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ロスト・ハート・マリオネット ~魔法学院の人形使い~  作者: 天空海濶
“魔専アステリア女学院”中等部二年生
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第二百六十九幕 工作

 ──“資材屋”。


「色んな種類の木材があるな。ドールハウスの机や椅子に合いそうなのは……と」

「本当に沢山あるんだね。同じ樹でも数が多いのは分かるけど、木材でもそうなんだ」

「材質によって固い、柔らかい、燃えやすい、燃えにくいとか色々あるからな。それは植物魔法を使うティーナなら熟知してるか。加工のし易さや質感にもそのまま直結するんで、何を造るか次第だな」

「うーん、現状は棚にテーブルに椅子……くらいかな。キッチンとかは金属にしてもプラスチックにしてもまだ予定は無いからねぇ」

「そっか。それじゃあ必要なのは木材だけと」


 軽く変装し、並べられた木材類を物色する。

 色とかも結構違うから、大部分を塗るとしても家具に合わせた色合いにしたいね。

 明るい茶色とかかなぁ。


「木材の大きさはそんなに無くて良いか。ドールハウスの家具だしな。まあ目安はこれくらいにするとして、何か欲しいのあるか?」

「そうだねぇ。明るい茶色が良いかな」

「そんじゃこの辺りにある物から……これなんてどうだ?」

「あ、良いかも!」


 ボルカちゃんが取ったのは丁度片腕を伸ばしたくらいの大きさである木材。

 それなりの大きさはあるけど、そこまでではない良い塩梅あんばい。厚さも加工する事を考えたらピッタリ。流石はボルカちゃん!


「木材はこれでよしと。今後も造るならティーナの工作セットもあった方良いかもな」

「そうだね。お裁縫セットも買おうと思ってるから、その辺も必要かな」

「オーケー。ま、裁縫セット売り場は別だけど一つの店にそのコーナーはあるし後で寄るか」


 木材と工具セットはここで買えるけど、お裁縫セットと毛糸や布は別なのでそれはそこで購入する事になった。

 それから木材、工具セット、簡単な塗料を購入してお店を出る。次の場所に行き、お裁縫セットなどを探してみる。


「オススメならルーチェ辺りに聞くのも良いかもな。連絡は出来るだろ?」

「うん。……あ、折角ならルーチェちゃんも誘えば良かったかも。ウラノちゃんも本を買うついでに来てくれたかもしれないね」

「そう言やそうだな。ティーナの話を聞く限りルーチェも暇してそうだし。呼び出すか」

「え!? そんな、折角の休日だし悪いんじゃ……私が言えた口じゃないけど」

「大丈夫大丈夫。一度暇って言ったなら大抵一日中暇なんだから」


 誘えば良かったと思い出し、ボルカちゃんはそれに乗ってルーチェちゃんへ連絡。

 通信の魔道具で一通り会話をし、数分後にルーチェちゃんがやって来た。もちろんちゃんと変装はしてる。とは言っても私達と同じく帽子とかそれくらいだけどね~。


「お、早かったな。学校から街までそこそこあんのに」

「ふふん、休日はお屋敷の方を待機させてますの。馬車や魔導車でサクサクですわ!」

「なんで私まで……」

「あ、ウラノちゃんも来てくれたんだ!」

「来させられたのよ。まあ新刊の発売日だから丁度良いと言えば良かったけど。移動も楽だったものね」


 ルーチェちゃんはウラノちゃんも誘ってくれたみたい。

 本当に新刊の発売日だったらしく、利害の一致で来てくれたって事かな。

 何はともあれ、私を含めていつもの四人が揃った。お裁縫セットと布類を買ったらみんなでお昼だね。


「これなんかが良さそうですわ。入れ物はコンパクトで持ち運びしやすく、見た目に反して入る物も多い。当然お裁縫に必要な物は全て入っており、付属品の強度も柔軟性も高く繊細なやり方も出来ますわ!」

「ホントだ。小さなお洋服作りくらいだから、このくらいがピッタリかも!」


 入るや否や、お裁縫セットの方はルーチェちゃんが早くも見つけてくれた。

 後はどんなお洋服を作っていくか。既にさっき作ったけど、自分で空いた時間とかに手掛けたいもんね。

 なので布売り場の方へ入る。


「お人形の特徴ですけど、金髪と赤や緑の瞳が一番最初に目に付きますわね。それならこの色合いにあった物を……これなんか如何です?」

「あ、いいかも! どんな服を作るかイメージが湧いてくる!」

「そしてちょっとしたアクセントなどにいくつか追加して。これくらいですわね」

「ありがとー! じゃあお会計してくるね!」

「もう私が払っておきましたわ!」

「はやっ!?」

「ふふん、同じ趣味の方を増やす為なら安い費用ですの」

「それは聞いてないけど……でもまた一緒に作れたら楽しいかもね!」

「そうですわ!」


 選んだ瞬間にお会計まで済ませたルーチェちゃんの早業。恐るべし。

 本当に安いお値段だったから私も簡単に払えたんだけど、親切心は無下にしない方が良いよね。


「ウラノちゃんは欲しい本買えた?」

「ええ。元々周りの見る目が無くて人気があまりない本ですもの。理解しがたいけど売れ残ってるのよ。こんなに面白いのに。真の読書家にしか楽しめない趣向。世間一般には向かないわ」

