第三百二幕 二年目のダイバース新人戦・個人の部・準決勝突破
──“巨大都市ステージ”。
「こんなステージもあるんだなぁ。巨人達の街みたいだ」
今回の武舞台は全ての建物がデカい都市ステージ。
周りの建物はクラクラする程に高く、大きい。歩道ですら城が複数収まりそうなサイズだ。
「ゆっくり観光したいところだけど、そうも言ってられないよなぁ~」
周りを見上げ、独り言を話す。
今は準決勝。既に対戦相手であるレモンの気配は動いているし、アタシとしても捜索に出なきゃだな。
ま、場所は分かってる。炎を足から出して空中に浮き、その方向へと向かい行く。
場所を分かっているのはお互い様だけどな。
「来たか」
「やっぱ気付いてたな!」
街中ではあるけど、拓けた場所にレモンの姿が。
互いに何処に居るかは大抵把握している。だから戦いやすい位置に移動していたって訳だ。
アタシは空中から急降下して炎剣を作り出し、レモンは愛刀の木刀を構える。てか、あの木刀も長く使っている気がするけど折れたりしないんだな。明らかに木刀より頑丈で重い物を破壊しても無く使えてるし。外部の物に影響を与えるのは流石に体質で片付ける事は出来ないだろ。
それを理解したところでアタシのやる事は変わらないけど。
「そらよ!」
「ふっ」
炎剣を急降下の勢いそのままで振り下ろし、レモンは木刀でそれを受け止める。そもそも炎で燃えない木刀ってなんだよ。
そのまま炎剣を逸らし、隙を突かれて横薙ぎの一撃。けどそれは魔力の壁で防御。
「……っと……」
「はあ!」
したはいいけど、力に負けて押されてしまった。
柔らかい魔力の方が良かったか。あくまで直撃を避けてるだけだから衝撃は届き、体は吹き飛ばされる。
ドゴォン! と巨大建造物に突撃し、その後を即座に詰めたレモンは刺突を放つ。紙一重で躱して炎魔術のプチ加速で距離を置き、近くの椅子やテーブルを放って牽制。一瞬で木刀によって粉砕される。
けど視界を一瞬でも遮る事が出来たならそれで十分。瓦礫の間から炎を放って追撃し、至近距離に迫って再び炎剣を振るう。
「二重の目眩ましってな! 気配が読めても気は逸れるだろ!」
「その程度で取り乱しては侍の名折れぞ」
その炎剣も受けて躱し、アタシの体を弾く。そこへ踏み込んで詰め寄り、炎剣と木刀が衝突してお互いの体を引き離した。
剣での打ち合いは互角。アタシもやるようになったものだ。剣術は始めて一年ちょい。それで昔から剣を振るってるレモンに追い付いた訳だからな。
「はっ!」
「……!」
前言撤回。アタシはまだ、剣の分野で迫ってはいるけど追い付くまでは到達していないみたいだ。
数回の剣戟を執り行った後、明らかにアタシが吹き飛ばされる頻度の方が多い。
室内を駆け抜け、柱の先で今一度鬩ぎ合う。複数本の柱がそれによって砕かれ、グルッと建物内を一周した辺りで再び出会い、柱の影から炎剣と木刀を突き刺し切り裂き粉砕させた。
全ての支柱が砕けた巨大建造物は音を立てて崩れ落ち、巨大な瓦礫を粉砕してアタシ達は外へと飛び出した。
「“ファイアボール”!」
「遠距離持ちは厄介だな」
飛び出すと同時に火球を放出。レモンはそれらを木刀の剣尖で逸らして避けた。
でも、
「それだけじゃないぜ!」
「……! 着弾した火球が……!」
逸れた火球から火柱が伸び、レモンの体を延焼させた。
直撃。これは防ぎ様が無いだろ。素で体は頑丈だけど、魔力によるガードで全身を覆える訳じゃないしな。
言ーか、本来炎ってのは囲まれるだけで苦しくなるのに、この大会じゃ当たっても無傷で飛び出してくる人が多いのなんのって。そのレベルの物って事なんだけどな~。
「今のは熱かったぞ……!」
「それで済んでんのがヤバいんだよな~」
木刀で炎を薙ぎ払い、消し去って現れたレモン。多少の煤汚れや火傷痕はあるけど、どれも大したダメージにはなってない。
これまた普通はちょっとした火傷ですら痛いんだけどな。そりゃもう集中力が無くなるくらいに。
その辺も気合いで耐えてるんだろうな。ティーナにレモンに。すげぇ人達だ。
アタシも負けてられないよな。
そう考えているうちにレモンは眼前にまで攻めて来ていた。
「はぁ!」
「っと……!」
木刀を突き出し、紙一重で避ける。その方向に追撃が迫ったので正面に炎を放出して回避。炎幕は簡単に消されちまったけどな。
剣術だけじゃとてもレモンにゃ勝てない。魔法を加えて多様に攻めなきゃだな。ダイバースの名前の由来も多様な戦術だしな。
「“ファイアバレット”!」
「小さな火球……いや、火弾だな」
