第二百九十八幕 二年目ダイバース新人代表決定戦・個人の部・開幕
──“ダイバース新人戦・個人の部”。
《さあて! 多様の戦術による対抗戦!! 新人戦もいよいよ個人の部へと突入致します!! 今大会も残り僅かとなり──》
団体戦の次の日、新人戦の個人の部が始まろうとしていた。
いつも通りの挨拶から入り、都市大会までを勝ち抜いたメンバー達が続々と集まる。
ウラノちゃんと一年生のみんなは観客席で観戦。来年に新人戦は無いから、高等部までの最後の試合だね。
《それでは! 早速試合を始めて行きましょう!》
司会者さんの話も終わり、早速一回戦が開始される。
今回はどこかで必ず誰かとは当たるもんね。今まで以上に気を引き締めていかなきゃ。
──“数時間後”。
「これで終わり……!」
そして、順調に個人戦の初日は突破した。
同じチーム同士が当たる確率は高くなるけど、戦力的には上手く分けられている。なので初日は割と突破出来る可能性も高くなるの。勿論誰もが代表戦入りの可能性がある人達だから決して容易ではないけど、それでも知り合いじゃないってだけで肩の力も抜けて戦いやすいし解きやすい。
ボルカちゃん達もトントン拍子で勝ち抜き、初日で知り合い達が脱落する事は無かったよ。
──“個人の部・二日目”。
そして、問題の二日目。ここからは一気に難易度が高くなると言っても過言じゃない。
トーナメントを見た限り、順調に勝ち上がったとして私達の何人かは知り合い同士の対決となる。
うち、どちらを応援しようか迷うカードが一つ。
「ふふん、このまま順調に勝ち進めば、貴女と当たりますわね。エメさん?」
「はい……そうなりますね」
ルーチェちゃんとエメちゃん。
この二人は二日目の今日、勝ち進めば当たる事となる。
今日はまだ代表戦進出圏外。つまり、どちらかは代表戦まで行けずに終わってしまうという事。
「二人が戦っちゃうのか~……」
「これも運命ですわ。ティーナさん」
「そうだよ。ティーナちゃん。仕方無い事」
せめて明日なら代表戦進出決定の可能性もあったんだけどね……。新人戦では代表戦に行ける人が多い。総合的には団体戦と大差無いけど、一人一人の実力で全てが決まるからチームで出場するより多く感じるの。
どちらにせよ、泣いても笑っても決まっちゃう事だよね。
そこへボルカちゃんが入ってきた。
「そう言うティーナはどうなんだ? 二日目の相手にアタシ達は居ないけど、第一試合の相手がカッパだぜ」
「カッパさん……。ボルカちゃんも苦戦する相手だよね」
「ああ。昨日の試合でも最終的には大炎上させて頭の皿を渇かして勝ったけど、同じ手が通じるかどうかだ。ティーナも炎は使えるけどな」
「確かに……環境的要因で倒せればいいけど、一筋縄じゃいかないよね。全試合そうなんだけどさ。炎以外の方法を考えなくちゃね」
私の二日目第一試合の相手は、名門“神妖百鬼天照学園”のカッパさん。
実力はおそらく、今のあのチームでレモンさんに次ぐNo.2。困難を極めるのは必至。
対策を考えておかないとね。
《それでは! 多様の戦術による対抗戦!! 二日目第一試合を始めたいと思います!!》
「……!」
そんな事を話しているうちに始まってしまった。
しょうがない。ルールを聞いた後、僅かな時間で考えなくちゃね。
《新人戦個人の部! Dブロック第一試合! ティーナ・ロスト・ルミナス選手vsスイジン・カワミチ選手! ルールは“押し出しゲーム”!! スタァァァトォォォッッッ!!!》
“押し出しゲーム”。似たようなものはやったような気がする内容。と言うかカッパさんの名前ってそうだったんだ……。今度からはカワミチさんって呼ぼうかな。レモンさんにカワミチさんに、日の下の人は下の名前で呼ぶ機会が多いね。私達とは名前の勝手が違うのかな。
何はともあれ、そんな私達の試合が始まった。
──“押し出しゲーム”。
『クワッパッパ。今回のゲームは相撲に似ているね。僕の得意分野さ』
「スモウ……確かに前にやった時もそれをモチーフにしたって言われてたよ。去年の体育祭だっけ」
『国外まで広まっているんだ。それは誇らしいね』
ステージは半径数百メートル。今までのフィールドに比べたら狭い場所。
ルール的にステージの狭さは当たり前だよね。本物のスモウは数メートルの中でするんだってね~。
『まあいいや。それじゃ、開幕の音頭は既に終わってるし……始めようか?』
「うん……そうするよ。カワミチさん」
いよいよ押し出しゲームが開始……とそれはいいんだけど、カワミチさんの体勢がちょっと気になった。
「……えーと、何でそんな体勢になってるの?」
『これは始める前の所作だよ。本当は清めの塩もまきたいけど、生憎此処には無いからね』
「塩?」
『昔は祈りの行事でね。邪気を払ったり五穀豊穣を願ったりの名残なのさ』
「そうなんだ」
所作にはそれに伴った理由があるんだね。
なら私もそうした方が良いかもしれないけど、ちょっと恥ずかしい体勢だからやめておく。少しだけ腰を低くしておいた。
じっと向き合い、互いの出方を窺う。既に始まっているんだけど、妙な緊張感が迸って息を飲む。
カワミチさんは言葉を綴った。
『“発斬酔”……』
(来る……!)
