第二百八十七幕 魔専アステリア女学院・二年目の学院対抗体育祭
──“一ヶ月後・魔専アステリア女学院体育祭”。
《やって参りました! “魔専アステリア女学院”にて行われる学院対抗体育祭! 司会は放送部の部長である私が務めさせて頂きます!》
都市大会から暫く過ぎ、体育祭の日となった。今年の司会者役さんは去年より元気な人が務めているみたい。
内容はダイバースにも近いけど、クラス全員で行われるから勝手が違うよね。最後の方には学年対抗ダイバースはあるけど。
何にしてもやるからには優勝を目指してみるよ!
まずは準備体操をし、体を解す。体育祭はすぐに始まった。
──“借り物競争”。
最初の競技は借り物競争。事前に紙が置かれており、その紙に持ってくるお題となる持ち物が書かれているというもの。
今回の私達のクラスの出場選手はボルカちゃん。それぞれがスタートラインに付き、合図となる魔力の弾が撃ち出された。
「一気に行くぜ!」
炎魔術で加速し、後続の人達をごぼう抜き。真っ先にお題の書かれた紙を手に取った。
後は会場に持ってきている人が居るかどうか。内容を確認したボルカちゃんは私達の方へやって来た。
「ティーナ! どれか一つの人形貸してくれ! お題なんだ!」
「お人形がお題なんだね。それじゃ、はい」
ボルカちゃんが取ったお題はお人形。
今はお人形のフリをしているから大丈夫なママ達を渡す。
特に考えず手渡しちゃったけど、ボルカちゃんにボルカちゃんを渡す不思議な感じになっちゃったね。
だけど受け取ってからのボルカちゃんは速く、トップでゴールした。
──“綱引き”。
続いての競技は綱引き。去年もやったね。ルールを知らない人は居ないと思うから省略。
魔導の使用は勿論あり。流石に加減はするけど、植物魔法でゴーレムとか作って仕掛けるよ!
「「「そーれ!」」」
全員が一斉に掛け声を出し、ロープを引く。魔力による身体能力強化から土魔導による大岩での固定等々、本当に何でもあり。
それら全てを引き寄せ、私達のクラスが勝利を収めた。
──“障害物競争”。
次の競技は障害物競争。去年は学年対抗ダイバースでやったね。
様々な障害物を乗り越えてゴールを目指す競技。でも普通の物じゃなく、魔導によってその難易度はかなり高めてある。
既に準備は進められており、土魔導で山を作ったり水魔導で湖を作ったり等々。普通の学生がやるような事じゃないよね。
だから各クラスからは自信のある数人が代表として選出されてるの。私達のクラスからはボルカちゃん。と言うかボルカちゃんがスポーツ万能過ぎて選出率も一番高いね。
《スタート!》
魔弾が撃ち出され、一斉に駆け出す。
移動方法は単純な魔力の身体能力強化から炎や風での加速など様々。
だけど当然ボルカちゃんは抜きん出ており、第一の障害物である大岩の山に突っ込んだ。
(真っ直ぐ行っても良いけど、その穴を他の人達が通ったら差は離れないな。それなら……)
山へと迫り、下方へ炎を射出して急上昇。ボルカちゃんならてっきり穴を空けて真っ直ぐ行くと思ったけど違うみたい。
あ、でもそっか。レーンがそんなに離れている訳でもないから、近道したら他の人達もその近道を通ってきちゃうもんね。ボルカちゃんはそれを考えてちゃんと飛び越える事で逆に距離を引き離しちゃおうって魂胆なんだ。
「よっと」
「なんて巧みな魔力操作……!」
「ダイバースで鍛えてらっしゃるから……」
「私だって部活動では全国大会行ってますわ!」
急上昇そのまま天へと到達し、そこから急降下で距離を開く。炎が空気を焦がして突き抜け、一つ目の障害物を軽々乗り越えた。
次に待ち構えるは水の魔導からなる湖。本来なら泳ぐのが大変だけど、ボルカちゃんは更に炎の熱量を高め、一部を蒸発させながら突き進んだ。
「……! 水蒸気で視界が……!」
「直進と妨害を同時にやってのけてますわ!」
通り過ぎた後の道筋はそのまま霧へ。
真っ直ぐ行くだけなんだけど、自分の居場所が分からなくなったりして混乱しちゃうよね。
依然としてトップのまま二つ目の障害物を乗り越えたボルカちゃんは折り返しとなる第三の障害物へ差し掛かる。
次の障害はグルグル竜巻。
(至るところから吹き荒れる暴風……危害はあまり無いように調整されてるけど大変そうだな)
竜巻の風は人なんか簡単に吹き飛んじゃうレベル。だけど調整はされている。
通り抜ける際に四方八方から暴風に吹かれるので目を回してしまう事だけが難点かな。
ボルカちゃんの進み方は──
(構わず真っ直ぐ正面突破!)
