表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部二年生
307/458

第三百六幕 おつかれ様の学院祭前夜

「此方の装飾は如何しましょうか?」

「そうですわね。此処に置くと周りの物を巻き込んでしまうので、単独でも目立つように──」


「“ファイアボール”!」

「そこに向けて……“ウィンド”!」

「そして“破裂石”!」


 出し物などを決めてから数日。放課後や合間の時間を見つけて私達やクラスメイトのみんなは準備を進めていた。

 お化け屋敷の内装や飲食店の装飾。パフォーマンスの練習。やる事は沢山ある。

 因みに魔法の方は火球を風で広げ、破裂する石の礫で火を散らして花火みたいにしているんだって。やっぱり他のみんなも魔力操作上手だよね~。かなり精密な動きしてるもん。流石は“魔専アステリア女学院”って感じかな。


「水槽はこの辺りで良いかなー?」

「結構幅取りますものね」

「お魚の準備もしましたわ」


「バーコーナーはあの水槽の近くが良さそうですね」

「ムーディーですわ!」


 大きな水槽に色鮮やかなお魚達。水族館のアイデアを水槽という形に落とし込む事で可能にしたみたい。

 このままバーエリアの方に持っていく事でムーディーな雰囲気を演出する予定なんだって。


「ティーナさん! 此処の縫い合わせを崩し、程好く不気味に仕上げてください!」

「うん! 任せて!」


 私としても趣味で始めた裁縫のノウハウを生かし、ソファーを継ぎ接ぎにしたりカーテンをボロボロの装飾にしたりする。

 趣味だった事がこんな風にみんなの役に立てるなんて嬉しいね。


「ルーチェさん! お願いしますわ!」

「任せてくださいまし! “光球”!」

「そこですわ! カザミさん!」

「任せて! “包容水”!」


 ルーチェちゃんが光の玉を出し、それをカザミさんが水で包み込む。光は周りの水を反射し、辺りを目映く照らした。


「これで別の色の光をもちいれば色で雰囲気を作れますわ!」

「そうだな。私も水の透明度をもっと上げてみるよ」


 演出担当はルーチェちゃんとカザミさん。光と水のパフォーマンスは様々な事を可能に出来、お客さん達の目を楽しませるよ。


「それ」

『『『…………』』』


 バサバサとウラノちゃんの魔法で本の鳥達が飛び交い、様々なパフォーマンスを行う。

 動物達を用意しなくてもウラノちゃんが居れば代わりを担う事も可能。私達も手伝ってるよ。


「“フォレストビースト”!」

『……』


 一匹のビーストを作り、鳥達とビーストで飛び回る。

 私の役目は装飾とビーストとかの準備。他の植物をもちいたパフォーマンスも考えているよ。


「よーし、暗くしてくれー!」

「分かりましたわ! ボルカ様!」


 一部区画を暗くし、ボルカちゃんは小さく魔力を込める。それによって小さな火球が作られ、魔力操作で操る。


「ビブリー! 人魂ってんだっけこれ? 確かに暗闇で火球が浮いてたら怖がるかもな」

「そうね。二つか三つくらいが丁度良いわ。置くならお墓の近くかしら」


 ボルカちゃんはお化け屋敷の方に着手する。自分が希望しただけあってとても気合いを入れているね。

 怪奇現象に詳しいウラノちゃんからアドバイスを貰い、より解像度を上げていく。これなら本番もお客さんを怖がらせたり、楽しませる事が出来そう。

 こんな風にクラスのみんなが一丸になって準備を進めていく。部活動がある場合はちゃんと行き、終わったら学校の方を閉めるギリギリまで粘る。

 寮生活だからあまり時間を気にしなくていいのは楽だね~。どんどん準備を進めていくよ!



 ──“学院祭の前日”。


 いよいよ明日に迫った今日、この日は学院から特別な許可を貰い、寮ではなく学校の方に泊まって仕上げの作業に取り掛かっていた。

 それは強制参加ではなく、帰りたい人は帰ってもいい感じ。既にウラノちゃんを含めて何人かは寮の方に戻ってる。一度帰った人が手伝いに来たりもし、もう本当に後ちょっとの塩梅。


