第三百十四幕 無法地帯へ
──“三時間後”。
話し合いから予定通りの時間。夜も遅くなりそうだから私は仮眠を取り、万全の状態にしてシュティルさんの元に集った。
「ゆっくり休めたか? ティーナ」
「うん、バッチリ! いつでも戦えるよ!」
「そうか。それは何より。では、行くとしよう」
既に無法地帯へ行くメンバーの準備も終えている様子。だけど何人何匹かは拠点で待機。攻め込まれる可能性もあるからね。
だったら私としても拠点に事前準備をしておこうかな。
「行く前に……“フォレストゴーレム”&“フォレストビースト”!」
『『『………』』』
『『『………』』』
それは私達の代わりに拠点を守ってくれる存在。
この子達が居れば拠点の層は厚くなるし、何か異変が起きても私に感覚が伝わってすぐに駆け付ける事が出来る。
『おお、これは心強い!』
『拠点の方も安心だ!』
ふふ、喜んでくれて嬉しい。誰かの役に立つって良いね~。
そんな感じで準備も整い、重鈍な扉が開いて無法地帯への入り口が開通した。
「此処から先は法の届かぬ場所。一切の責任は誰も取らず、全てが自己責任になるが良いか?」
「うん。覚悟は出来てる……!」
行く数はそんなに多くはない。少数の方が行動しやすく、大勢を巻き込むにはいかない為。
とは言え無法地帯は常に戦闘が必至。バレずに行くとか目立たないのはまず無理らしい。
それを踏まえた上で、私達は最善の行動を起こす。
「そうだ。行く前に一つ。ティーナには紹介しておこう」
「紹介?」
そして向かう前、シュティルさんから呼び止められた。誰かの紹介があるらしい。
彼女は言葉を続ける。
「ああ。つい先程合流した“神魔物エマテュポヌス”のリーダー。私と同じヴァンパイアの──ブラド・ナイトだ」
「よろしく。ルミエル・セイブ・アステリアの後輩だっけか」
「え? シュティルさんがリーダーじゃないの!?」
「うむ。中等部の大会に出るに当たり、そこではリーダーを務めているが、真のリーダーは彼になる」
「あれ……俺の事は無視?」
その紹介とは、このチームのリーダーさん。
確か去年ルミエル先輩と代表戦で戦っていた相手だよね……。確かにチーム名は同じ“神魔物エマテュポヌス”。この人がリーダーさんだったんだ。
あ、挨拶しなきゃ!
「よ、よろしくお願いします! “魔専アステリア女学院”のティーナ・ロスト・ルミナスです! 去年はルミエル先輩と戦闘が成立していたなんてスゴかったです!」
「あれ? それは褒めてくれているのか? まあいいか。取り敢えず、自チームが戦争するってなったら手を貸すのは当然だ。共に戦おう」
ルミエル先輩に注目していたから実力は詳しく覚えていないけど、あの舞台で渡り合える実力があるのは十分過ぎる。
先輩と同年代なら今は大学生か既にお仕事しているかだけど、そんな忙しい中来てくれるなんて優しいね。
心強い助っ人も入り、他にも何人かの主力と共に無法地帯へと乗り込んだ。
──“無法地帯”。
「ここが無法地帯……。何と言うか、普通?」
「まあ、生き物の暮らす場所。生きて行けるだけの環境はあるさ。進んで棲み処を壊す方が変だろう。他より野性味が強いと認識していれば良い」
「言われてみれば……そうなんだね」
門から出るや否や、目に入ったのはよく見るような森だった。
私としてはもっと荒れていたり、その辺に倒れている魔物さんが沢山居るような荒廃した土地をイメージしていたけど、魔物さんの生活基準を思えば快適そうな場所。
シュティルさん曰く、自分からお家を壊す事が無いように暮らせるだけの環境は残しているとの事。
確かにそれもそうだね。食べ物とかお水とかが無くなっていたらもっと早くに無法地帯から都市部に来ていそうなもの。それが無いという事は、仕掛けられない限り平行線を保っていたんだ。
その均衡がこの数日間でラセツさん率いる“ホーンゴート”に破壊された。ここに住んでいる魔物さん達からしても迷惑な行為なのかも。
