第二百七十二幕 魔導戦線・三日目
「二試合目も勝ったね~」
「ああ。相手もかなり強そうだったけど、流石ルミエル先輩だぜ」
試合を見終え、私とボルカちゃんで感想を言い合う。
見事に今回の試合も勝利を収めたルミエル先輩。色んな人と戦っていたけど、一番最初のヴァルツさんがかなりの難敵だったよね~。
他の試合も見ているとやっぱり主力が頭一つ飛び抜けている印象。チーム人数が十人は確定だけど、主力の人達は一人や一匹で五人以上倒しているのが当たり前だもんね。
踏んだ場数とか積んだ鍛練とか考えるとルミエル先輩やイェラ先輩がズバ抜けて強いだけで、全員が中等部の代表選手以上の実力があると考えて良いんだよね~。
「二試合目も勝ちましたね! ルミエル先輩!」
「ええ。貴女達も応援ありがとう♪ とても力になったわ!」
試合が終わり、今回もルミエル先輩と少しお話する。
先輩の実力なら応援が無くても勝てると思うけど、喜んでくれたなら良いな~。
それにもっと話したいところだけど、昨日と同じく周りや先輩自身の多忙さがあるので軽い雑談で終了。
次に行われた魔物の国vs幻獣の国では魔物の国が勝利。これで人間の国と魔物の国が横並びになる。
人間の国と魔物の国もそうだけど、一勝一敗の魔族の国と二敗の幻獣の国も明日に全ての結果が決まるね。
何はともあれ、“魔導戦線”の二日目も無事に終了を収めるのだった。
──“最終日”。
《三日間に渡って盛り上がりを見せた“魔導戦線”もいよいよ大詰め。今日終わりを迎えます。果たしてどのチームが優勝を飾るのか、今回も見所盛り沢山であると思います!》
「「「どわああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!!!」」」
「「「ウオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッッ!!!!!!!!」」」
『『『グギャアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッ!!!!!!!!』』』
『『『キュオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォンンンンンンンッッッッッ!!!!!!!!』』』
最終日になり、司会者さんも大分慣れた様子で話していた。
基本的には叫んだりもしないけど、最後の方には声を上げ、お客さん達の歓声にも驚かなくなったね。
《それでは、最初に執り行うは魔族の国vs幻獣の国! スタートです!》
今回は事実上の優勝決定戦なのもあり、人間の国と魔物の国は大トリに持っていかれる。
最初の試合は三位決定戦のような魔族の国と幻獣の国の戦い。
─
──
───
《試合終了です。勝者は魔族の国となりました! これにより、“魔導戦線”の三位は魔族の国、四位は幻獣の国となります》
「「「ウオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッッ!!!!!!!!」」」
『『『キュオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォンンンンンンンッッッッッ………………!!!!』』』
第一試合が終わり、勝者は魔族の国となった。
それによって総合成績、一勝二敗で魔族の国が三位。全敗で幻獣の国が四位となる。
そして最終決戦、ルミエル先輩率いる人間の国と魔物の国の試合が始まろうとしていた。
───
──
─
*****
──“海ステージ”。
水によって薄められた淡い光のみが届き、音の無い静寂の世界。
ゴボゴボと歩みを進めると気泡が現れ、静かに消え去る。
“魔導戦線”。最終決戦の舞台は海のステージ。海底ステージとか、何かと海に縁があるかもしれないわね。
穏やかな海中を歩み、複数の気配を感じた。
今更だけれど全員が気配の探知を可能にしているのよね。集まるのが早いわ。
でも、
「最初に私を狙うのではなく、他の子達を狙った方が生き残れる確率は高いんじゃないかしら? 他の子達もイェラもとても強いけれどね」
『いいや。これで良い。他の者達はリヴァイアが担当しているからな』
『ルミエル・セイブ・アステリアとイェラ・ミールの元には進行形で数匹と数人が向かっている』
『まずはそちらから潰す算段だ』
「成る程ね」
私を囲むやり方。魔族の国のヴァルツさん以外はそうやっているこの方法。
考えられているようで、一気に選手達が落ちるリスクもあるからあまり得策とは言えないのよね。
「私の方に来たのは四匹……ちょっと少ないわね。アナタ達のリーダーを差し置き、イェラの方に残りの数が行っているみたい」
『イェラ・ミールの元に向かったのはヴァンパイア率いるアンデッド部隊。お前と違って殲滅する術に乏しいあの者なれば時間を食う事だろう。此方にリヴァイアが来てお前を倒すまでの時間稼ぎには十分だ』
