第二百八十幕 新人戦・地区大会・準決勝
──“準決勝・魔道具点取りゲーム”。
準決勝の試合は予め手渡された魔道具による点の取り合い。去年にも全く同じゲームをしたわね。同名のゲームなら今回の新人戦でも行われているけれど、その差別化で“魔道具”って名前が付いたのかしら。
安直だけど分かりやすいわね。ダイバースは基本的には分かりやすさ重視で行われる。初等部からやる子も居るものね。
(そしてこれが私の武器。と言うより共通の物ね)
そんな感じで私の手元には本魔法から召喚した物とは違う銃がある。
最初はハンドガンから始まり、ステージを探せばアサルトライフルとかスナイパーライフルとかショットガンにマシンガン、ロケットランチャーetc.と強力な武器も見つかる。でも1vs1の戦いでそんな物を探す余裕があるかしら。
“魔道具”とは表されてるけど、勿論魔導による攻撃もあり。寧ろそっちを使う方が多いわね。戦い方がルールと変わらない私は重宝させて貰うけれど。
(此処が今回のステージ……どの様に立ち回ろうかしら)
今回は“村ステージ”。都市より小規模であり、低い建物が多い。
のどかな村だけど、この雰囲気も私が今回の対戦相手であるリゼさんと出会うまでの束の間の平和ね。
一先ずは他の武器を探りつつ村の地形を把握しましょうか。事前にマップは見ているから大凡は分かっているわ。
「物語──“調査隊員”」
「…………」
本魔法で探すのに打ってつけの人を召喚する。
本当は部隊で探したかったけど、人数が多いとバレるものね。魔力の消費も激しいし。
取り敢えずの立ち回りは武器が見つかるまでリゼさんとの合流は避ける感じね。
「隊長! 見つけて参りました!」
「ありがと。隊長ではないけどね」
本相手に独り言。
取り敢えず暫く身を潜め、隊員が見つけてきた武器を確認する。
「“スナイパーライフル”。こう言った練習はまだしてないわね。とは言え元々召喚して使っていたのはハンドガン。十分な強化になるわ」
独り言を呟き納める。納刀ならぬ納銃かしら。
事前に用意された魔道具なので魔力をデータとして残し、手荷物にならないようにしてある。
簡単に言えば魔力にして体内に納められるという訳。保存されたデータがあるから想像だけで全く同じ物を取り出せるわ。今後ずっと使えるようになる訳ではないけれどね。あくまでこの試合の間、一時的な物よ。
取り敢えず武器集めは順調。相手がリゼさんなら試合ルールに則って仕掛けてきそうね。そうなると知略戦略、様々なやり方で仕掛け守る必要がある。
ダイバースの名前に相応しいゲームかもしれないわね。
「それじゃ、また探してきて頂戴。流石に一人じゃ少ないから三人で。くれぐれも相手に見つからないように」
「「「ラジャー!」」」
「声も小さくね」
「「「ラジャー……」」」
追加で召喚し、武器探索に当てる。
私は位置で有利を取る為に移動中。相手は風を扱うリゼさん。高所の利点は皆無に等しいから、空から狙いにくい物陰が最適かしら。
それだけで勝てる見込みもないので下準備はしておく。
「アナタ達はリゼさんを探してくださる?」
『『『…………』』』
本の鳥達を召喚して索敵に当たる。
意思疏通は出来ないけど、合図を出す事は出来るものね。
リゼさんを見つけたらその子が案内しくれれば良いだけ。それまで私は待機かしら。下手に動いて先手を取られたら元も子も無いものね。
じっとしていても見つかる可能性はあるからある程度は整えておきましょうか。
「隊長。これらがありました!」
「こちらも見つけました隊長!」
「如何でしょうか!? 隊長!」
「ありがと。隊長じゃないけど、武器はある程度集まったわね。本に戻って良いわよ」
「「「はっ!」」」
魔力となり、魔導書の中に戻る。
武器の調達は完了。此処を拠点として整える事も出来た。そして既にリゼさんの姿も見つけている。
私は正面から突っ込むタイプではないものね。策を講じてそれに合った方法で仕掛ける。拠点を整えたから迎撃準備は万端よ。
高台に登った瞬間、私の近くに風が過った。
(あの本の鳥達……ウラノ先輩の眷属。追ってはみたが、誘われている気がしてならない……)
「…………」
物陰からその様子を窺う。リゼさんも気配を探知する事はまだ出来ていない。この距離なら大きな音を出したりしない限りは見つからないでしょう。
本の鳥達を使って私の領域圏内に誘き寄せた。リゼさんならもう意図に気付いているかもしれないわね。
でもまあ、先ずは一撃入れてから考えるとしましょうか。
(一番ポイントが高いのは……脳天)
「……!?」
タンッ……! とサイレンサー付きのスナイパーライフルで本の鳥達を探すリゼさんの頭を撃ち抜く。
これはあくまで点取りゲームの一貫。部位ごとに点数が決まっており、頭や心臓などの急所が高得点。手堅く取っていくわ。
(撃たれた……! 頭を……! いきなり先輩に高得点が入ってしまった……飛んできた位置は……!)
