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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部二年生
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第二百八十五幕 戦略vsゴリ押し

「…………」


 ビブリーへ続く道筋は、明らかに罠が張られている。そしてその罠を見せびらかしている事を思えば攻め待ち。

 それを踏まえた上でアタシの出るべき行動は一つ。


「やるかぁ!」


 炎で加速し、正面突破あるのみ。

 これがアタシのやり方だ。罠が張られているなら上等。突っ込むが勝ち。


「貴女ならそう来ると思って敢えて見せびらかしていたのよ」

「だろうな!」


 わざとらしく見せていたのすらビブリーの思考のうち。勿論それは読めていた。だから仕掛けたんだぜ。

 お陰でアタシの体はクモの巣に掛かったような有り様。全く身動きが取れず、左右からミノタウロスと本の鳥達が迫ってらァ。


『ブモオオオォォォォッ!!!』

『『『………』』』


「お、更には爆弾付きか!」


 戦斧が薙ぎ払われ、それについては魔力でガード。強い衝撃は走るけど、単純な物理攻撃だから多少痛い程度で済む。

 問題は本の鳥達。見た目はいつも通りで体当たりの威力も大した事無いんだけど、ビブリーが召喚したであろう爆弾が付着していた。

 ワイヤーに絡めてミノタウロスの戦斧と本の自爆特攻で攻め立てるのが目的。これは結構効くかもな。想像したら思わず口角がつり上がる。


「起爆」

『『『───』』』


 次の瞬間に爆発が起こり、アタシの全身は熱と衝撃。爆音に包み込まれる。

 問題は衝撃波より音の方だな。ショック症状を引き起こしそうだ。魔力で鼓膜も覆ったから取り敢えずは大丈夫として、やっぱりそう易々と引っ掛かるもんじゃないな。うん。

 何にせよワイヤーは取れた。まだあるけど、それについても焼き尽くしたんで上々だ。


「無茶するぜ。ビブリー!」

「貴女にだけは絶対に言われたくないわ」


 炎や爆発で衣服も皮膚もボロボロだ。中々センシティブで刺激的な見た目になっちゃったけど、上手い具合に隠せてんだろ。今までの映像見てみたらそんな感じが多かったし。

 なので構わず気にせずビブリーへとけしかける。そうしないと始まらないし終わらない。


「“フレイムフィスト”!」

「拳の形である必要性は何かしら」

「見た目が火球より派手だ!」

「それは大事なことね」


 炎魔術を拳の形へ変え、ビブリーへ打ち付ける。

 ビブリーは跳躍してかわし、本の鳥達にワイヤーを括って空へ。空中はアタシの得意分野でもあるんだぜ。


「行くぜー!」

「咄嗟に避けたのは愚作だったかしら」


 炎で加速。ミノタウロスを振り払い、ビブリーの元へと一気に突き抜ける。

 周りには本の鳥達が迫り、構わず焼き払う。本は燃えやすいからな。何故なら水分が殆ど含まれていないから。

 距離を詰め寄り、アタシの体は固定された。


「……! 更に仕込んでたのかよ!?」

「ええ。策も無しに飛び出さないわ」


 さっき焼き払った本の鳥達。その中からまたもやお得意のワイヤートラップ。

 いつの間にこんなワイヤー使いになったんだか。魔力消費を少なく戦いやすい環境作りの為に鍛え上げた感じか?

 まあでも、炎との相性は悪い。と言うかこの世の物に大体有利だからな、炎は。

 焼き消し、アタシの背後には重鈍な足音と共にそれなりの速度でミノタウロスが近付いていた。


『ブモオオオォォォォッ!!!』

「そろそろ邪魔だな。ミノタウロス」

『モ゛……!』


 火球を撃ち込み、ミノタウロスの体を粉砕&焼却。爆炎が巻き起こる。

 ステーキになりそうだけど、半分は人間だし食いたくはないな。そのまま消え去り本の中へと戻っていった。


「ミノタウロスにしては持った方かしら。物語ストーリー──“風雷神”」

『『………!』』

「“ファイアレーザー”!」

「……! あらら」


 ミノタウロスが消えたら風雷神を召喚するいつものやり方。なので現れた瞬間に熱線を放って消し去った。

 んー、でも失敗か。


「二体同時に消そうと思っていたけど、一体しか消えなかったか。範囲を絞って威力を上げたのがやらかしだな」


「そうね。瞬間的に消されていたら流石に降参していたわ」


 消えたのは二体のうちの一体のみ。雷神だけだ。

 風神は残っちゃったけど、風は利用次第で炎の火力を上げられるし前向きに考えておこう。利用する機会が無い可能性の方が高いけど。


『……!』

「早速来たか」


 風神は暴風を放ち、木々の建物ごとアタシの体を吹き飛ばす。

 風速数百メートル以上だな。とんでもない暴風だぜ。更に風の塊が放たれ、それらをかわす。背後の地面に着弾して地表を吹き飛ばした。

 単なる風でこの衝撃。利用するのは大変そうだ。


『『『…………』』』

「……っとと、当然仕掛けてくるよな」


 その風の流れに乗り、本の鳥達がバサバサと飛んできた。

 炎を使おうにも消し去られてこりゃ大変。炎は水を蒸発させられるけど量次第じゃ逆に消される。炎は風に乗って何処までも広がるけど風量次第じゃ逆に消される。

 何事も量が大事って訳だ。

 温度次第じゃ炎はてのひらサイズでその全てを焼き払えるけどな。炎は質も量も大切だぜ。


「取り敢えず風神優先か」


 射程圏に入った本の鳥達は焼き払い、風神へと狙いを定めた。


「戦力はなるべく削りたくないわね」

「ビブリー。いつの間に」


 風と本に紛れ、眼前にはビブリーが。

 自分から仕掛けてくるのは珍しいな。今回は剣でも召喚したか?

