところその必要は無い」

【減らず口を……!】


 飛び出し、バフォメットの眼前へと迫り行く。

 相手は魔力の鞭を巧みに操ってけしかけ、それら全てをかわしたシュティルさんは力を込めた。


「単純な筋力で仕掛けてみるのも悪くない」

【死人に筋力が付くのか?】

「ただの死者ではないからな」


 そのまま回し蹴りを放ち、バフォメットは片手で止める。そこに魔力が込められ、上からブラドさんが降ってきた。


「名付けるなら“降雷脚”!」

【天候付与の踵落としか】


 念力によって雷を蓄積しており、ヤギさんの脳天に当たると同時に放電。ゴロゴロと言う空気の膨張によって奏でられる破裂音が響いた。

 けれどそれを受けても怯む様子すらない。本当に頑丈な体なのか、ダメージ条件が根本的に違うのか。

 そのどちらにしてもイマイチ決定打は掴めていなかった。


「“夜薙樹”!」


 でも、だからと言って攻撃の手を止めたら始まらない。安全地帯に行って話し合う時間もないからね。

 なのでせめてもの弱点か何かを見つける為、無数の木々を叩き込む。

 ドドドドド! と降り注ぎ、辺りには砂塵が舞い上がった。


「“風球”!」


 その樹の雨を通り抜け、ブラドさんは風の球体を当て、バフォメットの体を吹き飛ばした。

 追撃するなら今がチャンス!


「“特大樹拳”!」

【……!】


 一点集中の樹木からなる植物を打ち付け、更に遠方へと追いやる。

 距離を置けば時間が生まれ、話し合う事も可能。私達は迅速に情報共有を行う。


「それで、相手の弱点になりそうな物は!?」

「今までの攻撃から考えて、体に当たれば吹き飛ぶしひしゃげる。つまり実体はあるという事だね」

「だが手応えが無い。まるで実体があるだけの木偶を叩いているような感覚だ」


 一通り仕掛けてみた結果、確かに吹き飛んだりはしているけどダメージだけが無い感じになっていた。

 だけどルミエル先輩の行うような、一定以上の威力が必要なバリアやシュティルさん達のような再生力ともまた違った感覚。

 リアクションが薄いのもあるかもしれないけど、ダメージが蓄積している様子も無い。


「そうなると考えられる線は一つ。奴がこの世に顕現する切っ掛けとなった、そこら中に散っている鏡だ」

「「………!」」


 そこに、シュティルさんからの言葉。

 確かに彼女はバフォメットが鏡の中から出てきた様を見ている。私もほんのりと記憶がある。

 単純な地獄への出入口だけかもしれないけど、今のところ可能性があるとしたらそれくらい。

 風雨や雷、それによって生じた火など様々な属性による攻撃も確認済み。植物魔法による圧倒的な質量、物理攻撃も既に試した。当然、全身を隈無く叩いている。

 他にもギミックは色々とあるかもしれないけど、ざっと思い付く攻撃はしているので考えられる線はそれくらいだよね。

 当然、単純に私達の攻撃が相手にとってはリアクションする必要が無いくらい低い可能性も残っているけど。


「じゃあ取り敢えず、周りにある鏡を攻撃してみれば良いのかな?」

「現状、それくらいしか無さそうだからな。違ったら違ったでまた別の方法を模索するさ」

「ダイバースでも同じ事だ。攻略方法が分からないなら、あらゆる手段を試してみていずれ正解に当たるのを待つ。早い者勝ちのゲームなら危ういけど、特殊なギミックをもちいる相手なら最適解となる」


 シュティルさんの情報の元、私達の狙いは周りにある鏡にする事とした。

 既に戦闘の余波でいくつかは割れているけど、よく考えたら“いくつか”と言うのが変。

 森が更地になり、さらに抉れるレベルの攻撃。魔道具や魔力強化でもされていない限り、普通の鏡ならとっくに“全部”が割れている筈だもん。

 つまり、魔力強化されたバフォメットの鏡。それが弱点の可能性は十分にあった。


「さてと。やって来たぞ」

「復帰も早いね」

「ノーダメージならただ移動するだけだからな」


 話し合いが終わった辺りでバフォメットが空中にたたずんでいた。

 当然魔力での空中浮遊は可能だよね。でも、私達のやる事は決まったから目線だけは向けて大々的には無視するようにする。攻撃はしてくるから、避けながら戦うのは大変だよね。


