第二百九十七幕 二年目ダイバース代表決定戦・新人戦団体の部・終幕
(──そんな……まさか此処まで……!)
炎で加速し、一方は水で加速。パワーは向こうにやや分があるけど、速さならアタシにある。とは言えその速度さえも一瞬で無下に帰すのがこのカッパと言う妖怪。
炎剣を用いて迫り行き、相手は水を周りに込めていた。
「そら!」
『“水洗移”!』
(此処まで……)
振り抜いた炎剣は水によって逸らされ、空を焼き斬る。カッパは掌に水を込め、それを瞬時に放出した。
『“水鉄砲”!』
「相変わらず水鉄砲一つでとんでもない破壊力だ」
(あの二人と私の差があるなんて……!)
水鉄砲を躱し、背後の山脈にトンネルを造り出す。
カッパが居りゃ、開通工事する必要無いかもしれないな。周りが崩れないように綺麗な風穴空いてら。
躱すや否や刹那に炎で移動し、カッパの死角へ回り込む。このまま炎剣を振り下ろせばダメージになりそうな物だけど、
『“水切り”!』
「水を切ってんのかそれ?」
『水切りした時に跳ねる水飛沫を再現したんだよ』
「成る程な~。いや、成る程ってのも変だけど」
(ボルカ・フレム……私相手には本当に指導でしかなく……全然本気を出していなかったんだ……!)
円を描いて水を放ち、炎剣は消火させられた。
剣の形はしてるけど、あくまで炎魔術の一貫だしな。炎の火力以上の水をぶっかけられたらそりゃ消える。
『“水掌弾”!』
「こんな水晶玉じゃ占いも出来ないよ!」
炎剣を消した瞬間にアタシへ向き直り、振り向き様に掌を打つ。それによって集めていた水が球体となって飛び、水弾となって彼方へ行った。
そして遠方では水のドームが……って何でだよ。あんなに水分が含まれてたのか?
まあそれは兎も角、一挙一動で地形を変えるレベルだな。
水の弾も避け、新たな炎剣を作り出して突き立てる。紙一重で避けられ、妖力が集中するのを感じた。
『“水衝波”!』
「水鉄砲と何が違うのやら」
『周りへの余波かな?』
「……!」
回避と同時に水の衝撃波が放たれ、躱したと思ったら余波によってアタシの体が吹き飛ばされた。
こりゃ手厳しい。余波だけでこの有り様か。当然追撃のように水の弾丸が撃ち込まれてっし、一つ一つを防ぐのも一苦労だ。
けど、空中で体勢を立て直しゃ追撃は受けない。水の弾丸を炎で蒸発させて消し去り、水蒸気となった視界から気配を探ってカッパの元へ。
そのまま更に加速して眼前に迫った──お互いにな。
「──“フレイムバーン”!」
『──“水龍猛進苛烈波”!』
至近距離で二つの力が鬩ぎ合い、一際大きな爆発を起こして更なる水蒸気が全体を覆う。
視界不良でもアタシとカッパが止まる事はなく、明確に気配を読んでぶつかり合う、炎と水を互いに纏った単純な殴り合い。二つの属性は然して意味を成しておらず、アタシの炎を水で防いでいるとかその程度の役割。
水は兎も角、炎は相手の弱点である皿の水を蒸発させられるからな。向こうも必死だ。
『的確に狙ってるね……!』
「ある意味一撃必殺の弱点なんだ。狙わない手は無いだろ」
向こうもとっくに狙いには気付いている。そしたら後やる事はどちらかが力尽きるまでの耐久戦だ。
再び互いに力を込め、瞬時に詰め寄って幾度となる鬩ぎ合いを織り成す。大将を討てば終わる。その為にもカッパは倒さなきゃな!