「でもこの中から拠点を探さなきゃならないんだね。気配は沢山あるから辿るのが難しいけど、場所に心当たりはあるの?」
「そうだな。ある程度の縄張りは把握している。無法地帯にも力の持つボスがおり、そう言った格の者達は徒党を組んでいたり拠点があるからな。敵意があれば迎え撃ち、無ければ放置でも構わない。一重に群れと言っても多種多様だ」
「複雑なんだね~」
無法地帯に置いても、無法地帯なりのルールはあるみたい。確かに全員が全員どこにも付かず放浪している訳が無いもんね。コミュニティやパーティって概念はあるんだって。
そんな事を話していると、武器を持った人型の魔物が私達の前に姿を現した。
『ケヘヘ……身なりの良い奴らだ!』
『外部から来やがったな!』
『寒さを凌ぐ布と新鮮な肉だァ!』
「噂をすれば……」
「寧ろ会うまで遅いくらいだ。一分歩けば三チームには出会うからな」
「そんなに……」
やっぱり服装や見た目で都市部から来た事が分かるみたい。それに衣服はともかく新鮮な肉って……深くは考えないでおこう。
シュティルさんはその人? 達に話す。
「新鮮な肉がご所望なら悪いな。私の体は生まれつき賞味期限切れだ」
『『『ケヒャッ……!?』』』
力を込め、一瞬にして吹き飛ばした。
シュティルさんの念動力は遠隔相手にはもってこい。近くの相手でも簡単に意識を奪える。
敵対すると大変だけど、味方だとスゴく頼もしいね。
『コイツ……!』
『ヴァンパイアか……!』
『上流階級が俺達の国に……!』
「頭の悪い貴様らでも流石にヴァンパイアは知っているか。ならば消え失せろ。多少不味くとも、貴様らの血を戴いても良いんだぞ?」
『ヒ、ヒィィ!』
『逃げろォ!』
『お助け~!』
軽く脅しを入れ、その人達は全員が逃げ出した。
なんかあっさりしているね。無法地帯に居る時点で怖がりな印象は無いんだけど。
「随分とあっさり手を引いたね。執着心は無いのかな? 私達にとっては好都合だけど」
「無法地帯にも序列があるからな。外側に近い程中心部から追いやられた弱者の集いとなる。この近辺に居るのは雑魚だけだ」
「そうなんだ……」
無法地帯もやっぱり複雑。けどそうなると、気になる点が一つ。
「ラセツさんって人はどの辺りに拠点を置いているの? 無駄な争いは極力避けたいから場所を絞れると良いんだけど……」
「そうだな。大体中層付近だ。収めた二割というのはあくまで外層の弱小チーム。勢力を伸ばすに当たり、弱い所から崩して中心部には数で畳み掛けるつもりなのだろう」
「そうなんだ……」
中層。そうなると実力も丁度無法地帯の真ん中くらいかな。
話し合いで解決出来るのが一番だけど、そんなに単純じゃないと思うし戦いは避けられない前提で話が進んでいるよね。
「一先ずいくつか当てがある。そこに向かい、情報収集をして直接叩くぞ」
「うん……!」
『『『オオオォォォォッ!!』』』
「いいね。俺が居なくてもしっかりリーダーとしての役割を果たしている」
今一度気合いを入れ直し、思い当たるという場所を片っ端から探る事にした。
「吹き飛べ」
『『『グッハァァァ!!』』』
「場所、教えてくれるか?」
『『『…………っ』』』
「なんだ。知らないのか」
──武力行使で。
予想はしていたけど、穏便に済む事は無いよね……。
シュティルさんはとにかく吹き飛ばして場の制圧。ブラドさんはゆっくりと追い詰めて聞き出そうとするも、関わりが薄い魔物さん達は知らないのが多いみたい。
『ぐっ……ラセツさん……は……ここより北側……中心部付近に居る……』
「だってー! ブラドさんにシュティルさーん!」
「フム。君が一番やり手だな。ティーナ」
「シュティルの友人でルミエルの後輩……。前評判以上だ」
私も他のみんなと同じように情報を聞き出す為、一番格の高い魔物さんを拘束して締め上げ、情報を吐かせた。
思ったより簡単だったね。傷付けなくていいから気持ち的にも楽な感じ!
