第二百七十八幕 ダイバース新人戦・個人の部・二日目
──“個人の部・二日目”。
《昨日の試合は如何だったでしょうか! 勢いは増せど変わらぬ盛り上がりを見せ、より白熱したものとなってましたァーッ! そして今日も──》
司会者さんの話から入り、昨日の振り返りが行われる。
確かに昨日は難しい試合になった。相手がディーネちゃんだったもんね。頭脳戦でも魔力総量でも他の選手達と一線を画す子。本当に強敵だったよ。
私のトーナメントブロック的にはもう仲間達と当たる事は無いけど、他のブロックではチラホラあるね。みんなと一緒に行きたいけど、こればかりは仕方無いや。
《それでは! 今日も試合を進めて行きましょう!!》
「「「どわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」」」
「「「ウオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォッッッッッ!!!!!」」」
『『『グギャアアアアアアァァァァァァァァァァァァァッッッッッ!!!!!』』』
『『『キュオオオオオオオォォォォォォンンンンンンンッッッッッ!!!!!』』』
司会者さんの話を終え、試合開始となる。今日は昨日よりは試合数が少ないね。
地区大会二日目が始まった。
──“六回戦・推理ゲーム”。
六回戦は推理ゲーム。探偵ゲームとして去年もした事あるね。
ルールは犯人と探偵に分かれ、推理をして事件を解決する。今回は私が探偵役であり、犯人役が対戦相手。
相手は一人だけなので答えは決まっているけど、決定的な証拠を集めなくては事件解決にはならない。
そしてその証拠は揃えた。
「凶器に使ったのはこのポーションです」
「なんだと?」
「そんな物でどうやって……」
「ポーションは回復アイテムだろう?」
犯人は対戦相手一人だけど、容疑者役など周りには色んな人達が居る。雰囲気出るね~。本当に探偵になった気分。
私は説明を続ける。
「そうですね。本来は回復アイテムとして使えるポーション。しかし、調合によっては毒にもなりうる代物なのです。ポーションの大半を占めるこの成分に特殊な魔力を含めたこれを使えば一口含むだけで害となり、被害者のような結果になってしまうのです」
「そ、そうだったのか……!」
「しかしどこでそれを……?」
「市販で売られているこのアイテムで可能ですよ。あくまで大量に入れればそうなるだけであり、規定量を守れば併用も可能ですけどね」
「そ、そんな……その知識は中等部ではやらない事。医学を学んでいる私にしか分からないかと思っていたのに……」
「私は馴染みのお店によく寄っていて知り得た知識ですよ」
「くっ……」
「罪を償い、心を入れ替えてくださいね」
「名探偵ティーナさん……!」
犯人を確保し、私の勝利が決まる。
あの雑貨屋さんに通ってて良かった~。そこで得た知識のお陰で突破出来たね。
六回戦も順調に勝ち上がり、私は次へ進む。
──“七回戦・怪盗ゲーム”。
探偵の次は怪盗。探偵に怪盗って……運営の誰かが最近そう言う物語を見たのかな? ゲームを選ぶ基準は分からないもんね~。
今回は別々の地点でどちらが先に盗むかの勝負。実際は泥棒しちゃダメだよ! そんな感じで今は夜の都市ステージ。マントが靡く特別衣装でゲームに臨む。
(植物魔法は侵入にも使えるね)
天窓から植物魔法による蔦を垂らし、スルスルと降り行く。
赤外線によるセンサーがあるので触れないように気を付け、その位置を把握する。
目では見えないけど射出口があるからね。その位置をティナで見渡して確認。センサーの通り道以外で降りる。
(そしてここからは……)
お宝のケージへ近付き、植物で探る。ただ触れるだけじゃその瞬間に爆音が鳴り響いちゃうから感度を探ってるの。
そして周りの強化ガラスとお宝の重さによって探知している事を把握。故に同じ重さの植物で常に押し込み、重量の境界線をあやふやにする。
