第二百八十六幕 二年目ダイバース新人戦・都市大会終了・二学期の行事
「おめでとう! ボルカちゃん! 惜しかったね……ウラノちゃん。だけどやっぱり戦略的だったよ!」
「おう!」
「無理して両方称えようとしなくても良いんだけど。励ましも要らないわ」
準々決勝が終わり、私達はボルカちゃんとウラノちゃんの居る場所にやって来た。
傷の方は既に完治しており、ウラノちゃんの意識も戻っている。接戦だったのにこんなに意識が戻るのが早い理由は、二人の傷の具合からなるもの。
傷自体は全身大火傷の大怪我だったけど、二人はお互いに意識を奪う為に最善の行動を行っていた。それによって必要以上の深手は負わず簡易的な治療魔法でも済む程度になっていたのだ。
お陰で大事にはならなかったけど、友達同士の戦いだったから掛ける言葉がちょっと難しいね。ウラノちゃんは気を使わなくて良いってニュアンスで言ってくれてるけど。
「まあ取り敢えず、代表決定戦じゃビブリーの分まで勝って来るぜ。それが倒した者の務めだ」
「そんな務めは無いでしょう。そしたら優勝しなくちゃ務めを果たせなかったって事になるわよ。他の人達もそれを背負うとしたら大変じゃない?」
「うーん、確かにそれもそうだな。それじゃ他の選手達にも失礼に値する。んじゃ、ビブリーの無念も背負うぜ!」
「別に感じてないわよ。単なる実力不足。それ以上でもそれ以下でもないわ」
「相変わらずクールだな~」
「どう思われても構わないわ」
えーと、取り敢えず問題は無さそうかな。ボルカちゃんの絡みをのらりくらりと躱しているウラノちゃんと言ういつもの光景だね。
ボルカちゃんの相手をしつつ、ウラノちゃんはこちらを見やった。
「貴女達も準決勝と決勝が残っているんだから。早く行った方が良いんじゃないの?」
「うーん、そうだね。傷の方は大丈夫そうだし、私達は私達のやるべき事をやろっかな」
「それが一番よ。ほら、ボルカさんも離れて」
「ちぇっ。あしらわれちまったぜ」
彼女の言う通りまだ試合は残っている。それに向けて頑張らないとね。
部屋を後にし、私達は会場へと戻るのだった。
「………(少しだけ悔しいわね)」
*****
──“準決勝・決勝”。
「みんなの分まで勝つよ!」
「「ぐはぁ!」」
「もう敵は居ないぜー!」
「「だはぁ!」」
「簡単に突破して見せますわよ!」
「「ぶはぁ!」」
「初めての代表決定戦へ……!」
「「うわあ!」」
その後、私、ボルカちゃん、ルーチェちゃんにエメちゃんは都市大会の準決勝と決勝を勝ち上がり、各ブロックにて優勝という好成績を収めた。
そしたらエメちゃんと代表決定戦に行けるんだ! 今まで機会が無かったのに、団体戦でも個人戦でも行けるなんて今回はお互いにクジ運が良かったのかな!
《それでは! “多様の戦術による対抗戦”の都市大会が今──》
「「「どわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」」」
「「「ウオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォッッッッッ!!!!!」」」
『『『グギャアアアアアアァァァァァァァァァァァァァッッッッッ!!!!!』』』
『『『キュオオオオオオオォォォォォォンンンンンンンッッッッッ!!!!!』』』
それから行われるのは司会者さんによる閉会式の挨拶。これで都市大会は終了だね。
代表決定戦は来月に行われるので、数週間はお休みや練習期間で各々の調整となる。
波乱に満ちた地区大会と都市大会。今月の試合は全て終わりを迎えるのだった。
*****
──“数日後”。
「この魔法の組み合わせによって生じる現象を──」
数日後のある日、いつも通りの授業。最近色々あったし、普段通りの事なんだけどなんか久し振りに感じるなぁ。
ダイバースは忙しかったけど勉学の方も疎かにはしていないよ。期末テストや中間試験でもトップ5に収まる成績は残しているからね。
とにかく、決して楽ではないけど比較的落ち着く事の出来る授業中。頭は働かせても体は休める事が出来た。
代表決定戦レベルから考える事も増えてより疲れちゃうんだよね~。頭脳系以外のゲームでも思考は必要だからさ。
「それでは今述べた通りの事を──」
何はともあれ、いつもの授業は過ぎていった。
──“昼食”。
「今月もそろそろ終わるなぁ~。来月は代表決定戦を始めとしてあらゆるイベントが目白押しだぜ」
「体育祭に文化祭……学院祭に、本当に色々あるね~」
