第三百幕 二年目のダイバース新人戦・個人の部・最終日
ルーチェちゃんとエメちゃんの戦い。それはエメちゃんが勝ったけど、かなりボロボロな状態。
対するルーチェちゃんは怪我自体は大した事無い様子。こんな決着もあるんだねぇ。
取り敢えず、これで私達は第二試合も突破した。ルーチェちゃんは残念だけど、その分まで頑張らなきゃ。
その後私達は順調に勝ち上がり、新人戦の二日目も無事に突破するのだった。
──“ダイバース新人戦・個人の部・最終日”。
《さあ! 白熱した個人戦もいよいよ最終日を迎えました!! 人間の国の代表として世界へ羽ばたくのは誰になるのかァーッ!! 一時足りとも! 最後まで目の離せない激戦が──》
最終日となる三日目に突入し、場は更なる盛り上がりを見せていた。
「「「………………」」」
(勝つ)(勝つ)(勝つ)(絶対に勝つ)(代表戦入りはあくまで通過点。人間の国最強の名を貰い受ける……!)(コイツら全員を完膚無きまで叩き潰す……!)(勝つのは──)
(((俺(私(僕(ウチ(我(某(汝(拙者(わっち(あっし)))だ……!!))))))))))
──しかし、会場は盛り上がっているけど、選手達はそうともいかない。
辺りは妙にヒリついており、まるで全員が仮面を被ったような面持ち。ポーカーでも全員が優勝候補かも。
もう代表戦入りも決まる直前。あとたった数回勝利する事によって私達は、ここにいるみんなはそこまで行ける。緊張が見えるのは当たり前だよね。
司会者さんの話が終わり、第一試合が始まる。相手はここまで勝ち残った猛者達。一秒足りとも油断は出来ない……って、なんかこの大会の心得が毎回同じになっちゃうね。たまには変えてみようかな。
こんな感じにバチバチするんじゃなくて、もっと気楽に──
「よーし! 最後まで精一杯楽しむぞ~!!」
「「「………!?」」」
「「「………!?」」」
……あ! お、思ったより声が出ちゃった……!
司会者さんの話が終わったからこそ私の声が会場内に響き渡り、周りの視線が一斉に此方を向いた。
は、恥ずかしい……。思った事を声に出すのはいつもだけど、ちゃんと周りの雰囲気から察してるのに……。みんな代表戦に行けるかどうかの瀬戸際でピリピリしてるから絶対このタイミングじゃなかったよね……。
穴があったら入りたい。寧ろ新しい穴を掘って閉じ籠りたい。しよっかな……。
「あ……えーと……その……つい気合いが入って……」
慌てて弁明しようと試みる。だけど上手く言葉が出ない。恥ずかしさと緊張で呂律が回らない感じ。この空気、耐えられないよぉ……。
そこへ、ボルカちゃんが胸を張って笑った。
「ハハ! いつも油断しないようにって言うティーナにしては珍しい心意気だな! っし、確かに楽しむ事が大事だ!」
「そうだよね……! 折角この舞台まで上がれたんだもん……!」
「フッ、楽しむか。良かろう。我は愉悦と共に確実な勝利を掴む……!」
「そうだな。私も少し力んでいた。程好く肩の力が抜けたよ。天晴れだ。ティーナ殿」
それに伴い、エメちゃん、ユピテルさん、レモンさんが続く。
広がる波紋はそれだけじゃなく、
「楽しむ……そうじゃん。何を勘違いしてたんだろう……。元々自分もお客さんも楽しませる為のダイバースじゃん!」
「……フッ、蹴落とすのではなく……正々堂々、正面から、気持ちよく勝利するか」
「間違いない。その心意気は何より大事ではないか」
「私達もだが、観客達が不信感を持つ不完全燃焼で帰っても何も面白くない」
「常に好成績を収めているティーナ・ロスト・ルミナスの言葉。説得力があるな」
「ふふ、可愛い。ティーナちゃんと戦いたいなぁ……」
「貴女、ティーナさんの方が先輩ですよ」
「……? ……??」
な、なんか纏まりを見せてる。結果オーライなのかな……?
よく分からないけど周りのヒリつきも緩和し、和やかな雰囲気になっていた。
えーと……肩の荷が降りたならまあいっか! それに越した事はないもんね!
