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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部二年生
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第二百九十九幕 アスレチックレース

 二日目の第一試合を突破した私。そしてまだ他にも試合は行われており、私は第二試合に備えて魔力と体力の回復をしていた。

 とは言え、既にボルカちゃん達も終わらせてるね。流石の実力者。みんなで勝利を喜びたいところだけど、今回はそうも言っていられない。


「いよいよ訪れましたわね。わたくしと貴女の頂上決戦が!」

「そ、そんなに大袈裟な事でしょうか……」

「当たり前ですわ! 仲の良い友人同士の対決! 燃えますわよ~!」

「気合いがスゴいですね……私も負けません……!」


 ルーチェちゃんはとても盛り上がっている。それに対して若干引き気味のエメちゃんだけど、確かな闘志は宿っていた。

 他の第一試合も終わり、次の試合が開始される。二人はEブロック。


《続いてEブロック! ルーチェ・ゴルド・シルヴィア選手vsエメ・フェアリ選手! 第二試合! “アスレチックレース”! スタァァァトォォォッッッ!!!》


 そんな二人の試合が始まった。



*****



 ──“アスレチックステージ”。


 司会者さんの言葉と同時に転送されたアスレチックステージ。見るからにあらゆる障害物があり、まさしくアスレチックと言った面持ち。

 さて、のんびりはしていられませんね。相手はあのエメさん。単純な戦闘では難しい相手でしたが、今回のアスレチックと言う形なれば勝てる可能性がまた少し上がりますわね。


「さあ、行くとしましょう」


 独り言のように告げ、まず最初の障害物である山を越えますわ。

 山と言っても登山などと種類は違く、小さな山が複数連なり飛び越える形となっている物。

 空を飛んでいけば簡単ですわね。

 私は足元に魔力を込め、


「……!?」


 ズンッ! と重圧が掛かりましたの。

 一体何事!? と思い、辺りを見渡す。エメさんの姿や追撃の気配も無し。つまり飛んで楽々行けないようにしてあるという事でしょうか。

 あくまで飛行が禁止であり、魔力による身体能力強化には何のデメリットも無い様子。飛ぶ事以外は大抵よろしいと考えて良さそうですわね。


「やってやりますの!」


 飛ばずとも、日々の修練で似たような事はしておりますものね。これくらいは障害のうちに入りませんの。

 跳躍して小さな丘から丘。山から山へと跳び移って進み、ゴールを目指す。

 数秒程度止まってしまった事がどう転ぶか。相手はエメさんですものね。入り組んでおり、高低差もそれなりにあるアスレチックですので仮に雷状態となったとしても真っ直ぐは行けなさそうですが、単純にエルフ族の身体能力は高い。故にもうかなりの距離を進んでいる可能性もありますわ。

 そうでなくとも先を越されたら敗北のルール。私も急ぎませんと!


「お次は……」


 山を越えた先に待っていた物は、広い川……湖でしょうか?

 小島はあれど船など見当たりませんが、おそらく此処も渡らねばならぬでしょう。

 一応回り込む事も可能な様ですが、それでは遠回りとなってしまいますわね。濡れる事を覚悟して突っ込むべきでしょうか。

 いえ、此処はご令嬢らしく、優雅な方法で行きましょう。


(聖なる力を足元に集中させ、水面と反発させる。本物の水では難しいですけれど、あくまで魔力からなるこの水なら……全てを覆う聖魔法で……!)


 そっと水面に足を着け、チャプンと揺らぐ。

 此処は魔力の湖。今の理論なれば歩む事も可能。立てたのなら後は進むだけですわね!


(加速は光魔法で……!)


 背後に光球を当て、その爆風で前進。そこから間隔を空けつつ連続して打ち込み、更に加速して突き抜けた。

 湖の方は何とかなりそうですわね。さて、次の障害は何になるのでしょうか。


「「──……!」」


 そのまま進み、もうすぐ対岸という所であの方がおられました。

 小島がありましたものね。それによって遮られ、互いの目から隠れていたのでしょう。気付いたのはお互いに今。エメさんも気配を読めるようになったと聞きましたが、まだ覚束無い感じなのでしょうか。

 しかし、出会ってしまったからには興行的にも行動した方がよろしいですわね。


「やりますか!」

「受けて立ちます……!」


 ダイバースは選手同士の戦いも見所。あまり好戦的ではないエメさんもそれを理解しているからこそ、私の挑戦を受けましたの。

 互いに魔力を込め、対岸に付く前に撃ち出す。


「“光球”!」

「“魔弾”!」


 光の弾と属性付与を行っていない魔力の弾が正面衝突。同時に爆発が起き、湖の水を押し退けた。


「……っ」

「多少は効きましたわね」


 流石に光球の方が単なる魔弾よりも上みたいですわ。衝撃波はエメさんの方へ行きましたの。

 しかしこの湖の上での対決。これは中々絵になりますわね。水も滴る良い女と言った雰囲気ですの。

 そしてエメさんが湖に立っている方法。私は聖魔法による反発での浮上ですけど、彼女は単純に魔力同士を連続してぶつける事で浮いておりますわね。

 おそらく此処でも飛行は禁止。今回は一定高度以上のという条件下でしょうが、それによって湖に立っての戦いという構図が出来上がりましたわね。


「追撃しますわ! “光球連弾”!」

「……!」


 更なる魔力を込め、エメさんへと撃ち込む。彼女は駆け抜けるようにかわし、着弾地点から次々と大きな水飛沫が舞い上がる。それはキラキラ輝き美しく、虹が出ておりましたわ。

