第二百七十幕 魔導戦線・開幕
──“魔導戦線・当日”。
少し経ち、ダイバースの新人戦も迫った頃合い。人間換算での18歳以上22歳未満によって行われる大会、“魔導戦線”の日となった。
会場には既に沢山の人々や動物達が集まっており、今か今かと始まるその時を待ちわびていた。
一見すればスゴい大盛況だけど、いつもの大会じゃ盛り上がってないなんてね。それだけルミエル先輩の影響が大きいって事なんだけど意外な感じ。
「いや~。混んでんな~。いつもは選手やチームメイトの特権で割とスムーズに進めたけど、観客に徹するとこうなる訳だ」
「そうだねぇ。だけどウラノちゃんが事前に席を予約していてくれたし、良い場所に座れたね」
「流石だな~。ルミエル先輩効果もあって大会前から倍率ヤバかったらしいけど、その上での行動だもんな」
流石のウラノちゃんのリサーチ力。
こんなに人が居ると普通は席なんて残っていないんだけど、そんな事無く良い場所に座る事が出来た。
売店やおトイレにも近くてモニターは見やすく、大当たりと言える場所に私達“魔専アステリア女学院”のメンバーは集まっている。
先輩が出るんだもんね。もちろん全員で応援に来たよ!
「おい、あれ……」
「ああ。“魔専アステリア女学院”の豪華メンバー……!」
「くぅ……発表の時点でこの席を予約していて良かったぜ……!」
「今年はルミエル・セイブ・アステリア様とイェラ・ミール様が出るかもしれないと言う読みが見事に当たり、その上で中等部代表戦の優勝メンバーが居るなんて!」
「俺、今日死ぬかもしれない……!」
……まあ、大人数だから私達も目立っちゃうんだけどね。
大体の場合はルミエル先輩の参加が正式発表されてから予約が埋まったらしいけど、近くの人達は予め読んで席を取った。その執念がスゴいや。
でも話し掛けたりはせず遠くで見守ってくれてるだけなので私達は落ち着いて観戦する事が出来た。民度も良いね~。
そしていよいよ“魔導戦線”が始まろうとしていた。
《えーと……皆様、ようこそお越し下さいました。魔導の祭典、“魔導戦線”へ。魔導とは言いましても魔力の無い方も参加自由で……えー、今日は例年よりも遥かに多くのお客様がお見えになっており、私共も恐悦至極なのですが、これもまたルミエル・セイブ・アステリア選手の成せる技かとお見受けしております次第です》
「「「どわああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!!!」」」
「「「ウオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッッ!!!!!!!!」」」
『『『グギャアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッ!!!!!!!!』』』
『『『キュオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォンンンンンンンッッッッッ!!!!!!!!』』』
《ひっ……!?》
いつものダイバースの人と違って、慣れてない様子の司会者さん。本当に普段はお客さんが少ないんだなと言う事がよく分かった。
にも関わらずお客さん達の盛り上がりは中等部や高等部の代表戦相当。かなり心労が凄まじそうだね。
《えーと……それでは選手の入場を……》
小粋なトークとかを挟む余裕も無く、そそくさと選手入場へ進める。
気持ちは分かるなぁ。私も知らない大勢の前で話す事は出来ないと思うし、進行させる事が出来るだけ大したものだよ。
そんな感じで各国の入場が行われる。
《まずは人間の国。前回大会では好成績を収め、今年はルミエル・セイブ・アステリアを主軸に参加致しました》
「「「どわああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!!!」」」
《……!?》
先輩の登場と同時に観客席から大きな声が響き渡り、司会者さんはビクッ! と体を震わせる。
最初の入場が一番注目されてる人間の国だもんね。進めて行くのも大変かも。
《そして次は前回大会で好成績を収めた魔族の国です。ヴァルツ選手を筆頭に参加致しました》
「「「ウオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッッ!!!!!!!!」」」
そして魔族の国の紹介。
各国から大勢のお客さんが来ているのもあり、ルミエル先輩の居る人間の国以外の反響も凄まじかった。
続くように幻獣の国、魔物の国の紹介も入る。
《えーと……続いて前回大会で好成績を収めた幻獣の国はベヒーモスのベヒモ・ムート選手を主力に奮闘します》
『『『キュオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォンンンンンンンッッッッッ!!!!!!!!』』』
《最後に前回大会で好成績を収めた魔物の国はリヴァイアサンのリヴァイア・ムート選手を主体として参加致しました》
