第二百七十一幕 魔導戦線・二日目
「──ス、スゴい……」
「ああ。流石はルミエル先輩だ」
一つの試合が終わり、私達はルミエル先輩の実力を目の当たりにして圧倒されていた。
先輩の強さは知っているけど、まさかここまで一方的になるなんてね。
相手は幻獣の国の総合代表選手。単純な実力で言えば一人一人、一匹一匹が私達が決勝戦で苦戦したリルさんよりも強い存在。
そんな方達が一人と四匹で囲んだにも関わらず魔力の放出で散らされるなんて、誰が想像しただろうか。
ルミエル先輩自身が卒業前より遥かに強くなっているみたいだね。
「これで人間の国は勝利一つ。今日の試合はこれで終わりね」
「早い決着だったもんね~。次は魔族の国と魔物の国の試合が行われるし、ゆっくり観戦しよっか~」
一日に行われるのは一国につき一試合。今日の人間の国はこれで終わり。
それでも私達を含めて帰る人はおらず、他のチームの試合も見届けるのが大半だった。
そんな感じで盛り上がりは冷める事無く魔族の国vs魔物の国の試合が行われ、魔物の国が勝利を収めて一日目は終了した。
「ルミエル先輩! 見事な戦いでした!」
「流石ッスね! 一発KOとか相変わらずです!」
「あら、ありがとう♪ 貴女達も優勝したんだもの。大学では大きな大会は少ないから私達も負けずに勝つわ!」
「ルミなら一人でも勝てるんじゃないか?」
「そんな事無いわよ。イェラ。相手も実力者揃いですもの。一筋縄じゃいかないわ♪」
「どうだか」
試合後のルミエル先輩達と少しお話しする。
観客席とその下の舞台上なのであまり大きな声で話す事は出来ないけど、楽しく過ごせたよ!
だけどお客さん達の事とルミエル先輩自身の忙しさもあり、そんなに長い時間の会話は行えなかった。仕方無いね。
また明日もあるので、その時にお話しよっか。
──“魔導戦線・二日目”。
《それでは……二日目の試合を始めたいと思います! 選手達はご入場を……!》
「「「どわああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっ!!!!!!!!」」」
「「「ウオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッッ!!!!!!!!」」」
『『『グギャアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッ!!!!!!!!』』』
『『『キュオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォンンンンンンンッッッッッ!!!!!!!!』』』
《……っ》
大会も二日目となり、司会者さんも初日よりはハキハキと話せるようになった。
でもまだお客さん達の歓声には気圧されちゃってる感じ。司会者さんも応援したくなっちゃうね~。
何はともあれ、昨日のように進められ、試合が開始する。
今回の人間の国の相手は魔族の国。
*****
──“荒野ステージ”。
周りは荒れ果てた場。小石や橙色の土が剥き出しになっており、朽ちた木造建築の建物が立ち並ぶ。
殺風景な景色なのに何処か懐かしさがあり、乾いた風が私の髪を揺らした。
「あら、今回は一人なのね。でもリーダーが直々に来てくれるなんて光栄だわ」
「あァ。複数人で囲むにするダサいやり方は好まねェンでな。一対一で戦い張らせて貰うンで夜露死苦ゥ!」
「専門用語が多くて難しいわね。性格は魔族らしい堂々とした物だけれど。血の気が多いとも言うわね」
「否定はしねェよ。粗野で凶暴で礼儀知らずな蛮族って評価も強ち間違ってねェ」
「そこまでは言っていないけれど。私は好きよ? 正直で堂々とした立ち振舞い」
「ルミエル・セイブ・アステリアにそう言って貰えンのは光栄だが、テメェの方が年下だしな。あンま舐められちゃ困るぜ」
「舐めていないわ。“魔導戦線”の代表選手。敵味方問わず全員が強者ですもの」
ザッと私の前に立ちはだかる魔族の国の主力ヴァルツさん。
黒髪黒目。やや褐色。筋肉質で身長は一九〇以上かしら。ガッシリした体格の魔族らしい性格。体内に宿る魔力の性質もかなり高いわね。代表選手なので当たり前だけれど。
策は戦闘中に組み立てるタイプで基本的には真っ直ぐ仕掛けてくる感じかしら。
「タイマンだァーッ!」
「ええ、受けて立つわ」
正直、私相手にこんな正面から向かって来る子はイェラくらい。そんな相手に私も少しワクワクしている。
もうかなり薄れているけれど、やっぱり私にも魔族の血が流れているのね。
「オラァ!」
「ふふ……」
踏み込んでからの右ストレート。紙一重でそれを避け、裏拳を叩き込んだ。
相手も上手くしゃがんで避け、蹴りが正面から打ち込まれた。
見切って躱し、懐へと差し込んで掌底を放つ。同時に魔力を込め、ヴァルツさんの体を吹き飛ばした。
「……ッ! っぱ強ェな。人類最強……! しかも体術主体でいつもみてェに魔術を仕掛けてねェか……!」
「あら、お気付きかしら? でもダメね。素の身体能力では決定的な攻撃にならないから魔力を込めなくてはからないもの。体術という分野でイェラには及ばないわ」
「テメェを倒したらイェラ・ミールとも戦り合うつもりだ。次は俺も魔導を解禁する……!」
「そう、楽しみ」
素直な攻撃をしてくるからそれに応えようと思ったけれど、やっぱり私はもう少し体術も鍛えた方が良さそうね。
魔導についてもまだ極めた領域まではいかないけれど、二つの分野で最高峰を狙いたいわ。
尤も、最終的な目標は魔力を用いた世界の発展なのだけれどね。
「行くぜェ!」
大地を踏み砕いて加速。眼前へと迫り来る。
向こうが魔導を解禁したのなら私もそれで受けるのみ。魔力の膜を貼り、防御態勢へと移る。
さて、どんな攻撃を仕掛けて来るのかしら。対戦相手になりそうな人の事はなるべく調べないようにしているの。だってその方が面白いでしょ?
