第三百七幕 学院祭当日
──“魔専アステリア女学院・学院祭”。
「いらっしゃい!」
「来てくださいましー!」
「是非ともご覧あれ!」
「見処しかありませんわよー!」
「皆様是非是非!」
「どうするー?」
「朝ごはんここで食べちゃおっかな~」
「高級レストランより安いのにより厳選された食材を使ってるもんね~」
「値段自体は決して安くはないけどな~」
「この日の為に貯金下ろしてきたんだ~」
「気合い入り過ぎ~。でも分かる~!」
学院祭が始まり、直後にも関わらず人混みが作られ学生達の呼び込む声が響き渡っていた。
“魔専アステリア女学院”の学院祭は謂わば将来への投資。将来的に大企業や人間の国を背負って立つ人達が多いので、出し物は全てが超一流。それもあって一般のお客さん達はこの学院祭を心待ちにしている人が多いの。
そんな感じで盛り上がる学院祭。だけど人が集まるからこそ起きる問題もある。
「オウオウオウオウ! お嬢様学校のお高く止まったお嬢様方ァ! 俺達と遊ぼうぜェ?」
「ケヘヘ、兄貴ィ! 俺にもちっとお裾分けくだせェ!」
「フフ、可愛い子が多いわね。味見しちゃおうかしら?」
「貴女の女好きには困ったわね~」
見るからにガラの悪そうな人達が来た。
予約制とかでもなく、一般参加が自由な学院祭。よくある事なんだよね。
それもあって腕の立つ警備員を集めているんだけど、学院の広さからしてどうしても空いてしまう場所もある。
「すみません。他のお客様の迷惑になるのでお帰り頂けませんか?」
「ァあ!? お嬢様が一丁前に口を聞きますな~。って、なんだその格好?
「自分のクラスの出し物なんで」
「へっ、丁度良い。テメェが来いや!」
そして一人が止めに入るも、向こうはお構い無しに腕を引く。
取り巻きの三人はニヤニヤしており、グイッと顔を近付けた。あー、終わっちゃうね。
「ヘヘァ! 血糊で隠れてるが、よく見りゃ美人さんじゃねェか。こりゃ楽しめ……あ? テメェ……どこかで……」
「人が下手に出てりゃ……調子に乗んな!」
「ブヒャ!?」
そしてボスっぽい人を伸した。
彼女が出た時点で周りは安心に包まれたよね。だって出し物上いつもと違う見た目しているけど、ボルカちゃんだもん。
「さっさとお帰りくださいましぃ。お客様。そうじゃないと消し炭にして差し上げます事よ?」
「こ、こここ……この子……!」
「ボ、ボボボ……ボルカ・フレムゥ!?」
「ごめんなさぁい!」
ボルカちゃんに気付き、気絶したボスを持ち上げて逃げ帰る三人。
そう、“魔専アステリア女学院”はボルカちゃんのみならず単純な腕っぷしも立つ人が多い。いつもは校則違反だけど、こう言う場では自己防衛が許可されてるの。
ボルカちゃんは一息吐き、他のお客様達を振り向いた。
「お騒がせ致しました。これに懲りず、是非とも“魔専アステリア女学院”の学院祭をお楽しみください」
「「「きゃあああ!」」」
「「「ボルカ・フレム様ぁ~!!」」」
「「「素敵~!」」」
「「「同性だけど付き合って~!」」」
ニッコリと笑い、黄色い歓声が上がる。因みに「「「きゃあああ!」」」は男性陣のお客様からの歓声だね。
男性からも女性からも人気の高いボルカちゃん。流石だね。早速サインを求められてる。
「失礼ですがお客様。サインの方ならばアタシ達のクラスによる出し物、お化け屋敷&カフェにて販売されております。そちらでお求めください」
「「「すぐ行きます!」」」
でもサインは出し物の方で売られているからNG。その辺もしっかりしている。
お客様達は嫌な顔せず私達のクラスへ。これで確保出来たね。
「きゃあ!」
「「……?」」
そして向こうの方でも叫び声が。
あまり治安良くないのかな。普段はこんな事無いんだけど、学院祭というのもあって羽目を外し過ぎちゃう人が多いのかも。
「賑やかだな~。取り敢えず見てみようぜ。ついでにお客さんゲットだ」
「うん、ボルカちゃん」
