第二百八十三幕 新人戦・都市大会・チームの部・決勝戦
──“決勝戦・チームバトル・花園ステージ”。
「……!」
ふわっと優しく甘い香りが広がり、吹き抜けた風が私の髪を揺らす。
今回は花園ステージ。当たり一面、見渡す限りに色鮮やかな花々が咲き誇っていた。
キレイでカワイイ場所だけど、戦場として見たら遮蔽や身を隠す場所は少なく、全体を見渡せるから戦線離脱とかは難しいかもしれないね。一度会ったら最後まで戦う必要がありそうな場所。
(取り敢えず探してみようかな)
気配を探り、エメちゃん達へ意識を向ける。
エルフとのハーフであるエメちゃんの魔力は気配が強い。だから見つけるだけなら簡単だよね。
他の選手達に気を付けつつ、私はエメちゃんの魔力が流れている方向へ向かう。
「向こうだ……!」
お花畑を駆け抜け、そちらへと赴く。今回は植物に乗らない。見つかるのは別に構わないけど、お花を散らすのはちょっと可哀想だもんね。
それにこんなに良い景色なら走って行った方が楽しいから。
「……!」
その瞬間、一筋の矢が通り過ぎ、なんとか避けて私の眼前を掠った。
飛んできた方角はエメちゃんの気配があった場所。けど、まだ数キロは離れている……。でもそれ以外にあの方向から気配は感じないし一体どうやって……。……! もしかしてエメちゃんも気配を読めるように……!?
「……っ」
そんな思考も束の間、更に複数本の矢が飛んできた。私は樹で防御壁を貼って防ぎ、その後ろで矢の嵐が止むのを待つ。
間違いない。こんなに正確な狙いは気配を読んでいるとしか考えられないもんね。
元々自然と共に生きるエルフは物の呼吸を読む力に長けている。ハーフであったとしてもそれは顕在。と言うより本来の力が覚醒したって感じかな。
気配の認識にエメちゃんの矢の実力があれば、数キロ先からなる意識外の遠距離攻撃が可能になる。人一人の力で出せる範囲では最上位。だって咄嗟に樹で防げたとは言え、全てがしっかりと命中しているからね。
私としても行動に移さないと削り切られちゃう……!
「お花達は可哀想だけど……“樹木刺突”!」
ママに魔力を込め直し、防御壁からそのまま樹の槍を射出した。
風圧でお花達は散ってしまい、地面を抉りながら遠方へ。数キロ先くらいならこの植物魔法でもなんとかなるからね。
それによって矢の猛襲は一時的に止まり、私は距離を詰めていく。
遠距離戦闘も得意だけど、この分野じゃエメちゃんの方に部がある。ただでさえ実力者には避けられる可能性が高い植物魔法。多分遠距離対決なら一生当たらない。
だからこそ此方から攻め立てるしかないの!
「ごめんね。お花さん達。“樹海行進”!」
魔力で作られた偽りのお花でも、散らすのは心が痛い。だけど私達が勝利を収める為にもやるしかない!
植物に乗ってエメちゃんの方へと赴き、一本の矢が私の頬を掠った。直撃はしていないからセーフ。更に魔力を込め、複数の植物を伸ばした。
「“多樹木連撃”!」
木々はお花を散らしつつ、気配の方向へ直進。全方位から攻めている現状を直進と言えるかどうかは疑問だけどね。
とにかく狙いはこっちも正確。矢も止まったままだから一気に嗾けるよ。
「“巨樹園”!」
天を覆い尽くす大樹を生み出し、気配を押し潰す。
そしてそれを逃れたのか、遠方に人影が見えた。
「流石だね。……はあっ!」
「三本同時に……流っ石!」
魔力を纏った三本の矢が放たれ、いくつかの植物を粉砕して私の方へ。
多重の樹木で矢の進撃をなんとか防ぎ切り、空を飛ぶエメちゃんへ狙いを定める。
「私もスゴく成長したんだから! “ドングリマシンガン”!」
「……! 射出の勢いで木の実を……!」
原理を理解し、即座にそれに合わせた対応。植物の詳しさなら本を読み込んだ私と同じくらいだもんね。地頭の良さで言えば向こうが遥かに高い。
魔力や知力、身体能力で人間はエルフに劣るけど、それが負ける理由にはならないよね。現にボルカちゃんは対等以上に渡り合った事がある。
私だって強くなったんだから!