「じゃあ俺が行こう。今のメンバーで一番強いのは俺だ。足止めしてくる」

「ブラドさん……!?」

「良い案だ。リーダーならヘマをする事も無かろう。目的は見失うなよ。ティーナ」

「う、うん……!」


 当然それはブラドさんも把握済み。なのでみずから囮役を買って出た。確かに私達の中では一番強いもんね。

 シュティルさんの言う通り、今は可能性の一つである鏡を割って出なきゃ。この方法すら定かじゃないんだし、“心配”ではなく“信用”して任せるのが一番。


「任せました……!」

「行こう」

「ああ、任せてくれ。後輩達」


【他の二人は逃げるか。フッ、構わん。こう見えて自認は女……顔の良いオスのヴァンパイアは好きだ】

「こう見えてって……確かに見た目だけなら女性だが……何も言うまい。そんなナリの存在はこの世界に五万と居る」


 遠方では炎と天候のぶつかり合いを確認した。

 スゴい威力。ブラドさん、私達に気を使って本気を出していなかったんだ……巻き込んじゃうから。


「さて、地上は戦い難いな。天まで付き合って貰おう」

【大胆な告白だな】

「冗談。俺が決めるのは天命次第。天から見放された悪魔は恋愛対象外だ」

【はて、先程の女ヴァンパイアは神も悪魔も関係無いと述べていたが?】

「それもまた信条。全生物の考えが同じだったら個である意味がない。肉体に生気は無いが、生きていると胸を張れるのだからな」

【信仰深いヴァンパイアだ。貴様、同じ種族の中でも異端だろう】

「そうかもしれない。俺の遠い祖先はシュティルの通う学園の学園長にアタックし続け、一度も振り向いて貰えずあしらわれ続けた伝説があるんだ」

【……異端の方向性が違うな】

「まあ取り敢えず、天上ランデブーだ」

【……!】


 鏡を探す中、ブラドさん達の居る場所で縦に突き抜ける一迅の風が吹いた。

 それによって下方の砂塵は舞い上がり、夜空の雲が退けるように消え去る。

 下では私達が鏡の捜索をおこなっているから邪魔にならないように空へ移動したみたい。

 ありがとう。ブラドさん。


「あった!」

「此方も見つけたぞ!」


 そのまま鏡の捜索を続ける。直ぐ様見つけ出し、早速植物や自分達の力で粉砕。

 確かに頑丈だけど、割れない強度ではない。どれくらい壊せば良いのか分からないから取り敢えず粉々にしておいた。


「微量な魔力が鏡から漏れ出てる……気配は追えるかも」

「その様だ。ブラドは持久戦に強いが、悪魔の力も明確には分からない。急ぐぞ」

「うん!」


 見つけては粉砕。見つけては粉砕。それを繰り返し、数十枚の鏡を割って更なる準備を整える。

 残りは少ない。お城に戻って“神魔物エマテュポヌス”の他のメンバー達にも手伝って貰い、至るところから出てきた鏡を割り終えた。

 残りの鏡は──


「この一番大きな……王室の鏡」

「最後がこれで良かった。すんなり見つけられたな」


 最初にバフォメットに乗っ取られたラセツさんの居た部屋にある大鏡。部屋自体は戦闘の余波で崩壊しているけど、不自然なまでに形が残っているこれがそうだと確信した。

 周りにあった鏡も漏れ無く割れてるのに、これは流石に変だよね。


「これを割ってどうなるか分からないけど」

「やるだけやるしかないな」


 魔力を込めて植物を生成し、シュティルさんは今一度空気を圧縮して一点に込める。

 これを割る事によって結果が──


【──させるか!】

「「………!」」


 その瞬間、空からバフォメットが落ちてきた。

 天井は崩れ、お城は完全崩壊を喫する。

 この焦り、慌て様。半信半疑だった考えが少し“信”へと傾いた。

 だけども鏡を背に立ちはだかり、上からブラドさんも降ってくる。その姿はボロボロだった。


「ブラドさん!」

「心配すんな。軽傷だ。ほら、もう治った」

「そ、そうですね」

「フッ、完全に消滅させられていないのを考えると、戦いは互角だったようだ」

「まあ、そう言う事にしておこう。その方が格好が付くからな。本音を言えば再生とノーダメで泥試合なんて物じゃない沼だったが、互いに与えた回数は同じくらいだ」


 大したダメージは負っていない様子のブラドさん。傍から見たら負ってたけど、もう治っちゃったもんね。本人の感覚だと本当に掠り傷にも満たないんだと思う。

 この鏡が割られるのを恐れ、一撃だけ与えて降り立ったのが今のバフォメットかな。


「それで、その鏡を必死漕いて守る様。弱点……もしくはそれに匹敵する大切な物のようだな」

【その言い方ならば正解だ。これが無くては困るのでな。守らせて頂く】


 その言い方なら。つまり弱点かどうかは定かじゃないけど、本当に大切な何かみたい。

 誰かから貰った物とかかな? だとしたらちょっと可哀想……。


「ティーナ。素振りで分かるが、君は純粋過ぎる。いいか、悪魔は基本的に嘘吐きだ。行動からして奴の大事な物には変わり無いと思うが、何を指し示す大事かは相手次第。人間の物差しでは感覚が違う」