その体勢のまま力が込められ、カワミチさんの足元が割れる。
気配は分かる。今にも飛び掛かりそうな状態。そしてそれは、この瞬間。
『“鋸弾”!』
「……っ」
凄まじい推進力で突き抜け、コンマ一秒も掛からず私の前へと躍り出た。
来ると分かっているので既に植物は準備していた。私との距離全てに分厚い植物を敷き、その上で全てを破壊しコンマ一秒も掛からなかった。
「危なかった……!」
『へえ……避けたか』
そう、植物は準備していた。それは私達の足元にも。
樹を伸ばして空中へ行き、カワミチさんの凄まじい突進を避けたのだ。
けど本当に手強い相手。初動で分かった。今年の新人戦で戦った中でも遥かに強い……! ……最強候補自体はそれなりに居るんだけどね。
取り敢えず植物は崩されちゃったし、また新たな植物を生やして空中移動。
『空を行くのかい? まあ、押し出したら勝ちのルール。僕は相撲で仕掛けるよ』
「え? それってどういう……」
私は今まで通りのやり方で仕掛けるつもりだけど、カワミチさんは少し違う方法でやるみたい。
その言葉の意図は分からないけど、行動を縛るって事かな?
『“司食儺乂”!』
「……ッ!」
両手を挙げ、巨大な水柱が空中の私へ突き上がった。
降下するようにそれは避け、体勢を立て直したところにカワミチさんが。
『“晴里天”!』
「“防衛樹林”!」
水からなる掌底打ちが放たれ、植物達の壁で防ぐ。けれど薙ぎ払われ、境界線ギリギリまで飛ばされてしまった。
本当にスゴい力。カワミチさんは堂々と歩み寄る。
『食を司り、儺にて邪鬼を払い、稲を刈り取る。里には晴天の空が訪れるだろう』
「なにそれ……」
『僕が技に込めた思いさ。想像力が君達で言う魔導。僕達で言う妖術を顕現させる大きな要因。五穀豊穣を願うこの儀式に置ける技にはそう言う意味を込めたんだ』
「ちゃんと考えているんだ……」
『そうだね。木々を斬る事で発し、村を作り上げる。合間には酔うも一興。材料集めに鋸は必要。獣を狩るには弾も居る。ある一つのジャンルに置ける僕の技には国の繁栄を想像として組み込んでいるんだ』
想像力。つまりイメージが魔導の威力を高めるのは私達も行っている事。一つ一つの威力を高め、確実な一撃を放つという行為。
それにしてもカワミチさんの妖術は凄まじい。神聖な儀式に使う技だからこそ、神様の力が宿っているのかな。
私は単純に木々で防壁を作るから“防衛樹林”とか単純な考えでやっちゃってるや。……でも、だからと言ってそれが私の負ける理由にはならない。私も相応の力を有し、勝利を掴んで見せる。
「押し出すなら……単純な力押し。──“千樹掌底”……!」
『千本の樹。大迫力だ』
数千の樹を立て、それらを手の形とする。
張り手って言うのは手で押し出す行為。だから単純に、手の数を増やして試みる事にした。
無数の腕をカワミチさんへと押し付けるように叩き込み、樹木の雨霰を降り注がせる。
読んで字の如く、手数で攻め立てる!