「オラァ!」
「……」
速度はそれなりだけど、単純なジャブ。威力で言えば岩くらいは破壊出来る程度かしら。
何の変哲もない魔族ならではの基本攻撃がこれ。
ヴァルツさんの拳は魔力の膜に当たり、
「……あら」
「ハッ!」
魔力が崩壊し、膜を貫いて眼前に迫った。
それは紙一重で避け、魔力による空中浮遊。空へと移動。何が起こったのかを考えてみる。
「成る程ね。ある種の破壊魔導かしら。魔族の方では結構使う子が多いけれど、貴女のそれは魔力や空間その物を打ち砕くタイプの物。高等部時代の魔族でも使っていた方が居たわ」
「一瞬で見破りやがったか。まあいい。シルヴァだったか。そいつなら知っているが、その破壊魔術とは威力が段違いだ。アイツのは創造魔術も兼ねてるんで、練度が分散しちまう。俺の場合は一点集中! 破壊の規模も技術も桁違いだ!」
「段違いで桁違い。その様ね」
高等部の代表戦で戦った事もあるシルヴァさん。彼の破壊魔術も空間その物を砕くけれど、ルールもあってあまり大きな範囲を破壊していない。
対するヴァルツさんは破壊その物を使い続ける事で熟練度をかなり高めてある。的確に意識を奪う破壊をして来そうね。
「食らいやがれ! “伝達破導”!」
「空間を走って伝わるのね」
その場で破壊を用い、空中の私へと嗾ける。
確かに技術力も高いわね。遠距離相手でも道筋を刻んで進むなんて。自由自在の腕に破壊の力が宿っている感じかしら。
「“包囲破極”!」
「全方位からの破壊……危険ね」
魔力による膜や壁は意味を成さない。破壊その物を司っている魔導ですものね。あらゆる概念を破壊する力だわ。
「まあ、脱出はできるけれど」
「破壊の隙間を抜けたか。だが、破壊エネルギーは自在なンだぜェーッ!」
囲んでいた破壊が動きを変え、避けた私の方へと向かって来る。
本当に変幻自在の力。放置していたら余波がドンドン伝わって全フィールドが破壊エネルギーに包まれて厄介な事になるわね。
「“変幻破滅”!」
「今度は縦横無尽に迫る破壊のエネルギー。ふふ、空間が硝子みたいに割れて綺麗だわ」
放射状の亀裂が空中に映し出され、幾何学模様が文字通り刻まれる。
幻想的な風景だけど、その一つ一つには破壊が備わっているんだものね。野放しにしたら周りがドンドン崩壊していくわ。
「終わらせるぜ! “究極完全破壊”!!」
「素晴らしいネーミングセンスだわ」
魔族特有の呪文ではないけれど、良い物であると思うわ。
ステージが崩壊を喫し、世界が暗転する。光をも遮断したみたいね。流石は経験豊富な“魔導戦線”の代表選手。
でも、私には追い付かないわ。
「“次元転送”」
「……!?」
砕けて崩壊した空間を跳び、別空間……いいえ。別次元へと移動する。
空間その物が破壊されるから一か八かだったけれど、イメージからなるのが魔導の本質。今行っている研究で別次元を認識している私の方が一つの次元分上に出れたようだわ。
魔道具とかは使っていない。あくまで魔力研究の成果を自分自身で体現しているだけだもの。
「これで終わりね」
「……ッ!」
魔力を死角から打ち込み、ヴァルツさんの意識を奪い去る。
次元魔導の研究をしているけど、どうやら成功したみたいで何より。他にも方法はあったけれど、ぶっつけ本番で新たな力を開拓したいのが私の知的好奇心。
ヴァルツさんは消え去り、その後に魔族の子達をイェラや仲間と一緒に倒していく。
これにより、二日目の試合も私達人間の国が勝利を収めたわ。
相変わらず強敵揃いね。




