第三百九幕 魔導パフォーマンスショー:“流転”・学院祭の終幕
──“魔専アステリア女学院・学院祭・催し物の部”。
《それでは、次に執り行う催し物はⅡ-Ⅰによる“魔導パフォーマンスショー”です》
「「「わああああああ!!」」」
司会進行役を務める先輩の紹介と共に私達のクラスが壇上に上がる。と言ってもまだ挨拶みたいなものなので代表者としてボルカちゃんと私のみ。隣にボルカちゃんが居るのは心強いけど、やっぱり沢山のお客さんの前だと緊張しちゃうなぁ。
今は壇上にのみ光が当たっている状態で、館内は全体的には暗いのがまた目立ってるなって感じがして震えちゃう。けど、頑張らなきゃ!
「どーもどーも! ボルカ・フレムでーす!」
「ティーナ・ロスト・ルミナスです……!」
「「「わああああ!」」」
「「「きゃあああ!」」」
「ボルカ様ぁ~!」
「ティーナさぁん!」
多分同じ学院で知らない人は居ないけど、他の場所から来ている人も居るから自己紹介をする。
同時に響き渡る歓声。やっぱり知名度もかなり高くなってるねぇ。ダイバースによる影響がこんなにも大きいなんて。それは今更だね。
一先ず話を続ける。
「歓声を頂けて何よりッスね~。これから行う事はアタシ達のクラスが魅せる“魔導パフォーマンスショー”! 是非是非最後まで楽しんでいってください! それにしても──」
掴みは上々。ここから更にジョークなどを交えて場を湧かせ、観客達の心を一気に引き寄せた。
流石のカリスマ性。人心掌握にも長けている。本人にはそのつもりが無いんだけどね~。無意識でそれを遂行するボルカちゃんがスゴいんだ!
「──てな訳で、今回の催しを執り行う事になりましたー!」
「「「わああああ!」」」
それから五分程のトークタイムで場を湧かせたけど、そろそろ飽き始める人も出てくる頃合い。そしてそれが、私達の想定内。
「いつまでお話ししているんですの!」
「いくら有名なボルカ・フレムとは言え、流石に長いよ!」
「おーっと! パフォーマー達がご乱心だ!」
光球が天に放たれ、それを水の膜が包み込む。それによって薄暗い館内に目映い光が広がり、お客さん達の視線をボルカちゃんの方からそちらへ釘付けにした。
その間に私達は一旦下がる。裏手では他のみんなが準備を整えていた。
「“ファイアボール”!」
「“ウィンド”!」
「“破裂石”!」
「「「…………!」」」
光が消え去った頃合い、火球を放ち風で増大。被害が出ない程度の大きさに留めた石を破裂させ、大きな花火が打ち上がる。
さあ、ここからが本番!
「“ウォーター”!」
「物語──“氷像家”」
花火が消えると同時に壇上へ水が流され、一瞬にして凍り漬けになる。
流水はキラキラと輝く氷像となり、そこへ向けて私はママに魔力を込める。ボルカちゃんも準備済み!
「“樹木行進”!」
「“停滞火球”!」
氷像を植物で粉砕し、輝きながら散り行く。その上に火球からなる小さな太陽が生まれ、氷の欠片がその光を乱反射して虹を架けた。
砕けた氷はそのまま水に戻り、樹木に気を引かれている間に敷かれていた地面を潤す。
私達の出番はまだまだあるね!
