第三百四幕 二年目ダイバース・新人代表決定戦・終幕
「一気に切り込む!」
「文字通りね!」
『『『…………』』』
『『『…………』』』
フィールドの盤面を整えるや否や、ボルカちゃんは炎剣を片手に高速移動。ゴーレムやビースト達を次々と斬り伏せていく。
これは狙って戦っている訳じゃなく、私の元に近付くついでに襲い掛かる子達を倒しているだけ。
ボルカちゃんにとっては片手間の事だよね。
『ブオオオォォォォッッッ!!!』
「デカくて質量があって色々上澄み。つまり、問題無いな!」
「流石だね……!」
森その物と変わらない巨大ゴーレムの巨腕を炎剣一つで斬り落とす。本来なら切断面から蔦を伸ばして再生するけど、斬られた傍から発火させて再生を妨害している。戦い方を熟知しているから相応の対策はしてあるよね。
闇雲に仕掛けても単純な相性なら火に弱い。本来は燃えにくいし斬られにくいんだけど、それは一般的な物に限る。ボルカちゃんの魔術や魔法相手じゃ該当しない。文字通り火力が高いから。
とは言え全身が炎という訳でもなく、仮に覆ったとしても燃え尽きる前に打撃を与える事は可能。結局は仕掛け続ける他に無いよね。
「“フォレストビースト”+“ファイアレーザー”!」
「アタシそっくりの人形からなる炎魔法。ビーストから吐かせると絵になるな!」
ビースト達にボルカちゃんを繋げ、口と連動させて火炎を放射する。
巨大ゴーレムより火の耐久性は低いから不意を突いての奇襲が終わったらお役ごめんになっちゃうけど、確実に足止めは叶った。
そこ目掛け、樹で突撃。
「“突撃樹林”!」
「樹木行進と何が違うんだ?」
「狙いの正確さかな!」
上下左右から撓る木々を放ち、ボルカちゃんはバックステップで躱しながら炎で対処。
呪文を変えただけで似たような魔法は色々あるけど、イメージの世界だからね。よりしっくり来る方やより強そうな方が威力も高まって成果に期待出来る!
「“植物の罠”!」
「……! 体に……でも!」
避け続ける足元から蔦を生やし、ボルカちゃんの拘束を試みる。
けれど全身を覆う炎に焼き消されちゃった。やっぱり樹木よりは脆い蔦じゃ難しかったかも。
だけど、少しでも動きを止められたのなら十分!
「“落花星”!」
「こんな豆はとても食えねぇな!」
隕石のような植物を上から落とし、辺り一帯を吹き飛ばした。
本物の隕石と違って少し高い所に植物を放って落としただけだから大きな落石程度の威力だけど、より燃えにくく頑丈だからボルカちゃんにも効果的な筈。
内部から燃え盛る炎が溢れ、星の落花生を貫き斬り伏せた。
「効いたァ! ガードはしたけど、やっぱり単純に重くて硬いだけでキツイな!」
「そうは見えないけどね……!」
「表面的にはな。内部はまあまあ重傷だけど、問題無く行動出来る範疇だぜ!」
それだけ言い、踏み込んで加速。長い炎剣を横に薙ぎ払い、辺りの植物を切断させた。
「“広範囲炎剣”!」
「そのまんま……!」
「でもイメージはしやすいだろ?」
「うん!」
あの威力の炎剣が長いってだけでもかなり脅威的。剣の範囲はもちろん、それを操るボルカちゃんも流石の実力。
けど、それも突破してこそだよね!
「範囲なら、私も負けないよ!」
「だろうな!」
更なる植物を展開し、一つの巨腕とする。
さっきの拳やゴーレムよりも遥かに大きな手……を形取った植物。
即座にそれを振り下ろし、ボルカちゃんは魔力を込めて下方に立つ。
次の瞬間に拳を降ろし、周囲の植物が陥没して吹き飛んだ。突風のような衝撃波が辺りを包み、砕けた闘技場の中心には巨腕が。
どうだろう……。
「これも効くなァ! さっきの隕石より遥かに重いぜ!」
「……っ」
巨腕は内部から焼かれ、一瞬にして消し炭となりボルカちゃんが飛び出した。
それと同時に炎で加速し、私の方へ炎の刃を向ける。咄嗟に植物を纏めて守りを固めるけど、それは容易く粉砕して炎剣を直に受けてしまう。
熱いし痛い……! でも、ボルカちゃんもあの質量に押し潰されて痛くない訳がない。もう一息……頑張ろう!
