第二百六十八幕 魔導戦線・趣味探し
──“部室”。
「いや~。大変だったな~。三人とも」
「お陰で助かりました……」
「マジであざまーす! 先輩!」
「助かりました」
騒動から抜け、ディーネちゃん達に紅茶を振る舞いながら顛末を聞く。とは言え内容の殆どはベルちゃんに聞いていたものなのでちょっとした雑談くらいかな。
大事にならなくて良かったよ~。向こうも向こうでデリカシーは無かったりするけど、それがお仕事だから悪いなぁって気持ちもあるけどね。
「取り敢えずしばらくは部室でのんびりして、数時間後くらいに寮に帰るか遊びに行くなら変装した方が良いよな」
「変装とか、マジで有名人みたいな感じッスねー。これじゃ外出も儘ならないかも」
「大会直後と退院直後だから過剰に盛り上がっちゃってるってのはあると思うけどな~。ま、一、二週間すりゃ収まるっしょ」
「それって新人戦と当たって収まったところにまた燃料提供しちゃう感じじゃないですかー」
考えてみればそうかもしれないね。
去年は代表決定戦までしか行けなかったから、一年生の私達と二年生のメリア先輩にリタル先輩が今以上に持て囃される事は無かった。
それが代表戦優勝後ともあって、ほとぼりが冷める前にまた燃料投下される形になっちゃうんだ。
それにつき、ボルカちゃんが話した。
「それについては大丈夫だと思うぞ~?」
「「え?」」
同じ事を考えていた私達の返答が一致。大丈夫になる理由をボルカちゃんは話す。
「今年は人間換算で18歳以上22歳未満で行われるダイバースの大会。“魔導戦線”があるからな」
「“魔導戦線”?」
初めて聞く単語に私は首を傾げる。
他のみんなは知ってるらしく、それについて話していた。
「あー、確かにありますね。でもあれって中等部や高等部の代表戦に比べてイマイチ盛り上がりに欠けるんじゃ?」
「定期的にこの時期に開かれるけど、新人戦とバッティングするからな。どうしても話題性は代表戦と新人戦に持っていかれてしまいますよ」
サラちゃんとリゼちゃんがそう告げた。
そんなものがあったんだ。だけど前述の通り、時期が悪く代表戦程盛り上がらないとの事。
ボルカちゃんは更に説明する。
「それはそうだな。ティーナが知らなかったみたいに、そもそもそんなに話題にも上がらない。元々が不定期開催だったり、前後の大会に掻き消されたり理由は様々だ。けど、今年の“魔導戦線”にゃ我らがルミエル先輩が出場するだろ?」
「「「…………!」」」
その言葉にみんなは納得したような表情となる。
ルミエル先輩が出場する。それだけで全ての話題を掻っ攫うという言葉に信憑性が生まれるのだ。
先輩の影響力はそれ程までに大きなものだった。
「そうですねー! ルミエル先輩が出るなら例年より遥かに盛り上がるね!」
「それによって私達の方は間違いなく収束する……」
「そうですわね!」
「うん……確かに……!」
ディーネちゃん達もみんなその確信があった。
“魔導戦線”については知らなかったけど、ルミエル先輩の影響力については私も納得。
先輩はしないと思うけど、その気になれば国一つにも大きな影響を起こせちゃうんじゃないかな。
「じゃあそれが始まれば事態も大きくならないんだね。その“魔導戦線”ってどんな事するの?」
「大まかには代表戦と同じ感じだけど、参加者が違うな。ほら、代表戦ってあくまでチームごとの参加だったろ?」
「うん」
「“魔導戦線”は各チームごとじゃなくて、各チームの中からプレイヤーが選ばれて一つの代表チームを作るんだ」
「そうなんだ」
大部分は代表戦と同じく、各国から選ばれたプレイヤーによる競技。けれど各チームじゃなくて一人一人が選ばれるとの事。
ボルカちゃんは更に説明してくれる。