 そんなビブリーが持っている物は剣ではなく銃。明らかに射程距離より近いけど、この風じゃ銃弾の行方もままならないだろうしな。なるべく近付いているって訳だ。


「この距離なら流石に当たるでしょう」

「かもな」


 アタシが本の鳥達を相手取っている時、ビブリーは銃弾を撃ち込んだ。

 この風じゃ真っ直ぐに飛ぶ事は出来てないけど、


「……ッ! 風の流れまで全部読んでるのかよ……!」

「自分の使える戦力は全て把握しているわ」


 銃弾は風に乗り、アタシの体に命中した。

 風は不規則に見えて案外規則正しい。特に風神からなるこの風は。だから流れを読んで銃弾を当てるとか、ビブリーらしいな。

 このままじゃアタシが不利になっちまうな。


「──“フレイムバーン”!」

「いきなり大技ね」


 なので四の五の言っておられず、上級魔術の轟炎で風に逆らって風神を焼き払った。

 これでまた戦力を削る事が出来た。連続して大きな召喚はまだ出来ない筈だし、形勢はアタシに転がったかな。


「でもそれは、隙になる」

「当然巻き込まれない位置に避難済みだよな……!」


 銃口がアタシを向き、間髪入れずに射出された。

 魔術の直後でもすぐに動けるように特訓はしてんだ。紙一重でそれを避け、ビブリーに向けて魔力を込めた。


「当たるかァ!」

「いえ、当たるわ」

「……!?」


 瞬間、アタシの側頭部に銃弾が撃ち込まれた。

 確かに避けた筈。まだ意識は保ってっけど、死角からの一撃でダメージはデカい。

 フラついて着地し、横目でそちらを見やる。


「成る程な。本の鳥かよ……!」

「ええ」


 タタン! とリズミカルに弾丸が放たれ、軌道を予測するよりも前に体に突き刺さる。

 魔力で作られた弾であり、本物じゃないけどルール次第じゃもう負けてた。あくまで掃討ゲームで良かったぜ。

 ビブリーがおこなった事。それは本の鳥を開いた。ただそれだけ。しかしそれによってページを弾丸が滑り、不規則な軌跡を描いてアタシに当たったんだ。

 事前に方向は決めてんだろうけど、受ける側からしたら読み難くて堪らない。

 ダメージも時間も稼がれるし、この状態で龍でも召喚されたら当てる見込みが一気に薄くなる。それは避けたいな。


「ほら、まだまだ仕掛けるわよ」

「……ッ!」


 その前に弾丸も避けなきゃならない。連続して弾が撃ち込まれ、少し意識が遠退いた。マズイな、これ。

 召喚が無くても押し切られちまうかもしれねえな。じゃあどうするか。


「だったら──“自爆炎”!」

「……!」


 余裕が無いんで呪文はシンプルに。体表に魔力を纏って炎に変換。それを一気に暴発させる。

 辺り一帯は吹き飛び、植物の建物も本の鳥達も消滅した。


「はぁ……一丁上がりぃ……」

「随分とダメージを……負ったみたいね……」

「近くに居たビブリーもな……!」


 両者共に全身大火傷の大怪我。アタシはまだ火耐性があるけど、ビブリーにそれは無い。ダメージは向こうの方が大きい筈だ。

 トドメを刺すなら今だな。


「終わらせるぜ……!」

「そうね。お互いに」


 魔力を込め、刹那に加速してビブリーの眼前へ。向こうも魔力を込めて魔導書グリモワールをパラパラと開いていた。

 あの炎でも焼き消えないのは流石の強度。でもアタシの方が速い。


「終わりよ」

「……!」


 魔導書グリモワールに穴が空いており、銃口がアタシを向いていた。

 あの炎でも燃えなかったあれに穴を? するとその穴から魔力の欠片が漏れているのを感じた。成る程な。魔導書グリモワールから召喚した本って訳だ。

 次の瞬間には弾丸が放たれ、アタシに直撃した。……けど、急所には当たらず意識は保ち続けている。


「“ファイア”!」

「……! 加速に使った炎をそのまま……!」


 そう、アタシは炎魔術で加速してビブリーに迫った。掌から放出されるそれは、指一つでもほんの数センチ自分の位置を変えられる。

 ビブリーの狙いは正確であり、的確にアタシの意識を奪える場所を狙う。だからこそその程度のズレでさえ命取り。二つの意味でな。


「そら!」

「……ッ!」


 呪文を言う余裕なんか無く、加速したそのままの拳を捻りを加えてビブリーに叩き込む。

 既にダメージを負っているその体を吹き飛ばし、意識を奪い去った。

 次の景色は会場であり、とっくに医療班と衣服班が駆け付けていた。そこへ司会者の声が届く。


《ゲーム終了! 獲得ポイント! ウラノ・ビブロス選手が262ポイント! ボルカ・フレム選手が312ポイントで……勝者!! ボルカ・フレムゥゥゥ!!! なんと! 対戦相手分のポイントが無ければ同点でしたァァァ!!!》


「「「どわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」」」

「「「ウオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォッッッッッ!!!!!」」」

『『『グギャアアアアアアァァァァァァァァァァァァァッッッッッ!!!!!』』』

『『『キュオオオオオオオォォォォォォンンンンンンンッッッッッ!!!!!』』』


 そして、アタシの勝利が決まった。

 てかビブリーを倒した分が無けりゃ同点かよ。確かにミノタウロスは出されてたし、同じくらい稼いでたんだなぁと思う。

 何はともあれ、ダイバース新人戦個人の部。準々決勝。アタシとビブリーによる同チーム対決は実質僅差でアタシが勝利を収めた。

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