第二百七十七幕 二年目新人戦・個人の部・五回戦・同チーム対決
──“守衛ゲーム・凹凸ステージ”。
五回戦のルールは守衛ゲーム。
自分の陣地に予め三つのユニットが置かれ、それらが破壊されたら負けな単純なもの。似たようなルールはした事があるかな。ステージは草木や地面に川とかのシンプルな物だけどデコボコしてるね。
相手はディーネちゃん。広範囲に及ぶ“水魔術”と文字通り変幻自在な“空間魔術”の使い手。練習で何度か戦っているけど、アドリブや変化球を交えてくる可能性は高い。
どんな感じに仕掛けてくるのか、手は打っておかないとね。凹凸だから上を取るか下を取るかでも戦略は変わってくる。
「“守覆樹木”」
取り敢えずユニットを守るのが一番大事なこと。なので植物で覆い、衝撃に備える。
最初は自分の近くに置かれているけど、ユニットの移動は自由。見つからない場所に隠すのも手かもね。
だけどディーネちゃん相手にそんな余裕があるかどうかと言ったところ。
何故かって?
「……来る」
──既にディーネちゃんの場所から四方八方に特大の水魔術が放たれていたから。
自分の場所が特定されるリスクはあるけど、ディーネちゃんの魔力出力なら闇雲に放つだけで勝利する可能性も出てくる。
まあ、私はそんな風にはさせないけどね。
「“上昇樹林”」
植物を地面に展開し、水の範囲外へと上がる。
この水の軌道からしてディーネちゃんは上を取ったみたいだね。高所から見る限り、位置的には南西数キロ先の山から打ち込んだかな。魔力の気配を読み取る範囲外に陣取ってるかも。
既に周りは植物で覆い尽くしている。見つかっていないのがアドバンテージだからね。一ヶ所だけ、文字通り浮いていたら不自然だもん。
(あの辺りかな?)
ディーネちゃんの大凡の位置は特定したけど、数キロ先への攻撃はどうするか。ここから放つ事も出来るけど高確率で見つかっちゃう。
その上で私の判断はステージ全体へ展開した植物にある。
「“フォレストゴーレム”!」
『『『『…………』』』』
ここを含め、あの山を中心に四方へフォレストゴーレムを生み出す。ほぼ同時、真反対の位置だけ少し早めて。
そこにボルカちゃんの魔力を通し、上空からティナで位置を確認。
そして、発射。
「“フレイムレーザー”!」
『『『『ウオオオォォォォッ!!』』』』
魔力を込め、山へ炎の光線を放出。
熱線は大気を焦がしながら突き抜け、ディーネちゃんが居るであろう山を消し飛ばした。
四つの炎は中心で交わって重なり合い、一瞬だけ青く瞬き大爆発を引き起こす。
山を中心に半径数百メートルは更地となり、周囲の山々も熔けてなくなる。でもまだ試合終了の合図は無いからディーネちゃんもユニットも無事みたいだね。
「……!」
次の瞬間、特大の水魔術が再び放たれた──真逆の方向に。
作戦通り。僅かな差とは言え、先にフォレストゴーレムが作られた場所を狙うのは道理。特にディーネちゃんは観察眼が高いからね。ほんの僅かな差も見逃さない筈。ううん、実際に見逃さなかったんだから確定してるよね。
能力も戦闘IQも観察眼も全体的に高水準なディーネちゃん。だからこそそれを逆手に取る。
(居場所は確定した。後は遠距離から攻め続けるだけ……!)
フォレストゴーレムは崩しておく。何故ならさっきディーネちゃんが仕掛けたから。
ゲームが終了していないから私やユニットが無事なのは把握しているだろうけど、フォレストゴーレムを消す事で手応えがあったと思い込ませる。
近くに植物魔法で作ってダミーとし、私自身はディーネちゃんの元に向かう。いつ気付くかも分からないから速度は早めに。植物魔法に乗って突き抜けた。
(この辺りかな……)
植物魔法を止め、魔力の気配を探る。水魔術の攻撃頻度も下がっていたよね。
向こうからすれば私が無事な可能性はあるけど、魔力を無駄にする訳にはいかないから温存しているのかな。
取り敢えず予測地点で気配を探り、ディーネちゃんを追う。でも魔力の気配は無さそう。場所を変えたのかな? 私が居る事は分かってるし、手応えがあったら別の場所に移動するのもおかしくない。
──そう思っていた時、
「……!」
突如として空間が裂け、その中から水球が撃ち込まれた。
咄嗟に避けたけど一つのユニットが植物ごと破壊され、私の残機は二つとなる。
魔術の転移。こんな芸当が出来るようになっていたんだ……!