『“月羽璃”!』
「……!」
それに対し、相手は水を纏めた水玉のような物で対抗。木々と水玉はぶつかり合い、弾けて辺りへ虹を架ける。
その光景は綺麗だけど、まさか水玉に防がれるなんて。見た目がシャボン玉で柔らかくてすぐ割れそうだけど、その柔軟さで弾いているみたい。
だったら……!
「“針千本”!」
『樹の形を変化させて鋭利なものに。やるね』
貫き割り、相手の方へ嗾ける。
カワミチさんは紙一重で躱していき、木々の上に乗って私の方へ。
『近付けば問題無いよね!』
「そんなに近付けさせません!」
走るのではなく摺り足で。なのにとても速いけど、負けじと更に植物を放った。
『この程度なら、簡単に近付けるよ!』
「……っ」
それらは全て容易く破壊され、瞬く間に眼前へ。
このままじゃやられる。押し出し負けだ。でも、ボルカちゃんとの戦いを見、本人にも弱点は教わっている。そこを突ければ可能性は高まる。
『“晴里天”!』
「……ッ!」
そんな思考のうちに手が迫っており、咄嗟にガードするも地面へと吹き飛ばされた。
何とか境界線からは出ていないものの、凄まじい重圧。背中から叩き付けられて空気が漏れ、踞って噎せる。
「ゲホッ……ゴホッ……」
『線は出ていないか。だけど、本物の相撲じゃとっくに負けてるよ。君。倒れるだけでもアウトなルールだからね』
「そう……ケホッ……ですか……」
これがあくまで押し出しゲームで良かった。そうじゃなきゃ私の負けが決まっていたらしい。
だけどこれで攻略法は掴めた。初めての試みになるけど、試す価値はある。
『じゃあ……トドメと行こうか』
「……っ」
『まさに背水の陣だ』
すぐ近くには境界線。ここを出た瞬間に私は負ける。
最初で最後、一か八かの見極め。
『行くよ』
「……」
踏み込み、足場にしていた大樹を粉砕。一直線に迫り、私は足元に魔力を込めた。
「“上昇樹林”!」
『沢山の樹を生やして……けどこれくらいなら簡単に避けられるよ! いや、避けるまでもない』
「破壊して……!」
一直線に突き抜けるカワミチさんは木々を粉砕し、私の方までやって来た。
これで終わり。決着が付く。
「“迎撃樹木”!」
『……! 体から植物を……!?』
小さな芽をさっきの時点で私の体に仕込み、相手には上昇する木々で気付かせなかった。
ちょっと痛いけど、これはあくまで自分の魔力。傷口はすぐに塞げる。
そのまま私の体は吹き飛ばされ、カワミチさんもそれに引っ張られる。
この位置を思えば……!
『先に地面に付くのは僕……!』
境界線を越えたらその時点で敗北が決まる。吹き飛ばされた瞬間に体から生やした植物で位置調整をし、向こうがやや飛び出る形で横並びとした。
それにより、このまま行けば自分の力でカワミチさん自身が押し出される形になる。
『けど、この植物を切れば……!』
「カワミチさん。頭の皿……水が無くなると大変なんですよね?」
『……!?』
私の体から生えた植物はカワミチさんの全身を蝕み、頭上に到達した。
植物は水を吸う。常識だよね。
品種改良によって吸う速度を通常の数百倍にし、頭の皿から水を吸収した。
『クワァ……! ち、力……が……』
ただの道連れならこうはならなかった。散々弱点については見たからね。お陰でこの勝負──
《試合終了ォォォ!! コンマ数秒差でカワミチ選手が先に地面に着いた為、ティーナ・ロスト・ルミナス選手の勝ちとなりましたァァァ!!!》
「やった……」
会場に戻り、試合の決着が付いた。
まさか二日目始まった第一試合からこのレベルになるなんて。負けそうになった場面がいくつもあったし、“神妖百鬼天照学園”のスイジン・カワミチさん……とても強かった。
何はともあれ、私は二日目の第一試合を突破するのだった。