後はお宝を取り出し、そのまま這い上がって脱出。丁度外に出た頃合いで別の場所からサイレン音が。向こうは見つかっちゃったみたいだね。
その隙に指定場所にお宝を納め、私の勝利が確定した。
──“八回戦・風船割り”。
「“フォレストゴーレム”&“フォレストビースト”!」
「……!」
「そして“樹海包囲網”!」
「そんな……!」
次の試合は相手の風船を先に割った方が勝ちなゲーム。去年にもやってたね。私じゃないけど。
植物からなる存在達で囲み、逃げ場を無くす。他に気を取られている隙に別の植物を放ち、風船を割った。
ミカンとかの柑橘類や薔薇の棘とか風船を割りやすい植物で囲んだら簡単だね。
そして八回戦も突破する。二日目は残り一試合。みんなも順調に勝ち上がっているみたい。
──“九回戦・障害物競争”。
二日目最後の試合は障害物競争。メジャーなルールだね。
単純に色々な障害を乗り越えてゴールすれば良いだけ。
一般的には網を潜ったり平均台を越えたりだけど、ダイバースの大会でそんな生易しい物は出て来ない。
魔力をふんだんに使ったそれなりのギミックが沢山出てくるよ。
「“樹海行進”!」
そしてそれらは植物に乗って越えて行く。
燃え盛る炎や吹き荒れる風。落石と水の中にまで。魔獣も至るところに仕掛けられており、次々と襲い来る。
「“鞭の樹”!」
『『『ガギャッ……!』』』
そしてそれらも薙ぎ払い突破。
一直線にゴールへ向かい、相手に追い付かせず到達した。
──“控え室”。
「やったー! これで準々決勝まで進出だ!」
「やったな。ティーナ!」
「うん。ボルカちゃん!」
会場から控え室に戻り、二日目も突破した事を喜ぶ。
明日は準々決勝、準決勝、決勝へと一気に駆け抜けていくからね。ブロックごとに分かれているから、他のみんなも行けると良いな。
だけど、ディーネちゃんがそうだったように全員で都市大会に行く事は絶対に出来ない。
「次の試合……二日目の最終戦はボルカちゃん達だね……」
「ああ。──な、サラ!」
「っすね~。ボルカ先輩! ウチも負けませんけど!」
「アタシも負けないさ!」
二日目最終戦、ボルカちゃんとサラちゃんによる対決が行われる。
私のブロックはもう今日の試合を終えたけど、他にはまだ残っている。その一つがボルカちゃんとサラちゃんの試合。
そして明日には更に減っていく。トーナメントを見る限り……ね。
「じゃ、互いに頑張ろうぜ」
「もち!」
「行っちゃったね……」
「個人戦は好きですけど、残酷な結果が必ず出てしまいますものね。どちらを応援したら良いのか……」
「どちらでも良いでしょう。明日は我が身なんだから」
「読んで字の如く……ですわ」
その会場へ向け、二人は控え室を出ていく。既に今日の試合を終えた私達は控え室で固唾を飲んで見守るのだった。
*****
──“別ブロック・九回戦・おにごっこ”。
「さて、サラは何処に居っかな~」
九回戦のゲームは鬼ごっこ。
ルール的にはどちらかが先に相手へ“手の平”で“タッチ”した方が勝ち。追って追われての無限ループにならないのは大会に合わせてだな。
触るだけで勝ちだから、意図せぬ事故であっても触れると此方が終わっちゃう可能性もある。けどま、明確な勝利条件が分かってるのはやり易い。単純な戦いでも色々考えるしな~。今回考えるのはどうやって触れるかだけだ。
「探しに行くか~」
今回のステージは物陰が多い街。普通に追っても隠れて奇襲もなんでも御座れだ。
気配が読める分アタシのアドバンテージの方が大きい。だったらそこからどんな風に策を講じてどんな風に攻め立てるか考えなきゃな。
否、
「正面から突撃してソッコーで終わらせる!」
炎魔術を放ち、気配の方へ一気に加速。
サラも作戦とか練るの面倒なタイプだし、互いに正面から突っ込んで終わらせる方が良いだろ。
建物を炎圧で揺らしながら突き抜け、サラの姿を正面に捉えた。