スナイパーライフルとは言え、撃てばバレる。だって意識はあるもの。先に指定ポイントを取った方が勝ちになるの。
撃ったらすぐに移動。当たったかどうかの確認はしなくて良い。既に見つかっているから、それが決定点でもない限り確認の為に顔を出した方が狙われてしまうわ。
村で唯一と言っても過言じゃない高い見張り台から飛び降り、直後に風がその台……塔を破壊した。
単純な銃の撃ち合いなら高所を取った方が有利だけど、ダイバースでは魔導の応酬があるものね。狙い易い位置は簡単に壊されてしまうわ。
(手応えはない……すぐに離れたみたいだ)
おそらくリゼさんも私が移動した事には気付いている。次の手に移りましょうか。
(あの塔から降りたと考え、まだ大きな生物は出した気配が無い。ならば近くの建物に潜んでいると考えるのが道理)
リゼさんは風で空中に舞い上がり、先程崩した塔の周辺に目を付ける。
同時に魔力を込め、風の球体を投下。刹那にそれが爆ぜた。
「“爆風衝”!」
ドンッ! と轟音が響き渡り、周辺の建物が次々と倒壊していく。
張っていた罠も余波でいくつか消えてしまったわね。風速数百メートルの暴風。一時的な力とは言えこれ程とはね。
でも既に私は別の場所に移動している。大きな生物を出さなくても本の鳥達を束ねて引っ張って貰えば同等の事が出来るもの。
死角へと到達し、また銃を構える。距離が縮まった代わりに反動を抑えた物ね。
「……!? いつの間に……!」
「あら残念」
風によって軌道が少しズレたわね。それ込みで撃ち込んだけど、当たったのはポイントの低い肩周り。
それによって見つかってしまい、リゼさんは急降下して嗾ける。
「しかし、見つけてしまえば此方のものです。ウラノ先輩」
「ええ、そうね。まだ召喚してないもの。──生き物は」
「……!」
別の物語から出現させたワイヤーに引っ掛かり、近距離で急停止。目には見えにくく、また私を見失ってしまうかもしれない焦りからあまり深く考えず飛んできたのが仇となったわね。
風があってもこの距離なら外さないわ。
「“暴風障壁”!」
「咄嗟の判断。見事ね」
相手が防御を貼らない限りは。
流石にこのままやられる程度ではないわね。当たりはしたけどまたポイントは少なく、リゼさんは辛うじて銃を構えた。
「食らえ!」
「これくらいなら当たらないけど……」
身動きが取りにくい状態なので構えてから避けるのは余裕がある。でもただでやられるような子でもないわよね。
そう思った瞬間、風に乗って弾が軌道を変え、私の側頭部を撃ち抜いた。
成る程ね。
「これで少しは追い付きましたよ……!」
「ええ。側頭部も高得点だものね」
「更に取っていきます」
風を放ち、ワイヤーを引っ掻けている建物を倒壊させる。
迅速な行動ね。私もそうだけど。
“魔導書”をパラパラと開き、この場にあった物語を展開させた。
「物語──“ガンマン”」
「俺の獲物はどいつだ?」
「この場には居ない。“爆風”!」
暴風を吹き荒らし、辺り一帯を包んで飲み込む。
ガンマンは帽子を抑え、建物の瓦礫へと転がり込んだ。
「うおっと……!? こりゃ見せ場無ェな」
「アナタは隠れてなさい。タイミングは自分で判断してね」
「へいへい。ご主人様」
「主人ではあるけど畏まらなくて良いわよ」
ガンマンは瓦礫を背に様子を窺い、ワイヤーが切れて自由になったリゼさんは更に仕掛ける。
「何かを狙っているなら、それをさせる訳にはいかない」
「お互いにね」
「……!」
