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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部二年生
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第三百十二幕 荒んだ留学先案内

 ──“闇永血輝紅月学園・校内”。


「此処が教室だ。真面目に授業を受けている者も居るが、大半は聞いていない。とは言えエルマの選んだ教師陣。そう言う場合は力尽くで仕置きをするから生徒は従順だ」


「そ、そんなに暴力的なんだ……」


「それが魔物の国の常識さ。肉体構造が人間とは大分違い、大抵の傷はすぐに治るから問題無いんだ。その治癒力によって痛みで教える事も叶わず、躾が躾にならんがな」


「人間の国の常識とは大きく違うや……」

「我々からすれば人間の国が魔物の国の常識とは違う。世界とはそう言うものだろう」

「確かに……」


 最初に見たのは教室。話を聞くだけでとんでもないけど、郷に入っては郷に従えとも言うもんね。慣れなきゃダメなんだきっと。


「此処がトイレ。人間や魔族、エルフやヴァンパイアとは構造が違うから此処に用を足すだけで基本は垂れ流しだ。しかしながら、ヴァンパイアも多いこの学園にはヴァンパイア専用の人間の国と構造が大きくは変わらぬ場所もあるからそこを覚えておくと良い」


「うん。……でも、ヴァンパイアって汗は掻かないけどトイレはするんだね」

「頻度は極端に少ないがな。肉体的には死人だが、子を産む事も出来れば血以外を食す事もある。不要な物は体外に流れ落ちるさ」

「そうなんだ~」


 ヴァンパイアの構造についても知らない事は多い。思えばほとんど人間と同じ筈だもんね。古来より魔物扱いされていたから魔物の国に居るってだけで。

 早速学びを得られたし、この体験留学も有意義な物になりそう。


「此処が食堂。昼食時は戦争と変わらぬ。肉食の魔物も草食の魔物も居るから種類も量も多いが、完売までもって三十分。君の植物魔法は争いを制するのに向いている」


「校内での攻撃目的の魔法使用もありなんだ……」

「そうしなくては生き残れないからな。文字通り。君の実力なら問題は無いだろう」

「そう言う問題じゃないんだけどね……」


 外に比べたら比較的治安の良い学園内ですら油断ならない場所。日常がこれだったらそりゃ強くなるよね。

 多分魔物の国には表に出ていない実力者が沢山居るんだと思う。


「此処が図書室。利用者は少ないが、本自体はそれなりに豊富だ。とは言え、火をくべるのにもちいたりしていくつかは無くなっているがな」

「ウラノちゃんが聞いたら憤慨しそう……」

「かもしれないな。読む者が少ないのもあるが、人間の国や魔族の国のように暖を取る設備が発展しておらず、幻獣のような毛皮のある者より鱗やシンプルな皮膚の者の方が多いからな。既に乾いていて燃えやすい紙はよくもちいられる」

「国の事情は住んでいる種族によって……かぁ。学びはやっぱり色々だ」

「これを学びと受け取ってくれるか。有り難いな」


 生態や事情。それもあってそうせざるを得ないみたい。

 自然の樹は意外と燃えにくい。だからシュティルさんの言うように、乾いており、燃えやすい紙が盗まれる事は多々あるみたい。


「此処が音楽室。他の場所に比べ比較的キレイに整えられている」

「ホントだー。他は壁とか結構ボロボロだったもんね」

「セイレーンや人魚。私達ヴァンパイアも含めて音楽を好む魔物は多い。その中でも実力のある者が好んでいるから荒れていないのだ」

「へえ~」


 他に比べたらキレイな音楽室。理由は以上の通り。

 じゃあそれぞれの場所をキレイ好きな実力者が治めれば学園もキレイになるのかもね~。そんな人が少ないから現状になっちゃってるんだけどね。


「此処が運動場。まあ、その名が付いているだけでやっている事は抗争とあまり変わらない。運動と言う運動ではなく、互いに争いそれが結果的に体を動かす形になっているだけだ」

「成る程……確かに荒れ放題でただの更地にしか見えないや」


 次に案内された運動場と呼ばれる場所は、戦場の跡地にしか思えない状態だった。

 それも魔物さん達の好戦的な性格によってなるもの。体験とは言え留学だから授業を受ける事になるとして、体育の時間はスゴい事になりそう……。


「此処が君の泊まる寮。たまに知らない者が入っていたりするが、その場合は打ち倒して良いとなっている。力を誇示して奪還せよ」

「寮の説明じゃない……!? でもキレイには見えるね」

「自分の棲み処は整えておきたいものだろう? 心身を落ち着かせる安息の地となるのだからな」

「あ、それは分かるかも。やっぱり自分の住む場所はキレイにしておきたいもんね~」


 やっと波乱に満ちた魔物さん達との共通点を見つけた。

 だったら部屋の掃除とか、そんな感じの事を聞いて親睦を深めていけば良いかも!


「──その為、部屋の壁を破壊した者や騒がしい者、備品を壊す者に対しては地の果てまで追い掛け、償いをさせる者も少なくない」

「え゛……」


 前言撤回。流石にそこまではしない!