「ま、こんなもんだろ。後は細かい作業とか、より本格的にする為の仕上げだな」

「装飾自体は大分前に終わったもんね~」


 仕上げの作業と言っても、物自体は完成している。“魔専アステリア女学院”として万人に見せても恥ずかしくない仕上がりが目的って感じかな。

 私としても手は抜きたくないからね。

 そこに、ボルカちゃんが一つの提案をする。


「そうだ。ティーナと……ルーチェにカザミー。最終確認として完成したお化け屋敷を見てみようぜ」

「うん!」

「よろしいですわ!」

「そうだね。実際に人が入って魔道具がしっかり作動するかとかを調べるのは良さそうだ」


 それは完成した施設の最終確認。

 様々な魔道具によるギミックなどがあり、まだ全てにエネルギーとなる魔力は込めていないけど動作確認の為にある程度は起動するようになっている。

 だからまだお化け役の人達は居ないし、本当に見て回るだけって感じだね。

 そのまま飲食店コーナーまで行くのが一つの区切りかな。


「という事で、確認してくるぜー! 他のみんなは仕上げにするも切り上げるも自由だ!」

「「「はーい!」」」


 ボルカちゃんが他のクラスメイト達に言い、私達四人は入り口からお化け屋敷に入る。

 夜なのもあってとても暗く、一先ず裏方にある魔道具を作動。ぼんやりと薄暗い明かりが点いた。


「雰囲気あるな~。まだ準備中の段階ではあるから足元には気を付けろよ~」


 まだ片付けは終わっていない。だからある程度は注意しつつ、薄暗いお化け屋敷を進む。

 内装を言えば廃ホテルのイメージ。入り口に入ったらエントランスがあり、ロビーの先には受付がある。

 全体的に装飾でボロボロにしてあり、継ぎ接ぎのソファーや崩れたカウンター。傾いた絵画などその他にも様々な物が置かれている。

 自分達で作った物だけど、雰囲気から既に怖い感じだね~。

 当日はこのカウンターに不気味な衣装を着たクラスメイトが立つんだよ。恐怖の案内人って事。

 そこを抜け、長い渡り廊下を進む。教室と言う限られた範囲だけど、空間をどうこうする魔道具で広くしてあるの。


「お、良い感じに墓が見えてるな~」

「改めて見ても渡り廊下のガラスにお墓って変な感じだね~」

「雰囲気はありますわよね」

「そうだね。この不自然な感じが恐怖をそそらせるんだ」

「スゴいや……」


 私達五人は装飾のお話をする。

 渡り廊下には植物魔法で枠を作り、そこにガラスを貼って外の景色って事にしている。あのお墓はこの廃ホテルのオーナーの場所ってイメージ。土魔法や土魔術でかたどっているから形も自在なの。

 此方も当日はオーナー役の人が一瞬映ったり、ボルカちゃんの人魂が浮遊したり窓には沢山の手形を張り付けたりソファーの下から手が出たり色んなギミックがあるよ。


「そしていきなり部屋に直結。本当は浴室とか倉庫とか色々作りたかったんだけどな~」

「場所は魔道具でどうにでもなるけど、全部を制作する時間の方がね~。ちょっと残念だけど、このお部屋の完成度もとても高いよ!」

「だな~。けど惜しいぜ~」

「スゴいスゴい……」


 私とボルカちゃんでやり切れなかった事も話す。もっと本格的なホテルにしたかった気持ちはあるからね~。

 設定で言えば、お客さんを案内人が部屋まで送り、その宿泊部屋で数分間の恐怖体験をして貰うと言うもの。

 流石にお部屋が一つだけじゃ回らないから、五部屋は用意した。その部屋につき数人が潜んで驚かせるんだ。


「この人形の出来も良いな。ティーナとルーチェが作ったんだろ?」

「うん。わざとほつれさせたりするのはちょっと可哀想だったけど、後で直してドールハウスに置く予定だよ!」

「私もいくつか貰い受ける予定ですわ! 言ってしまえば私達がママですもの! 引き取るのは当然の義務ですの!」

「へえ……ちゃんと引き取ってくれるんだね……優しい……」


 部屋の装飾、ベッドの隣にあるサイドテーブルに置かれたお人形についてボルカちゃん、私、ルーチェちゃんで話す。

 私とルーチェちゃんの力作で、少量の魔力を込めて動かしたり部屋の仕掛人が操作したり色んなやり方を考えているよ。

 そんな近くのベッドには下に人を潜ませて驚かせる。そこが隠し扉になっていて、床下全体を移動出来るから足音とか仕掛けとか模索中。

 床を少し上げてる分天井は近くなっちゃってるけど、それが逆に違和感をかもし出して心理的に追い詰めるんだ~。


「この本棚の本はウラノさんが操ってポルターガイストを起こすんだったね」

「ああ、カザミー。ビブリーなら複数出せるから、五部屋くらいなら十分に手を回せる。休憩時間とか次第だけど、その時の午前の部や午後の部は機能しなくなるけどな~。ビブリーも見て回りたいからそこは意思を尊重する」