「“上昇樹林”!」
「空も別に安全地帯じゃないみたい……!」
正面に気を取らせて下方からの奇襲。それにも簡単に対処される。
魔力の気配を読んでいるならそれにも納得。躱しながらも矢を放って迎え撃ち、それらを防いで植物を放つ。
魔法による空中移動もお手の物。だけど拓けた空は狙いやすくもある。植物魔法の木々に隠れながらあの身の塾しで仕掛けられる方が厄介かな。
空中の利点もあるけど、それが私の見解。更に魔力を込め、空に固定させる為足場を奪っていく。
「“樹海生成”!」
「いつもより範囲は狭い……(私を降りさせないのが目的。私が空中に居た方がティーナちゃんは戦いやすいって事なのかな……だったら……!)」
距離的に声は聞こえないし、元々思考も読めない。なので何を考えているかは分からないけど、意図には気付いたかもね。
だからかエメちゃんは空中の植物に乗って動き回る。彼女の身体能力なら常に動く植物に乗って行動するなんて容易い事だよね。
でも狙いは定めやすくなってる。私は植物に乗って真っ直ぐ進み、エメちゃんの眼前へと迫った。そこから一気に跳躍。
「“樹拳”!」
「……!」
上から振り下ろすように叩き込む樹木の拳。それを飛び退いて躱し、弓矢を仕舞ってレイピアを取り出す。
そのまま横に薙ぎ払い、今度は私が飛び退いた。それによって空いた距離を一瞬にして詰め寄られ、連撃が切り込まれる。
「はあ!」
「素早いね……!」
縦斬り、横斬り、薙ぎ払いからの刺突。
流れるような動きでコンボを決められ、私は防戦一方。
けれど一瞬の隙を突き、植物の鞭で薙ぎ払って引き離す。でも、距離を空けたとしてもエメちゃんには弓矢があるもんね。
「やあ!」
「はっ!」
纏めて威力を高めた矢は、こちらも纏めて防御力を高めた樹で防ぎ、周囲から植物を操って嗾ける。
今ある周りのフィールドは植物からなるもの。遠隔で操れば全方位攻撃も可能。当たればエメちゃんもタダじゃ済まない!
「流石だね……!」
「……!」
──刹那、一瞬の瞬きと共に消え去り、遅れて雷鳴が轟いた。バチバチと軌道上には小さな破裂音が聞こえる。
エメちゃんの本領。雷を体に纏う事で身体能力を大幅に向上させ、雷速移動を可能にする技。
本人でも操り切れず多少は速度を落としているけど、それでも十分過ぎる強さ。この状態のエメちゃんは代表戦でもかなり良い所まで行くと思う。
「終わらせるよ……!」
「だよね……!」
植物魔法を足場に高速で飛び回り、自身の体を慣らしていく。
空中の方が戦いやすいから植物を生やしたけど、この状態は返って逆効果かな。直ぐ様植物を消し去り、私の周りに防壁を張り巡らせた。
「踏み場は消えたけど……!」
「速さは変わらないね……!」
稲光を放出しつつ、色鮮やかな花園を駆け巡る。
雷の軌跡は幾何学模様を描き、少しずつ体が慣れたのか攻撃へと移行していく。
周りは覆っているけど、この速度で削られ続けたら消え去るのも時間の問題。対処法を見つけなきゃね。
「……」
前とは違い、魔力の気配でエメちゃんの姿を追う事が出来る。目に見えなくても目より速い直感で彼女を掴むの。
右、左、上、左、右、正面。背面。動きは読めるけど、攻撃が間に合わない。置き攻撃をしなきゃならなそうだね。
「“竹生やし”!」
「……!」
エメちゃんの動きを予測し、地面から竹を生やす。当たらなかったけど軌道は逸れた。
成る程ね。攻略法は見つかったかも。
「何をするつもりなのかは分からないけど……あまり猶予は与えない方が良いよね……!」
「それが最善手だよね……!」
エメちゃんが本格的にトドメへと乗り出す。本当に頭が回る。様子見され、対策が練られると判断したら終わらせに来るんだもんね。
亜雷速で攻め立て、私の体も傷つけられる。
「……ッ!」
ただ痛いだけじゃない。傷だけなら軽傷だけど、傷口から雷が迸って感電させる斬撃。
それによって激痛と共に感覚が鈍り、意識が遠退く。
まともに一撃を受けたら……植物魔法の防御が崩されたら一巻の終わり。まともな一撃を受けるよりも前に終わらせなきゃならない。そして思い付いた攻略法は、その攻撃で刺し違える可能性もある。
(だけど……やるしかないよね……!)
もし私がリタイアしてもボルカちゃん達がおり、相手の最高戦力を落とす事が出来る。私が居なくなるデメリットより、エメちゃんを倒すメリットの方が遥かに大きい。
私は別にいいの。みんなの役に立てるなら……!
エメちゃんの雷が紫色に瞬いた。
「──“紫電一閃”!」
「……!」
その一撃により、私の正面の植物が破壊される。否、破壊させた。
他の場所には更なる植物で防御壁を貼っており、わざと破壊しやすいように細工している。
でもこんなに見え見えの罠に引っ掛かるエメちゃんじゃないので、追加で正面の防御を埋める姿勢を見せる。そうなると、来るしか無いよね……!
「“雷光斬鋭”!」
「“反射樹”!」
「……!」
正面から高速で差し迫り、私の体へ。
だけど来ると分かっていればエメちゃんが迫った瞬間に植物を生やして迎え撃つのみ!
雷纏いのレイピアとカウンターの樹は正面衝突を起こし、エメちゃんの体を打ち付ける。レイピアの切れ味と貫通力で樹木は切断され、雷の刃が私の体に突き刺さる。
樹が斬られても縦に割れただけ。そのままの勢いで突っ込めばダメージになる。それと同時に私の体が感電し、一気に意識が遠退いた。
でも、まだまだ。最後の最後まで仕掛け続けるのを止めない……!
「“夜薙樹”……!」
「……ッ!」
周りの防御壁を全て攻撃へと変化させ、エメちゃんの体を徹底的に打つ。
ドドドドドッ! という轟音と振動が花園を揺らして花弁を散らし、私は意識が消え去った。
今の一撃でどうなったか。勝負の行方が分かるのは、次に目覚めた時。
私とエメちゃんの戦闘。それはおそらく、決着が付いた。




