第二百七十三幕 世界最強vs最強生物
「ほらほら」
『効かん!』
魔彈を連続して撃ち込み、それらは強靭な体に弾かれる。その際に聞こえる金属音がちょっと癖になるわね。
リヴァイアさんは塒を巻き、バネのように一気に加速。海流を巻き起こしながら私の方へと迫った。その突進は正面に魔力の壁を貼って防御。
全方位を覆う魔力では無く、正面に集中した物なら余裕を持って防げるわね。
そのまま防御壁を衝撃波へと変換して吹き飛ばす。更に追撃ね。
「“落石”」
『石……? これがか……!?』
山サイズの石ころを落とし、その体を海の底へと沈める。
リヴァイアさんは落石を弾き返し、私は片手を翳して反射された石ころを消滅させた。
『自前の岩くらいは己で消し去れるか。体から離れた魔力を操作出来るのだ。魔力のオンオフは自在だろうな』
「あら、そう言えばそうね。わざわざ砕くんじゃなくてそうした方が魔力のムダが抑えられたわ」
『という事は山くらいは片手を薙ぎ払うだけで粉砕する事が可能のようだな。加えてルミエル・セイブ・アステリアの魔力からなる大岩。通常の山河より遥かに頑丈だろう』
「そうね。アナタ相手に放った石ころですもの。硬度も大きさも相応にしなくては効果が無くてよ」
まあ、そのリヴァイアさん用に合わせた石ころは簡単に打ち返されてしまったけれどね。本物の山も尾で弾き返す事が可能みたい。
……もう少し本気を出しても良いかしら?
「“エクスプロージョン”」
『……!』
一瞬の光が瞬き、上級魔術が炸裂。ステージ全体が崩壊を喫し、環境の再生システムがエラーを起こし何も無くなった。
ちょっとやり過ぎたかしら。これは弁償ね。利子を付けてステージの提供元と大会運営さんに差し上げましょうか。
崩壊したステージは私自身が魔術で海を作り出して修復。見た目は変わらないけれど、ちょっとだけ頑丈にしておいたわ。観客席のモニターから見たらいつも通り修復されたように映るでしょう。隠蔽成功ね♪
とは言え、もっと良いステージを借りられるようにするのは運営さん達の為になるから支払いはしておく。提供元もより良いステージが作れるようになるかもしれないわね。
そんな感じで一瞬で破壊と修復を終えたステージ。リヴァイアさんはと言うと、
『鱗が少し剥がれてしまったな……まあ再生したが』
「本当に頑丈ね。大陸くらいなら崩壊する爆発だったのに」
ピンピンはしていないけれど、ちょっとした負傷程度で済んでいる。
先祖譲りの強度と再生力。それに伴ったパワー。数多の神仏や幻獣、魔物が主役である神話に置いて“最強生物”と謳われるだけあるわ。
『今の破壊は良い経験になった。再生と同時にそれに対する防御力を得たぞ』
「それは良かったわね♪ ……それじゃ、もうちょっと力を込めても良いのね?」
『無論だ』
肉体が事前の破壊を学習し、それに対する耐久力を得る。この短時間で進化に近い現象を起こすのも最強生物足る由縁かしら。
世界最強と最強生物。最も強いと周りから持て囃される私達でどちらが真の最強かを決められるわね。
「──“魔王の炎”」
『……!』
階級では表せないランクの炎魔術。一見すればただの火球だけれど、その熱量と光量から全容は分からない。
本来なら直視するだけで失明してしまうけれど、その辺はちゃんと配慮してあるわ。私が壊したこのステージを私が修復したものね。映像伝達の魔道具にも作用し、動きや光の加減を自動調整するようにして、より見易くしてあるわよ。
まあ、そのステージはまた崩壊……蒸発したから即座に修復して置いたけれどね。そうしなくてはイェラ……は大丈夫としてまだ居る選手達に被害がいってしまうもの。アンデッドでも細胞一つ残らず消滅しちゃったらこの世から消えてしまうものね。
更に言えばかの惑星の環境が大きく変わり、周りの星々にも影響を及ぼしてしまうかもしれない。私がちょっとでも本気を出すなら予め私の魔力で世界を覆わなくてはならないのが大変ね。
でも成長期かしら? 最近ちょっと強くなり過ぎてるのよね。魔族の性質も関係していると思うんだけれど……周囲に迷惑は掛けたくないのよね。
……ふふ、けれど、スゴいわぁ。
「本当に硬ぁい♡ まだ意識を失わないのね♪ 肉体はほぼ熔解したというのに」