 魔物の国の基準が色々と違うのは分かり切っているけど、そこまでの執念を持っているのも居るんだ……。

 あまりに度が過ぎていれば私も注意くらいはするかもしれないけど、基本的には何も出来ないで耐えちゃうタイプ。

 私も問題だけど、そこまでの執着心は無いよ……。


「此処がティーナの数週間暮らす部屋だ。基本的には何人かの相部屋だけど、この部屋は元より私が使っていた場所だから一人。精々二人の部屋。全体的にキレイに整えてあるからゆっくり出来るだろう」


「シュティルさんの寮部屋だったんだ。シュティルさんはチームの拠点で過ごしているんだっけ?」

「ああ。とは言え来たばかりで勝手が分からない事も色々あるだろうから、君が良ければ最初の数日は私もこの部屋で過ごすが……どうだ?」

「それはもちろん大歓迎だよ! 友達と一緒は楽しいもん! 私の方からお願いしたい気分!」

「そうか。それは良かった。じゃあしばらくは共に過ごすとしよう。チーム拠点は私以外にも実力者が揃っているから問題無さそうだしな」


 笑顔で話すシュティルさん。

 彼女も嬉しいんだね。良かった~。

 そんな感じで一通りの道案内は完了。そろそろお昼に差し掛かる頃合いとなり、次は街の案内をしてくれる事になった。


「此処がこの辺りでは一番盛んな街だ。人間の口にも合う食べ物は色々ある。あそこの店とか、あの店とかがそうだな。人間の国から魔物の国に来て経営している者が居るんだ」

「そうなんだ。じゃあ学園の食堂以外でってなったらあのお店になりそうだね」

「ああ。それと暇潰しが出来るアイテムを取り揃えている雑貨屋や怪我や病気の時に寄る病院もあるが……まあお察しの通り。紹介した飲食店以外には極力寄らない方が良い」

「そ、そうなんだね。相変わらず大変……。気を付けるよ」


 多分、大抵のお店はそんな感じなんだろうね。その辺も気を付けておこう。

 知識では知っていても、実際に確認するとまた違った印象を見受けられる。私的にはそんな人や魔物さん達とも仲良くしたいんだけどね。

 何はともあれ、お昼ご飯を食べる為に私とシュティルさんはオススメの方のお店に入った。


「いらっしゃい。お、人間のお客さんか。珍しいね。それとシュティルちゃん」

「どうも……」

「私は食わぬが、彼女に食事を頼む。実はかくかくしかじかで空腹なんだ」

「成る程ね~。よし、じゃあどんどん世話してやるぞ!」


 気のいい店主さんみたいだね。これで留学期間数週間分の食事は大丈夫そう。

 その後私は丸焼きのナニかや野菜っぼいナニか。パンのような物を食べ終えて案内の続きをする。

 ……見た目はアレだったけど、意外と美味しかった。なんか魔力の質が上がったような気もするよ。


「そして次だが……そうだな。どうしようか」


 昼食の後、どこへ案内しようか悩んでいる様子のシュティルさん。

 ここが一番盛んな街って言っていたから、既に一通り紹介しちゃったのかもしれないね。

 じゃあ後はのんびりと過ごしたり──


『居た! シュティルさん!』

『話したい事が!』


「……!」

「……?」


 するとそこに、大勢の魔物さん達がやって来た。

 その口振りからしてシュティルさんのお仲間。何か慌てている様子で、ただ事じゃないね。

 到達し、言葉を続ける。


『奴らが攻めて来ました……!』

『何処からか、今日はシュティルさんが少しの間空けていると情報が漏れたのかと……!』

「攻めて来た……!?」


 本当に物騒な事。

 多分敵的な何かがシュティルさんのチームに襲撃を仕掛けたって感じ。

 魔物の国の日常なんだよね。シュティルさんの留守を狙ったんだ。


「……そうか。すまないがティーナ。先に帰っていてくれ。私は用事が出来た」

「そんな! 水臭いよシュティルさん! 今の話からして私の相手をしてくれてるから空けちゃったみたいだし、私も何か手伝う! 実績もあるでしょ!」

「……!」


 私が魔物の国を留学先に選んだ理由は、こんな風にシュティルさんに降り掛かる問題を取っ払う為。

 今回はシュティルさんの留守を狙われたけど、多分そうじゃなくてもいつかは攻めていた筈。

 だから私が手伝い、拘束くらいはしてみる。前にも手伝ったからね。


「……分かった。君の実力は信頼に値し、確かに前は“ゴブローク”との抗争にも手を貸して貰った。今更巻き込めないとは言えないな」

「うん! 案内して! 今日一日の案内人はシュティルさんだからね!」

「フッ、上手い事を言う。それでは面倒事への案内を担おう」


『おお、ティーナ・ロスト・ルミナスさんが力を貸してくれるのか!』

『これは心強い!』

『しつこかった“ゴブローク”との戦いで“魔専アステリア女学院”の面々が手を貸してくれたのは事実だったか!』

『シュティルさんとキドナさんが言っていたんだ。初めから疑っていなかったさ!』

『ああ! 勿論だ!』


 どうやら私の事を認知しているみたい。

 ダイバース関連で有名になった事ではなく、前にシュティルさん達“神魔物エマテュポヌス”と共に戦った事について。

 それもあって初対面の構成員さんとも打ち解け、私はシュティルさんと共に拠点へ向かう。

 魔物の国の案内。彼女からすれば日常なんだけど、初日から大変な事になったね。

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