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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部一年生
28/457

第二十八幕 マリオネット

『ブモオオオォォォォォッッッ!!!』

「いやー!」


 拳が振り下ろされ、さっきまで私が居た場所が粉々になる。

 とにかく今は策を講じて何とか出口に行く事を考えなきゃ! けど前も後ろも瓦礫で塞がってるし、抜けるに抜け出せない!


『落ち着きなさい。ティーナ。前方と後方が塞がっていても、逃げ道のヒントはあるわ』

「ヒント?」

『そうよ。じゃあヒントのヒント。瓦礫は何処から落ちてきたでしょうか』

「上……?」

『そう。それなら上にはその瓦礫があった場所があるわよね?』

「あ、そっか。落ちてきたって事は天井に穴が空くんだ!」

『正解よ!』


 瓦礫のあった所には空洞が造られる。しかもあの量なら私とママ達が入れるくらいの隙間はある筈。

 そうと決まれば蔦を伸ばし、出っ張りに引っ掻けて私の体を持ち上げ天井へと上がる。

 ここなら一先ずは安心。と言っても瓦礫とかを投げられたら大変だから植物の防壁を張って対策は練る。

 後はどうやって打開するかを考えなくちゃならない。

 でもどうしよう……。早速瓦礫を投擲されて植物の壁に衝撃が走ってる。


『やる事は簡単よ。さっきは気を取られて魔力を緩めてしまった。だから今の状態に陥ったの。だから、また出力を上げた植物魔法で拘束するのが良いわね』


「さっきはボルカちゃん達が居てくれたから隙を作れたけど……ママとティナが居ても同じ事が出来るかな……」


『大丈夫よ。貴女なら出来る。私が嘘をいた事ある?』


「無い……けど……」

【──もうすぐ元気になるわよ!】

「前に一度……」


 あれ、何だろう。私は何をママに言おうとしたんだろう……。

 前に一度だけ嘘を吐かれた事がある……? ううん。そんな訳無い。だってママはちゃんと元気になって、【うわーん! ママー!】……なった……筈なんだよね?


「ねえ、ママ……」

『……なぁに?』

「ママはここに居るよね?」

『当たり前じゃない。私はずっと此処に居るわ』


 何もおかしくない。ママは……ママの魂は……あれ、“魂”って事はもう……──()んじゃってるんじゃ……。

 ■……? ■って……何だっけ。私は何もおかしくないよね。ママはちゃんと居るもん。居るんだもん。

 何も間違ってない。ちゃんと全部が──


『ブモオオオォォォォォッッッ!!!』


 植物の壁が投擲された瓦礫に破られ、そのままの勢いでまた天井が落ちる。

 私の体も落下しちゃったけど不思議と痛みは感じない。感じるのはよく分からない感情だけ。

 何も変じゃない。【何を一人で言ってるのかしら……?】

 何もおかしくない。【どうしたんだ? 一人で呟いて】

 何も間違ってない。【何を一人で仰有ってらっしゃる?】

 何も……【何を一人でお話ししてるのかしら……?】【何を一人で会話しているのか分からねェが──】

 ──私は、何も……。


 ──貴女を産んで……本当に良かったわ──


「ぁ……ああ……」

『グモォォォッッッ!!!』


 ミノタウロスは戦斧を拾って掲げ、今にも振り下ろされる体勢となっていた。

 けど何だろう。頭がスゴく痛い……。涙まで出てきた。私、まだ攻撃食らってないよね……? 何でだろう。何でこうなっちゃうんだろう。

 私が一体何をしたの……。私はただ、一人ぼっちは嫌なだけなのに……!


「ああああああ!!!」

『……!』


 人形ママへ込められた魔力が増加し、地響きが起こる。

 何も考えたくない。何もしたくない。何も私の中に入って来ないで……この世の全てを拒絶したい……!!