炎魔術によって大きく加速し、竜巻の中へと突っ込んだ。
風の流れを読んで影響の少ない場所を本能で見定めて突き抜け、炎で加速して半ば無理矢理突破する。
二位の人とも一気に差を付けたね。
次の障害物はジャングル潜り。因みにここは私も手伝ったよ!
ジャングルを通るだけの所だけど、ある程度は弱めた樹のゴーレムとかが配置してあるの。
『…………!』
「へへ、ティーナのゴーレムか。強敵だけど、本来より弱めてあって良かったぜ」
ミニフォレストゴーレムが拳を叩き付け、地面が割れる。それによって散った破片から植物が生え、ボルカちゃんの体を拘束する為に仕掛けた。
「倒すんじゃなくて拘束方面か。これならルールにピッタリだぜ!」
その蔦は燃やし尽くされ、ゴーレムへ回し蹴り。粉砕と同時に更に焼き尽くす。
消し炭にして加速し、ジャングルを抜け出した。
流石だね。引火して障害物の役割が無くならないように調整してあるや。
そして最後の障害物……濃霧探食。
難しそうな名前だけど、複雑な物じゃないね。濃霧の中から食べ物を見つけて咥えた状態でゴールすれば良いの。
(食べ物に気配なんて無いしな。既に死んでるようなものだし。でも、微かに匂いはあるな)
分からない筈ではあるけど、流石の直感と言うべきかボルカちゃんは食べ物のある方向へと赴く。
霧の中から見つけ出し、それを咥えて抜け出した。
「もが……もがが……(って……この霧の原材料小麦粉か。全身真っ白だぜ……)」
その姿は粉まみれで毛先まで真っ白。体育祭はエンターテイメントだもんね。こう言う要素も織り混ぜていく。
何はともあれ、ボルカちゃんは一着でゴールするのだった。
──“超大玉転がし”。
次の競技はこれまた去年もやった“超”大玉転がし。
同じような種目になっちゃうのは仕方無いよね。そう言うものだもん。だけど去年は学年対抗ダイバースの方だったから難易度は少し下がってる。
去年のノウハウはあり、今回の参加者は私とウラノちゃんで行う。
「そーれ!」
「物語──“ミノタウロス”」
植物で包み、ミノタウロスが転がして運ぶ。
私達は基本的に楽しちゃってるね。数百キロはある大玉を転がして進み、難なくゴールに到達した。
──“パン食い競争”。
次の競技はパン食い競争……って、何これ? パンが吊るされており、それを咥えてゴールに行くというもの。“濃霧探食”に近いかな?
高さは数十メートル。そこに顔サイズのパンがある。両手は縛られており、丁度のタイミングで跳躍しなくちゃ取れないようになっているみたい。
「これは私の役回りではありませんのに……!」
私達のクラスの代表者はルーチェちゃん。本人は不服な感じだけど、結構様になってるような気がする。
スタートの合図が切られ、ルーチェちゃんは金髪の縦ロールを引っ提げて跳躍した。
「はむぅ~っ!(けれど、やるからには負けられませんわ~!)」
身体能力強化からの光魔法で飛び出し、顔サイズの大きなパンに力強く噛み付いた。
とても大きなそれだけど魔力によって上手く支え、縦ロールを揺らしながら駆け抜ける。
「やりましたわー!」
不服そうだったけど、見事に勝利を掴んで嬉しそうなルーチェちゃん。何だかんだでやって良かったのかも。
そして最後は徒競走。勿論、ほうきも魔導も何でもありのね!