「急に何を言い出すの……」

「同じ作者の好きだった本が打ち切り食らってるんだってさ。唐突な終わりだから回収されてない伏線とか不完全燃焼とか色々あって~とか言ってたぜ」

「そっか。読書を趣味にすると好きだった物語が半端な所で終わったりしちゃうんだね。特にウラノちゃんみたいにニッチな……じゃなくて、真の読書家が読むような物なら尚更……」

「いいえ。それによってやる気が無くなりしばらく本を出さない人達は多いけれど、この作者は少なからず応援してくれる人が居る事を糧に頑張っているわ。私が支えてあげないと……!」

「な、なんかウラノちゃんがいつもと違う……! いつもより早口だよ……!」

「ビブリーも好きな物になると人が変わるんだな~」


 読書の事になると本気なウラノちゃん。ベストセラーや人気作とかは読み尽くしてるだろうし、あまり目立たない物にいっちゃうんだね。

 でも自分の作品にこんなに熱心になってくれる人が居るのは嬉しいのかも。


「取り敢えず昼行こうぜ昼。その後はティーナの部屋で工作だ」

「私もやりますわ!」

「私はこの本を読みたいからパス」

「じゃあボルカちゃんとルーチェちゃんが手伝ってくれるんだね!」


 ウラノちゃんの様子が変だったのもあり、ボルカちゃんは話題をそちらに変えて私達は昼食を摂りに行く。

 近くにレストランがあったからそこで終え、他の人達にバレないまま寮へ戻る事が出来たのでウラノちゃんとも別れる。


「それじゃ、完成品見せてね」

「うん! スゴいの造るよー!」

「アタシに任せときな!」

「飾り付けは私がしますわ!」


 そして私の部屋へ。ボルカちゃんは自分の工具セットを取ってきた。

 あ、そう言えば私も自分の道具を買ったんだ~。工具とお裁縫セットは揃ったね。どっちも置き場所に困らないサイズだから嵩張かさばらないよ。


「これがティーナのドールハウスだな。内装はよくある感じの。どんな風にしたいとかあるか?」

「うーん……今は私の家をモチーフにしているから、今回はこの寮部屋を再現したいかも。今の生活に合わせる感じで」

「それならいっそ増築するのはどうだ? 木造建築になるけど、今の部屋を崩さず新しい部屋が作れるぜ」

「増築……確かにそれなら模様替えの幅が広がるかも……! でもそれって大変じゃない?」

「ん? 大丈夫大丈夫。増築ってもこのドールハウスに繋ぐのは外観的に良くないから横に新しい建物を造るだけだ」

「それもそれで大変なような……」

「それくらいなら簡単だよ。形だけ作って繋ぎ合わせれば良いしな。本物の建築なら手抜き過ぎて訴えられるけど」

「そうなんだ。じゃあボルカちゃんにおまかせしよっかな。見て覚えるよ」

「っし。ティーナなら本当に見るだけで覚えられそうだしな。請け負ったぜその仕事!」


 床が汚れないように敷物を敷き、そこに木材をバラす。

 木片が飛ばないようにちゃんと力の加減も調整しているね。

 ボルカちゃんは作業を始め、私はその様子を眺める。


「じゃあルーチェちゃんのお裁縫講座はこっちでやるよ」

『……』

「実質一人で二つの事を出来るのですね。ティーナさん自身がマルチタスク可能だからこそでしょうか」

「脳のリソースを半分割いてるけどね~」


 お裁縫の仕方はティナが請け負う。同じ部屋に居るから声は届くし、同時進行の負担もそんなに無いもんね。

 なので私はボルカちゃんの作業を見つつ、ルーチェちゃんの方と併用する。

 寮部屋にはしばらくギコギコキコキコ、トンテンカンというリズミカルな工作音が響いた。


「これで良し。そんで、この寮のテーブルや椅子。要するにミニチュアが必要な訳だ」

「そうだね~」

「そして完成したのがこちらになりまぁす!」

「流石の手際の良さだよ~!」


 ボルカちゃんは既に大まかな基盤を造り終えていた。後はそれを組み立てるだけ。

 その仕上げにはルーチェちゃんも一役買う事になっているの。


「椅子のカバーや座板の部分は任せてくださいまし!」


 椅子の座る所に布を縫い付け、綿を詰めて快適なフィット感を演出する。

 そして寮部屋では使っていないけど、作っているうちに楽しくなっちゃったのかテーブルクロスも掛けておく。

 私も私でその他のカーペットとか、布でやれる箇所は再現したよ!