『……ッ! カハッ……ぜぇ……ぜぇ……それ用に主が調整したのだろう。命を奪う行為は禁止されているからな。お陰で耐え忍ぶ事が出来、また肉体的な強度が高まったぞ……!』
「そう。それは何よりだわ♪ アナタを真の最強に鍛え上げても良いかもね」
『舐めるな……!』
塒を巻き、今までで一番の、最硬、最速、最強の突進が放たれた。
私の魔術に耐えた事で鍛え上げられた肉体からなる最大の一撃。余波のみで継続してステージが崩壊し、気付かれないように私が調整。
速度は……亜光速には達してるかしら。流石に目で追うのは疲れる速さ。
この思考のうちにも既に攻撃は終えており、これからの景色は数秒前の物になる。
『……!? これも防ぐか……! ルミエル・セイブ・アステリア……!』
「ええ。私の魔術で作られた体だもの。抑えるのは簡単ではないけれど、可能よ♪」
それなりに込めた魔力の壁で防ぎ、リヴァイアさんは停止する。
既に何万回もステージは崩壊したけれど既に修復済み。あまり頑丈過ぎると問題だからある程度は抑えて。
そのまま弾き、魔弾を撃ち込んで距離を置かせた。
『……ッ! 単なる魔力の塊が……成長を遂げた体にこの威力か……!』
「ええ。そもそもダメージ自体は蓄積しているでしょう。表面上の傷は消えているけれど、繰り返される破壊と再生に消耗しない筈が無いもの」
『そうだな。……だが、繰り返しと言えば様々な攻撃魔術。更には別の用途にも魔力を使っている主も莫大な魔力を消費している筈だ』
「ふふ、それはそうね」
そう、確かに私は沢山の魔力を使っている。数万を越えるステージの修復にそれなりの威力を込めた攻撃等々。向こうもそれには気付いていたみたいね。
それによる消耗はどうなのかという事だけれど、その点も心配は要らないわ。
折角だし教えておきましょうか。この方法を他の子が使えるようになれば魔導はまた大きく発展する筈ですもの。悪い人に真似されたら責任持って始末を付けるけれどね。
「それについては大丈夫なの。私、魔力を実質ノーリスクで無限に使えるから」
『……!?』
分かりやすい反応。会場の方もどよめいているかしら。そしたらちょっと嬉しい。私、サプライズとか好きなのよね~。
さて、聞きたい様子だし続きを話しましょう。
「私は自分の魔力を遠隔でも変化させて扱えるでしょう? その応用で、使用して体外に放出された魔力をまた私の体に戻しているのよ」
『使った魔力を戻すだと……!?』
「そんなに難しい事ではないわ。魔力は魔弾でも炎でも水でも回復でも、何かしらの理由で体外に放出される。だからこの世界中には至るところに魔力が溢れている。それを取り込む事もやろうと思えば出来るけれど、自分自身の魔力を使った方が効率が良くなる。だって元々あった物ですものね。魔力の切り離しと遠隔操作の練習を高等部のうちに終らせて、目に見えない魔力の気配を掴んで自分自身に戻せるようになった。だから私の魔力は実質無限なのよ。建物とか永続的に残る魔術を使ったら外に出たままだけれど、それは世界や宇宙に点在する魔力で補っているわ」
それが無限の魔力のやり方。
放っては戻して、放っては戻してを繰り返して無限を再現している。戻してからの微調整は大変だけれど、その辺もクリアしたから実践に持ち込めたの。
もっと簡単に言えば魔力の循環ね。海が蒸発して雨が降ってまた海に戻るような事。やり方さえ分かれば実行出来る人が他にも出てくるかもしれない。魔力研究の成果を発展に繋げるのは大事だわ。
『つまり吐瀉物や唾液を吐いては飲み込むを繰り返しているという事か……!』
「汚いわ。やめなさい。もっと綺麗な例え方を見つけなさいよ」
『別に良かろうて。……すまなかった。だが、厄介。即ち回復魔術なども無限に使えるという事だからな。やはり一撃で仕留めるしか無いか……!』
「それを遂行出来るならね」
魔力の秘密を話し合え、リヴァイアさんは再び尾を払って来た。
突進の次に薙ぎ払い。己の肉体をふんだんに使った在り方。シンプルな力押しなのだけれど、間違いなく最善策なのよね。
尾を避け、眼前へと近付く。今度は至近距離で衝撃波を放出した。
『……っ。まだ押し出されるか……! しかし、負けてはいられぬ……!』
「ええ。では、次の領域に行こうかしら」
『……!』
ヴァルツさん相手にも使った、次元間の移動。