「そ、そうなんだ。あまりにも必()だったから……大切な人から貰った宝物かと……」

「その可能性も0とは言い切れぬが、地獄も現世も支配しようとしている奴の性格を考えてみろ」

「た、確かに……」


 言われてみればとハッとする。

 そんなに大切な人が居るなら、この世界を支配する必要性があまりないから。

 地獄なら大切な人と別れる事も無いし、楽に暮らしたいとかなら敵を増やす支配は現実的じゃない。

 もうちょっと考えなくちゃだね。悪魔は一見したら自分に有利な条件で取り引きを持ち掛けるけど、実態は損しかない。その事を肝に命じておかなきゃ。……まあ今の私は勝手に勘違いしちゃっただけだけど。


「何はともあれ、鏡は鍵だ。砕くぞ」

「うん!」

「ああ」

『『『オオオォォォ━━ッ!!』』』


 この場所には大きな鏡があるので、バフォメットも広範囲の攻撃は出来ない筈。だったらその隙を突くのが一番。

 味方の魔物さん達と共に即座に行動を開始し、ブラドさんが足止めを担ってけしかける。


【多少の制限など問題ではない。一人一人、一匹一匹、確実に滅ぼしてやる!】


 魔力のオーラは凄まじい。だけど、関係無い。攻撃するのみ!


「“樹海行進”!」

【この程度……!】

「狙いはそこじゃないよ!」

【……!】


 私達は、仲間の居ない正面にならどんなに大きな攻撃を仕掛けても問題無い。

 なので樹海を生成して直進させ、バフォメットの体を飲み込む。そのまま鏡を割れれば上々だけど、本当の目的は目眩まし。


「はあ!」

【しまっ……!】


 何度か使っているやり方だけど、効果的だよね。

 植物に仲間を紛らせ、気を取られているうちに本命を狙う。去年の年末もこれに似た方法でルミエル先輩も出し抜いたんだもん。

 飛び出したシュティルさんが鏡へ念力を放ち、衝撃波を与える。それに続くよう、味方の魔物さん達も攻撃。

 当のバフォメットは私と──ブラドさんで足止め。


「アンタを自由にはさせないさ」

【ぐぅ……小癪……!】


 下方から大気を放ち、バフォメットの体を上昇させる。

 空中でこらえ、魔力の放出にてシュティルさん達を薙ぎ払った。

 誰もリタイアしていないし、鏡には確かなダメージがいっていた筈だけど……。


「……! 多少のヒビはあるけど、ほとんど無傷……!」

【私の魔力で、特に強化した鏡だ。そう簡単には砕けぬ!】


 それもそっか。もし弱点や大事な物ならその強度を高めているのは当然の事。もっと渾身の一撃を放たなきゃならないけど、油断から完全に警戒態勢になったバフォメットを出し抜くのは至難の技。

 それでも何とかしなきゃね。……でも、どうやって。


【貴様ら全員、吹き飛べ!】

『『『…………!』』』

「みんな……!」


 魔力の衝撃波が放たれ、味方の魔物さん達が飛ばされる。

 ここはお城の最上階。大丈夫だとは思うけど、戻ってくるには少し時間が掛かるかもしれない。

 ただでさえ相手は警戒しているのに数まで減っちゃったのは痛いかも……。

 ちょっと不利になり、バフォメットは更なる魔力を込めていた。そこに向け、私達は植物魔法を放つ。


「“特大樹拳”!」

【効かぬわァ!】

「……っ」


 大きな樹木の拳は、魔力の放出によって粉砕された。

 本当に強い。ちゃんと一点集中の攻撃だったけどそれすらこんな簡単に防がれちゃうなんて。

 何とか考え、模索する。バフォメットを出し抜く方法は──


『ウオオオォォォォッ!!!』

【……!】

「……!?」

「あれは……」

「──ラセツ……!?」


 その瞬間、ラセツさんがこの部屋へと飛び込んできた。もう目覚めたんだ! ……ううん、ここはあの人のお城だから当たり前。でもこんな時に……あんな傷だらけの体で……!

 相変わらずの大剣を振り回し、勢いに任せて巨大な斬撃を──


『はあ!』

【ぬぅ……!】

「……!」


 ──バフォメット(・・・・・・)の方に放った(・・・・・・)


 ……あれ?

 私はてっきりまた敵になるのかと思っていたけど、全然違った。

 ラセツさんは言葉を続ける。


『──ティーナ・ロスト・ルミナス! 及び“神魔物エマテュポヌス”のブラドにシュティルよ! 積もる話は後! 我ら──“ホーンシップ”一同、お力添え致す!!』


「ぇ……? えええぇぇぇぇっ!?」


 まさかの乱入。そして私達の味方……?

 よく分からないまま、ラセツさん達“ホーンゴート”改め、“ホーンシップ”がvsバフォメットの戦場に参戦した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