「“火炎渦”!」
『“河波巻”!』
炎と水の渦が衝突し、辺り一帯に水飛沫と火の粉が散った。
『完全に蚊帳の外……違う。自分から飛び込む他に無い。最初に戦っていたのは私だから……! 誇り高い狐の一族にかけて……!』
「……!」
すると、ずっと眺めていたヨーコも動き出す。
そう、戦いなら自分から突っ込んで行くことも大事。そしてアタシは一つの事を理解した。
よって、この戦いには終止符を打つ。
「ヨーコも参戦って事で……終わらせるぞ!」
『良かろう。受けて立つ!』
『そうだね。やろうか!』
既にそれなりのダメージは負っている。感じなくても、そう言うもの。ダメージは蓄積するんだ。
それはお互いに同じ。なので全身全霊の力を込め、この戦いを終わらせる。
*****
「「一気に挟み撃つ!」」
分身を破壊し、残った二人が連携プレーで攻め立てる。
手裏剣にクナイ。でもそれだけじゃないわね。それらには何れも痺れ薬などが塗ってあり、掠るだけで窮地を招き兼ねない代物。
でも数の差で圧倒的な有利を取った今、上手くすればこの刺客を倒せるわね。
「ルーチェさんは左側。ディーネさんは右側をお願い。その間に最大級の準備をしておくわ。それとディーネさんは──」
「分かりましたわ!」
「分かりました!」
ミノタウロスは消し去り、本の鳥達も戻す。
勝てる可能性の方が高くなった現在、長く戦っても利点はない。一気にトドメのフェーズへと移るのが吉。
あの二人なら止めてくれるでしょう。
「“光球連弾”!」
「“忍法・土遁の術”!」
「“機関水銃”!」
「“忍法・守衛生成”!」
光球と水弾の乱射が各々の壁によって防がれている。
それで十分。破壊された訳じゃない今回は、準備に大した時間は取らない。
「準備完了。ディーネさん」
「はい! “空間掌握・覆”!」
「「……! これは……!」」
空間魔術によって脱出口は無し。後はそこへ最大級の攻撃を放つのみ。
終わらせるわよ。
「物語──“龍”」
『ガギャアアアァァァァッ!!!』
「……! ウラノ・ビブロスの……!」
「奥の手……!」
奥の手も何もちょっと魔力消費の多い召喚獣でしかない。
龍に指示を出し、ルーチェさんとディーネさんも最大級の魔力を込めた。
*****
「はあああ!」
「ふっはァ!」
無数の植物を打ち付け、それら全てをレモンさんは斬り伏せる。
それも全て想定内。向こうだって体力が無尽蔵って訳じゃないもんね。隣国まで泳いで往復してもまだ余裕なくらいはあるけど、今回は神経の研ぎ澄まし方が違うから普通に動かすよりも多分きっとおそらく疲れてる筈。
「はあ!」
「……っ! やあ!」
「ぬぅ……!」
木刀で腹部や頬を打ち抜かれ、植物で胴体や顔を打つ。
既に口の中は鉄の味が広がっている。永久歯も抜けちゃったかもしれない。でも、その辺の治療や再生は可能。今は痛みよりレモンさんを確実に倒すと言う気概!
『ブオオオォォォォッ!!!』
「邪魔だ!」
ゴーレムが巨腕を振り下ろし、それを木刀で薙ぎ払って吹き飛ばす。同時に跳躍し、高さ六十から七十メートルのゴーレム達を粉砕した。
その距離はビースト達が詰め寄り、次々と破壊されるけど少しでも手間取り相手をするうちに明確な隙は産まれた。
これで終わらせる。
全方位の植物達を一つに纏め、束ねて最大級の魔力を込める。どんなに早くても避け様の無いくらい……は言い過ぎだけど、レモンさんの速度でも避け切れない程の一撃を……!
この腕は、森その物!