空間ではなく二次元や四次元の世界を通って差し迫る。四次元移動が一番効果的ね。三次元が二次元の世界を好き勝手に描き換えられるように、四次元からの攻撃には対処出来ない。
名付けるなら……“次元魔弾”かしら? 四次元から魔弾を撃つだけなんだけれどね。
『消えた……? ステージ……いや、この世界その物から……!?』
消え去った私を探るリヴァイアさんだけれど、当然三次元の存在が四次元を認識する事は出来ない。
そこから放たれた魔弾がリヴァイアさんを撃ち抜き、その衝撃波が伝わる。
『カハッ……!? どこから攻撃を……!』
初級魔術にすら昇格させていない魔力の塊でこのダメージ。次元の優位を取れるのは便利ね。
このままやれるならトドメを刺したいところだけれど、
『……そうか。高次元からなる攻撃を仕掛けているな……!』
「……へえ?」
私が何処から仕掛けていたのか気付かれてしまったわ。
だけれど別に変なところはない。今までもリヴァイアさんは攻撃に合わせて進化していたものね。
次元の攻撃を受け、軽傷であっても別次元を認識した事で次元に対する耐性を得たという訳。
とは言えまだ此方側に来る事は出来ていない。ふふ、本当に強い子だったわ。
「そろそろ終わりにしようかしら。アナタのお陰で良いデータも取れたわ」
『データ収集か。抜かり無いな』
「勿論。元々“魔導戦線”に出るつもりだったけれど、折角だから研究に役立てたいじゃない。それによって世界は更に大きく、良い方向に発展するわ」
『此方には関係の無い事だ……!』
良いデータは取れた。そして何度も適応して進化しているけれど、リヴァイアさん自身の消耗が限界を迎えそう。当事者は気付いていないけれどね。
疲労というものは知らないうちに蓄積して時には取り返しの付かない事にもなり兼ねない。……だから、終わりね。
『トドメを刺してやろう。最強の一撃で……!』
「ええ。受けて立つわ。これまで通りね♪」
リヴァイアさんは体を縮め、より力を込める。間違いなく今までで一番の攻撃を更新して放ってくる。
それに応える為に私も魔力を込め、リヴァイアさんに備えた。
『終わりだ……!』
限りなく光に近い速度で迫り、ステージが今一度崩壊する。
でも、もう大丈夫。これで終わらせるもの。
「──“魔王の力”」
『──!』
魔力を力に変換。何の力かと問われるのなら、“魔王”。
最強の突進は力に飲み込まれて消え去り、力が全てを支配した。
そして全てが終わった時、リヴァイアさんの体が光となって転移する。イェラの方はとっくに終わっていたみたいね。
私達は会場の方へと戻った。
《──勝者、“人間の国”! よって優勝チームも人間の国となりました!》
「「「どわああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!!!」」」
「「「ウオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッッ!!!!!!!!」」」
『『『グギャアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッ!!!!!!!!』』』
『『『キュオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォンンンンンンンッッッッッ!!!!!!!!』』』
司会者ちゃんの言葉と同時に大歓声が巻き起こり、会場が大きく揺れる。
傍から見たら迫力のある単純な攻撃の応酬で終わっただけだものね。そう映るようにステージ全体の動きを操作したんだもの。
力で他者に恐怖を与えてはいけない。戦時中の時はまだしも、今の世界は平和なのだから。可能性を見せ、世界をより良い方向に発展させるのが一番。
でも、一部の子達はステージで何が起こったか気付いたかもしれないわね。私の優秀な後輩の子達とか♪
《ではこれより閉会式へと──》
そしてスムーズに“魔導戦線”は終わり行く。色々試せて楽しい戦いだったわ♪
ダイバース、18歳以上22歳未満によって行われる世界大会は、私達“人間の国”の勝利で幕を降ろすのだった。
“総合結果”
総・人魔幻物
人間─○○○
魔族●─○●
幻獣●●─●
魔物●○○─