「“樹槍”!」
「“フレイムランス”!」
互いに体は弾かれ、即座に体勢を立て直して樹と炎の槍が正面衝突。
樹は燃え去り、炎は掻き消し煙が砕けたステージを覆う。瞬時に魔力を込め、ボルカちゃんの気配を掴んで狙いを定めた。
「“ドングリマシンガン”!」
「本当に、植物の領域を越えてんな。実在する生態だけどさ!」
ドングリを射出し、マシンガンのように撃ち出す。
植物や闘技場の瓦礫が一撃当たるごとに砕けて粉々になるけど、ボルカちゃんには一向に当たらない。
彼女は地面を滑るように炎で加速し、私の懐へと回り込んだ。
「そーら……」
「“樹の──」
互いに魔力を込めて向き合い、次の刹那にはそれを放つ。
「───鞭”!」
「……よっと!」
樹木の鞭と炎で威力が上がった回し蹴り。二つの力はぶつかり合って周囲の瓦礫や破片を吹き飛ばし、結果的に場を整える事が出来た。
ここまでもほぼ互角。ダメージも多分同じくらいじゃないかな。
「“上昇進行樹木”!」
「伸びながら移動する樹か!」
ママに魔力を込め、足元へと伝達させて貫き進む木々を操る。
どこにも逃げ場を無くしたこの魔法。隙間無く攻め立てるよ!
「構わーん!」
「やっぱりね……!」
けど、破壊しながら正面突破するボルカちゃんには通じない。
炎で体を覆っても掠り傷くらいは付いているけど、大したダメージにはならない。それも想定内。だからボルカちゃんをここに誘い込んだ!
『ブオオオォォォォッッッ!!!』
「……!」
「そこは着弾地点!」
腕は切り落とされたけど、全身は無事。燃え盛る炎の部分のみを切除して準備は整えていた。
後は狙いを定めるだけ。だから私はティナと感覚共有をして一人称視点だけじゃなく、上から全体を見ていたの。
素早いボルカちゃんの動きも俯瞰視点から見る事で捉える事が可能。私はそこに行き、ボルカちゃんがやって来るのを待っていた。
「これで終わらせる!」
「ゴーレムビームか……!」
『ブオオオォォォォッッッ!!!』
熱を一点に集中して込め、一気に放射。
今のやり取りも一瞬にも満たない。互いに全部が思考混じりの一人言だから相手に伝わったかも分からない。
でも確かに、放った。
「……」
放たれた熱線はポイントに当たって着弾し、凄まじい熱量を止めどなく与え続ける。次第に耐えられなくなった周りには熱が籠って爆発し、大きなドーム状の衝撃波を築いた。
私達はより強靭で一番熱耐性のある植物の中で堪えるけど、衝撃は抑え切れず少しずつダメージとなる。
だけど決して緩める事は無く、ボルカちゃんが倒れるまで絶え間無く放出し続ける。
何れゴーレムは炎で自壊し、一際大きな爆発と共に収まった。
「……今度はどうだろう……試合は……終わってない……」
既に舞台の形をしておらず、単なる焼け野原となった闘技場ステージ。試合は終わらず、ボルカちゃんが転移した気配も無い。
つまりまだ何処かに潜んでいるという事。その場所は──
「“上昇火拳”!」
「……ッ!」
足元……!
炎の勢いでアッパーカットを放たれ、私の体は空中へ浮かび上がる。下方では新たな魔力が込められているのを確認した。
「燃え尽きな! 親友! “フレイムバーン”!」
「……っ」
逃げ場の無い空中に舞い上がり、そのまま炎が放たれる。
咄嗟に魔力でガードしたけど凄まじい熱量は抑え切れず、ママも危ない。今は耐えているけど途切れるのも時間の問題。
──だからこのまま魔力を込め、最後の一撃に持ち込んでみせる。
数多の植物を一点に込めて空中に森を生成。その森を一つに纏め、魔力を一点集中。これで決まらなかったら私達の敗北は確定する。
「まだまだァ! “太陽の大放出”!!」
「……更に……!」
更なる追撃。今まで強者相手の試合でトドメに使った魔術。
数秒は耐えられるかもしれないけど、本当に厳しい。なので巨大な魔法の準備はしつつ、火耐性の高い植物からなる樹海で一時を凌ぐ。
耐えて準備が完了すれば、今までで最大の一撃を与える事が出来る! それまでの辛抱!!