「選ばれ方が特殊だから一つのチーム人数も通常とは違うな。五人じゃ少な過ぎるから、一チーム十人や十匹だ。そして方式は総当たりで開催日数は三日。勝ち数で順位が決まるんだ」
「成る程~」
通常のダイバースとの違いはプレイヤーの選び方と人数。
人間・魔族・幻獣・魔物からなるドリームチームの試合という事。凄そうな様子だけど通常の大会の方がもっと沢山のプレイヤーを見れたり試合内容も多様でどうしても影が薄くなっちゃうのかな。
ボルカちゃんは魔道具を取り出して見せてくれた。
「ほら、もう各国の大学生。及び相応の年齢による選手達の代表は発表されてる。ルミエル先輩とイェラ先輩は当然選ばれてるぜ。“魔導戦線”の最年少である人間換算の18~19歳はこの二人だけだけどな」
「ホントだ。きっと他の選手達も有名人なんだよねぇ」
「だろうな。高校じゃ実力不足でプロになれなかった人や、ルミエル先輩のように学びを得る為に進学した人。何なら大学から始めた人。理由は様々。でも全員強者だ」
「そんなに有名な人達が揃うのにあまり盛り上がらないなんて不思議だね」
「まあな。理由はさっき言った事とか、大学くらいになるともうプロを見た方が良くね? みたいな思考になるのかもな。単純にタイミングが悪いんだ」
色々な理由であまり盛り上がらないと言う“魔導戦線”も、ルミエル先輩の影響でどこまで大きくなるのか。単純に初めて見るから楽しみだな~。
何はともあれ、最初の話に戻すなら私達の話題は多く見積もってもその日まで。なので深刻に考える必要は無さそう。
休憩も兼ねた話し合いは終わり、私達はしばらくのんびりと過ごすのだった。
*****
──“とある日の休日”。
まだほとぼりは冷め切らず、外出も儘ならない日のお休み。部活動も無い今日、私はどんな風に休日を過ごすか考えていた。
今回のみならず色々あって外に出れない日とか、何となく外出したくない日の時用に室内で出来る趣味を見つけようかなって考えたの。
だから少し前にボルカちゃん達に聞いてみた。
【アタシ? そうだな。大体外で買い物したり、キャンプとかしてるけど部屋で過ごすならこれだな。連絡にも使ってる手持ち魔道具。これで写真とか見たり色んな人達と匿名とかそれ用のネームで交流してんだ。その場から動かなくても可能だしな】
【私は言わなくても分かるでしょう。読書よ。読書。同じ物語を読み直したらまた新たな発見があったり、未完結の作品なら伏線っぽい物を探るのも良いわ】
【私はミュージック! 即ち音楽ですわ! 聴く方もそうですけれど、ピアノにバイオリンにハープ。大抵の物は奏でられるので自分で作ったりもしてますの!】
基本的にはアウトドアのボルカちゃんだけど、そうじゃない日は手持ち魔道具を通じて世界中の人達の投稿した写真とかを見たり文章のみで世界中の人達と交流してるらしく、ウラノちゃんは知っての通り読書。ルーチェちゃんはハープとかピアノとか楽器全般を弾けるとの事。
そんな感じで、みんなには色々と趣味がある。私のやる事はママやティナと話すくらいだから新しく趣味を開拓しようって思った訳。
「うーん……。この辺りになるのかなぁ?」
並べた物を見、独り言を呟く。あ、ママ達も居るから厳密に言えば独り言じゃないよね。絶対。
とにかく、私の好きな物を集めてみてそこから趣味を探ってみる事にしたよ。
「読書。一つの物語に没頭するのは好きだけど、気付いたら何冊も読んじゃって大変なんだよね~」
具体的に言えばご飯を食べ損ねたりお風呂に入りそびれたり。
お家では一日中ご飯もお風呂も空いてたけど、この寮じゃお風呂はともかくご飯を食べ損ねたら外に買いに行かなきゃならないから大変だよね。未だに自分だけで買い物するのはちょっと苦手だし……。ちょっとした買い出しにママやティナを連れていくのも変だもんね。
趣味と言うのは夢中になれる事だけど、なり過ぎて困っちゃうのは却下かな~。
次!
