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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部一年生
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第三十幕 弱音

 全方位から襲い来る植物。それら全てを薙ぎ払う。

 さて、ティーナさんを傷付けずに対応する方法は一つ。魔力が切れるまで私が耐えるだけ。時間は掛かるけれど確実なやり方。


「何やら話していたようだが、策は見つかったのか?」

「来たわね。イェラ。見つかったわよ。とても単純で簡単な策がね♪」

「……その様子……そんなに簡単な策ではなさそうだな。単純ではあるのだろうが」

「流石ね。率直に言うとあの子の魔力が切れて意識が無くなるまで耐え続けるという事よ」

「確かに単純ではあるな。この際難易度には目を瞑るとしよう」


 駆け上がってきたイェラにも策を伝授。

 これで万端ね。今は目の前に連なる植物を消し続ければ良しよ。


「なんで遊んでくれるって言ったのに捕まってくれないんですか~?」

「遊びは私が決めたわ。貴女が私達を捕まえたら貴女の勝ち。私達が逃げ切れば私達の勝ちってルールよ」

「そんな勝手に決められても困りますよ~」

「あら、そうかしら? 貴女もそうしてるじゃないの。だから此処は公平に行きましょう?」

「うぅ~。分かりました」


 素直な所も相変わらず。本当に母親関連の事になると手が付けられなくなるだけみたい。

 助けてあげたいものね。けれど私は高等部を卒業したら大学へと行かなければならない。魔専アステリア女学院は一貫校であっても、あくまで高等部までだから。

 私達が卒業した時、誰があの子を支えてくれるのかしら。十二歳でこれ程の魔力出力。全校生徒の顔と名前は覚えているけど、一緒に居てくれて彼女の魔法を止め切れる人なんて……。


「それじゃあさっさと捕まえます!」

「………」


 今は先の事よりティーナさんよね。

 押し掛けられる植物には魔力をぶつけて相殺。まだ余裕はあるけれど、私の魔力が尽きる可能性も考慮して素手でやれそうな物は徒手空拳で消し去る。

 さっきも思ったけど、既にある程度消費している状態でこの出力。もしかしたらあの子の魔力容量は自分一人だけの分じゃないのかも。


「“フラワーマジック”!」

「お花……?」


 伸びる木々に花を咲かせ、鮮やかな光景がダンジョン内に広がる。

 綺麗だけど何が狙いかしら。ビームとか出たり? フフ、流石にそれはないわね。向日葵ひまわり辺りはビーム出そうだけど。

 ただ綺麗なだけのお花畑。警戒はするとして目的は──


「咲いて!」

「……!」


 ブワッ……と黄色い何かが舞い上がる。目がショボショボしてきたけれど……分かったわ。花粉ね。かくれんぼの時も使っていたわね。

 視界不良と集中力の低下。これでは意識が削がれてしまう。制服の袖で口と鼻を覆い、魔力を込めた。


「“ウィンド”!」

「……!」


 ついにエレメント付与の魔術を使用。暴風を巻き起こして花粉を吹き飛ばし、更に魔力を込める。


「“ファイア”!」


 魔力を火に変換。周りの植物を燃やして焼失させる。

 ついでに花粉も消え去ったわね。それは上々。けれどまだまだ迫り来る。

 この時点で出力は凄まじいけど、もう少し本気を出させた方が良いかもしれないわね。


「ママの植物を燃やさないでください!」

「無茶言うわね。大丈夫よ。ティーナさん。燃えて朽ちた植物は新しい自然を芽吹かせるもの」

「あ、確かに本で読んだ事があります。じゃあどんどん燃やしてください!」

「変わり身早いわね……」


 切り替えの早さが半端じゃないわね。

 素直ですぐに他の色に染まる。純心な女の子。私が卒業した後の不安だけじゃなく、将来的に悪い大人に騙されたりしなければいいけど。

 結果的に植物の量が増えて魔力の消費が激しくなったのはラッキーと言えるけれどね。


「しかし本当に時間が掛かりそうだな。私達の体力が持つかも分からないぞ」

「そうねぇ。抑えて防いでいるけど、植物以外の方法で来られたらそれについての対処もしなくちゃならないものね」

「……一応聞くが、彼女の植物以外の方法って言うのは……?」

「フフ……あの子の所持する操り人形(マリオネット)