「動かすタイミングは私達の感覚共有で指示を出すんだよ~」

「考えてあるね……」


 ボロボロの本棚には本があり、そのうちのいくつかはウラノちゃんが動かしてお客さん達に恐怖を与える。

 私とウラノちゃんは学院祭を見て回る時も一緒になるし、どうせならと同じギミックを行う予定なの。


「モニターの電源が勝手に点いたり、部屋の窓にも手形や人影を映したり、その辺も上手く作動してるな」

「そうみたいだね」

「今ってこんなに発展してるんだね……」


 軽く魔力を込め、動作確認。壊れたモニターもちゃんと動いている。

 文明の利器も当然活用して、色々な魔道具に予算を掛けてテーマパークさながらのお化け屋敷が再現出来ている。

 他にも天井のシャンデリアとかクローゼットにソファーにテーブルとか、壁にさえも。部屋の全てには何かしらのギミックが備わっている。

 これでお化け屋敷の確認はOK。次は飲食店の方に向かった。


「此方も問題無さそうだな。お化け屋敷もあって疑心暗鬼になってるだろうけど、ちゃんとした飲食スペースだ」

「そうだね!」

「大きな変化……」


 様々な要素を注ぎ込んだ飲食店。壁には絵画が飾ってあったり、待ち時間には展示物を楽しむ事も可能。

 出口にはお土産屋さんも配置しており、限定グッズの販売をしている。

 その限定グッズって言うのは私達ダイバース部や他の部活動で活躍しているみんなのサインとか再現したお人形。これを求めたお客さんが来る事も想定されているんだ。

 将来的に会社を継ぐ人も多いだけあって、みんな商売人だよね~。


「んで、最後はバーエリアだ」

「大人の雰囲気でムーディーだね~」

「落ち着きますわ~」

「この淡い光が得も言えないな」

「そうだね……」


 私達五人はバーエリアを確認。ここが最後になるかな?

 バーカウンターにダイナーなテーブルや椅子。後ろには色鮮やかなお魚の泳ぐ水槽。

 この場所も他とは一風変わっているけど、しっかりと作られている。細部までのこだわりも注目ポイントだよ!


「楽しくなりそうだね……学院祭……」

「うん、そうだね!」

「絶対に成功させてやるぜ!」

「私達の誠心誠意を込めた出し物ですわ!」

「胸が踊るな~」


 いよいよ明日に迫った学院祭。私達は改めて気合いを入れ直した。

 これにてお化け屋敷と飲食店を抜け、私達四人は教室から出た。


「私も来て良いかな……」

「何言ってんだ? 当たり前じゃん!」

「そうだよ。みんなで楽しまなきゃ!」

「当然ですわ!」

「歓迎するよ!」

「ありがとう……」


 私達が話ながら外に出ると、待機していたクラスメイト達はキョトンとした顔で見つめていた。

 どうしたんだろう?


「なんだその顔は?」

「え……いえ、ボルカ様方……まるで誰かとお話しているかのように出てきましたからつい……」

「……? 確かにアタシ達はずっと話してたけど、それがなんだー?」

「……その……詳しく言いますと、貴女様方四人が誰か一人に対して受け答えしているような、そんな感覚で……」

「ん? いや、確かにアタシ達は五人……じゃなくて四人で……あれ?」


 なんだろう。ボルカちゃんとクラスメイトの会話を聞いていると、私達もちょっとよく分からない感覚に陥る。

 まるで五人居たかのような、そんな感覚。でもウラノちゃんは先に帰っちゃったし……私、ボルカちゃん、ルーチェちゃんにカザミさんの四人で見て回ったよね?

 ……あれ?


「き、気のせいだったみたいですわ。改めて数えてみても四人しかおりませんものね!」

「そ、そうですわよね。きっと!」


「んー、まあ、そうだな。多分、毎日の制作作業で疲労が溜まってんだな」

「今日に至っては夜通しだもんね~」

「そうですわ! 皆様!」

「ああ、第一、私達以外が居たら流石に気付くだろう。つかれているだけだ」


「ホ、ホホホ。それはそうですわ。私ったら何を仰有っているのか」

「気のせいですわね。気のせい! 疲れているだけですの!」


 結局なんの事かは分からなかったけど、取り敢えず納得してくれたのかな? と言うか私達もちょっとフワフワした感覚におちいっている。これは予想以上につかれちゃったんだね。


「んじゃ、最後に仕上げて早めに寝るか~。明日は客人達の対応で忙しいぜ!」

「そうだね! 明日はもっと頑張ろう!」

「ですわ!」

「ああ!」


 疲れが見えているので、仕上げを終わらせたら早く帰って休む事にする。その為に全員でお化け屋敷や飲食店の最終確認をし、夜更けには全ての工程を終わらせたよ。

 明日はついに“魔専アステリア女学院”の学院祭。楽しみで眠れないかと思ったけど、つかれていたのかすんなりと眠れたね~。

 そして次の日、いよいよ学院祭が始まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