─
──
───
──“城跡地”。
「──“太陽の大放出”!」
『“妖術・水神龍皇裂破斬”!』
『“天狐砲来”!』
一点に集中させたエネルギーの大爆発。前より威力を上げ、斬撃へと昇格させた水の龍。質を高めた妖力の塊を砲弾とし、放たれる力。
それら三つはぶつかり合って相殺し、その上で既に跡地となったこの場を焼失させた。
───
──
─
──“拠点”。
「──やりなさい」
『ゴギャア!』
「“超光球聖域”!」
「“水霊の息吹”!」
「「“忍法・陰陽五行思想一纏術撃”!」」
龍が轟炎を放ち、特大の光球が放たれ、水の精霊が息を吹き掛けた。それらは聖魔法によるバフ効果で何れも数倍の威力となる。
対するは五行思想の全てを一点に纏めた攻撃。分身によって威力は上がっているけど、それまで。
─
──
───
──“中間地点”。
「──“巨木森林拳”!」
「居合い……一刀……!」
一つに纏められた森がそのまま降下し、対する相手は木刀を懐へ一瞬納め、瞬時に抜刀。威力を高め、それのみで迎え撃つ。
───
──
─
奇しくも全ての攻撃は同時に放たれ、ステージ全体が大きく揺れて半壊した後、試合には決着が付く。
─
──
───
《──試合終了ォォォ!!! “魔専アステリア女学院”vs“神妖百鬼天照学園”!!! 多様の戦術による対抗戦!! 決勝!! それは大将の脱落につき───勝者!! “魔専アステリア女学院”ンンン━━ッ!!!》
「「「どわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」」」
そして高らかに宣言された、私達の勝利。今この瞬間、チームとして私達は人間の国に置ける一番強い学校となった。
「や……やった……の?」
「ああ、やったんだ!」
「やったー!」
「やりましたわぁ!!」
「……悪くない結末ね」
「やりましたよ!」
「やったんじゃん! ディーネっち! 先輩方!」
「スゴいですわ!」
「これでチームは……名実ともに人間の国最強……!」
イマイチ実感が湧かず、ジワジワと迫って喜びにうちひしがれる。
それぞれが手痛いダメージを負っているけど、既に治療班は回されており、何より喜びが勝ってあまり感じなかった。
「負けたよ。“魔専アステリア女学院”の者達。しかし、チームとしては敗れたが、個人の部では勝ってみせる」
「うん、そうだね。レモンさん。結局私達の決着は付かなかったもん」
「そうよの。直前に我らが大将、カッパ殿がやられてしまった」
「カッパさんが大将だったんだ!」
「アタシは知ってたぜ~! ま、討ち取った本人だしな!」
その大将のカッパさんやヨーコさんなど、一部のメンバーはこの場に居なかった。
意識を失ったままなので治療室で回復しているんだろうね~。
レモンさんはボルカちゃんに訊ねるよう話す。
「それについてだが、始めから気付いていたのか? 大将の影武者としてヨーコを置き、カッパ殿には城の防衛を任せていたのだがな」
「ああ、それについては戦ってる途中で分かったんだ。アタシとしても最初はヨーコかと思ったけど、アタシとカッパが戦っている最中、ヨーコは弱っているのに逃げなかったからな。本人のプライドと言えばそうなんだろうけど、あの実力なら流石に引き際は弁えてるだろうさ。だから大将じゃないんだって理解した」
「成る程。しかし、カッパ殿も身を隠さず出てくるとはな」
「ま、仲間思いって感じで後輩がやられているのに逃げる程度の器じゃなかったって訳だ。ゲームルール的には悪い方向に進んじまったけどな」
「ふっ、然れどそれは誇らしい事。何より友を大事とするのも我が校の校訓よ」
「ハハ、良い学校じゃないか」
「素敵だねぇ」
ボルカちゃんが大将を見抜いた理由は、大将がとても良い人だったから。
確かに私が大将だったとしても、友達がやられそうなのに逃げる事はしたくないかも。例えそれが敗因になったとしても、見捨てられないよ。
「取り敢えず、先程も述べたが個人の部では君達全員を打ち倒し、私が優勝を掴む。人間の国最強の座はまだ暫く譲るつもりはないぞ」
「良いぜ。最強ってのは譲り受けるんじゃなくて奪取するもんだからな。アタシが勝つ!」
「私と当たっても今度は決着を付けるよ!」
これにより、ダイバース新人戦団体の部は終わりを迎えた。
私達は見事に団体戦で優勝を掴み、人間の国で一番強い“チーム”となる。でもそれだけじゃ止まらないよね。何故なら明日、人間の国で一番強い人が決まるんだもん。
優勝はしても油断はしない。私達は明日に行われる個人戦に向けてまた気合いを入れ直すのだった。




