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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部二年生
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第二百九十三幕 各メンバーの相手

「そんじゃ、お前達は周囲から。数体はアタシと一緒に城内探索だ」

『『『…………』』』


 ティーナの植物兵達に指示を出し、アタシ達は月明かりに照らされた城へと向かい行く。

 意外と周辺には見張りが居なかったな。ティーナみたいな例外を除けば兵力を増やす事なんか出来ないから当たり前なのかもしれないけど。

 川に架かった橋までもう到達した。


「……?」


 すると一つの看板が目に入る。

 なになに……『このはし渡るべからず』? “べからず”が何を指し示すのかは分からないけど、文脈からして橋を通るなって事か? こんなんで止まる訳にはいかないけど、罠の線はあるし意を汲んでやるか。


「渡らず、飛び越えりゃ良いだけだ!」


 炎で加速し、そのまま跳躍。橋を渡らず飛び越えた。

 植物兵達はビーストは跳べるけどゴーレムはどうしようもないな。下方を見ればゴーレムの乗った場所から橋が崩れ落ちた。

 本当に渡っちゃダメだったみたいだな。中心部分がキレイに崩れ落ちて箸みたいな橋になっちまったぜ。


「……!」


 次の瞬間、城の方から一筋の矢が飛んできた。

 アタシはそれを見切ってかわし、城の窓へ視線を向ける。


「彼処か!」


 片手に魔力を込め、火球を窓に向けて放つ。着弾と同時に爆発し、黒煙を巻き上げた。

 彼処に誰かが居たって事か。あの一撃で倒せたかどうか。


「……あら?」


 刹那、全ての窓から弓矢が放たれた。

 流石に数がおかしいだろ。大将含めて五人しか居ないってのに、数十数百の矢が来てらァ!


「何らかの魔法だよな。きっと」


 全ての窓に向けて火球を撃ち込み、爆炎が広がる。

 このまま城を焼き落とせるかと思ったけど、屋根から水が降り注いで鎮火。あれはカッパの水か?

 でもまだアタシの方に来る気配は無し。あくまで城その物の防衛に集中してるみたいだ。そうなると射って来るのは誰だ?

 なんか気配も微妙に曖昧な感じなんだよな。明確に城にあると言えるのは三つ。一つは大将で一つは今さっき城の火事を消した水の使い手。となると残り一つがこの複数の曖昧な気配を作り出してるって事か?

 ティーナやビブリーみたいな例はあるから有り得ない話じゃない。人を作る魔法もあったしな。

 まあ何にしても、城に突入すれば分かる答えだ。


「まだ来るけど、関係無いや」


 弓矢の雨は止まない。でも当たらないし関係無い。

 ゴーレムやビースト達も敵陣に侵入出来たのは何十体か残ってる。川に落ちたのも続々集結中だ。矢を多少は消しつつ、城門を潜り抜けて陣地に侵入した。


『『『…………』』』

「……なんだ? これ?」


 そして、待ち構えていたのは暗くて見えにくいけど黒や灰色の兵士。

 なんか存在がフワフワしてんな。幽霊とかじゃ無いっぽいけど、存在が掴み難いぜ。

 一つだけ分かっているのは、誰かの魔法によって生み出された敵って事のみ。要するに構わず倒しゃ良いって訳だ。


「呪文は……要らないな。量産兵だ」


 炎剣を作り出し、薄暗い兵士達を斬り伏せていく。

 斬られた傍らから文字通りの消し炭となる。ちゃんと消えるなら良いや。これで倒し様が無いとかなら気が滅入るしな。

 炎だからじゃなく、ゴーレムやビーストの攻撃でもちゃんと消え去っている。耐久力は常人や植物魔法、本魔法の召喚獣よりも低いみたいだな。

 単純に数は多いからその辺が面倒だけど、ティーナのお陰で数の差は埋まってる。アタシは真っ直ぐ城に突き進めば良さそうだ。


「そんじゃ、この辺りは任せるぜ。行けそうな何体かは付いてきてくれ」

『『『…………』』』


 城門付近にも何体かを残し、アタシと数体で城内へ。

 時間帯が時間帯だからか城の中は暗いな。蝋燭ろうそくとかも置いてあるけど、侵入者を惑わせる為に敢えて火は点けてないみたいだ。

 柱や壁に気を付けつつ、長い渡り廊下を駆け行く。本来は廊下を走っちゃダメだぜ。どの口が言うかって思われるだろうけど、これは思考だから口じゃないんだ。

 とまあ一人なんで余計な考え事も交えつつ正面に集中し、暗闇に紛れて襲ってくる薄暗い兵士達を消し去る。

 曖昧な気配だけど、捉えられない事はない。あるにはあるからな。

 神経が研ぎ澄まされている今なら問題無く対処可能。視覚で捉えている訳じゃないゴーレムやビースト達も敵兵を倒せてるし、数の差も何も無問題。


(一々廊下を走って行くのも面倒だな。セオリー通りじゃないけど、一気に突き抜けるか)