「ほら、棚も造ったぜ。ちゃんと収納可能にしてあるから、小物やアクセサリーを実際に仕舞えるんだ」

「ホントだー!」

「一回集中しちゃうとダメだな~。楽しくなって止まらないぜ」

「私もそうだよ~。一度出来ちゃうとあれもこれも作りたくなっちゃってさ~」

「分かりますわ! 歯止めが聞かなくなるのですのよね~」

「アタシもそうだなー」


 ボルカちゃんは更に色々と造っている。

 実際に小物入れとして使える棚のみならず、本棚に食器棚など他の種類の棚。ベッドや外に飾るパーテーション。

 更にちょっとした工夫を加え、余った木片を芝生に見立てた布の上に立てて杭とし、針金を巻けば有刺鉄線とかも作れた。

 ベッドの仕上げや芝生もルーチェちゃんが手掛けてくれたよ!


「後はこれを並べて……完成だ!」

「やったー!」

「やりましたわー!」


 増築した部分と元々のドールハウスを並べ、内装を整えて完成。

 ママとティナも並べ、新しいお家と新しいお洋服が出来た。


「これ全部自分達で作ったんだね……!」

「ああ。更に今日やった事を応用すれば新しい物をまだまだ作れるぞ!」

「カラーリングは私のお手の物ですわー!」


 外にはパーテーションや杭、布の芝生に花壇を並べ、内装にあるは手作りのテーブルと椅子にベッド。私達がそのまま小さくなっても生活できるような空間をコンセプトに仕上げた。

 建物は二つだけど、更に沢山増やせば街みたいにする事も出来るかもしれない。それをやれるだけの事を今回ボルカちゃんとルーチェちゃんに学んだ。

 ふふ、スゴい充実感。

 すると寮の扉からノック音が聞こえる。


「貴女達まだ何か作ってるのかしら? そろそろ夕食の時間が終わっちゃうわよ」

「え!? もうそんなに経ってたんだ!」

「夢中になり過ぎて気付かなかったぜ」

「すっかり夜更けですわね」


 ノックの主はウラノちゃん。

 時間を見てみると夜も更けてきた頃合いであり、ディナータイムもあと少しで終わっちゃうくらいだった。

 早く食べなきゃならないね。その前に、ウラノちゃんも部屋に招き入れる。


「ほら見て! 新しいお洋服やドールハウス!」

「アタシ達の手作りだぜ!」

「見事でしょう!」


「ええ。確かにスゴいわね。よくもまあ、三人だけで此処まで作れた物よ。プロとも遜色無い……けど、なんか物足りない気もするわね」


 ウラノちゃんは出来映えに感心してくれていたけど、少し足りないとの事。

 でもそれは何となく分かるな~。


「だよね~。今回はあくまで木材と布だけだから、レンガとかプラスチックとか金属で幅を広げる事も可能だよ!」

「その辺はまた今度だな~。ティーナの趣味にするなら、ミニチュア製作全般でも良いかもな」

「そうですわね。手先も器用ですし、お人形やミニチュアが好きならば趣味に出来そうですわ」

「そう言えば貴女、趣味を探してたものね」

「うん。夢中になり過ぎる趣味はどうかなって思ってたけど、これはしっくり来るかも。色々作る楽しみが出来たし、外に出る機会が無かったらこれが良さそう!」


 物足りない理由は使った材料による物。つまりまだまだ伸び代があるという事になる。

 夕飯やお風呂の時間に間に合わなくなるような趣味かもしれないけど、妙にしっくり来たのでこれを趣味としてみる。

 趣味って言ってしまえば感情第一だもんね~。楽しいと思えて胸を張って趣味と言えるならそれが一番だよね!

 という事で、私の趣味はお裁縫や工作にした。


「他にもボトルシップとかぬいぐるみとか、色々作れる物もありそうだな。その辺も工作や裁縫の延長だ」

「でしたらわたくしもまだまだ教えられますわよ! 趣味を開拓して行きましょう!」

「うん! ボルカちゃん! ルーチェちゃん!」


 一つの物事から広がる線は沢山ある。物作りという事柄自体が複数の趣味に繋がるから。

 これでまた新しい楽しみが出来たし、今度から暇な時間は少しずつ進めてみようかな!


「……ところで、夕飯の時間がもうすぐなんだけれど」

「「「あ……」」」


 その前にちゃんと食べなきゃね。明日も頑張れないや。木屑とかで少し汚れちゃったし、その後のお風呂も楽しみ~。

 とある日のお休み。暇な時間に趣味を探していた私は見事に見つける事が出来た。

 これで当初の目的は達成。後は新人戦への練習もしなきゃだね。

 その前に“魔導戦線”もあるし、まだまだやれる事は沢山残っている。有意義な時間を過ごせそうだね~。

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