「“森林生成”!」
「“ウォータードーム”!」
小さな森を作り出し、カザミさんが水を広げて湖とする。
それにより、一瞬にして森に囲まれた湖畔が壇上に形成された。
「「「わあ……」」」
その光景を前にお客さん達は感嘆のため息を吐く。
光球と花火によって全体が目映く包まれ、氷の世界になったと思った瞬間に森と化す。
「物語──“動物物語”」
「“フォレストビースト”!」
その森には様々な生き物が生まれ、駆けて跳んでの大はしゃぎ。
表現したのは星の流転。暗闇の中、火の玉から生まれ、一度は凍り、溶けた頃には自然や生き物達が溢れた。
「「「わああああ!」」」
大歓声と拍手が巻き起こり、大盛り上がりを見せる。
掴みは完璧。ここからパフォーマンスによる物語は急展開していく。
「“ウィンドカッター”!」
「“風刃”!」
「「「………!?」」」
風魔法による刃が放たれ、木々は斬られ動物達は光の粒子となって消え行く。
「“ファイア”!」
斬られた木々に火が放たれ、生い茂っていた森は急速に鈍色の大地へと変わり、澄んだ湖は濁っていく。
その辺りでお客さんはザワつき始めた。
「“丸太”!」
「“ウォールロック”!」
「“レンガ”!」
湖の水も森林も消え去り、更地となった場所に丸太や土の壁。レンガが貼られていく。
それは見る見るうちに一つの塔となり、周囲には小さな家や教会などの建物が造り出された。
「はぁ……連続使用はキツイわね……小さいから本来より消費は少ないとは言え……」
「頑張ってくださいまし……! 聖魔法による治療を常に行っておりますので……!」
「この物語は元より私のアイデア。責任は持つわ。物語──“大衆民話”」
箱庭のような街並みは徐々に大きくなり、繁栄し、次第にそこに住む人々も増えていく。
大部分を本魔法による召喚で補っているのもあり、彼女には目に見えて疲労が蓄積していた。
しかしこのパフォーマンスのストーリー提案はウラノちゃん。彼女の責任感は強く、一度提案して引き受けたならやり遂げると言う気概を感じられた。
「──“兵隊”」
やがて大都市に発展した美しい街並みにはお城が建ち、兵隊さん達が歩み、交易が盛んとなって人々が行き交う物となる。
その場所に、文字通り暗雲が立ち込める。
「“ファイボール”!」
「“ウォーターボール”!」
「“コントロールウィンド”!」
街の上に雲を作り出し、全体的に暗がりを演出。外からは別の兵隊達がやって来る。それは観光ではなく、“進攻”。
「「「おおおおッ!」」」
「「「撃てェ!」」」
「「「はあああッ!」」」
小さな兵隊さん達は戦争を始め、美しい街並みの都市は次々と建物が倒壊して見るも無惨な姿となる。
兵隊達は進攻してきた都市に進攻し返し、より戦場は激化していく。
争いに次ぐ争いで収集が付かなくなった物語は、いよいよラストスパートへと差し掛かる。
「“ファイアエクスプロージョン(ミニ)!”」
街に火球を落とし、大きな爆炎と共に全てが焼き払われ、瞬く間に焼失していく。
それはこの場所のみならず、壇上にセッティングした周辺の物全て。建物も森も人も関係無い。
大都市は再び褐色の大地と化し、何も残らない。建物の瓦礫も風化して土に還り、人が居た痕跡すら無くなっていた。
最後に残っていた植物を切り出して造った教会のシンボルに一つの種が付着し、同じように土に還る。
「“シャワー”!」
「“停滞火球”!」
「“発芽”!」
そこに雨が降り、日が照らし、小さな芽が現れる。
「“樹木生成”!」
「物語──“小動物の音楽隊”」
その芽はスクスクと成長を遂げ、やがて立派な大樹となる。木の実が成り、鳥達が集まり木の実を食し、そこから更に木々が生まれて育つ。
小動物達が集まり、埋め立てられた湖が長い年月を経て掘り返され、再び雨水が溜まって湖畔となった。豊潤な水の周りには青々しく輝く植物が連なり、動物達が生態系を織り成す。
如何に何者かが侵食しようとも、何れは元に戻る。最後に大きな大樹が付近に作られた小さな村を眺め、パフォーマンスショーは終わりを迎えた。
「「「わああああっっっ!」」」
「「「ひゅー! ひゅー!」」」
幕を降ろすと同時に歓声が上がり、万雷の如き拍手が喝采。私達の催し物はこれにて終幕となる。
やり切ったみんなは裏方で一息吐き、それぞれの感想を言い合っていた。
「スゴかったね~」
「本当に一生を再現しちゃった」
「物事は繰り返される……深い……!」
声は無く、BGMと景色だけのショーだったけど、それで説明が付いて何より。盛り上がりを見せ、大盛況で終える事が出来て良かった~。