 天井を見据え、そこ目掛けて火炎を放射。

 天井は焼け落ちて穴が空き、炎の余波で蝋燭にも火が灯った。

 これで見やすくなった。丁度炎の通り抜けた部分にも引火して燃えてるし、視界の確保は十分。室内なら燃やしても相手の反応が遅れるだろうし、このまま更に焼き尽くしていくか。

 そんな事を考えつつ、真っ直ぐに上昇して次の階へ。このまま最上階まで一気に行くのも良さそうだ。


『『『…………』』』

「……まあ、そんな簡単にさせる訳無いか」


 次の階層に到達した瞬間、全方位は囲まれており、銃口や弓矢がアタシの方を向いていた。

 幾つかは消えてるけど、ホントに配置兵が多いんだな。次の瞬間に銃弾と矢が放たれ、それら全てを焼き尽くして焼失。植物兵達も居ないからそのまま更に炎を広げ、二階を火の海にした。


「……」

「そこだ!」

「……!」


 そして物陰に何かを確認。火球を放って柱を崩し、それが姿を現した。


「アンタがこの大量の兵士達の親玉か。何魔法だこりゃ?」

「魔法? 何をバカな事を。これは“日の下(ヒノモト)”壱の絵師をうたわれる私の妖術だ」

「ほぼ同じじゃねーか」


 自称“ヒノモト”1の絵師とやら。

 見た目は黒の長髪に隈が目立つ瞳。片手には大きなペン……筆を持ってる。顔立ちは中性的で男か女かも分からない。てか、ヒノモトにそう言うやつ多くないか? この人は大きめの服装で体のラインが分からないし。

 何にせよ、それだけでもある程度の情報は掴めたな。近いのはビブリーの本魔法とかだけど、それとはまた違った力。


「差し詰め描いた絵の顕現とかそんな感じの力だろ。ペン魔法……ヒノモト風に言うなら筆妖術か」

「何を……! そ、そそそ、そんなバカな事あろうハズが無かろうて!」

「動揺し過ぎ。此処まで情報が無かったし、一年生か二年生でレギュラーじゃなかった存在。今回のルールだからやっと出れたって感じだな」

「だったらどうしたと言うのだ!」

「開き直るな。別にどうもしない。いや、アンタを倒すだけだ」

「負けるか!」


 大きな筆を振るい、空中に墨が留まる。そこから絵へと移り、兵士達を具現化させた。

 筆速は結構早いな。数秒で兵士を描いた。なんならアタシが此処に来るまでの短時間であれ程の兵士達を描いた訳だもんな。執筆に掛かる時間は実質ノーリスクって考えて良さそうな雰囲気だ。


「……それで、その兵士の強さって変えられるのか?」

「……っ。一瞬で焼き消された……!」


 何百と相手にした墨の兵士達。軽く倒せる。

 ビブリーの本魔法を参考にするなら多少のリスクはあるとして、どのレベルの強さまで上げる事が出来るか。常に最強の兵士を描けるならこの新人戦まで温存って訳でも無い筈だしな。