「うおおおぉぉぉぉっ!!!」
「やあああぁぁぁぁっ!!!」
プロミネンスを放出し尽くすまで耐え凌ぎ、準備は完了した。
これで──
「──……!」
そう思ったら、下方にも凄まじい熱の気配が。
強大な魔術を使いつつ、ボルカちゃんも準備を整えていたんだ……!
やっぱり……スゴいや! ボルカちゃん! お互いに本気の攻撃で終わらせる訳だね!
「スゴいね! ボルカちゃん!」
「お前もな! ティーナ!」
「「でも……」」
「「……私が勝つ!」」
魔力を込め終え、準備完了。これが最大最強最後の、私達の魔導!
「──“惑星樹林”!!」
「──“日輪来光”!!」
落下する植物の惑星と、昇る太陽。
本来の惑星と恒星じゃその差は文字通り天と地程離れているけど、今回は実際にそのレベルある訳じゃない。
だけど間違いなく今の私達が出せる最大の魔導であり、大陸を破壊する事も可能かもしれない。
「これで……!」
「仕舞い……!」
二つの力はぶつかり合い、打ち消し合い、燃え上がり、混じり合い、触れ合う。
その様子はまるで星の衝突。そのイメージを具現化させているから当たり前だよね。
互いに拮抗して押し合いが発生。衝撃の波はステージ全体を飲み込み覆い、粉砕して、崩壊させる。その光景を見届ける私達の視界は白く染まった。
─
──
───
*****
──“医務室”。
「「……!」」
それから私達は、また医務室にて同じタイミングで目覚めた。
もはや医務室も常連だね~。見慣れた天井が私達を見下ろしていた。
でも今回は、周りにみんなの姿が。
「目覚めましたの!」
「ようやくね。もう閉会式になるわよ」
「見事な戦い様であったぞ」
「我も見習わねばならぬな」
「みんな……」
「オーッス……」
まだちょっとクラクラする。ダメージはそれ程までに蓄積していたんだね。
でも閉会式って……。
「「……! 試合の結果は!?」」
「此処でも息ぴったりね」
試合は既に終わったという事。私達がどちらも意識を失っていたけど、確実に結果は出ている。
それを訊ね、小さく笑うウラノちゃんは医務室の扉の前に立った。
「閉会式に出れば分かるわよ。その結果が」
「「……!」」
息を飲み、お互いに顔を見合わせる。
泣いても笑ってもこれが最後。代表決定戦はね。
でも、どっちが人間の国で一番強い個人になったのか、閉会式で明らかになる。
その結果は──
───
──
─
《“多様の戦術による対抗戦”! 新人代表決定戦個人の部!! 栄光を掴んだ映えある優勝者は……! なんとなんとなんとなんとォ!! 異例も異例!! ──ティーナ・ロスト・ルミナス選手!! ボルカ・フレム選手!! 判定を経ても全く同じタイミングで倒れたが為!! 個人戦史上初!! ────ダブル優勝となりましたァァァ!!!》
「「……。…………え?」」
類を見ない一位が二つある表彰台に立ち、私とボルカちゃんは素っ頓狂な声を上げた。
最初は言葉の意味が分からずに思考停止し、理解した瞬間に弾ける。
「「えええぇぇぇえええっ!? 私達の………どっちも優勝ォ!!??」」
「「「どわああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっ!!!!!!!!」」」
一際大きな大歓声が上がり、私達二人に証が授与されてダイバース新人戦、代表決定戦が終わりを迎える。
中等部最後の新人代表決定戦、個人の部。この年代の中等部最強は、まさかのまさかで私達二人という事となって幕を降ろすのだった。




