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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部二年生
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第三百十三幕 カチコミ

 ──“神魔物エマテュポヌス・拠点”。


「これは……まだそこまで侵入はされていないようだな」

『はい。なんとか持ち堪えています』


 数ヶ月振りにやって来たシュティルさん達のチーム拠点の様子は、少々騒がしさがあるけどそこまでピンチに陥っている様子は無かった。

 でもそうだよね。シュティルさん以外でもダイバースで好成績を収めるようなメンバーが揃っているんだもん。そう簡単にはやられないや。


「今回来ているチームって?」

「“ホーンゴート”だ。その名の通り角のある魔物を中心に構成されている。最近小競り合いがあってな。先日、午後に用事があると言っただろう? まさにこのチームがその時の抗争相手だ」

「成る程……」


 拠点に襲撃を掛けているのは“ホーンゴート”というチーム。角のある魔物がメンバーの中心との事。

 前にシュティルさんの用事となっていた抗争相手のチームがそれなんだね。

 シュティルさんは言葉を続ける。


「オーガの率いるチームで、こんな感じの侵略行為は今までに無かったんだがな。会った事はないが、無法地帯でも話の分かる奴と聞いている。しかし最近になってチーム名を変え、急速に勢力を拡大して幅を広げ、無法地帯の二割は収めたらしい。元が力の強いオーガ。その気になれば可能ではあると思うがな」


「オーガ……。ウラノちゃんがよく召喚している魔物だね。レモンさんの知り合いにも居た気がする」

「種族としては世界中に居るからな。今回の首謀者は十中八九、“ホーンゴート”のオーガ。“ラセツ”だ」

「ラセツさん……」

「名だけなら神話にも出てくるが、それは同名の別人。しかし力は確かなものだ」


 オーガのラセツさん。それが“ホーンゴート”のリーダー。

 首謀者もチームも分かっていて手を出せないのは多分無法地帯の中にあるからかな。ここもその近くではあるけど、一応無法地帯の管轄外。だから下手に手を出すと都市部に迷惑を掛けちゃうんだ。

 ちなみに無法地帯云々の知識は来る前にある程度勉強した成果。大きな被害になる可能性があるので、周辺の魔物さん達は無法地帯には極力関わらないようにしているんだって。


「一先ずまだ侵入まではされていない。一気に打ち倒す。ティーナも手伝ってくれ」

「うん、そのつもり! その為に来たんだもん!」


 一通りの説明を終え、私達はそこへ急ぐ。

 この説明も向かっている間にしていたもの。ちゃんとその辺は時短しておくよ。

 少し行き、一際広く、悪い意味で盛り上がっている場所に辿り着いた。


『通せェ! 角無き下等生物共ォ!』

『我らの角を散々利用した奴らを許さず殺せェ!』

『都市部で最も力のある“エマテュポヌス”を滅ぼせェ!』


『させるかァ!』

『ツノの有無は関係無いだろ!』

『都市の方には行かせない!』


 来るや否や、早速大きな争いが繰り広げられていた。

 確かに勉強した事がある。幻獣や魔物のツノは薬や装飾品に重宝され、多くの生物が狩られたとか。

 その募った怨嗟で今の状況になっているんだ……。

 そう考えると申し訳無くなるけど、そうだとしても度が過ぎている。今の時代はそんな事が無く、ツノのある動物達もみんな仲良く暮らしているのに……!


『怨みを!』『怒りを!』『我らに!』


「いつ私達が貴様らの角を刈り取った? 己がされていない、記録でしか知らぬ過去の行いをネチネチと。そもそも怨みの相手は私達では無かろう。下らぬ思想を振り撒くでない! 愚者が!」


『『『…………ッ!』』』


 読んで字の如くバッサリと切り捨て、角のある魔物達を吹き飛ばす。更に力を込め、念力によって操り仲間同士をぶつけて打ち倒した。


『おお! シュティルさんだ!』

『シュティルさんが来てくれた!』

『これで抑え込めるぞ!』


 シュティルさんの登場によって彼女のチームメイト達が沸き立つ。

 スゴい信頼。本当に頼りにされているのが犇々(ひしひし)と伝わってきた。

 そして彼女の言い分は最も。今現在の私達に仕掛けても逆恨みでしかない。私のご先祖もそうだったのなら少しは関係あるかもしれないけど、私は動物達からツノを取ったりしない!

 だから今はシュティルさんのお手伝いをする。


「“拘束樹木”!」

『……!』『植物魔法……!?』『何奴……!』『人間……?』


 お相手はまだまだ沢山居る。なので即刻植物で拘束した。

 ダイバースとは別の戦いだけど、この国では魔法の使用も自由。あっという間に拘束してみせたよ!


『ティーナ・ロスト・ルミナスだ!』

『シュティルさんの友人の!』

『vs“ゴブローク”騒動の時も手伝ってくれた!』

『これは心強い味方だな!』


 私の事は他のみんなも把握してくれている。やっぱりどちらかと言えばダイバースより前の戦いが評価対象になるんだね。

 全員がダイバースの大会を見れる訳じゃない。だから都市の更に中心部じゃなきゃ他と比べたら私の知名度は低いかもしれないや。

 だけど手伝う事は出来たから、そこで信頼を獲得していけば良いよね!