「そろそろクラスの出し物も考える時期ですわね。準備が色々と必要だったりしますもの」
「接客業とか面倒な事じゃなくて展示物が楽で良いのに」
お昼休憩の時間。いつもの山頂にて私達はお昼ご飯を食べながら、来月に行われる行事について話していた。
クラスで行う出し物や劇。学院全体で行われる体育祭。そして勿論、今年も行けた代表決定戦。その他にも二学期は本当にやる事が多い。
全部楽しいんだけどね~。次の長期休暇までには色んな出来事があるの。
それにつき、まだもう少し先だけど行われる行事の一つについて話してみる。
「そう言えばさ。去年は長期休暇前に学年全体で合宿をしたけど、今年は何をするんだっけ? パンフレットに書かれていたし、チラッと触れたような気もするけど詳しく覚えてなくて」
「ん? ああ、中等部の二年生は他国への体験留学的なものだ。期間は去年の合宿より長くて二週間くらい。他国の文化や多種族との交流、感性を鍛えたり将来的に役立つ事を学んでいこう……ってコンセプトだな」
サンドイッチを食べ、学院パンフレットに書かれていた内容をザッと話すボルカちゃん。
そうそう、体験留学だった。二週間のうちに別の国に行く事だけど……。
「体験留学かぁ……どこの国に行こうかな。同じ人間の国内だけど他国ではある“日の下”とかは違う気がするし」
「ま、人間の国内でも許可はされてるけど、あくまでも多種族との交流がメインだからな。見た目が人間に近い魔族の国とか礼儀正しい者達が多くて治安も良い幻獣の国が人気だ。魔物の国は色々な意味であんまし人気無いな」
「そこでお相手を見つけ、将来的に結ばれた方々も居るそうですわ!」
「それはあまり関係無いんじゃないかしら。肉体構造的に魔族、エルフ、ヴァンパイアとかとしか子孫は作れないし」
「なんか二人ともズレてる気が……恋愛目的のルーチェちゃんとツッコミポイントがそうじゃないウラノちゃんで色々違う」
「ツッコミはツッコミでもその突っ込みかよってな」
「……? ……え?」
「あまり気にしなくて良いわよ」
ボルカちゃんの言葉はよく分からないけど、あくまで学びが大事。そうなる人も居るみたいだけど、恋愛目的ではないんだよね……。
取り敢えず、三ヶ月後の体験留学までに行く国は決めておかなきゃならないよね。無難に魔族や幻獣の国か、危ないとは言われているけど親しい人がいる魔物の国か。あ、でもどの国も知り合いは居るね。やっぱりシュティルさんが仲の良さでは一つ抜けてる気はするけど。同年代なのも大きいよね。
「ボルカちゃん達はどこの国に行くか決めてるの?」
「アタシはそうだな~。性格的に合いそうなのは魔族の国か魔物の国なんだよなぁ~。血の気が多いのも大歓迎だぜ」
「私はやはり優雅でお淑やかな幻獣の国でしょうか」
「私は別に何処でも良いわ。強いて言うならエルフ族の書いた本がある幻獣の国かしら」
ルーチェちゃんとウラノちゃんは幻獣の国が第一候補であり、ボルカちゃんは魔族と魔物、二つの国で悩んでるみたい。
学院全体ではあまり人気がないみたいだけど、私達は魔物の国に泊まった事もあるから意外と抵抗は少ないね。割と深い所もシュティルさんに教えて貰ったし。
三人は候補を考えているみたいだし、私としても早いところ決めなくちゃね。当日になっても決まらないのは問題だもん。
「ま、体験留学は三ヶ月後だし来月に控えている代表決定戦や体育祭、学院祭について考えた方が良いかもな~。代表決定戦はいつも通りにするとして、出し物の方が問題だ」
「最終的にはクラス全体で決める事だから案の候補くらいだけどね~」
「早めに考えておいて損はないですわね」
「そうかしら?」
色々な行事が迫っているのもあり、話す内容も沢山ある。
留学先は後々考えるとして、来月の初頭に行われる体育祭は学校側が決める事。なので内容は学院祭について。去年は男装喫茶をしたね。劇は蕾のお姫様だったよ。とは言え、“魔専アステリア女学院”と言ってもやれる事なんて学生の範疇。ゆっくりと話し合おっか。時間自体は一ヶ月以上あるもんね。
「やっぱり飲食店かな~」
「今年こそはお化け屋敷とかしたいぜ」
「クラスだけじゃなくて全体で何か出来ませんかね」
「展示系が一番楽なのだけれどね」
「今年はディーネちゃん達のクラスもあるから確かに見て回りたいね~」
「となると両立出来るやつか~」
ダイバース新人戦の都市大会が終わり、いつもの日常に戻った今日この頃。しかし学生の日常には様々な出来事があり、今学期に控えた色々を考えていく。
イベント多数の二学期。始まった一ヶ月が過ぎていくのだった。