呼び込み係は私達。クラスの仲でも一、二を争う有名人だから効果的って言うウラノちゃんの策略だよ。
それは見事に功を奏しているけど、トラブルを解決していくのも大変だね。
私とボルカちゃんはそこに向かい、ティナも別の場所に飛ばして様子を窺う。警備員さん達も色んな所に総動員しているから、少しでも生徒である私達が収めないとね。
そして問題地点に到達した。そこに居たのは──
「ぐ……強ェ……」
「コイツら……まさか……!」
「なんて事なの……!」
「やれやれ。折角の祭典なのだ。周りの迷惑を考えよ。輩。私達が手を下さずとも打ち倒されていたぞ」
「はあ……。わざわざこんな朝から太陽の下に出てきてやったと言うのに、面倒な者達に囲まれるとはな」
そこに居たのは、レモンさんとシュティルさんの二人。
二人も来ていたんだね。場を収めてくれたみたい。
「レモンさーん! シュティルさーん!」
「お前達も来たのかー!」
「む? おお、噂をすればなんとやら。ティーナ殿にボルカ殿……か? 奇抜な格好よ」
「今日はよく知り合いに会うな。いや、あの二人に会うのは当然か」
「アハハ……衣装についてはお化け屋敷やってるから」
「そうであったか」
二人の元に駆け寄り、衣装について指摘される。
それはそうだよね。ボルカちゃんは血の案内人。私も基本は裏方だけど、雰囲気作りの為にお化けの格好をしているもん。
何はともあれ、わざわざ来てくれたのは嬉しいや。
「ごめんね~。いつもはこんなんじゃないんだけど騒がしくて」
「祭り事で図に乗ってる奴が多いのなんのってな」
「気にするでない。勝手ながら、場を乱す者は成敗しておいた」
「この程度では騒がしいのうちに入らんよ。私達の国では何の変哲も無い日に爆破テロやチーム抗争が年がら年中だ」
「ハハ……取り敢えず二人ともありがとう。魔物の国の治安は相変わらずだね」
シュティルさんはシュティルさんで常に苦労しているっぽい様子。本人は苦労のつもりなんて無いと思うけどね。
本来なら喧嘩は帰らせなきゃならないんだけど、二人がしたのは治安の維持。それに喧嘩って程成立してないみたいだし、今回は不問かな。
「えーと、私達は呼び込みがあるから二人とも楽しんでいってね!」
「ああ、そうさせて貰おう。“日の下”の性分は祭り好きだ」
「そうだな。魔物の国に置いて祭り事に参加する機会なんぞそうそう無い。楽しませて頂く」
これで二人とも別れる。二人は顔が知れてるし、周りには承認も沢山居るからまたトラブルの渦中に入っても問題無さそうだね。
そしてティナの方も確認しておく。
「頭が高いぞ。我に挑むなど笑止千万、片腹痛し。出直して来い」
「あ、ありがとうございました。ユピテルさん……ですよね……!」
「そうだな。ちと顔は知れてる方だと思うが……」
「勿論存じ上げています! 本当にありがとうございました!」
そっちではユピテルさんが輩を追い払ってくれていた。うちの生徒を助けてくれたんだね。
その後に私とボルカちゃんで見て回り、ティナも巡回させつつ呼び込み完了。
他にも知ってる顔がチラホラ居たよー! フェンリルのリルさんとか魔族の国ダクさん達とか! みんな満喫しているみたいで何よりだね~。
「うわぁ……もうこんなに集まってるや……」
「ちょっと呼び込み過ぎたか? 校門から教室までを少しグルッと回った程度なんだけどな」
教室に戻ると既に大渋滞。五部屋しか用意していないけど、全然足りなかったかも。一応お化け屋敷を通らず飲食店にも行けるルートがあるけど、そこも既に満席。お化け屋敷から来た人の分はちゃんと空けてるよ。
とにかく、これは忙しくなりそうだね。早速お化け屋敷の方へ取り掛かろうっと。
──“廃ホテル・お化け屋敷”。
「ようこそお越しくださいました……此処は黄泉の国へ通ずるホテル……宿泊のお客様をご案内致しまぁす……」
受付役の人がお客さん達を道案内。その道中で想定通りのギミックを動かし、怖がらせていく。