『何故人間が魔物の国に……!』

『全ての元凶は貴様ら人間だ……!』

『発達した知能で余計な事ばかり考えおって……!』


 やっぱり人間って種族に対してはより強い怒りをいだいているね。

 でもそれは私個人にじゃない。私を通して全人類に向けてのもの。私に全人類を背負うような事は出来ないし、今やれるのは目先の問題を止めるくらいかな。


「ごめんね。私にはアナタ達の憎悪をどうにかする事は出来ないから。取り敢えず侵略行為を止めて」


『ぐっ……!』

『なんと強力な植物魔法……!』

『この人間……!』


 数は多いけど、“エマテュポヌス”のみんなの手助けもあって場所を絞れている。だから一纏めになっている所に植物を放って拘束すれば良いだけ。

 見る見るうちに場は収束し、一先ずの侵攻を止める事が出来た。


「流石だ。ティーナ。植物魔法。場の制圧に長けている」

「えへへ。これで一旦は収まったね」

「そうだな。次は捕らえた者達に尋問でもして色々と聞き出そう。答えぬ場合は拷問に切り替える」

「ご……! 私には刺激が強過ぎるかも……」


 敵を捕まえたら情報収集するのは間違っていない。だけど、尋問はともかく拷問となるとちょっと……。

 これも魔物の国の常識なのかな……。もしそうなったらその現場から離れてお薬とかの用意をして置こっと……。

 拘束した魔物達はそのまま引き連れ、何匹かを無機質な部屋へと送り込んだ。


「さて、何が目的で侵攻を始めた? 怨みだとか怒りだとか一丁前に大それた事をほざいていたが、以前の“ホーンゴート”……いや、“ホーンシップ”は斯様かような事を信条に掲げていなかった筈だ。その名の通り角のある魔物達の助け船とする事が信条だったと聞いている。気紛れな魔物。気紛れに方針を変えても何らおかしくないが、どんな切っ掛けがあった?」


『そんな事知るか。ラセツ様の意向なだけ。我らは同意し、実行に移っただけだ!』


 早速情報を聞き出す為、魔物さん達に訊ねる。

 けれど切っ掛けは知らない様子。近くに置いてある魔道具からの反応も無かった。


「フム……嘘発見の魔道具が反応していないな。即ち本当に知らないようだが……知っておくべき事はまだまだある。貴様らの戦力、目的。今後の動向。洗いざらい吐いて貰おうか」


『フン、やる事は変わらぬ。手頃な場所へ侵攻し、そこを拠点により勢力を拡大する。戦力も知っての通り。吐く情報なんぞ何処にもない』


「確かにそうだな。推測通りで聞くまでも無い情報だ。しかし、それにしてもペラペラと話す。吐く情報なんか無いと言っても、もう少し耐えるとかあるだろう? やはり拷問は恐ろしいか」


『そうではない! やる事は一つだからな。まずは魔物の国を収め、全世界! 全生物に報いを!』

『報いを!』『報いを!』『報いを!』


 はっきりとした目的があるからこそ、包み隠さず話す。でもその目的に対しての具体性は感じられなかった。

 なんで顔も知らない人達に対してここまで怒る事が出来るんだろう……。

 シュティルさんも呆れたように話す。


「まるで何かに憑かれているようだ。聞き出す情報も特に無く、訊ねるだけ時間の無駄か」

『だったら我らを解放しろ!』『さっさと拘束を解け!』『全てを左右する神にでもなったつもりか!』

「何故そこで神が出てくる。確かに私達のチーム名には“神”が入っているが、古き支配者の呼び名を取っただけだぞ」

『神は何も救わぬからな! 我らが常に苦労していたのは全て無能な駄神の所為!』

『しかし悪魔は契約さえすれば力を貸してくれる! 我らに反逆の勇気を! 意思を与えて下さった!』

『対価だけ奪って何の救済もせぬ神より対価さえ払えば親身になってくれる悪魔の方が良心的だ!』


「そうか。生憎あいにくだが、私は神も悪魔も大したように思っていない性分。論を訴えるなら教会にでも行くと言い。死に体で動き、魂も無い私達の種族(ヴァンパイア)はどちらの理からも外れている。拘束も解くものか。解放したとして仲間達に危害を加えるのは分かり切っているからな」


 最終的に相手は神様や悪魔さんについて話始め、シュティルさんは面倒臭そうに肩を落とす。

 知らない敵と戦っている。それがこの魔物さん達の結論なのかな。ちょっと可哀想だけど、私が関与しても何も変わらない。

 一先ず事が済むまでは拘束し続ける事にしたみたい。

 更に厳重な牢屋とし、私達は後にした。



 ──“大広間”。


 それから少し行き、大きな建物の大広間に着く。

 本人曰く、この拠点はそこまで豪華じゃないので話し合いとかはこう言った場所問わず色んな所で行われるとか。

 立ち入る人達全員がチームメンバーの為、スパイでも居ない限り情報漏洩も無いんだって。そして今回の話し合いに限って言えば、情報が漏れようと関係無い様子だった。


「このまま第二第三の刺客が来るとして、一々迎え撃つのも面倒だ。故にこれより無法地帯に入り、本元を直接叩く」


『『『オオオォォォォ━━ッ!』』』


 その会議は、無法地帯へ攻め入るというもの。

 常識を持ち合わせているシュティルさんだけど、魔物の国で育ったからこそこう言った決断をする事も出来る。どの道仕掛けられるのならと、此方から攻め討つんだね。

 無法地帯がどんな所かよく分からない私は不安だけど、彼女の役に立つ為にここに来たんだもん。今回もそれを受けるよ!


「決行は三時間後。日暮れと共に行う」

『『『オオオォォォォ━━ッ!』』』


 日が暮れ始めてから無法地帯に入るみたい。魔物は夜の方が活発になると思うけど、シュティルさんがヴァンパイアなのもあって夜の方が動きやすいのかも。

 何はともあれ、魔物の国への体験留学初日。私は無法地帯へ仕掛ける事になった……って、なんかおかしくない? これって留学だよね……?

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