「流っ石ボルカ先輩♪ ウチの性格良く分かってる~! ……やっぱ小細工より正面衝突っしょ!」
「だな!」
互いに掌を翳し、相手に触れるよう試みる。そう簡単には決まらないけどな。
同時に双方が炎を放出してぶつかり合い、街並みが揺らめく焔で燃え盛る。
周りの気温も更に向上し、いくつかの建物は熔解した。魔力からなる建物だし当たり前だよな。
初手は互角。アタシは炎で細かい操作をし、サラの死角へ回り込む。
「まだそのレベルの動きは出来ないっての! “火柱”!」
「自分ごと覆ったか。でも、炎の練度なら負けないけどな!」
「一瞬でも防げれば大丈夫!」
火柱を炎の拳で突き破るように抜け、サラは炎で加速して空中へ。
目は離せない。触れられたら終わりだから一瞬の隙が命取りだしな。それはお互い様だ。だから視界を遮る炎を無闇に使うのは愚作。
「“フレイムピラー”!」
ま、関係無いけどな。気配を読めるアタシなら寧ろ利点にすらなる。
サラの火柱を覆うような炎柱を立て、周りの建物も飲み込む。炎によって視界は目映く悪くなり、アタシは追撃を嗾けた。
「“ファイアボール”!」
「“火球”!」
「お。到達点を予測したか」
「近くに来るのは理解してるんで!」
火球と火球がぶつかって空中で爆ぜ、熔けた建物が爆発で吹き飛んだ。
鎮火するには建物を破壊した方が良いしな。どうせ再建不能だし。
ヒノモトみたいに木造建築が連なってる場所では引火するよりも前に崩すのが主流だそうだ。この場所は既にそう言う次元の話じゃ無くなってっけど。
丁度爆炎と煙に包まれたし、そろそろ仕掛けるか。
「それタッ──」
「まだっしょ!」
「お?」
炎で加速し、アタシを探しているサラはまた自分の周りに炎を展開。それを爆発させて衝撃波が街ステージを伝った。
自傷ダメージは負ったけど、アタシに触れられる事は無かったな。
アタシは透かさず火球を飛ばし、サラは紙一重で躱した。
「そこッスね!」
「ああ、正解だ」
そしてアタシの姿を見、振り返り様に加速して手を伸ばす。思わず繋ぎたくなっちまうけど、今回の勝利条件じゃどっちが勝ったか分からない方に賭けるのはリスキー。
ならばどうするか。決まってる。
「──“バックフレイム”」
「……! さっきの火球……!」
飛ばした火球には火のロープが繋がってる。アタシはまだ遠隔の魔力操作なんて技はそう簡単に成功しないけど、再現は可能だからな。
戻ってきた火球にサラの体は打たれ、怯みを見せる。初級魔法でも常に火炎のロープで魔力供給はしていたから威力もそこまで落ちていない。完全に離れた魔力の遠隔操作とはまた違った利点だな。
これでチェックメイトだ。
「ほい、タッチ」
「あ……!」
怯んだ隙に加速。正面から肩を叩き、アタシの勝利が確定する。
気付いた時には会場へと戻っていた。
《勝者! ボルカ・フレムゥゥゥ!!!》
「「「どわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」」」
「「「ウオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォッッッッッ!!!!!」」」
『『『グギャアアアアアアァァァァァァァァァァァァァッッッッッ!!!!!』』』
『『『キュオオオオオオオォォォォォォンンンンンンンッッッッッ!!!!!』』』
そして勝利はが正式に発表され、二日目の最終戦を突破。
やっぱり同じ学校だけあって今大会では一番の強敵だった。でもアタシが一枚上手だぜ!
《“魔専アステリア女学院”同士の対決も毎度見所の山ですね! では、残りの試合を──》
鬼ごっこだけあり、アタシ達の試合は一番最初に終わった。それでも満足して貰えたなら何よりだぜ……って、アタシは誰目線だ?
何はともあれ、これで二日目も終わりを迎える。いよいよ明日、都市大会への切符を誰が掴むか明らかになるな。