「来ないで……来ないで! 悲しい記憶なんて、何も要らないから!!!」

『……ッ!』


 大地から無数の植物が伸び、ミノタウロスの体を拘束。けどダメ……要らない記憶。要らない心。要らないモノがこの世界には多過ぎる……。

 こんなんじゃまだまだ足りない。全てを飲み込んで全てを消し去って全てを覆い尽くしたい。


「……な、なんだよ……これ……」

「神殿が……ダンジョンが……」

「大量の植物に……侵食されてる……?」


 前後全ての瓦礫を吹き飛ばし、私を支えてくれるママの草木が伸び、ダンジョンを覆う。

 私は今何をしてたんだっけ……。あ、そうだ。今すぐこの場所から脱出しなきゃ。


『ブモオオオォォォォォッッッ!!!』

「邪魔しないで! 私は此処から逃げなきゃならないの! 私の道に立たないで!」

『──!』


 巨大な植物が迫り、ミノタウロスの体を次々と貫いていく。

 強靭な筋肉。頑丈な体。けどママの植物は強い。石造りの歩廊の隙間に種が入り込めば、その石を砕いて成長するから。

 藻掻き苦しむミノタウロスを締め■し、粉々にしてダンジョンを丸ごと飲み込む。

 嗚呼、そうだった。私は昔からダンスが好きなの。最近はお友達が出来たからあまり踊れなかったけど、みんなが居ないから恥ずかしくない。


「……フフ、アナタも私のお人形さんになる?」

『──』


 バキッと腕を伸ばし、ボキッと潰れた物を治し、ゴキッと背筋を伸ばして力無く項垂れるミノタウロスを立たせる。

 今のリズムは良いかも。ママもティナもみんなで踊ろっか。


「ワンツー、ワンツー」

『──』

「クルクルクルリ」

『──』

「ターン、タン!」


 ゴキッベキッバキッとミノタウロスでリズムを奏で、瓦礫の崩れる音が合いの手みたいで心地好い。

 クルクルクルリ、ターンタン。タタタンタタン、タン、タ、タン。

 そう、私はお人形さんだった。心も何も必要無い。ただただ遊ばれる事を楽しむお人形さん。楽しい事以外この世に何も必要無い。

 外ではみんなが待ってるね。それじゃあさっさと戻ってみんなで楽しまなきゃ!

 私は操り人形(マリオネット)ハートも何もないただのお人形。だけど楽しむ。とことん楽しむお人形さん。

 仄暗い世界。この世に光なんてありゃしない。

 そうだ。このダンジョンをお人形さんのお家にしよっかな。だって沢山のお人形を見つけたもん。


『ァ゛ア゛……!』

『ア゛ゥ゛ア゛ア゛……』


「アハハ♪ 待て待て~♪」


 ちょっと腐ったお人形さん達を追い掛け、ママの植物魔法で拘束。ジタバタバタバタ五月蝿いからゴキッと首を捻った。

 これで動かないね♪


『──!』

「じゃあアナタ達はお姫様のヴェールになって!」


 透けて半透明なビニールみたいなお人形さんを腐ったお人形さんに被せ、結婚式ごっこ!


『……!』

「ねえ! 何でお人形さんなのに動いて逃げるのー!」


 骨のお人形さんは……お城の兵隊さんかな? うん、ぴったり!


『…………』

「そーれ! 捕まえ……あ、消えちゃった!」


 水のお人形さんを捕らえたら吸っちゃって消滅。あーあ、この子は使い物にならないね。配役が思い付かないし、ま、いっか。

 フフ、アハハ、ハハハハハ! なんて素晴らしい場所だろう。私のオモチャやお人形になってくれる物が沢山ある!


「みんなで一緒に踊りましょう!」

『『『ァ……アア……』』』

『『『ぅああ……』』』

『『『………』』』


 腐ったお人形さんに透き通ったヴェールを被せ、王子様とお姫様の結婚式! 骨の兵隊さん達が無機質に並び、さっき吸い取ったお水を葉っぱの器に注ぐ。

 まるでお芝居の一幕みたい! 嗚呼、この光景が見たかったの! 此処は何者の邪魔も入らない素敵な舞台。

 結婚式の後はみんなでパーティー。ゴキグキボキ、クルクルリ。ベキバキズキ、ターン、タン。植物の糸でクルクルターン。

 何個か壊れちゃった。だけど大丈夫。此処はみんなのダンジョン(お家)。代わりのお人形はまだまだあるよ!


「アハハ! アハハハハ! ──楽しいね。ママ! ━━ええそうね。ティーナ」


 ママやティナとも一緒にお茶会。他のお人形さん達もみんなみんな、楽しそう!


『ァ゛ヴア゛ア゛……』

『ァア……』

『……タス……ケテ……』

『……コロ……テ……』


「お話しするお人形さんだー!」


 蔦を伸ばして手足を動かし、ワンツーステップでターンタン。

 何を言ってるのか全然分かんない。だけど私と一緒に遊べて楽しんでるね! 涙を流して喜んでる!

 此処は私の居場所。他にはもう、何も要らない───


「……?」


 ───あれ? ダンジョン(お家)の何処かが開いたみたい。

 一体なんだろう? 次の瞬間にはつむじ風のような何かが通り過ぎ、蔦が切られてお人形さん達が膝を着く。

 あれは……。


「あ、先輩ー! 先輩達も一緒に遊びましょう!」

「凄まじい魔力ね……」

「あの子の中にこれ程の力が……」


 やって来たのはルミエル先輩にイェラ先輩。ピンチになったら来てくれると思ってたけど、私は別にピンチじゃないよね?

 あ、そっか。やっぱり私と遊びたかったんだね!


「先輩もみんなと踊りましょう!」


「……変わっちゃったのかしら。それとも……」

「元々心に何かを宿していたのか。そのどちらにしても止めなくてはならないな」

「そうね。このゲームを始めたのは私。責任取らなきゃ」


 ちょっと遠いから二人の話し声は聞こえないけど、遊んでくれるって事で良いのかな?


「私と遊んでくれますか? 先輩ー!」

「ええ、そうね。何して遊びましょうか?」

「後輩を守るのは先輩の役目だからな。植物の壁に手間取って少し遅れたが、まだ取り返しが余裕で付く範囲で何よりだ」


 やったー! 先輩達も遊んでくれるみたい!

 ボルカちゃん達とは先輩達の後で一緒に遊ぼーっと!


「それじゃあ、お人形さんごっこ!」

「分かったわ♪」


 無数の植物を生み出し、さっきのお人形さん達も動ける物は先輩達の前に立たせる。

 先輩達もお人形さん。みんな私の大切な物だから!


 ───だからみんな、ずっと一緒に居なきゃダメだよね♪


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