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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部二年生
317/458

第三百十六幕 

【世界を支配する足掛かりとなれ!】

「断るしその様な事は不可能だ」


 バフォメットの魂が宿った植物からなる依り代。ティーナの様子は少し変だが、ラセツのように乗っ取られる事は無かったらしい。

 過去の映像を見れば催眠なども無効化していた。何が理由か、ティーナはそう言った物の類いが効かない体質のようだ。

 ともすれば既に離れ掛けている彼奴を完全に引き離せばティーナは戻ってくる。簡単な作業だ。


「さっさと友から離れよ。畜生風情が!」

【既にギリギリだ……!】


 踏み込み、加速。黒き翼を広げ、バフォメットの元へと肉薄する。

 私の弱点は太陽や聖なる力を込めた十字架などだが、此奴は所詮悪魔。私の弱点を突く術は無い。


「消え失せろ!」

【消えるか……!】


 念力を込め、大気を圧縮。植物を依り代にしたバフォメットはその植物を放って迎撃。

 しかしながら、ティーナの精度に比べたら弱者もいいところだ。


「容易い」

【……!】


 植物を駆け抜け、バフォメットの眼前へ圧縮した大気を当てる。瞬時に破裂し、内部からその体を粉砕させた。

 とは言え肉体は無く植物に魂を宿しているだけ。大したダメージにはなっていないか。


【ケヒャア!】

「その奇声はなんだ」


 体は周りの植物が集って再生し、ツタの鞭が私へ迫る。

 速度は音速以上。特筆した魔力も筋力も無い人間の鞭捌きでもマッハ3は出るんだ。何も不思議ではない。


「植物には雷か」

【……!】


 鞭をかわし、天からいかづちを降り注がせる。

 ティーナの魔力を触媒にしているから早いところ引き剥がしてやりたいな。彼女の魔力は底無しだが、実際には底がある。今の出力はいつもより抑えられているが長期戦は避けねばな。