魔力を込めた所に本の鳥達を仕掛け、リゼさんの気を逸らす。そこに本魔法とは別の、予め拾っていたアサルトライフルとマシンガンを取り出す。
「大量ポイントを取りましょうか」
「……っ」
ドドドドドドド! ダダダダダダダッ! と2丁拳銃スタイルで乱射。
本来はもっと重いけれど、魔力で身体能力は強化してあるからそんなに苦ではない。でも狙いが定まらないわね。当たっていても高得点じゃない。
しかし塵も積もれば山となる。あと数撃で目標得点と言うところに来たわ。
トドメの為、弾切れを起こしたアサルトライフルを消し去ってショットガンを取り出す。
弾も魔力だから魔力が切れるまでは実質無制限だけど、一秒間に数百発だから消費が激しいのよね。トドメを刺せるなら刺したいところよ。
「弾幕の片方を消したのは愚作でしたね。隙が生まれましたよ」
「……!」
ショットガンを小さな風の球体で弾き飛ばされ、私の胸に銃弾が撃ち込まれる。
これは高得点を取られたわね。更に数発入り、一気に追い付かれた。
片手のマシンガンはそのままなのでそれは撃ち続けるけど、狙いが定まらずあらぬ方向に弾が。ショットガンに当たって更に飛んでいってしまったわね。
リゼさんはより強く力を込めた。
「一気に吹き飛ばす。“爆風”!」
「なら相殺ね」
「……!」
ロケットランチャーを取り出し、風の爆弾にぶつけて相殺。衝撃波が散り、粉塵と共に瓦礫も飛ばされる。
魔力の消費が激しいわ。
「トドメです……!」
「ええ、終わりね」
これで勝負は決まり。私は銃を消し去り、リゼさんの弾幕のみが残る。
そんな私の背後に舞う粉塵。そして──先程召喚したガンマンが。
「流石はご主人。よく分かってらっしゃる」
「……!」
ハンドガンを一発撃ち込み、弾幕を一筋の弾丸が突き抜けた。
その弾は先程弾かれ、私がマシンガンで撃って移動させたショットガンの引き金に。
「まさか……!」
「ええ。私の勝ちよ」
ショットガンの引き金は銃弾によって押すように引かれ、弾が勢いよく飛び出す。
完全なる死角からの弾丸を防ぐ術は無く、リゼさんの体に当たって高得点を獲得。ガンマンは帽子のツバに銃口を当てて格好付けてるわね。
これで目標点数に達し、私達は会場へ戻っていた。
《──勝者! ウラノ・ビブロス選手ゥ! 本魔法を駆使し、見事に勝利を掴みましたァ!!》
「「「どわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」」」
「「「ウオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォッッッッッ!!!!!」」」
『『『グギャアアアアアアァァァァァァァァァァァァァッッッッッ!!!!!』』』
『『『キュオオオオオオオォォォォォォンンンンンンンッッッッッ!!!!!』』』
司会の方に言われ、会場が沸き立つ。
もう少しで私の方が限界を迎えていた。あのロケットランチャーが最後の一撃だったのよ。威力が高いからね。魔力消費もその分多いの。
それでもう魔力はほぼ切れてた。予めガンマンを出し、彼に判断に委ねなかったら負けてたわ。
「とても強かったわ。来年はきっと、貴女達はもっと上に行けるわ」
「いえ、先輩こそ……終始策略に溺れてしまいました。流石です」
戦闘後に軽い雑談をし、インタビューを受けて会場を後にする。
残る試合は決勝のみ。同じ“魔専アステリア女学院”のメンバーはもうこのブロックに居ないから余裕を持って勝てそうね。
私とリゼさんによる試合はこれで終わりを迎えた。