「魔道具……何を見れば良いのかよく分からない……」
ボルカちゃんの趣味であるこれだけど、色んな記事? があってどこから見れば良いものか。キレイな写真を見るのは良いかもしれないけど……。
「ん? この写真はとても大きな……わぁ!?」
スライドしていたら怖い写真が急に出てきた。
ダメダメ……。まだこの世界には早い気がする。
「楽器……は寮部屋じゃ弾けないよね」
私も楽器の演奏は好き。パパとママが色々教えてくれたの。その時はとても楽しくて、上手になる度に二人が喜んでくれたからどんどん演奏していたんだ。
なんでやらなくなっちゃったんだろう? パパもママもずっと一緒なのに……なぜか……。
「ううん。次々!」
なんか暗くなっちゃったから一旦思考は放棄しておく。
そうなると、やっぱり私の趣味はこれになるのかな?
「舞踏会でパーティー。お料理教室……なんかしっくり来ないかも」
学院に来る前はよくやっていたお人形遊び。でも久し振り過ぎて感覚が掴めない気がしてる。
今はお人形の状態であるママとティーナしか居ないし。あ、そう言えばずっと一緒に居るのにお洋服は来た当初のままだね。
このサイズのはお家にしかないし、この辺りでも売られていない。流石に毎日同じじゃ楽しくないから作ってみようかな。
ドールハウスの家具もそのままだもんね。ちょっとした作業をしてみよっかな。
「えーと……材料になりそうな物は……」
ガサゴソと私物を探ってみる。
工作やお裁縫セットとかは持ってきてないよね。そもそもお洋服とかを作った事もない。
こう言うのに詳しい人に聞いてみようかな。それなら──
「──という事で、どうかな? ルーチェちゃん。趣味が色々あるから服作りとか」
「あら、良いですわね。基本的には購入しますけど、イマイチ気に入らない箇所とかは自分でアレンジしてますの。お人形さん達のお洋服もその要領で作れる筈ですわ。お入りになって」
「ありがとー! お邪魔しまーす!」
ボルカちゃんは器用だし、ウラノちゃんも本での知識は豊富だと思うけど、なんとなく直感でルーチェちゃんに訊ねてみたら大正解だった。
手先が器用なのは楽器が趣味なルーチェちゃんも同じだもんね。自分でも作ってる事もあるみたいだし、彼女の部屋に入る。
「このサイズと質感なら、これがピッタリですわ。多少大きさがズレてもフィットする素材ですの。そして肝心な作り方の基礎は──」
「ふむふむ」
ルーチェちゃんのお裁縫セットを借り、手取り足取り教えて貰う。
基本的には単純作業の積み重ね。大抵の事はそうだよね~。
彼女は慣れた手つきでササッと作り、私は見様見真似で縫っていく。手先は結構器用な方なので、割と上手くいった。
「出来たー!」
「お上手ですわ!」
そして小さな服が完成した。
ママとティナに着せてみたらピッタリ。しかも材料があれば自分で作れるから沢山増やせるね。
その後に模様とかのコツや細かい作業についても教えて貰い、私はレベルアップしてルーチェちゃんの部屋を後にした。
次はドールハウスの家具かな~。
工作はもちろんこの人!
「──そんな訳で、どうかな? ボルカちゃん」
「それで一から造り出そうとするのがスゲェな。へへ、良いぜ。ちょうどアタシも暇してたんだ。キャンプで色々作ったりするし工具はあるから、後は木材だな。永続的な植物は作れるか? ティーナ」
「うーん。まだダメみたい」
「じゃあ木工品を買いに行こうか。まだ午前中だし、ついでに昼か何かを外で食おう」
「うん」
工具は持っていたけど、木材は無い。お裁縫セットも買いたいし、お店に行くのは丁度良いかも。
とある日の休日、私達は資材屋さんへと赴くのだった。
あ! この時点でちょっと趣味っぽくなってるかも!