「そう言う事ね」
人員をイェラの方に割いた理由はイェラの足止めが目的。私の方にリヴァイアさんが来るみたいね。
当然勝つつもりで居るらしく、向こうからはそれだけの自信が窺えられた。
それじゃあ待つべきか、それとも此方から仕掛けるべきか。仲間達がやられるのを待つのはいけないわよね。
『もっとも、我らはお前に勝つつもりでいるがな。ルミエル・セイブ・アステリア!』
『『『ウオオオォォォォッ!!』』』
無論、向こうもやる気満々。足止めとか露払いとかそんな風には微塵も思っていないみたい。
それでこそやり甲斐があるわね。
「それじゃ、始めましょうか」
─
──
───
「これくらいね。結構時間が掛かっちゃった。やっぱり強いわ。代表選手」
数分後、挑んできた全ての魔物達を打ち倒し、私は光の粒子を見届けた。
仲間達が心配だから手っ取り早く倒そうと思っていたけれど、代表選手が相手ではそう上手くはいかないわね。
お陰でもう、
『フム、あの者達を倒したか。ルミエル・セイブ・アステリア』
「そちらも倒し終えたみたいね。流石だわ。リヴァイアさん」
『出会って早々種族名の方を呼ぶか。失礼な者だ』
「あら、そんなつもりは無かったんだけれど……確かにリヴァイアって名前にさんを付けたらリヴァイアサンになってしまうわね。でもリヴァイアって呼び捨てにするのは私の性分じゃないし……困ったわ」
『何を一人で困っている。やる気あるのか?』
「あら、やる気はこの大会に参加した時点で満々よ♪」
リヴァイアサンのリヴァイアさんが私の前に現れた。他の子達はやられてしまったのかしら? そしたらごめんなさい。
そんな彼……彼女? の体は龍にも近いわね。如何なる武器も通じない鋼の肉体が特徴。英雄の時代に祖先が国を沈めた逸話も残っているわ。
ある意味子孫対決にもなるかもね。
『では、仕掛けさせて貰おう……!』
「お手柔らかに」
瞬間、口に水が集まり光線のように水砲を吐き付けた。
私の方に一直線。魔力の膜を纏っているので直撃と同時に弾けて消え去ったけど、ほんの小手調べですものね。
リヴァイアさんは長い体をくねらせ、回り込み締め付けた。
『フム、この程度ではノーダメージか』
「そうね。まだ突破出来なさそう」
強靭な肉体でミシミシと押さえ付けられるけれど、今のところ魔力が破れる気配は無し。
私の方からも仕掛けてみようかしら。如何なる武器も通さない体。どのレベルの強度かを確める必要があるものね。
「それ」
『……!』
魔力の塊を周囲に放ち、絡み付く体を引き離す。
威力はそれなり。初日に幻獣の子達を吹き飛ばしたくらいかしら。
衝撃波によってリヴァイアさんによる拘束は解けたけれど、効いた様子は無いわね。
『凄まじい空気圧だ。水の中なのにこれ程とはな』
「衝撃波なのだけれどね。その程度にしか感じない肉体って訳」
意識を奪うつもりで放った衝撃波に対しての感想がこれとはね。ちょっとした強風程度にしか感じていない。
ふふ、中々に手応えのある相手ね。
『次は此方の番だ!』
「その肉体はそのまま武器にも繋がるわね」
尾を振るい、鞭のように扱って嗾けた。
水の浮力も再現されているけれど、それによる影響は全く感じていない。強靭な体はその分重くもなるものね。それに見合った筋肉も当然付いてくる。
そんな筋肉の塊はそのまま強力な武器になるわね。
鋼鉄よりも遥かに頑丈な素早く重い攻撃。当たったらスゴく痛そう。だから避ける。
『──カッ!』
「距離を置けば水の塊。でも威力は低い。あくまで牽制ね」
『そうなるな』
吐き出された水球は魔力の膜に弾かれて消え去り、リヴァイアさんは自らが突進してきた。
威力重視なら肉体を使った方が良いものね。賢明な判断だわ。
でも、やられっぱなしと言うのもちょっと複雑。
「アナタの番が長過ぎないかしら?」
『ならばそちらも仕掛けるが良い。全てを正面から受け切ってやろう!』
「そう。じゃあ遠慮無く」
魔力を込め、魔弾を周囲に展開。刹那にマシンガンが如く撃ち込み、リヴァイアさんの体に当たる度に金属音が鳴り響く。
音からして頑丈。だったら属性の付与もしておこうかしら。
「“ファイア”」
『これが世界最強の初級魔術か……!』
魔力を炎に変換させ、周りの水を全て蒸発させて突き抜けた。
本来なら表面は頑丈でも中が柔らかかったりするけれど、リヴァイアさんはどうかしら。
『少し熱いが……問題は無い……!』
「その様ね。頑丈な肉体だわ」
プスプスと煙は上がっているけれど、大したダメージは負っていないみたいね。
消え去った水は元に戻り、再び周りは海中となる。
『さあ、次は何で来る?』
「そうね。久し振りに楽しく戦えるかも」
神話の生物の血筋だけあり、楽しめそうな相手。今までも強敵揃いで楽しかったけれど、このレベルは久々ね。
ダイバースの世界大会である“魔導戦線”。魔物の国の戦いも面白くなりそう。