 初手を制せば追撃を先に行えたりと利点は多い。このまま一気に畳み掛けたいところですの。


「はあ!」

「おっと」


 しかしそう簡単にはやれませんわよね。

 複数本の矢が射られ、私は迎撃するように対抗。

 エルフの得意分野でもある魔力の矢。当たったら一堪りもありませんわね。


「はぁああ!」

「はあ!」


 矢と光球の撃ち合い。次々と大きな水飛沫を上げ、私達はそのまま対岸までへと到達した。

 この時点では互角。力量も距離もですわ。次の場所はロープのようなツタが吊るされた森林地帯。下は底無しであり、ただならぬ魔力を感じますの。落ちたら最後と言った雰囲気でしょうか。

 けれど進まない事には始まらない。これまた同じようなタイミングでロープを握り、魔力と弓矢で牽制しながら突き進む。

 狙い目は──


((先にあるロープ!))


 どうやら考えは一緒のようですわね。思考は読めませんが、両者共に前方にあるロープを狙いましたの。

 それを見越してかロープの本数は数百以上。一瞬にしてお互いに半数を消し去りますが、問題無く突破しましたわ。


(そろそろゴールでしょうか)

(それならば、決着を付けるとしましょう……!)


 また思考が合致した雰囲気がありましたの。わたくし達って案外気が合うのかもしれませんわね。

 まだゴールは見えずとも、間違いなく半分は進んだ。ならばその前に決着を……!


「行きます……!」

「……! 帯電状態……本気ですわね」


 まだ曲がりくねった道はありますが、多少のリスクは承知の上でエメさんは帯電状態となり、自身を雷としましたわ。

 どんな障害物が待ち受けているかは兎も角とし、決着優先のお考えのようですわね。

 受けて立ちますわ!


「“極大光球”!」

「……!」


 そうと決まれば先手必勝。まだ雷へ体を慣らすのに多少の時間を有しておりますからね。私の体は聖なる膜で覆い、辺り一帯を光の爆発で飲み込みましたわ。

 その爆発は大きく包み、周囲を更地とする。雷の彼女にとっては遮蔽を消し去ったので有利にさせてしまうかもしれませんが、確かなダメージは与えた筈です。


「……ッ!」

「効果覿面(てきめん)ですわ!」


 そして予想通り、熱と衝撃によってボロボロになったエメさんが。

 意識までは届きませんでしたが、此処から終わらせに掛かります。

 そう考えているうちに前方には大きな崖が。これもまた多少のリスクを承知して正面衝突しましょうか!


「“貫通光球”!」

「光球だけでも多種多様ですね……!」


 正面へと光球を放ち、崖に穴を空ける。

 出口まで届いていない可能性と崩れる可能性。それらのリスクはあれど、確実に近道となります。

 そのまま真っ直ぐに突き進み、崖の中へと入った。対するエメさんはあの速度で小回りを利かせるのが難しいのか、大きく回り込む形。念の為に正面には光球を放ち続け、照明と採掘を併用して執り行う。

 出口の先が決着の付け場。


「「………!」」


 飛び出し、エメさんも雷速に近い速度で現れた。

 既にトドメの準備はしてありますの。最大級の魔力を込めており、それを放出。向こうは少し太めの雷の矢を引いた。


「“超光球砲”!」

「“ライトニングアロー”!」


 威力は確実に私の方が上。光球によって雷の矢は軌道が逸れ、私を掠る程度。

 多少は痺れますが、それは聖魔法のベールで覆って和らげる。エメさんに光の爆発が当たり、彼女は巻き込まれた。


「やりましたわ! これで私の勝──」

「──……私の……勝ちです……!」

「……!?」


 次の瞬間、更にボロボロになったエメさんの体が光の爆発から飛び出し、爆風に乗ってゴールへ。

 嗚呼、そんな……! とんだ失態を……!


《試合終了ォォォ!! 勝者! エメ・フェアリ選手ゥゥゥ!!!》


 エメさんはゴールし、私達は会場に戻った。

 ああ……負けてしまいましたわ。攻撃を受ける事自体を作戦に組み込んでいたのですわね。


「敢えて中級程度の魔法を放ち、光球の威力を気絶しない程度に弱め、自分は爆発の勢いで進みましたのですわね」

「は……い。これ……で……私は……勝ちまし……た……」

「だ、大丈夫ですの!?」


 少々やり過ぎてしまいましたか。エメさんの見た目が見た目なので負けたのにそんな気がしませんわ……。

 威力を弱めても最大級の攻撃。全身にそれを受けたのですもの。重傷ですわね。私は聖魔法でエメさんを治療。スタッフの方々による迅速な手当ても施され、次の試合は大丈夫そうですけれど。

 取り敢えず、負けは負け。私は今年も個人の部で代表戦には行けなさそうです。


「えーと、私に勝ったのですからこのまま代表戦にまで行ってしまいましょう!」

「はい……頑張ります……」

「わあ!? しっかりなさいませ! 勝ったのに此処で倒れたら意味がありませんわよ! ……私の所為ですけど……。すみません」

「大丈夫……です……問題……ありません……」

「大アリですわぁぁぁ!? もうどっちが勝ったのか分かりません事よ!?」


 満身創痍のエメさんにまだ余力のある私。本当にどちらが勝ったのやら……。

 何はともあれ、残念ながら私は負け。悔しいですけど状態が状態なので逆に同情してしまい、なんだか締まらない結末となりましたの。

 取り敢えず、残りメンバーの皆様の代表戦入りはほぼ当確ですわね。

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