(だけどおかしい。ディーネちゃん自身の気配は感じない。こんな正確に狙えるなら近くに居る筈なのに……!)
直ぐ様植物で覆い、守りを固める。ティナの索敵範囲を近場に狭め、彼女の姿を探った。
仮に私の気配を読めるようになっていたとしてもその範囲は数百メートルくらいな筈。気配を読む力に長けていたらステージ全体を探る事も出来ると思うけど、そんな素振りは無かったもんね。
だとすると考えられる線。
「“崩壊樹林”!」
「……!」
この辺り一帯を消滅させ、ディーネちゃんの姿を炙り出した。
空間移動も出来ると思うけど、それじゃ別の場所に向かっちゃう。だから空間の中に隠れていたんだ。
ディーネちゃんの空間魔術は別次元に行く感じではない。自分の周りを空間で覆い、気配などを隠していたと考えるのが妥当。
だからその空間を支える場所を吹き飛ばせば自ずと現れるという訳。
「随分と鍛え上げたね。ディーネちゃん」
「私も負けたくありませんから……!」
「と言うか、気付いていたんだ。私があの場所に居なかったって」
「はい。確認しましたから……!」
「その方法は教えてくれないよね~」
「ですね」
多分ディーネちゃんもこの場所に来たばかり。その証拠に汚れなども全く付いていない。
方法を考えるなら、私のやり方と似たようなものかな。空間から別地点に魔術を放てるようになったのならディーネちゃん自身は別の場所で空間のみを繋げ、今は更地になったこの場所から水魔術を放ってきたという事。
私がフォレストゴーレムの位置で誘導したのと同じような感じだね。
えーと、A地点にディーネちゃんが居て、B地点と空間を接合。A地点で魔術を放ってB地点へ移したみたいな。
うーん、空間魔術は専門外だからちょっと説明は難しいね。
取り敢えず空間魔術も巧みに扱っていたという事。リテさんじゃないんだから私の思考なんて読める筈もないし、なんとなく自分で分かってたらそれで良いよね。今は戦いに集中しなきゃ。既にユニットは一つ破壊されちゃったし。
「“樹海行進”!」
「“空間掌握・移”」
「自分に降り掛かる分だけを守ったね」
植物魔法を正面に放ち、ディーネちゃんは転移空間を前に生成。樹海を別空間へと転移させる。
あくまで正面だけ。全方位は防げない。
「“成長樹木”!」
「“空間掌握・弾”」
「自分を弾いた!」
周りの樹海を成長させて嗾けるも、地面に空間魔術を放って跳躍。そのまま空中を固定し、植物の範囲外へと逃れた。
そう言えばディーネちゃんのユニットは見当たらない。別の場所に置いてきたのか、空間で覆って隠しているのか。どちらにしても広範囲の攻撃は必要そうかな。
「“火器の樹”!」
「……!?」
特殊な構造の植物を作り出し、ボルカちゃんの炎を込める。
何かに使えないかなって武器図鑑とかも読んでたんだ。構造やパーツは理解したからそれを頑丈な植物で作れば武器も使える。
そしてこの火器の実はちょっと強烈。熟れても食べられないよ!
「掃射!」
「……っ」
炎が全方位に放たれ、更地をさらに焼き尽くす。
別の場所にあるかもしれないのでより遠方も狙ってみる。
「“実菜流”!」
「もはや植物ですか!?」
木の実や山菜でミサイルを作り、発射。数キロに渡って複数のミサイルが飛び交い、着弾。至るところで爆発が巻き起こる。
そして何かに着弾したのを確認した。
「ユニットが一つ……! マズイです!」
「当たったみたいだね!」
このままでは全部破壊するのも時間の問題。なのでディーネちゃんは自身が私の方に向かってくる。
流石に生身戦闘はしないと思うけどね。
「“空間掌握・斬”!」
「武器が斬れちゃった」
空間ごと重火器とミサイルを切断。
でも大丈夫。植物の生命力はとても高いからね!