「スゴいショーだったね~。何の説明も無かったのに何が起こったかしっかり伝わっていたもん」
「みんなの魔導が優れているお陰よ。演出も良かったわ。……繰り返す歴史。必ずしも物語はハッピーエンドじゃない。スッキリしても、少し後味の悪さが残るのが好きなの。……フフ、生命である樹を切り崩して神様に祈りを捧げる教会を作るとか滑稽じゃない?」
「そ、そこまでは考えてなかったよ……」
「相変わらずいい性格してんな~。まあ、完全無欠のハッピーエンドって方が少ないしな~」
「やり尽くされてしまっていますものねぇ」
ウラノちゃんの性格だったからこそやれたショーって感じかな。傍から見れば綺麗な一つの物語。だけどその手の事に詳しい人からすれば要所要所に違和感が表れ、そうなっていたのかと言う納得に繋がる。
流石は読書家のウラノちゃん。彼女ならではの着眼点。
「この後はダンスパーティーと閉会だなー。楽しかった学院祭も終わりか~」
「始まるまで長かった気がするけど、終わるのはあっという間だねぇ~」
「だなー。ま、今年を抜いてもあと四年分残ってるし、一つ一つ悔いの無いように過ごすか~」
「うん!」
パフォーマンスショーは見事に成功を収めた。それにより、催し物の最優秀賞にも輝く結果となりトロフィーを貰い受けた。
そして数時間後、終幕を飾るダンスパーティーへ向かう。
──“パーティー会場”。
「お、ドレス着てんな~。ティーナ」
「ボルカちゃんも似合ってるよ!」
「スカートとか動き辛いんだよな。言ってしまえば下着の上に布巻いてるだけなんだけど、アタシも多少の羞恥心は持ち合わせているから派手に動く事が出来ないんだ」
「その表現……でも激しい踊りじゃないから丁度良いんじゃないかな?」
「まあなー」
おめかしして会場へ辿り着いた私達。食事が並べられており、一部の一般の方も参加する事が出来る。
「私なんかが来て良かったのか?」
「良いんじゃないか? そのつもりは無かったけど、治安維持の協力で御呼ばれしたからな。と言うか、その衣装はなんだ?」
「十二単と言ってな。貴族などが着ていた物だ」
「重苦しそうだ」
「実際に数キロはある。良い鍛練だ」
「相変わらずだな」
「レモンさんにシュティルさん!」
「二人も来てたんだな。似合ってるぜ!」
「おお、ティーナ殿にボルカ殿。お二人もお似合いぞ」
「ふふ、お洒落だな」
その一部には学院祭の貢献によって選ばれた知り合いもチラホラ。さっきはユピテルさんとかも見掛けたよ。
そんなレモンさんの格好は、“日の下”の伝統衣装である着物。だけど前に見た物より派手な装いで、豪華絢爛な様相だった。ちょっと会話を聞いたけど“十二単”って言うんだね。
シュティルさんはヴァンパイアらしくシックでクールな黒いドレス。金髪と紅い眼に映えており、とても綺麗だった。
《それでは、お集まり頂いた皆様。これから御披露目と──》
「お、始まったな」
「皆が美しい格好をしておる。しかし、戦闘はともかく私に芸妓は不向きな気もするな」
「必ずしもダンスを踊らなくても良いからゆっくり楽しめると思うよ!」
「それは有り難い」
「そうだな。私もあまり乗り気じゃないし丁度良いか」
大半の人は踊るけど、慣れてない人も居るので強制じゃない。
取り敢えず楽しもうって言うのが“魔専アステリア女学院”の方針だからそれに従うだけだね!
「んじゃ、ティーナ。踊ろうぜ!」
「あ、ボルカちゃん!」
「フッ、相変わらず仲睦まじい二人よ」
「良い事ではないか」
そんな私はボルカちゃんに手を引かれ、ダンスパーティーの中心へ。
でもこの学院に通っている以上、そんな機会は多いから慣れている方。昔はママともよく踊ったもんね。……お人形になる前は……って、何を考えているんだろう。今もママは居る。ただお人形の中で休んでいるだけ。だから大丈夫。
気を取り直し、お互いに手を取って社交ダンスを踊る。
「また来年も一緒に過ごそうぜ。ティーナ」
「うん、ボルカちゃん!」
優雅な音楽と共に学院祭は幕を引き、終えていく。
“魔専アステリア女学院”・学院祭。今年も無事に大成功を収め、終演となる。
だけどまだまだイベント事は目白押し。学院祭も来年もある。だからその時までの、ちょっとした我慢。
──クルクルターン、タン、タ、タン。
タタタン、タン、タン。タン、タタン。
音楽に合わせ、リズムに乗り、優雅で可憐な踊りを踊る。
クルリクルクル、クル、クルリ。
嗚呼、今日はなんて素敵な一日だったんだろう。
その想いを胸に、数日に渡る学院祭が終わりを迎えるのだった。