『『『ァアア……!』』』

『グモォ……!』


「アンデッドに……ミノタウロス!」


 ティーナさんの手駒は多い。文字通り操り人形となったアンデッドモンスターに、お亡くなりになっていた筈のミノタウロスが投下された。

 見れば死なないアンデッドはともかく、ミノタウロスは喉にも植物が絡まって無理矢理鳴き声を上げさせられているわね。

 彼女の認識だと音の鳴る人形くらいなのでしょうけど。


「そーれ! 捕まえちゃって!」

『『『ァア……』』』

『モ……ォ……』


「確認だけしておくが、コイツらは倒しても良いよな!?」

「そうね。自分で切り捨てたりしてたし、多分大丈夫だと思うわ。傷付けちゃダメなのはティーナさん自身と彼女が一番大事そうに抱えている二つのお人形さんくらいだわ」

「助かる。それならまあやり易い……!」


 アンデッドモンスター達が飛び掛かり、私は炎魔術で火を放って焼失させる。

 イェラは操る植物を断ち、確実に脳天を切り裂いて仕留めていた。

 この子達は元より助けを求めて彷徨さまよっている存在。その上更に操られている今、死こそが絶対の安寧となっている。

 その証拠に──


『ア……リ……ガ……トウ……』

『コ……ロシ……テ……ク……レテ』


 ──苦痛に歪んだ顔とは裏腹に、穏やかな表情で炭化する。

 アンデッドモンスターは魂が肉体に縛り付けられた成れの果て。故に痛みや苦しみは備え付き。更には細胞が既に死んでいるので傷が癒える事もなく、常に激痛が襲っている状態。