「……! 切断面からくっ付いて……!」
「植物同士が絡み付いて一つの樹になったりする前例もあるからね! 植物魔法なら尚更!」
切断は無効。私自身もディーネちゃんの動きには気を付けているから魔力の気配を読んで回避しているよ。
再生した瞬間に撃ち込み、ディーネちゃんは空間を前面に貼って防御。
「こんな事も出来るよ! “ドングリマシンガン”!」
「木の実が射出されて……!? また聞きますけど本当に植物なんですか!?」
「もちろん! 種を時速数百キロで飛ばす植物もあるからね~。植物じゃないけど菌類は光速に近い速度で飛ばしたり。それの応用で弾丸のように撃ち込めるよ!」
種を飛ばす性質に炎を組み合わせて更に速度をプラス。音速に近い速さで撃ち出され、空間で防御し続けるディーネちゃんの動きは完全に止める。
「あ、また一つのユニットが壊れたね。光の粒子が空に向かってる」
「……っ。残り一つ……だったら……!」
「……!」
正面に貼った空間の壁はそのまま。水魔術の噴射で加速。一気に私の方に押し掛ける。
あ、これはちょっとマズイかも。
「“空間突進”!」
「呪文にする必要ある!?」
「威力はプラスされますので……!」
空間魔術でも水魔術でもないただの突進。だけど呪文にして魔術に昇格させる事で空間の強度や水の噴射力を上げる事が出来る。
ちゃんと効果的なんだよね。
「……っと……!」
「先輩も残り一つです!」
私はディーネちゃんと違ってユニットと一緒に移動している。最初から無差別攻撃はするつもりだったからね。自分が持っていた方が安全なの。
でもそれを逆手に取られ、突進の威力そのまま打ち砕かれてしまった。
これで守るべきユニットはお互いに一つずつ。別の場所にある物をどうやって見つけるかが勝負の分かれ目だね。
一先ずは攻撃し続けるしかないかな。
「じゃあ、残りに到達するまでやろうか!」
「望むところです!」
後輩なのもあり、指導するように戦う。でも間違いなく今回の新人戦で戦った相手では一番強い。
勝負を決めるのは残りのユニットが闇雲に放った植物に当たるか、ディーネちゃんが私の方を破壊するか。
文字通り自分で蒔いた種だけど、ステージ全域が空襲受けてるみたいになっているからミニゴーレムやビースト達は使えないね。一つだけ分かるのはどっちが壊れるかの持久戦ってだけ。
その為にもディーネちゃんは止めておかないとね。
「“リーフカッター”!」
「“空間掌握・斬”!」
植物魔法の葉からなる刃を放ち、ディーネちゃんが空間魔術で切断するように防がれる。
私はそこから更に魔力を込め、無数の植物を用いて嗾けた。
「“樹海乱打”!」
「これを凌ぎ切れば……!」
無数の木々を振り下ろし、ディーネちゃんはそれらを掻い潜る。
これくらいは簡単に避けちゃうよね。流石。更に空間魔術の防御があるから持久戦では向こうに分がある。でも、時間を掛けてられないのが無差別攻撃を仕掛けられてる彼女の方だよね。
「……っ。やるしかない……!」
「……来るね……!」
時間の問題なのはちゃんと理解している。なので意を決し、玉砕覚悟でディーネちゃんは駆け出した。
正面に壁があるので前方の影響は受けず、周囲から攻め立てる物によって傷付く。
でも着実に私の方へと向かっていた。
「終わらせます!」
「受けて立つよ!」
魔力を込めたのを気配から確認し、私達も力を入れる。
ディーネちゃんを守っていた空間は消え去り、片手に魔力の気配が移ったのを確認。それによっていくつかダメージは受けているけど、止まる様子は無い。
前言は撤回しない。私も向き直った。
「──“空間水爆掌”!」
「──“掌底樹海林”!」
空間魔術によって水魔術の莫大なエネルギーを一点に込め、さながら大きな爆発のように放出。
対する私達は樹海を一点に込めて迎撃。どちらも一点集中の強大な力。
二つの力は正面衝突して大爆発が巻き起こり、ステージ全体を大きく揺らした。
この範囲……少しマズイかも……!
「これで終わりです!」
「そうみたいだね!」
更に魔力を込め、より大きな衝撃波が伝わる。それによって地表が何層も抉れ、開始時よりステージは数メートル小さくなった。
そして私の背後には砕けた物が。それは樹木で覆われた代物。
「やった……!」
「……そうだね」
砕け散り、別の場所では余波によって粉砕した気配が。これはディーネちゃんが隠していた物かな。
それによって私の──勝利が確定する。
「……!? それは……ダミー……!?」
「うん。自分のは地面の中に埋めてたんだ。一つだけ」
「そんな……!」
そう、ディーネちゃんが破壊したのはダミーの方。ここに来る前に準備していたもんね。
今の衝撃波は凄まじかったから埋めた場所まで削れたんじゃないか不安だったけど、どうやらギリギリで大丈夫だったみたい。
「これで私の勝ちだね……!」
「はい……負けました……」
念の為に準備していたお陰で勝利を掴む事が出来た。
最初の策略ではディーネちゃんに負けちゃってたもんね。直前の行動が功を奏したよ。
これにより、五回戦は私の勝ち。ディーネちゃんはここでリタイアだけど、チーム戦の方では一緒に戦えるもんね。どんどん成長しているし、頼もしい限り。
ダイバース新人戦個人の部の初日が終わり、二日目、六回戦へと達するのだった。