 魔力……向こうからしたら妖力か。量産型なら兵士一人につき妖力の消費量は少なめ。何千何万を軽く生み出せるって考えて良さそうだ。

 戦いながら判断していって倒すとするか。一人に時間を掛ける訳にはいかないしな。


「これが本番の戦い……なら!」

「……!」


 複数の兵士を出し、アタシへけしかける。

 これは単なる目眩まし。また別の絵を描いているみたいだな。そしてあの感じ、少し力を込めた様子だ。

 切り札を出させないのも戦いでは重要だけど、初めての大会なら華を持たせてやるか。負ける気はないけどな。


「はあ!」

『……』


「……!」


 描き終えるや否や、アタシ目掛けて墨の人がけしかける。

 さてこれは何か。薄暗くてよく見えないけど、さっきまでの兵士達とは次元が違う強さを有しているな。

 影は刀と思しき得物を薙ぎ払い、アタシとの距離を置く。そこに向けて火炎を放ち、回避された。

 でもその間に炎の明かりで全容が明らかになる。


「成る程な。確かに有象無象とは次元が違うや。本物には程遠くても、ある程度はイメージ通りの動きをしてるんだろうな」


『……』


 その絵の正体は……! ……って、別に溜めなくて良いか。レモンだ。

 姿形はレモンその物。動きは……まあ本物には流石に及ばない。自分の魔力や妖力で再現出来る範疇の出力しか出せないしな。

 自分の能力を越えるとなるとビブリーやユピテルみたいに数分から数日間の制限が掛かったりする。

 この選手の実力で本物のレモンを再現するならユピテルタイプで数日間は使えなくなりそうだしな。だから弱めてあるときた。

 けどまあ、比較的大変そうな戦いにはなりそうだ。


「お前を倒すぞ! ボルカ・フレム!」

「おう。頑張ってみろ」

「他人事!?」


 そしてコイツはコイツで揶揄からかい甲斐があるな。でもそれは言わないで置こう。自称ヒノモト1の絵師だけあってプライドは高そうだ。

 アタシの将軍討ち取り勝負。城には侵入したけどまだ少し時間が掛かるかもな。



*****



「さて、ティーナさん達はどんな調子かしら。大将に立候補したけど、お城の方にも行きたかったわ」

「敢えて乗り込むのもある意味作戦として成立するかもしれませんわね」

「絶対にダメですよ。先輩方」

「つれないわね」


 拠点にて向こうの様子を気に掛けながら待機する私達。

 周りにはルーチェさんとディーネさん。そして植物の兵隊。安全地帯ではあるけれど、退屈でもあるわね。本でも持ってくるんだったわ。

 私達は気配も読めないから誰が近付いているかも分からない。明かりはルーチェさんの光魔法で点けているわ。目立ってしまうけど、気配の読める選手が私を討ち取りに来たとして、その人が暗闇でも問題無く行動出来るなら元も子も無いもの。


「それにしても暇ね」

「何かお話でもしましょうか」

「お話ですか……」

「内容なんて思い付かないわよ?」

「それでは天気のお話とかが良さそうですわ!」

「天気ですか……?」

「話す内容が無い典型じゃない。それならダイバースのステージに設定されている天気用の魔力とかの方が有意義よ。魔導の勉強にもなるもの。後は国によって違う気象とか名称ならテストで役に立つわ」

「そ、そうでした。ウラノさんはそう言った分野にけてるので一律に天気の話と言ってもそこからの派生や繋ぎで場を持たせられるのですわ……!」

「……良いんじゃないですか?」

「とんでもありませんわ。まだ習ってない範囲とか、より専門的な部分に踏み込んでしまうので付いて行けなくなりますの!」

「そうだったんですか……!」

「ちょっと失礼じゃないかしら? 全く、好き勝手言──」


 ──言葉を続けようとした瞬間、私達にクナイが突き刺さった。

 このちょっとピリつく匂い。痺れ薬が塗ってあるわね。的確に効果のある場所を突いている。かなりの手練れみたい。ティーナさんの仕掛けてくれた植物兵達の防衛も上手くかわしたみたいですものね。

 本来ならこの時点で意識を失って私達の敗北は決まるけれど、


「“爆裂光球”!」

「……!?」


 既に対策は施してある。

 ルーチェさんが光魔法の爆発を地面へ撃ち込み、辺り一帯を吹き飛ばす。

 刺客と思しき人は迅速に安全圏へ移動し、そこへ本の鳥達が体当たりを仕掛けた。


「……っ」


 小太刀を抜いて切り払い、また別の場所へ。

 それと同時に刺客が私達の方を見たけれど、私達は蜃気楼のように消え去り、ディーネさんが既に準備を整えていた。


「“空間掌握・圧”」

「くっ……!」


 周囲の空間が迫り、また高速で移動。でもそこにはティーナさんが仕掛けた植物からなる罠がある。


ツタ……!?」

「この辺り一帯は罠だらけよ。大将()を討ち取りに来た刺客さん」

「お主らは何故に無事なのだ……!」

「そう簡単に種を明かす訳にはいかないでしょう。アナタで考えたらどうかしら。刺客……“日の下(ヒノモト)”の忍びさん」

「……」


 襲ってきたのは“神妖百鬼天照学園”の忍び。暗殺業には長けてるわよね。

 種明かしをするなら単純にディーネさんの空間魔術で私達の居場所認識をズラしただけ。だからディーネさんが仕掛けた時にそれは消え去った。

 一時的に捕らえる事は出来たけれど、そう簡単にも行かないでしょう。


「“忍法・火遁の術”!」


 火を放ち、植物の拘束から抜け出した。

 刺客は見たところ一人だけど、他にも来ている可能性は考慮しておく。その上で向き直った。

 さて、簡単に拠点まで潜入されて兵士達も何体かはやられている。まだ残っているから数の有利はあるけど、油断は出来ない相手。空間魔術の認識阻害のお陰で炙り出し、忍びさんを追えるようにしたから再び姿を眩ませる可能性が低くなっただけマシな状態ね。


「さて、どうする? 持ち前の速さで逃げ去るか、此処で私達に敗れ去るか」

「簡単な答えだ。此処で大将を討ち、我ら“神妖百鬼天照学園”の優勝を確定させる。元より、もう既に逃げる事は出来ないみたいだからな」


 それも合っている。どう転んでも倒すつもりではいるわ。けど、少しでも気を抜いたらすぐに隠れられてしまうからその辺だけは注意ね。

 何はともあれ、ダイバース新人戦、団体の部決勝。拠点での戦いが始まった。

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