──“徒競走”。
午前の部最後の種目、徒競走。
ルールは前述した通り。クラス全員での徒競走。トップランナーは私。アンカーはボルカちゃん。
このまま一位でゴールするよー!
《午前の部、最終種目“徒競走”。それではスタート致します!》
そしてレースが始まった。
「“樹木直進”!」
「「「…………!」」」
スタートと同時に樹に乗り、高速で進む。自分の足で走ってないけど、これが“魔専アステリア女学院”流のルール。
一気に抜けてトップに躍り出、次のランナーにパス。それから追って追われて開いて縮んでを繰り返し、ルーチェちゃんへと渡った。
「光の速さで駆け抜けますわ~!」
「絶対違う!」
「でも普通に速い……!」
「ピカピカして目がぁ~!」
光魔法の身体付与は出来ないから単純な魔力強化で進むルーチェちゃん。また次のランナーへ行き、巡り巡ってウラノちゃんへ。
「物語──“馬”」
「もはや普通の移動~!」
「ズルいですわウラノさんの本魔法~!」
お馬さんを出し、駆け抜けてアンカーのボルカちゃんへと渡った。
受け取った瞬間に魔力が込められる。
「“アクセルフレイム”!」
炎のジェット噴射で突き抜け、他の人達との差を更に更に広げ行く。
そのままのトップスピードをキープし、ターンもお手の物。見事ボルカちゃんは一位でゴールした!
「っしゃあ! やったぜ!」
「流石ボルカちゃん!」
これにより、私達のクラスはトップで終了。午前の部はこれにて終わるのだった。
*****
──“お昼休憩”。
「やっぱアタシ達は強いぜ! 結果的にトップだしな!」
「みんなも強かったもんね~」
「そうね。クラスメイトの人達が実力不足なら私達だけがトップでもこうはならなかったわ」
「つまり皆様のお陰でもありますわね!」
「それ程でもありますわ!」
「けれどやっぱりトップクラスの皆様のお陰!」
「私達も大いに貢献しましてよ!」
午前の部が終わり、ボルカちゃん達やクラスのみんなと休憩を取る。
良いね~。この絆が深まるような感じ。普段あまり話さない人とも話せたり、距離が縮まった感じがするよ。
「それで、午後の部。即ち学年対抗ダイバースで中等部二年生の代表は誰に致しますか?」
「ティーナさん、ボルカさん、ウラノさんにルーチェさんは確定でよろしいでしょうけど」
「とは言え連戦。控えもしかと考えておきませんと」
話の内容は午後に行われる学年対抗ダイバースへ。
私達は去年と同じく主力。他の選手は誰になるんだろう。でも、一人は確定してるかな。
「私の出番だね。実は午前の部から好成績を収めていたんだよ」
「ミナモさん!」
「久し振り……でもないな。今年からクラス一緒だし」
カザミ・ミナモさん。
去年も学年対抗ダイバースでの主力だった人だよ。
ボルカちゃんが言うように、実は今年からクラスが一緒だったんだ~。お休みの日とかはあまり遊ばないけど、クラス内では結構話してるの。
「それでは主力の五人は揃いましたわね。学年対抗ですもの。優秀な方は他にも沢山おりますわ!」
「今年こそは私達が優勝しますわよーっ!」
去年は残念ながらルミエル先輩達高等部三年生に負けちゃったもんね。
先輩が居ない今年は……ってのもちょっと情けないけど、優勝はしたいよね。
「そんじゃ、全員で力合わせて“学年対抗ダイバース”も勝とうぜ!」
「「「おおー!」」」
まさに一致団結。私達は昼食を終え、午後の部、学年対抗ダイバースへと臨むのだった。