 日が昇れば私としても辛くなる。此処は日の少ない森であり、私に流れる魔族の血のお陰で多少は耐えられると思うが早急に仕留めるに越した事は無い。


【調子に乗るな!】

「貴様だろ」


 雷によって引火した植物の炎を操り、私へ向けて放つ。これはティーナの炎魔法ではなく、バフォメット自身の魔術。

 しかし炎か。暫くは再生し続ける事は出来るが、四大エレメントでは唯一聖なる力をもちいずにヴァンパイア族を消し去れる力。

 直撃するのは少々問題か。……いや、別に突き抜ける事も不可能ではないな。


「はっ!」

【……! 当たったのに……燃えてない……?】


 その方法を用いてけしかけ、バフォメットの体を蹴り飛ばす。そこへ嵐の球体を叩き込み、更に吹き飛ばした。


【成る程な……体へ薄い水と空気の膜を貼ったか】

「流石に気付くか」


 用いた方法それは、念力によって外側に空気……主に二酸化炭素。それと内側に水の膜を貼り、炎の通り道をさえぎるやり方。

 これならば余程の火力でなければ剥がされまい。本来のバフォメットなら分からぬが、今はあくまで仮初めの姿。ティーナの精神力のお陰もあって大分弱体化している事だろう。

 それに加え、今の肉体が植物だからあまり強い炎は出せないからな。


【ならば防御膜を剥がし、直接火入れをしてやろう】

「形が出来て流暢に話すようになったな。粋なジョークまで交えて何よりだ」

【冗談で済めばいいがな】


 体の植物が放たれ、私の防御膜を剥がそうと試みる。

 しかし相変わらずティーナより精度が低く避けやすい。だが体が植物なのもあってイマイチ手応えを感じない。

 全てを纏めて吹き飛ばす方が良いか。


「仕掛けるか」

【……!】


 体勢を低くし、翼を広げる。踏み込むと同時に念力で集めた風を放出して最高速度で加速した。

 無数の植物や炎が迫るが、多少のダメージは防げる。念力で体も覆っており、今まで以上に頑丈にしてあるからな。

 天候を一点に集め、魔力も込めてみる。こう見えても魔族の血が流れているからな。魔導に対しても多少の心得はある。

 自然と自前の両方を集め、より強大な力としている。今までにおこなった事の無い方法だが、割とすぐに感覚も掴めた。


【この速度……】

「もう一度言う。ティーナから離れろ」


 込めた魔力を解放し、バフォメットの宿いし植物を粉砕させた。

 内部からぜるように散り、ボトボトと崩れる。


「さて、粉々にしたが果たしてどうなるか」


 多少は攻撃を受けてしまったが、その傷は即座に再生する。

 その過程の中、完全に崩れ行くヤギの形をした植物を見届けた。


「これで終わりか? 妙に呆気ないが」


 疑問はあるが、一先ずはティーナ優先。

 絡み付いていた植物が離れ、その体が倒れるように地へ落──


「大丈夫か?」

「……う……ん……シュティルさん……?」


 ──とさない。

 大切なモノを落とす訳にはいかないからな。今のティーナは魔力で身体能力が強化されておらず、生身では危険が多い状態。数メートルの高さであっても油断は出来ない。

 ゆっくりと抱き寄せ、取り敢えずはこの場から──


「……!」

「……!? シュティルさん……!?」


 離れようとしたんだがな。ティーナに当たらなくて良かった。

 私の片腕は失ったが、この程度は軽傷のうちにも入らない。傷と言える代物では無いという事だ。

 即座に再生させ、ティーナをそっと寝かせて振り返る。


「それが貴様の姿か。……フム、周りの鏡に……現在の時刻。地獄から引っ張り出したか」

【ああ。やはり自分の体は馴染む。日付の変わる頃に合わせ鏡をすれば悪魔が現れる。よくある話だ】


 鏡の中から黒い影。あれがバフォメットの本体と言ったところか。

 植物はあくまで依り代。要するに本体が到達するまでの時間稼ぎだったという訳だ。

 何はともあれ、ティーナを助けられたという事実だけで十分だ。相手が此処で本気になったとして、実力が如何程の物かは分からぬが戦力は整った。


「片付いたから後は仲間達に任せて来てみたら……。何だかとんでもない事態になっているようだね」

「ブラドさん……」

「いや、タイミングは良い。敵はバフォメット。色々あってラセツに宿っていた奴が現れ、ティーナに取り憑こうとしたが失敗し、代わりの物に宿った所を破壊したら合わせ鏡で地獄から本体が現れた所だ」

「そうか。簡潔な状況説明助かる。つまりアレを倒せば今回の騒動は収まるという訳だ」

「そうなるな」


 現れたバフォメット。到着したブラド。解放され、目覚めたティーナ。

 状況は簡潔。バフォメットを倒せば万事解決。容易くは無さそうだが、何とかなるか。



*****



 憑き物が取れたような感覚となり、まだ少し体が重いけど立ち上がる。

 近くにはシュティルさんとブラドさん。そして目の前には悪魔──バフォメット。

 意識はあり、何が起こったかも把握しているのによく分からない不思議な感覚。だけど体は問題無く動き、体力も魔力も全然減っていない。

 話からするに、あの悪魔さんをお家に帰せば良いんだね。


「私も戦うよ。二人とも……!」

「体調は大丈夫なのか?」

「うん。むしろスッキリしている感覚……!」

「デトックス効果のような物か。悪魔を使ってリフレッシュするなんて贅沢だな」

「ふふ、そうかも!」


「本当に色々あったんだな。君達」


 よく分からないけど、よく分からないなりに戦える状況は整った。

 既に植物は展開してあり、一気にけしかける。


「“樹拳”!」

【フム、私の時より遥かに威力が高い。やはり憑依の方は専門外だな】


 樹木を放ち、バフォメットは紙一重でかわす。

 そこ目掛け、シュティルさんとブラドさんが突撃した。


「サポートは頼んだ」

「俺達も仕掛けるか」

「うん!」


【しかと連携も取れている】


 植物によって場所を動かし、二人が挟み込むように念動力からなる天候を放出。

 圧縮され、逃げ場を失ったそれらはバフォメットの近くで破裂し、私以外の植物も含めて吹き飛ばした。


【クク……避ける必要は無さそうだ】

「「……!」」

「無傷……!」


 森を吹き飛ばす程の攻撃を受けてもなお、無傷でたたずむバフォメット。

 これは難敵。ダイバースの代表戦クラスの実力者の攻撃を食らってこれなんて……。

 相手は魔力を込めた。


【私の番だ】

「「……っ」」

「シュティルさん! ブラドさん!」


 込めた魔力を即座に解放し、二人の体は吹き飛ばされる。

 単なる魔力の放出のみで地面にはクレーターが造られ、二人の半身は無くなっていた……けれど即座に再生する。


【ヴァンパイアという種族は厄介だ。細胞があればそこからたちまち蘇る。だが、今の私なら細胞一つ残らず消し飛ばす事も可能だろう】


「これが悪魔の本領か。持久戦になりそうだな」

「やれやれ。久し振りに帰ったら相手がこれ。これも天命として受け入れよう」

「強敵だね……!」


 二人だから大丈夫だけど、私だったら一堪ひとたまりも無かった。

 地獄からやって来た悪魔バフォメット。これは予想以上の相手だ。


【まだ現世の感覚に慣れていないからな。不死身のヴァンパイアを使って肩慣らしをしよう】

「あまり舐めるなよ。依り代では私達に一度も勝っていないのだからな」

【依り代は依り代だ。時間を稼ぎ、この体に成るのが目的。つまりもう達成され、後は順を追って数千年前より遥かに衰えたこの世界を支配するのみ】

「数千年前には出来なかったという訳か。逃げ出した敗者が」

【随分と口が悪いな……。悪魔はそう簡単に怒らぬが、少々腹が立つ】

「図星を突かれて苛立っているではないか」

【分かってないな。機を待っていたに過ぎん】

「だがやれなかったのだろう。結果は変わらぬよ」

【……フッフッフ……そうか。本当に命が要らないようだ……!】


 な、なんかよく分からないけど口喧嘩ではシュティルさんが勝ってる。

 ペースはこっちに引き寄せる事が出来たのかな。それじゃあこのままの調子で上手く勝利を掴みたい。

 私達とバフォメットの戦闘。色々あったけど、本格的にスタートした。

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