その情報を元に、そのまま締め上げて道案内をさせる。
『身ぐるみと命置いてけェ!』
『ヒャッハァ!』
「うわぁ~。本当に沢山居るんだね~」
『『……ッ!?』』
その道中、本当に一分間で複数が襲い掛かってくる。
でもまだ外層付近だから実力は無く、植物を薙ぎ払うだけで倒せていた。
「みんなー! 邪魔な魔物さん達を倒しちゃってー!」
『『『…………』』』
『『『…………』』』
「ティーナのお陰で随分と楽に進める」
「場の制圧力が高いな。力を温存出来るのはいいが、大したものだ」
少し行く度に敵が出てくるなら、ゴーレムやビースト達を先行させて出会う前に倒せば良い。
戦闘に置いてはルール無用のこの世界。予め退かして置けば大丈夫!
そのまま突き抜け、月がハッキリと映るようになった時間帯には中層部のラセツさんが居るという拠点に到達した。
──“ホーンゴート・拠点”。
そこはまるで要塞のようであり、奥にはお城のような建物が見えた。
無法地帯にこんなにしっかりした建物があるなんて、力が強ければ良い生活が出来る場所なんだね。
『なんだあの者達は?』
『何処ぞの馬鹿な魔物だろう』
『ここに挑むなど命知らずだ』
『外層付近でまだ逆らう奴が居るとは』
見張りの魔物さんが何匹か。でも警戒はしていない。この調子なら奇襲は掛けられるかもしれないね。
そうと決まれば即刻仕掛け、なるべく力を温存して話を付けるまで。
「シュティルさん。この建物は壊しても大丈夫?」
「そうだな。今のところ利用する事もない。そもそも私達の拠点も多少は破壊されたからな。此処に棲む魔物達が路頭に迷わない程度になら破壊しても構わなかろう」
「うん、分かった」
『『『…………!?』』』
念の為に確認し、許可が下りると同時に魔力を集中させる。
周囲の森を操り、一つの塊とした。
「“樹海拳”!」
『こ、この力……!?』
『何故この様な者が外層付近に……!?』
『都市部からの……!?』
『ならば“エマテュポヌス”の報復……!?』
反応している間に森その物を叩き付け、要塞を粉砕した。
そこから更に成長を促して私達のテリトリーとし、ゴーレムとビースト達を放って一気に嗾ける。
こう言うシチュエーションはダイバースで何度も直面した。相手の機能を停止させれば勝ち筋が見えるの!
「凄まじい威力だ。映像では何度か見たが、このレベルの植物魔法を使うか。シュティルが敗れるのも分かる」
「フン、今度は勝って見せるさ」
文字通り道は切り開いた。そこからシュティルさんとブラドさん、他のメンバー達で攻め入る。
“ホーンゴート”への攻撃を開始した私達。この時点で気付かれたと思うけど、どの道戦いが始まれば知られる事。奇襲込みで大打撃を与えられたなら上々の成果。
本格的な戦いが始まるのだった……って、留学先でする事なのかな? シュティルさんのお手伝い出来るなら良いけどね!
─
──
───
──“???”。
『ラセツ様。“神魔物エマテュポヌス”の者達が攻めて来ました』
『………』
戦いが始まった一方、暗い部屋にて情報が伝えられた。