「彼処はこのホテルの支配人のお墓となります。此処を案じて死したが為、夜な夜な化けて出てくるとか……」
「ヒィ……!」「火の玉……!?」「きゃあ!」「うわあ!」「手形!?」「怖い!」「足掴まれた!?」「お助け~!」
用意されているのは五部屋だけど、いくつかのグループを纏めて案内するからそれなりに大人数。今回は八人。
夢半ばで死んじゃった支配人……という設定の幽霊ギミックもちゃんと効いてるみたい。
「此処が皆様の宿泊部屋となります……。何が起こっても決して逃げ出さないように……その心につけこみ、魂が奪い去られてしまいますよ……」
「お人形が……!?」「本が……!?」「シャンデリアが……!?」「ベッドが……!?」「ポルターガイストだぁ!?」「床から足音が……!」「モニターが……」「よく見たら窓の外に……!?」
「ふふ……」
ガタガタガタとお客さん達を驚かせる。
普通に考えれば魔法の仕業って分かるんだろうけど、この事態だとそこまで頭が回らないよね。多分自分もそうなる。
五部屋分を同時に動かすのは大変だと思ったけど、案外なんとかなった。
そして一通りのギミックを終わらせ、案内人はお客さん達を出口に誘導する。
「それでは……たっぷりと恐怖を満喫したが為……疲労を癒しましょう……。フフ……お憑かれ様でした……機会があればまたアナタ方をご案内致しますよ……。ここを見ているそこのアナタもね……?」
「怖かった~」
「クオリティ高いな~」
「でも楽しかった……」
「よろしければ一緒に召し上がりませんか?」
「あ、良いですね~」
「こちらこそ!」
「あれ……そう言えば一人多かったような……」
「ぇ……へ、変なこと言わないでよ……」
怖がった後は、飲食店で美味しいご飯や飲み物。様々な装飾品などを楽しんで貰う。
恐怖の後の飲食店は大盛況であり、キッチンのみんなも大変だね。
私も楽しかった。改めて見てもスゴい出来映えだね。
あ、また入り口から行こう。言われた通り楽しんでいくよ。
──“お化け屋敷・控え室”。
「──そう言や、ティーナ。知ってるか? このお化け屋敷の感想、誰かから見られている気がするんだってさ。人数も一人増えてるってのが出た後に言われるとか」
「え……? 本当……? それってスゴく怖くない……?」
「大体は錯覚とか気のせいだとは思うけどな~。取り敢えず、準備出来たな?」
「うん、バッチリ!」
呼び込みをしていた私とボルカちゃんはこれからお化け屋敷に本格的に取り掛かるよ! 私達が入るまでポルターガイストのお人形達は動かなかったと思うし、クオリティを上げていかなきゃね!
「あら、ティーナさん。今来たの?」
「うん! もう始まっちゃってたんだね~」
「そうよ。……けど、変ね。そしたら誰がお人形を動かしていたのかしら?」
「え? どういう事?」
「いえ、貴女が来る前に八人グループが来たけれど、お人形達もちゃんと作動していたわ」
「へえ~。私達が居なくてもある程度は動くように魔道具を設置しておいたのかな?」
「そうかもしれないわね。ボルカさんが居なくても人魂が現れたみたいだし、誰かが気を利かせてくれたのね」
「親切な人も居るんだね~。後でクラスの誰かにお礼を言っておこっと!」
「それが良さそうね」
私達が呼び込みに行っていたのもあり、ある程度の準備は他の誰かがしてくれていたんだね。お礼を言わなきゃ!
早速私もお部屋にセッティング。魔力の糸をフル活用するよ!
「なんならもうお礼言っちゃおうか! ありがとねー!」
「誰に言ってるのよ。お客さん来たからこんな風に会話出来ないわよ?」
「アハハ……それもそうだね」
午前の部はお化け屋敷。午後に見て回り、最終日はそれに加えて魔導パフォーマンスのショーを行う。
いっぱい練習したから絶対に成功させてみせるよ!
私達が取り掛かったお化け屋敷の初日は、無事に大盛況となるのだった。
──どういたしまして……。