第一試合が始まった。
─
──
───
「おしまい……!」
「……ッ!」
そして、私の代表戦入りは決定した。
代表戦が決まる重要な試合だったのもあり、結構苦戦したよ。だけど勝利する事が出来た。
これで残りはこの国で一番強い人を決める個人トーナメントって感じかな。試合内容も謎解きとかは極端に少なくなり、単純な戦闘が主体になる。
「やったな。ティーナ!」
「うん! ボルカちゃん! みんなも行けて何よりだよ!」
私、ボルカちゃん、エメちゃんにユピテルさんとレモンさんの代表戦入りも決定。結局知り合いは五人未満だけど、去年よりは知ってる人の数が多いね。ちょっと嬉しい。
そして私達は勿論個人戦での優勝を目指している。代表戦入りが決定したとしても、決して手は抜かないよ。少しでも手を抜いたらあっさりと負けちゃうから。
「このまま良い所まで勝ち上がりたいね」
「だな。それにアタシの次の相手は──」
「私ですね……!」
私が次に知り合いと当たるのは準決勝や決勝。その前の試合では、ボルカちゃんとエメちゃんの対決が行われようとしていた。
既に代表戦は決定している。だけど優勝が目標になっている私達。これから先も戦いは続いていく。
去年はほぼ互角であり、戦っている途中でどこかに行っちゃったもんね。また白熱する試合になりそう。
私達は暫く観戦。二人の試合を見届けるよ!
───
──
─
《──試合終了ォォォ!! ボルカ・フレム選手が勝利しましたァァァ!!!》
「スゴい……ボルカちゃん……」
「更に力を付けたな」
「フッ、我と当たる時が来たら苦戦しそうだ」
それから少し後、ボルカちゃんはエメちゃんに圧勝した。
彼女の強さは身を持って知っている。そんなエメちゃんにここまで差を付けて勝利するなんて。
エメちゃんは医務室へ搬送。とは言え大きなダメージは無く、的確に相手の意識を奪っているからすぐに合流するかな。
ボルカちゃん。ここまで強くなっていたんだね。動きに無駄が無くなってるや。これ程のレベルなんて……。
「やりぃ! なんか今日は体が軽いぜ。絶好調って感じだ!」
「ホントにスゴいや! ボルカちゃん! あのエメちゃんにあそこまで差を付けるなんて……!」
「オウ! いつも通り気配は読んでたけど、相手の動きが手に取るように分かるんだ。自分の成長を実感するぜ~」
更に更に、ドンドンパワーアップしているボルカちゃん。私の目から見ても分かるくらいの実力。
元々強いけど、成長度合いが凄まじい。益々磨きが掛かってるね。
「次はティーナ達だろ? アタシ達の誰かじゃないだけマシだけど、全員手強いからな!」
「うん。油断せず、楽しんでやるよー!」
準決勝まで当たらないけど、それまでの道のりは長い。相手が相手だから一試合一試合の密度がスゴいの。
だからそれを加味して試合に臨む。
「“フォレストゴーレムビーム”!」
「……!?」
試合には最初から全力で挑む。ゴーレムから光線を発射して撃ち込み、大爆発を引き起こす。ステージごと相手を打ち倒した。
「はあ!」
「ぐはっ……!」
その一方で、レモンさんが木刀を振り抜いて相手の意識を刈り取った。
的確に意識の奪える場所に打ち込み、スマートに勝利する。やっぱりレモンさんもスゴいや。
「さあ、我に痺れよ!」
「~ッ!」
別の試合では、ユピテルさんが対戦相手を感電させ、簡単に意識を奪い去る。
こちらも相変わらずスゴく強いよね。殆ど防御の術が無い雷を数秒受けるだけで意識が飛んじゃうんだもん。
相手からしたら堪ったものじゃない存在。ユピテルさんが通るだけで意識が無くなってしまうといっても過言じゃない実力。
……まさか、準決勝の相手が彼女なんてね。必ずどちらかとは当たっちゃうんだけどさ。
《ついに個人戦も大詰め! 次なる試合は準決勝! “魔専アステリア女学院”のティーナ・ロスト・ルミナス選手vs“ゼウサロス学院”のジュピター・ユピテル選手! 此処までの試合、大きな傷を負わずに勝ち抜いてきた強者同士の対決が始まろうとしています!!》
「「「どわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」」」
緊張の一瞬。ユピテルさんとは何度か戦った事があるけど、いつも苦戦は必至。勝てるかも分からない。
それとは別に、他の準決勝カード発表もされる。
《そして! 此方も手傷を殆ど受けずに余裕を持って勝利を重ねてきた“魔専アステリア女学院”のボルカ・フレム選手vs“神妖百鬼天照学園”のルーナ=アマラール・麗衛門選手ゥ!! 無敵の二人が相対した時、何が起こるのかァ!!?》
ボルカちゃんとレモンさん。去年も個人戦で当たったカードであり、その時はボルカちゃんが負けちゃったんだよね。
だから今回の試合、ボルカちゃんにとってはリベンジマッチになる。
《それでは始めましょう! 多様の戦術による対抗戦!! 新人戦個人の部! 準決勝!! スタァァァトォォォッッッ!!!》
「「「どわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」」」
そして、準決勝が始まる。
残りはこれを含めて二試合。誰が相手になっても勝てるか分からない強敵。
けど、だからこそ人間の国で一番強いのが誰かを決めるのに最適。的確、何の文句も出ないものとなっている。
私達によるダイバース新人戦も、終盤戦へと持ち込まれるのだった。