 こんなに可哀想な魔物は居ないわね。


『ブ……モ……』

「アナタは良かったわね。既に絶命していて。死後も体は動かされるけど、何の感覚も無い筈だもの」


 戦斧が振り下ろされ、私はそれを紙一重で回避。この子はアンデッドともまた違うマリオネット。だからまだ戦い易さはある。

 空を切った戦斧を持ち上げ、横へ払うように薙いだ。


「この子の場合は操る植物を切るか燃やすかしなきゃならないけど、狙いを定めるのは少し大変ね。イェラ」

「……分かった分かった。ルミの炎魔術じゃ時間が掛かるから私に斬れと言うんだろ」

「流石! よく分かってるわ!」

「小悪魔的な笑顔で言うな。まさしく魔族だ」

「私は魔族の混血を誇りに思ってるもーん」

「別に貶した訳じゃなく、悪魔的な意味合いでの捨て文句だ」


 そんな文句を言いながらでもちゃんとやってくれるのが彼女の良いところ。

 再び振り下ろされた戦斧を魔力強化した木刀でいなし、横に逸らして滑り込むようにミノタウロスの背後へ。刹那に狙いを定めて戦斧の持つ手を斬り伏せた。

 厳密に言えば、手を操る蔦状の植物ね。


『モ……』

「……」


 片腕が使えなくなり、もう片方の腕で拳を掲げる。イェラはその腕を突いて弾き、体勢が崩れたミノタウロスの頭上に木刀を叩き込んだ。

 それによって大きく仰け反り、瞬時に手足の蔦を斬り伏せる。


「お見事。流石イェラ!」

「だが、まだみたいだな……!」


 切れた蔦は即座に再生し、再びミノタウロスの屍を動かす。

 どんなに斬ってもすぐに直されたんじゃジリ貧ね。

 ミノタウロスは戦斧を振りかざし、イェラは体勢を低くして間合いへ踏み入る。


「後処理は頼んだぞ。ルミ」

「ええ。了解。イェラ」


 切り上げ、もう一度仰け反るミノタウロス。追撃するようその胴体を突き、腕力のみで巨体を壁へと激突させた。

 イェラは魔法や魔術が苦手。だからこそ極限まで肉体を鍛え上げた。それによって少量の魔力でバロンさん以上の動きが可能になっている。

 一緒にお風呂に入る時見るけど、イェラの腹筋とかスゴいのよ。女の子は筋肉が付きにくいのにバッキバキ。たまに触らせて貰っているわ。

 ちょっとくすぐったい時に出る声も可愛くて──


「オイ、ルミ。なんか余計な事考えてないか?」

「サア、ドウカシラネー」

「考えていたな。……さっさと後処理をしろ!」

「フフ、ごめんなさいね」


 起き上がろうとしたミノタウロスに木刀を突き刺し、一瞬で複数回切り裂く。

 蔦の再生は追い付かず、私は片手に魔力を込めた。


「おやすみなさい。迷宮の番人さん。ウチの後輩ちゃんが乱暴しちゃってごめんなさいね」


『──』


 爆炎を放ち、糸の切れたミノタウロスを焼き尽くす。操る肉体が無くなれば二度と動く事はないわ。

 これで処理は完了ね。後は他のアンデッドや植物を防ぎ続けるだけ。

 彼女はいつになったら魔力が尽きるのか、そしてその後に私達へ心を開いてくれるのか。考えても仕方無いわね。今はただひたすらに相手をするだけ。そう、ひたすらに。


「……大変ね」

「……?」


 思わず溢れるため息。イェラは小首を傾げ、イタズラっぽく笑った。


「フッ、珍しく弱音を吐いたな。一体どうした。簡単な作業なんだろ?」

「今を止める事はね。けれど、私達が卒業した後、誰がティーナさんを止めてくれるのかが不安で……」

「……成る程な。確かに私達はもう長く居ない。大学に行ったり、人によっては就職もするだろうしな。今を凌いだ後の心配か。相変わらず先を見越している」

「見越してみても上手く行くか分からないから不安なのよ。私が弱音を吐ける相手なんてイェラくらいだもの」

「そうか」


 振り返すようだけど……困ったわ。私達が卒業した後、今回みたいな事があったら誰があの子を止められるのかしら。

 私かイェラ以外の候補なんて──


「──ティーナ!」


「「……!」」

「……? ボルカ……ちゃん?」


 その時、外で待機している筈のボルカさんがやって来た。

 この高さに入り込んだの? ほうきも何も無しに……。つまりそれって、よじ登ったか魔法・魔術の微調整で来たって事よね……。中等部の一年生なのに、スゴい胆力。

 けど危ないわ。此処は先輩として止めなきゃ!


「ボルカさん! 今、ティーナさんは錯綜に近い状態にあるわ! 危ないから離れ──」

「すみません! 無理ッス! ルミエル先輩! アタシ、ティーナと初めて会った時、何かあったら助けてやるって約束したんで! そんな状態にあるなら尚更! アタシが友達ダチとして助けてやらなきゃいけません!」

「……っ。ボルカさん……」


 彼女の勢いに押され、返す言葉も出なかった。

 おかしな状態なのは外部から見ても明白。それを知った上でお友達を助けに来た。

 強い子ね。そして私のモヤも少し晴れた気がした。

 ……成る程ね。彼女がそうなのかしら。なら先輩としてしっかりと道を示してあげなきゃ。


「分かったわ! 今やっているのはティーナさんの魔力を使わせ切る事よ! 兎に角彼女を疲れさせて!」


「了解ッス! 先輩!」


 意図を即座に読み解いたボルカさんは炎魔法を放ち、植物を焼き払う。

 けれどまだまだ未熟な炎魔法。私みたく完全に焼き切る事は敵わない。でもそれでいいの。なるべく魔法を使わせる事が大事だから。


「ボルカちゃん……なんで……」

「遊びたいんだろ! じゃあさ! 今度の休日一緒に学院外へ行こうぜ!」

「……」


「……やっぱり……」


 ボルカさんの言葉に揺らぎが見え、植物の勢いが弱まった。

 これは偶然? いいえ、間違いなく必然。このままティーナさんを抑えるには、ボルカさんの力が不可欠って訳ね。

 私達によるティーナさんへの遊戯(説得)。それはボルカさんの参戦によって次の段階へと進む。

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