細かい弾を撃ち込み、それらは斬り伏せられる。火を木刀で斬るってのも変な話だ。まあ見た感じ、あまりの剣速に空気の層が生まれて炎を払い除けているようだ。
まああくまで牽制。攻め立て方も多種多様。特に此処は街ステージ。周りには色々ある。
「“火柱”!」
「地面から……!」
「コンクリートを熔かして仕掛けていたのさ!」
「ふっ、流石だ」
地面伝いの火柱も除けられ、アタシの元へ差し迫る。
だったらと左右に力を込め、炎を放出した。
「“フレイムバーン”!」
「私ではない……?」
周りの大きさが大きさなんで炎魔術は上級の物を。我ながら随分と体力も付いた。上級魔術の同時放出でもまだ余力がある。
炎に焼かれた周りの建物は熔けて崩れ落ち、その衝撃によって瓦礫が飛んでくる。解体工事の時とか本当に飛んでくるから現場からは離れた方が良いんだぜ。
「これくらいなら防げる」
「けど、動きは抑制されるよな!」
「成る程。己を火で包んで瓦礫を気化させているのか」
高速で飛び交う瓦礫は全て木刀で叩き落としてるけど、その為の動きで一瞬の隙が生まれる。
アタシは炎で自身を囲んで瓦礫を熔かしながら直進。一瞬の隙を突き、炎纏の拳を打ち込んだ。
「食らうか……!」
「食らうさ!」
「……!」
拳自体は避けられたけど、その傍から炎を伸ばして炎剣へ。レモンの体を貫いた。
真っ直ぐだからこそ、こう言った搦め手には引っ掛かりやすい。……まあ、比較的そうってだけでこんな風に切羽詰まった状態じゃなきゃ食らわないけどな。
「はあ!」
「……ッ!?」
マジかよ……! 炎剣に貫かれたのにそのまま反撃してきた。
根性でどうにかなるものなのか!? 体に穴空いてその上で焼かれてるのに。
アタシの体は吹き飛び、複数の建物を貫通して一際大きな場所に激突。意識が一気に遠退いた。
「本当に強いな……!」
「ああ。ようやく体が温まってきた頃だ。最近冷えてきたからな」
「もう来てらぁ。……ハハ……んじゃ、温まり切る前にやらなきゃな……!」
まだ本調子じゃないってか? 此処までも試合はあった筈だけど、それでも完全にならないとか。前にアタシが負けた時は本調子じゃないレモンが相手だったのかもな。
だとしても、今回は勝つさ。
「てか、体自体燃えてんだから十分に温まってるんじゃないか?」
「バレたか。痩せ我慢も武士の嗜みさ」
なんだよ。力は十分だったみたいだ。
それなら遺恨は無い。トドメに切り出すしかない。
「終わらせっぞ! ティーナ達の試合も終わった頃合いかもしれないしな!」
「そうだな。受けて立つ。と言うより、君自身既に限界が近いだろう。私の渾身の一撃を受けたんだからな」
「気付いてたか」
レモンによる渾身の一撃。効かない訳が無い。
そして貫かれた相手の体。効かない訳が無い。
要するにお互い元気モリモリ。まだまだ戦えるって訳だ。
アタシは両手に残りの魔力を込め、レモンは木刀を腰に納める。正真正銘、最後の一騎討ち。それは、今。
「──“太陽の大放出”!」
「──“居合い・一刀”!」
爆炎を放ち、居合い斬りを抜き、至近距離で二つの力が衝突。いや、厳密に言えば衝突じゃない。
レモンの体は炎に包まれてるけど、木刀で打ち返した訳じゃないしな。ただ単に相手は、灼熱の業火を突き進んでいるだけだ。
「「はあぁぁぁ!!!」」
木刀が迫り、炎の出力を更に上げる。
熱を放出し尽くし、巨大都市の半径数キロは消滅した。
─
──
───
「ぜぇ……はぁ……まだ……ステージの上……て事は……」
「ああ……私はまだ意識がある……」
「……っ」
魔力はもう殆ど空。これはマズイな。向こうも既に全裸みたいな状態だけどしっかりと足で立っている。
片手には木刀が。あの熱量でも燃えないって……。ヤベェな。マジで。本当に同じ人間なのかすら疑わしくなってくる。
「これで……」
「終わり……」
互いに話すのもやっとの状態。微かな魔力を放ち、レモンは木刀をゆっくりと振るう。
小さな小さな魔弾は木刀に当たり──
「……!」
「此処まで……か……」
煤となって消え去り、レモンの頭にコツンと衝突。指トンされた程度の衝撃は伝わったのか、そのまま倒れた。
《試合終了ォォォ!!! “魔専アステリア女学院”のボルカ・フレム選手vs“神妖百鬼天照学園”のルーナ=アマラール・麗衛門選手による対決は……ボルカ・フレム選手が突破しましたァァァ!!!》
「やっ……た……か……」
そして、顛末を見届けたアタシの意識も消え去り、一先ず勝利を収めて倒れる。
これで個人戦の決勝進出。ティーナとユピテルはどちらが勝ったのか、分からず仕舞いで準決勝を突破するのだった。