『『『グギャアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッ!!!!!!!!』』』
「全チーム好成績収めてんじゃねえか」
「アハハ……気を使ってるのかも」
何はともあれ残りの国の紹介も終了。
ベヒモさんとリヴァイアさんは血縁との事。元々はどこの国にも属さない山や海で生活していたらしいけど、縁あって今大会に参戦したとか。
それがルミエル先輩の出場年と被り、予想外の盛り上がりを泊した結果になったんだって。
こんなに大盛り上がりじゃ他の選手達は集中とか精神統一とか出来なくて大変なんじゃないかと思うけど、
「オイオイ、何時振りだ? こんな大盛況」
『高等部の時に行った大会振りの人気……!』
『テンション上がるな~!』
「これがルミエル・セイブ・アステリアの力……だが、これに負けぬよう盛り上げて行くぞ……!」
寧ろモチベーションが上がり、やる気に満ち溢れているという感覚だった。
考えてみたら当たり前かもね。数年に一回の大会。それに全然集客が無く、盛り上がらない状態で三日間も続くのは想像よりも遥かに苦しいかもしれない。
だけど今回はルミエル先輩やイェラ先輩目当てとしても、人々が居るのと居ないのとじゃ大きく違う。当然自国は応援するだろうし、環境的な要因が大きく違うよね。
雰囲気って言うのはとても大事な事柄だもん。
《それでは試合の日程ですが──》
そして最後に覚束無いながらも締めくくり、試合が始まる時間になろうとしていた。
試合は一日で一つ。それが三日に分けて行われる。総当たりだから期間中に全てのチームが当たる感じだね。
ルミエル先輩達の相手は──幻獣の国。
*****
──“山脈ステージ”。
辺り一帯は青々とした緑に囲まれていた。見渡す限りの新緑。一つ息を吸えば澄んだ新鮮な空気が喉を通り抜けて肺へと運ばれる。
魔力で再現された場所なので本物では無いけれど、気持ちがそう思わせてくれる。
サラサラと流れる川を頼りに少し歩めばまた別の顔を覗かせ、白銀の世界に鈍色の岩肌など、ありとあらゆる山脈を再現した場所がそこにはあった。
「………」
一枚の葉を取り、太陽に翳して手放す。ヒュルリララと風に乗って上空へ消え去った。
綺麗だけれど、実はこのステージは誰にでも借りられるフリーな場所。興行的な物が盛んじゃない“魔導戦線”では残念ながら経費が下りないのよね。
この辺も改善した方が良いかもしれないわ。不定期開催であり、前後が大きな大会で囲まれているこの舞台でも参加してくれる人達は居る。
その時点で集客のパワーはあると思うわ。ほんの少し改善すれば名物の一つになれるかもしれない。
可能性がある物を開拓していくのは私の目標の一つね。
ステージを眺めていると、私の周りには複数の影が。
「……あら、私って人気者なのね。半数が来てくれるなんて」
『少々汚い気もするが、悪く思わないでくれ。ルミエル・セイブ・アステリアを相手にするにはこれでも足りないくらいだ』
『他の場所が疎かになるが、これも仕方無い』
『後はイェラ・ミールが気掛かりだな』
『そちらにも回してあるが……』
『今は目の前の相手の主を相手取る』
幻獣の国の子達が五匹。いいえ、エルフの子も含めれば一人と四匹かしら。
相手国の半数が此処に集って臨戦態勢に入っている状態。全員が代表選手であるけど、高等部の頃に当たった他国の子達は選ばれていないかプロになって参加出来なくなったか。
何はともあれ、全員が強敵という事は変わり無いわね。
『一気に仕掛けるよぉ!』
『ベヒモさんに続けェ!』
『『『ウオオオォォォォッ!!』』』
奮起し、重鈍な足音と共に私の方へ。
盛り上がっていないのはあくまで世間一般にだけ。この子達は全員が活気に溢れている。
良いわね。
「やる気にも満ち溢れている。これなら“魔導戦線”を立て直すのも難しくないわね♪」
──即撃墜。
一人と四匹を魔力で吹き飛ばし、意識を消し飛ばした。
小手調べ程度じゃ意識を奪うまでいけないものね。それなりに力の込めた一撃よ。
辺り一帯は更地となり、私は残りの気配が消え去ったのも確認した。
「流石ね。イェラ。他の子達も優秀。勝利を収めたわ」
感じるのはイェラの気配とその周りを囲んでいた三つの気配。既に消失済み。
残りの気配は先輩の子達が倒してくれたから幻獣の国は全滅。
私達の勝利ね♪
そして会場の方へと戻っていた。
《試合終了……! 圧倒的な力を見せ付け、人間の国が勝利を収めましたぁ……!》
「「「どわああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!!!」」」
(……司会の子も治すポイントね。もっとハキハキ話すだけで大きく変わるからその辺は大丈夫そう。今回がおそらく司会になってから初めての経験で緊張しちゃっているだけだから、直に慣れる筈)
試合が終わると同時に、自信無さ気に実況を行う司会の子。今思った部分の修正だけで問題無し。
これで一日目の相手は私達が勝ち。他の試合も見ていきましょうか♪




